「中身はいいけど顔がなぁ」と笑った侯爵令息。美人の姉目当てに地味ブスな私を利用したこと、謝られても手遅れです

恋せよ恋

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アイリスの許しと新たな恋

  レオナルド様が私の前に跪き、泥にまみれた手でボロボロの手紙を握りしめている。その姿には、かつて私を絶望させた「社交界の貴公子」の傲慢さは微塵もなかった。

「……信じてくれ、アイリス。君がどんな姿になろうと、僕はもう二度と、君の心を見失わない」
彼の声は掠れ、必死さに震えていた。

 私は黙って彼を見つめ続けた。隣国で手に入れた美貌という鎧、知性という武器。それらを脱ぎ捨てた「生身の私」を、彼は今、真っ直ぐに射抜いている。

(……ああ。この人は、今の私を見てくれている)

 着飾った「東の真珠」としての私ではなく、あるいは、かつて蔑んだ「地味ブス」としての私でもない。

 傷つき、足掻き、それでも自分の足で立とうと決意した、醜くも気高い一人の人間として。
かつて私が喉から手が出るほど欲しかったのは、誰かからの「可愛い」という賞賛ではなかった。ただ、自分の存在そのものを肯定してくれる、誰かの真っ直ぐな視線だったのだ。

 私はゆっくりと、彼に向けて手を伸ばした。
 指先が彼の震える手に触れる。レオナルド様は、まるで壊れ物を扱うかのように、おそるおそる私の手を包み込んだ。

「……レオナルド様。貴方は本当に、救いようのない方ですわね」

 私の口からこぼれたのは、拒絶ではなく、微かな苦笑だった。

「私のことを『顔がなぁ』と笑った貴方を、私は一生許さないかもしれません。……けれど、今の貴方のその無様な姿は、それ以上に私の心を動かしてしまいました」

「アイリス……!」

「私が自分を磨いたのは、貴方を見返すためでした。けれど、こうして貴方に認められた今、ようやく気づいたのです。私はもう、誰かの評価に怯える必要なんてなかったのだと」

 私は彼の手を強く握り返した。
 それは、彼に寄りかかるための手ではない。対等なパートナーとして、共に歩むための誓いの握手だった。

「貴方が愛しているのが、私の『言葉』だと言うのなら。……これから一生をかけて、その言葉が真実かどうか、私の隣で確かめていただけますか?」

 レオナルド様の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
 彼は私の手の甲に、深く、長く、祈るような接吻を落とした。

「……ああ。一生どころか、永遠に。君の言葉を、君の心を、この命が尽きるまで守り抜くと誓おう」

 その瞬間、私の胸を締め付けていた最後のがんじがらめの呪縛が、音を立てて解けていくのが分かった。姉の影でもなく、誰かの悪意でもない。

 私は、アイリス。
 レオナルド・スターリングという男が、人生で初めて、泥にまみれてまで手に入れたいと願った、唯一無二の女性。

 空には、いつの間にか一番星が輝き始めていた。
 それは、かつて暗闇の中で震えていた私を導くような、力強く、揺るぎない光だった。

「行きましょう、レオナルド様。……私たちの、新しい物語の始まりへ」

 私は彼を立たせ、その腕に手を添えた。
 自信に満ちた私の歩みは、もう二度と、誰の後ろを歩むこともない。

 私たちは、沈みゆく夕日を背に、輝かしい未来へと向かって一歩を踏み出した。
__________

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