「女の子は冷たい男が好き」という幼馴染の嘘を信じた婚約者が、あまりに冷たすぎるので婚約破棄を願い出ます

恋せよ恋

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新しき誓い

  あの日から数ヶ月。オーチャード伯爵邸のバラ園には、色鮮やかな大輪の花が咲き誇っていた。
 ティーテーブルに座るスーザンの前には、信じられない光景が広がっている。

「スーザン! 今日のパイは、僕が厨房の料理長に三日三晩頭を下げて、一番甘いリンゴを厳選してもらったんだ。……あ、熱いから、僕が冷ますよ! ほら、あーんして!」

「パトリス様、落ち着いてください。……それに、はしたないですわ」

 かつて「氷の騎士」と謳われた侯爵嫡男パトリスは、今や見る影もない。
 冷酷な仮面はどこへやら、彼は今、大型犬のように尻尾を振らんばかりの勢いで、スーザンの世話を焼こうと必死だった。

 結局、あの雨の日の翌日、パトリスは約束通り現れた。

 両親への謝罪はもちろん、トーマスには剣の稽古でボコボコにされ、イザベラには一時間以上説教を食らい、文字通り「身ぐるみ剥がされた状態」でスーザンの前に跪いたのだ。

 婚約は解消ではなく「保留」となり、現在は一介の「求婚者(フォロワー)」として、ゼロからの再スタートを切っている。

「……パトリス様。そんなにじっと見つめられては、お茶が飲めません」

「ああ、ごめん! でも、今日のスーザンも……その、リボンの色が君の目に映えて、世界で一番……いや、全宇宙で一番美しいから、つい」

 パトリスの言葉には、かつての「駆け引き」や「毒」は微塵も含まれていない。
 あまりにも直球で、あまりにも不器用で、そしてあまりにも暑苦しいほどの情熱。

「……また、そんな大袈裟なことを」

 スーザンは呆れたように首を振るが、その頬は、以前のような絶望による青白さではなく、健康的な赤みに染まっている。

 今の二人の関係において、主導権を握っているのは完全にスーザンだった。

「パトリス様。もし、また私のことを『鬱陶しい』なんておっしゃったら、その瞬間にこの関係は終わりですわよ?」

「め、滅相もない! あの時の僕は、頭の中に不味いキノコでも生えていたんだ! 今の僕にとって、君の存在は呼吸と同じ……いや、心臓の鼓動そのものなんだ!」

「……ふふっ。本当にお馬鹿さん。でも、その素直さだけは認めて差し上げますわ」

 スーザンがクスクスと笑うと、パトリスは救われたような顔をして、彼女の手をそっと取った。もう、冷たく突き放す必要なんてない。
 傷つけた過去は消えないけれど、それを一生かけて埋めていく覚悟が、今のパトリスの瞳には宿っている。

「スーザン。僕はもう二度と、君を試したりしない。ただ、君が幸せでいてくれることだけを、僕の全人生をかけて証明し続けるよ」

「……期待しておりますわ。私の婚約者様」

 スーザンが優雅に微笑み、彼が差し出したフォークからパイを一口受け取る。
 甘酸っぱいリンゴの味が、二人の新しい門出を祝うように広がった。

 ハッピーエンド
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