【完結】「中身はいいけど顔がなぁ」と笑った侯爵令息。美人の姉目当てに地味ブスな私を利用したこと、謝られても手遅れです

恋せよ恋

文字の大きさ
5 / 14

姉エリザベスの焦りと八つ当たり

  レオナルド様とアレンの密談を聞いてしまった瞬間から、私の世界は色を失った。

 部屋に戻るなり、机の引き出しに大切に仕舞っていた彼からの手紙をすべて掴み出し、暖炉の火に投げ入れたい衝動に駆られた。けれど、今の私にはそんな激しい拒絶を見せる気力すら湧かなかった。

 ただ、胸の奥に冷たい石を詰め込まれたような、重苦しい静寂が居座っている。

「アイリス、顔色が悪いわよ。また図書室に引きこもって、カビ臭い本ばかり読んでいるからだわ」

 朝食の席で、姉のエリザベスが勝ち誇ったような笑みを浮かべて言い放つ。彼女は今日も、朝露を浴びた薔薇のように完璧に美しかった。

 父も母も、そんな姉を眩しそうに見つめている。私はただ、無言でスープを口に運ぶしかなかった。

 だが、最近のエリザベスの様子はどこか刺々しい。
 その原因は、幼馴染のアレンにあった。

 アレンは、あの日以来、頻繁に我が家を訪ねてくるようになった。レオナルド様との仲を取り持とうとしているのか、あるいは私を心配しているのか……。

 彼は客間に通されると、決まって真っ先に「アイリスはどこだ?」と口にする。それが、彼に恋心を抱いている美しいエリザベスには、我慢ならない屈辱だったのだ。

「……お姉様。私、今日は少し頭が痛いので、自室で休ませていただきます」

 逃げるように席を立とうとした私の腕を、エリザベスが強い力で掴んだ。

「待ち合わさい。アイリス、あなた最近、調子に乗っているんじゃないかしら?」

「……何のことでしょうか」

「アレンよ! あの人がここへ来るたびに、どうしてあなたを一番に探すの? 昨夜だって、夜会の後にわざわざあなたにだけ手紙を届けていたでしょう。妹の分際で、をたぶらかそうとしているの?」

 エリザベスの瞳に、激しい嫉妬の炎が燃えている。

 私は力なく首を振った。アレンが私を気にかけてくれるのは、単なる幼馴染としての同情か、あるいはレオナルド様という「友人」への義理立てに過ぎない。

「そんなつもりはありません。アレン様とは、ただの友人です」

「友人? 男と女の間に友情なんてあるわけないでしょう。……まさか、レオナルド様との文通も、アレン様の気を引くための道具にしているんじゃないでしょうね?」

 その名前が出た瞬間、私の心臓が痛烈に脈打った。

「レオナルド様が、あなたのような地味で取り柄のない女に、本気で興味を持つとでも思っているの? 笑わせないで。あの方は、私の美しさを讃える詩を贈ってくださるような方よ。あなたに届く手紙なんて、せいぜい暇つぶしの落書きか、私への伝言板代わりだわ!」

 エリザベスの言葉は、あの日盗み聞きしたレオナルド様の本音と、残酷なまでに合致していた。
 そう、彼女の言う通りだ。私は「姉への近道」であり、「暇つぶし」だった。

「あんたみたいな地味な子が、レオナルド様に相応しいわけないでしょ! 鏡を見てごらんなさいよ。そのくすんだ髪、冴えない顔……アシュフォード家の恥だわ。養子の分際で、高望みも大概にしなさい!」

 罵声が響き渡る。
 使用人たちが遠巻きに様子を伺い、父や母も、エリザベスの剣幕に気圧されて口を出せずにいる。

 私は、掴まれた腕の痛みよりも、心に刻まれる言葉の鋭さに耐えていた。

(……わかっている。そんなことは、もう、痛いほどわかっているの!)

 レオナルド様が私を選ばないことも。
 私がこの家で、姉の影を濃くするための「黒い背景」でしかないことも。

 けれど、姉本人にまで、自分の存在を根底から否定されるのは――。

「……お姉様の仰る通りです」

 私は震える声で、絞り出すように答えた。

「私は、レオナルド様には相応しくありません。……ですから、もう二度と、あの方とは連絡を取りません。アレン様とも、距離を置きます」

「え……?」

 勝ち誇っていたエリザベスが、予想外の私の反応に一瞬、言葉を失う。

「もう、疲れました。お姉様の完璧な美しさを引き立てるために、ここで死んだように生きるのは……」

 私は姉の手を振り払うと、まっすぐに自分の部屋へと戻った。
 鍵をかけ、クローゼットの奥から一冊の古びた旅行鞄を取り出す。

 鏡の中に映る私は、確かに地味で、目の下には隈が浮き、生気がない。
 けれど、この顔を「ブス」だと、自分自身で決めつけたのはいつからだっただろうか。

『あの子って、おしゃれしようって気はないのかな』
 レオナルド様の、あの無邪気で残酷な声が耳の奥で再生される。

(……いいわ。あなたがたがそこまで「見た目」に固執するなら)

