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夜のテラスでの告白
「僕たちは、もう兄妹ではない」
その宣告が夜風に溶けていく中、ロクサーヌは、目の前にいる男を信じられない思いで見つめていた。
かつて自分を慈しみ、守ってくれた「お兄様」。その仮面を脱ぎ捨てたオリビエの瞳には、ひりつくような熱が宿っている。
オリビエは微笑むと、ロクサーヌの白く細い両手を、包み込むように取った。
その瞬間、ロクサーヌは驚きに息を呑んだ。
戦場のような隣国の社交界を勝ち抜き、伯爵位を奪還した最強の男。その大きな手が、小刻みに、それでいてはっきりと震えていたからだ。
「ロクサーヌ。僕は君の『兄』であることをやめ、君を愛する一人の男として、ここに立ちたい。……どうか、僕と結婚してほしい。君のこれまでの七年分、いいや、一生分の愛を、僕に注がせてはくれないか」
ロクサーヌの胸に、熱い塊が込み上げてきた。
カルロスにどれだけ尽くしても、得られなかった言葉。どれほど求めても、触れられなかった心の熱。
自分に触れる手の震えこそが、彼がどれほどの覚悟で自分を待ち、どれほど深く愛してくれていたかの証左だった。
「オリビエ、様……」
ロクサーヌは戸惑いながらも、その震える手に、自身の指をそっと絡めた。それは、家族としての甘えではなく、一人の女として彼を受け入れるための、最初の第一歩だった。
一方、アステリア子爵家から「婚約解消に関する協議」の通知が届いたチャーチル伯爵邸では、カルロスが血相を変えていた。
「婚約解消だと……? 馬鹿な! 僕に断りもなく、そんなことが許されるはずがない!」
カルロスにとって、ロクサーヌは「自分を愛してやまない、都合の良い女」だった。そしてアステリア子爵家は、次男坊である自分が贅沢に暮らすための「財布」であり、将来の「椅子」だった。
それが、あの日現れた「ロンゲール伯爵」の影がチラついた途端、手の内から滑り落ちようとしている。
「あの女……さては、義兄に泣きついたな! 僕の立場が悪くなると分かっていて……!」
焦燥感に駆られたカルロスは、翌朝、さすがにビビアンを連れずに、独りでアステリア子爵邸へと乗り込んだ。
「ロクサーヌ! ロクサーヌを出せ!」
居間に通されたカルロスの前に、冷ややかな視線を纏ったロクサーヌが現れた。
「……何のご用ですか、カルロス様。解消の協議は、後日、代理人を通して行うはずですが」
「ロクサーヌ! 冗談も休み休み言え。僕が悪かった、これからはビビアンよりも君を優先すると言っているだろう!」
カルロスは、ロクサーヌの肩を掴もうと必死に詰め寄った。その瞳には愛などなく、ただ「利権を失う恐怖」だけがぎらついている。
「君を愛しているんだ、ロクサーヌ。あの従妹は、ただの同情だったんだ。本当だよ! だから婚約解消なんて取り下げてくれ。君には僕が必要だろう?」
そのあまりに浅ましく、今更な愛の告白。
ロクサーヌは、かつて自分がこの男に恋をしていたという事実が、信じられないほどに冷めていた。
「……お手を離してください、カルロス様。汚らわしいですわ」
「なっ……! 汚らわしいだと!?」
「ええ。地位と財産を守るために口にする『愛』ほど、醜いものはありません。それに――」
ロクサーヌの背後の扉が開き、重厚な足音が響く。
現れたのは、獲物を前にした獣のような笑みを浮かべるオリビエだった。
「……僕の大事な婚約者候補に、随分と不躾な口を利くじゃないか、カルロス・チャーチル」
オリビエの冷徹な声に、カルロスの顔が瞬時に土色へと変わった。
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その宣告が夜風に溶けていく中、ロクサーヌは、目の前にいる男を信じられない思いで見つめていた。
かつて自分を慈しみ、守ってくれた「お兄様」。その仮面を脱ぎ捨てたオリビエの瞳には、ひりつくような熱が宿っている。
オリビエは微笑むと、ロクサーヌの白く細い両手を、包み込むように取った。
その瞬間、ロクサーヌは驚きに息を呑んだ。
戦場のような隣国の社交界を勝ち抜き、伯爵位を奪還した最強の男。その大きな手が、小刻みに、それでいてはっきりと震えていたからだ。
「ロクサーヌ。僕は君の『兄』であることをやめ、君を愛する一人の男として、ここに立ちたい。……どうか、僕と結婚してほしい。君のこれまでの七年分、いいや、一生分の愛を、僕に注がせてはくれないか」
ロクサーヌの胸に、熱い塊が込み上げてきた。
カルロスにどれだけ尽くしても、得られなかった言葉。どれほど求めても、触れられなかった心の熱。
自分に触れる手の震えこそが、彼がどれほどの覚悟で自分を待ち、どれほど深く愛してくれていたかの証左だった。
「オリビエ、様……」
ロクサーヌは戸惑いながらも、その震える手に、自身の指をそっと絡めた。それは、家族としての甘えではなく、一人の女として彼を受け入れるための、最初の第一歩だった。
一方、アステリア子爵家から「婚約解消に関する協議」の通知が届いたチャーチル伯爵邸では、カルロスが血相を変えていた。
「婚約解消だと……? 馬鹿な! 僕に断りもなく、そんなことが許されるはずがない!」
カルロスにとって、ロクサーヌは「自分を愛してやまない、都合の良い女」だった。そしてアステリア子爵家は、次男坊である自分が贅沢に暮らすための「財布」であり、将来の「椅子」だった。
それが、あの日現れた「ロンゲール伯爵」の影がチラついた途端、手の内から滑り落ちようとしている。
「あの女……さては、義兄に泣きついたな! 僕の立場が悪くなると分かっていて……!」
焦燥感に駆られたカルロスは、翌朝、さすがにビビアンを連れずに、独りでアステリア子爵邸へと乗り込んだ。
「ロクサーヌ! ロクサーヌを出せ!」
居間に通されたカルロスの前に、冷ややかな視線を纏ったロクサーヌが現れた。
「……何のご用ですか、カルロス様。解消の協議は、後日、代理人を通して行うはずですが」
「ロクサーヌ! 冗談も休み休み言え。僕が悪かった、これからはビビアンよりも君を優先すると言っているだろう!」
カルロスは、ロクサーヌの肩を掴もうと必死に詰め寄った。その瞳には愛などなく、ただ「利権を失う恐怖」だけがぎらついている。
「君を愛しているんだ、ロクサーヌ。あの従妹は、ただの同情だったんだ。本当だよ! だから婚約解消なんて取り下げてくれ。君には僕が必要だろう?」
そのあまりに浅ましく、今更な愛の告白。
ロクサーヌは、かつて自分がこの男に恋をしていたという事実が、信じられないほどに冷めていた。
「……お手を離してください、カルロス様。汚らわしいですわ」
「なっ……! 汚らわしいだと!?」
「ええ。地位と財産を守るために口にする『愛』ほど、醜いものはありません。それに――」
ロクサーヌの背後の扉が開き、重厚な足音が響く。
現れたのは、獲物を前にした獣のような笑みを浮かべるオリビエだった。
「……僕の大事な婚約者候補に、随分と不躾な口を利くじゃないか、カルロス・チャーチル」
オリビエの冷徹な声に、カルロスの顔が瞬時に土色へと変わった。
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