婚約者が義妹とバックハグしながらお茶しています。生理的に無理なので婚約破棄します!

恋せよ恋

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義妹の宣戦布告

  父と兄が動き出した数日後、私は再びライト侯爵邸へと招かれた。名目は「新しく入荷した茶葉を試す会」だったが、案内された東屋にいたのは、婚約者であるジェームズ様だけではなかった。

「あ、サブリナ様! いらっしゃいませ」

 リリアン様が、ジェームズ様の隣で弾んだ声を出す。

 今日の彼女は、十四歳にしては少々、いや、かなり露出の多いドレスを着ていた。鎖骨が大きく開き、薄い生地が体のラインを強調している。彼女は当然のようにジェームズ様の腕にしがみつき、その細い指を彼の掌に這わせていた。

「サブリナ、遅かったね。リリアンが待ちくたびれて、僕にずっと甘えていたんだよ」

 ジェームズ様は困ったような、それでいて鼻の下を伸ばした締まりのない笑顔で私を迎えた。彼の指は、リリアン様のふくよかな頬を何度も何度も、慈しむように撫で回している。

「……お待たせいたしました、ジェームズ様。少々、馬車が混み合っておりまして」

 私は努めて冷静に、淑女の微笑みを貼り付けた。
 視界に入る二人の密着ぶりは、もはや「不適切」という言葉すら生ぬるい。リリアン様はジェームズ様の耳元で何事か囁き、クスクスと笑いながら彼の耳たぶに軽く触れた。ジェームズ様もそれを拒むことなく、むしろ自分から顔を寄せ、彼女の髪の香りを嗅いでいる。

 ——気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い……。

 その五文字が、私の脳内を埋め尽くす。

 そこへ、ライト侯爵家の当主であるマイケル様が通りかかった。私は救いを求めるような思いで彼に一礼したが、返ってきた言葉は絶望的なものだった。

「おお、やっているな。ジェームズ、リリアン。相変わらず仲睦まじいことで、見ていて微笑ましいよ。サブリナ嬢、彼らは本当の兄妹のように気が合うのだ。ライト侯爵家が温かい家庭であることを、君も喜んでくれるだろう?」

 マイケル侯爵は、息子が婚約者の前で別の女、たとえ義妹でも……と、抱き合っている光景を、あろうことか「家庭の円満」として全肯定したのだ。この親にしてこの子あり。私の背筋に冷たいものが走った。

 一方で、後妻であるパトリシア様だけは、複雑そうな表情で二人を見ていた。

「……リリアン。あまりお義兄様にベタベタしてはいけません。サブリナ様がお困りでしょう?」

「あら、お母様。お義兄様は『いいよ』って言ってくださっていますわ。ねえ、お義兄様?」

「ああ、パトリシア義母上。僕は一向に構いませんよ。リリアンは可愛い義妹ですからね」

 ジェームズ様の言葉に、パトリシア様は深いため息をついた。

「……ジェームズ様、あなたは優しすぎますわ。ですが、節度というものが……」

「お母様ったら、古臭いですわ! 今は『新しい家族の形』が流行りなんですもの」

 リリアン様は母親の言葉を鼻で笑い、さらにジェームズ様の胸元へ深く顔を埋めた。その様子を見ていたマイケル侯爵は「ははは、若いというのは良いことだ」と笑い飛ばし、パトリシア様を連れて邸内へ戻ってしまった。

 この家は、芯から腐っている。
 当主がこれを良しとしている以上、もはや外側からの注意など何の意味もなさない。

 しばらくして、ジェームズ様が「あ、忘れていた。サブリナへのプレゼントを部屋に置いてきたんだ。リリアン、取ってきてくれないか?」と言い出した。

「ええ、喜んで! お義兄様のためですもの」

 リリアン様は席を立ち、邸内へ戻るふりをして、庭の木陰で本を読んでいたヘンリー様に歩み寄った。

「ヘンリー、あなたもこっちへ来ればいいのに。一人で難しい顔をして、損をしているわよ」

 リリアン様はヘンリー様の肩に手を置き、その顔を覗き込む。彼女の「全方位への媚び」は、血の繋がらないもう一人の義兄に対しても例外ではないらしい。

 しかし、ヘンリー様はピクリとも表情を変えず、冷徹な声で言い放った。

「その汚い手で僕に触るな。……お前の甘ったるい匂いが移ると、反吐が出る」

「……! 相変わらず可愛くないわねっ!」

 リリアン様は鼻を鳴らし、今度こそ邸内へ消えていった。ヘンリー様は不機嫌そうに本の頁をめくり、私と視線が合うと、わずかに申し訳なさそうな、痛ましいものを見るような目をしてから、深く会釈した。

 戻って来たリリアンの手には小さな小箱が握られていた。

「昨日、リリアンと買い物に出たんだけど、彼女が君とお揃いの物を持ちたいと言ってね。義姉になる君と親しくなりたんだそうだ。可愛い義妹だろう」

 ジェームズ様から渡された小箱の中には、小ぶりのガラス細工のイヤリングが入っていた。

( 金色のイヤリングなんて、金髪の私には似合わないでしょうにね……はあ)


「サブリナ様、少しお話しよろしいかしら?」

 ジェームズ様が席を外した隙を突き、戻ってきたリリアン様が私を呼び出した。人気のない回廊の陰。先ほどまでの「無邪気な義妹」の仮面は、そこにはなかった。

「単刀直入に言うわ。お義兄様が本当に愛しているのは私よ。あなたはただの、ライト侯爵家という看板を維持するための『家格の飾り』に過ぎないの」

 リリアン様は、翠色の瞳を傲慢に輝かせ、私を嘲笑った。

「見ての通り、お義兄様の心も体も私のもの。あなたが結婚したところで、お義兄様が夜を過ごすのは私の部屋だわ。嫌なら今のうちに逃げたらどうかしら? 伯爵家のお嬢様」

 彼女は、私が怒り狂うか、泣き崩れるのを期待していたのだろう。
 しかし、私の口から出たのは、自分でも驚くほど穏やかな溜息だった。

「……ハア。そうなのですね。お教えいただきありがとうございます、リリアン様」

「えっ……?」

「どうぞ、差し上げますわ。ジェームズ様も、ライト侯爵夫人の座も。あなたによくお似合いです」

 怒り? 悲しみ? いいえ、そんなものは欠片もない。
 あるのは、泥沼の中にいた自分が、ようやく清潔な場所へ這い上がれるという、圧倒的な清々しさだった。

「強がりはやめなさいよ! 悔しいんでしょう!」

「いいえ、リリアン様。心から感謝しているのです。あなたがそこまで彼に執着してくださるおかげで、私は何の未練もなく、この『』関係を断ち切る決心がつきましたから」

 リリアン様の顔が、驚愕と屈辱で赤く染まる。

 私は彼女に背を向け、一歩踏み出した。証拠は十分に揃った。当主の黙認、義妹の増長、そして婚約者の壊滅的な倫理観。

 これから始まるのは、私の絶望ではない。この不潔な楽園に住まう者たちへの、フォックス家による徹底的な「清掃」だ。

「さようなら、リリアン様。あなたの望み通り、お義兄様と末永く、その閉ざされた世界でお幸せに」

 背後でリリアン様が何かを叫んでいたが、私の耳にはもう届かなかった。
 私の心はすでに、この屋敷の重苦しい空気から解き放たれ、自由な空へと飛び立っていたのだから。
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📢✨新連載【いつか捨てられる日のために――浮気者の婚約者に、さよならの準備をしています】

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