 私は鞄を床に置き、じっと自分の手を見つめた。
 今まで、目立たないように、嫌われないように、控えめに生きてきた。けれど、その結果がこれだ。

「……変わらなきゃ」

 憎しみに似た決意が、冷え切った心に小さな火を灯した。

 隣国には、生家の伯爵家と親交のあった亡き母の友人がいる。彼女は美容と社交の大家として知られている。
 ここにいて、姉の影として朽ち果てるくらいなら、すべてを捨てて、地獄の底から這い上がってやる。

「おしゃれをする気がない? 結構です。私が本気を出した時、あなたがどんな顔をするか……せいぜい、楽しみにしていてください、レオナルド様」

 アイリスの瞳から、弱々しい光が消え、冷徹なまでの意志が宿った。
__________

エール📣いいね❤️お気に入り⭐️応援よろしくお願いします🙇‍♀️

あなたにおすすめの小説

愛さないと言われた妻、侍女と出て行く

菜花
ファンタジー
お前を愛することはないと夫に言われたコレットは、その日のうちに侍女のイネスと屋敷を出て行った。カクヨム様でも投稿しています。

私の容姿は中の下だと、婚約者が話していたのを小耳に挟んでしまいました

山田ランチ
恋愛
想い合う二人のすれ違いラブストーリー。 ※以前掲載しておりましたものを、加筆の為再投稿致しました。お読み下さっていた方は重複しますので、ご注意下さいませ。 コレット・ロシニョール 侯爵家令嬢。ジャンの双子の姉。 ジャン・ロシニョール 侯爵家嫡男。コレットの双子の弟。 トリスタン・デュボワ 公爵家嫡男。コレットの婚約者。 クレマン・ルゥセーブル・ジハァーウ、王太子。 シモン・グレンツェ 辺境伯家嫡男。コレットの従兄。 ルネ ロシニョール家の侍女でコレット付き。 シルヴィー・ペレス 子爵令嬢。 〈あらすじ〉  コレットは愛しの婚約者が自分の容姿について話しているのを聞いてしまう。このまま大好きな婚約者のそばにいれば疎まれてしまうと思ったコレットは、親類の領地へ向かう事に。そこで新しい商売を始めたコレットは、知らない間に国の重要人物になってしまう。そしてトリスタンにも女性の影が見え隠れして……。  ジレジレ、すれ違いラブストーリー

病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。

恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。 キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。 けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。 セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。 キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。 『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』 キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。   そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。 ※ゆるふわ設定 ※ご都合主義 ※一話の長さがバラバラになりがち。 ※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。 ※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。

【完結】冤罪で殺された王太子の婚約者は100年後に生まれ変わりました。今世では愛し愛される相手を見つけたいと思っています。

金峯蓮華
恋愛
どうやら私は階段から突き落とされ落下する間に前世の記憶を思い出していたらしい。 前世は冤罪を着せられて殺害されたのだった。それにしても酷い。その後あの国はどうなったのだろう? 私の願い通り滅びたのだろうか? 前世で冤罪を着せられ殺害された王太子の婚約者だった令嬢が生まれ変わった今世で愛し愛される相手とめぐりあい幸せになるお話。 緩い世界観の緩いお話しです。 ご都合主義です。 *タイトル変更しました。すみません。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ

Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。 理由は決まって『従妹ライラ様との用事』 誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。 「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」 二人の想いは、重なり合えるのだろうか …… ※他のサイトにも公開しています。

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

「言ってくれれば手伝ったのに」過労で倒れた私に微笑む無神経な夫。~親友を優先させ続けた夫の末路~

水上
恋愛
夫の持病を和らげるため、徹夜で煮詰めた特製コーディアル。 彼はそれを数秒で飲み干し、私の血を吐くような努力を「ただの甘い水だね。もっとパッと作れないの?」と笑った。 彼の健康も商会の名声も、私が裏で支えているとも知らずに。 ある日、過労で倒れた私は、「言ってくれれば手伝ったのに」と無神経な夫に微笑まれた時、心の中で決意した。 地下室にあるコーディアルの瓶は残り15本。 これがすべて空になるまでに彼が変わらなければ、離縁状を叩きつけよう。 私を失い、体調も商会も崩壊して這いつくばる夫をよそに、私は真の評価を得て自分の人生を歩み始める。 これは、透明な存在として扱われ続けた私が、失望のカウントダウンを進めて自立するまでの、そして、すべてを失った夫が惨めに後悔するまでの物語。