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光降る庭で
隣国の留学を終え、一年ぶりに帰還したアシュフォード伯爵邸。見慣れたはずの白亜の門をくぐる私の隣には、今や私の騎士(ナイト)を自任するレオナルド様が寄り添っていた。
「緊張しているのかい、アイリス。君の手が少し冷たい」
「……ええ。かつての私が、この場所でずっと息を潜めていたことを思い出しただけですわ」
レオナルド様は私の手を優しく包み込み、力強く頷いた。
「今の君は、誰の影でもない。僕の瞳に映る、唯一無二の光だ。胸を張れ」
客間に通されると、そこには父と母、そして寄り添い合うアレンと姉、エリザベスの姿があった。
かつての私なら、姉の輝くような金髪と幸せそうな笑みを見ただけで、自分の価値が削り取られるような痛みを覚えただろう。けれど、今の私の視界は驚くほどクリアだった。
「……アイリス」
エリザベスが、震える声で私の名前を呼んだ。彼女の隣に立つアレン様が、静かに彼女の背中を押す。
姉はゆっくりと私の方へ歩み寄ると、深々と頭を下げた。社交界の女王と謳われた彼女が、地味だと蔑んでいた妹に対して膝を折ったのだ。
「……ごめんなさい、アイリス。私は自分の弱さを、貴女にぶつけることでしか保てなかった。貴女の聡明さから目を背け、ただ『地味な妹』であれと呪っていた。……本当に、許されないことをしたわ」
姉の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。
その涙は、かつて私を罵倒した時の傲慢なものではなく、自らの過ちを認めた一人の女性の、真摯な悔恨の色をしていた。
私はしばらく沈黙した後、姉の肩にそっと手を置いた。
「お姉様。……貴女に言われた言葉で、私は何度も死にたいと思いました。けれど、その痛みがなければ、私は自分の足で立とうとは決意できなかった。隣国で得た今の自分を、私は誇りに思っています。だから……もう、いいのです」
「アイリス……っ」
「これからは『姉の影』としてではなく、『アイリス・アシュフォード』として、貴女と向き合いたい。……お姉様。婚約、おめでとうございます」
私の言葉に、エリザベスは顔を上げ、泣き笑いのような表情で私を抱きしめた。
アレンが安堵したように微笑み、レオナルド様が誇らしげに私を見守っている。
庭園に出ると、柔らかな春の陽光が降り注いでいた。そこには二組のカップルが並んでいた。
かつてアイリスへの執着を恋だと勘違いしていたアレンと、彼を繋ぎ止めるために虚勢を張っていたエリザベス。
そして、外見というフィルターでしか世界を見ていなかったレオナルド様と、自分を透明な存在だと信じ込んでいた私。
四人とも、不器用で、愚かで、間違いだらけだった。
けれど、その痛みを経て、ようやく「自分自身」として大切な人の隣に立つ資格を手に入れたのだ。
「レオナルド様。……見てください。名もなき野の花が、あんなに美しく咲いていますわ」
私が庭の隅に咲く小さな花を指差すと、レオナルド様は私の腰を抱き寄せ、耳元で囁いた。
「ああ、美しいね。……だが、僕にとっては、自分の力で咲き誇ることを決めた、目の前の『君』こそが、世界で一番眩しい花だよ」
「……ふふ。少し、お口が滑らかすぎますわ」
私は彼の胸に顔を埋め、幸福な溜息をついた。
もう、鏡を見るのが怖くない。
もう、誰かの評価に怯えて夜を明かすこともない。
私は、アイリス。
愛する人の瞳に映る私を信じ、自分の選んだ道を、自分の光で歩いていく。
どこまでも高く、澄み渡る青空の下。
私の新しい人生という名の物語が、今、華やかに幕を開けた。
ハッピーエンド
___________
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「緊張しているのかい、アイリス。君の手が少し冷たい」
「……ええ。かつての私が、この場所でずっと息を潜めていたことを思い出しただけですわ」
レオナルド様は私の手を優しく包み込み、力強く頷いた。
「今の君は、誰の影でもない。僕の瞳に映る、唯一無二の光だ。胸を張れ」
客間に通されると、そこには父と母、そして寄り添い合うアレンと姉、エリザベスの姿があった。
かつての私なら、姉の輝くような金髪と幸せそうな笑みを見ただけで、自分の価値が削り取られるような痛みを覚えただろう。けれど、今の私の視界は驚くほどクリアだった。
「……アイリス」
エリザベスが、震える声で私の名前を呼んだ。彼女の隣に立つアレン様が、静かに彼女の背中を押す。
姉はゆっくりと私の方へ歩み寄ると、深々と頭を下げた。社交界の女王と謳われた彼女が、地味だと蔑んでいた妹に対して膝を折ったのだ。
「……ごめんなさい、アイリス。私は自分の弱さを、貴女にぶつけることでしか保てなかった。貴女の聡明さから目を背け、ただ『地味な妹』であれと呪っていた。……本当に、許されないことをしたわ」
姉の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。
その涙は、かつて私を罵倒した時の傲慢なものではなく、自らの過ちを認めた一人の女性の、真摯な悔恨の色をしていた。
私はしばらく沈黙した後、姉の肩にそっと手を置いた。
「お姉様。……貴女に言われた言葉で、私は何度も死にたいと思いました。けれど、その痛みがなければ、私は自分の足で立とうとは決意できなかった。隣国で得た今の自分を、私は誇りに思っています。だから……もう、いいのです」
「アイリス……っ」
「これからは『姉の影』としてではなく、『アイリス・アシュフォード』として、貴女と向き合いたい。……お姉様。婚約、おめでとうございます」
私の言葉に、エリザベスは顔を上げ、泣き笑いのような表情で私を抱きしめた。
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庭園に出ると、柔らかな春の陽光が降り注いでいた。そこには二組のカップルが並んでいた。
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四人とも、不器用で、愚かで、間違いだらけだった。
けれど、その痛みを経て、ようやく「自分自身」として大切な人の隣に立つ資格を手に入れたのだ。
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「ああ、美しいね。……だが、僕にとっては、自分の力で咲き誇ることを決めた、目の前の『君』こそが、世界で一番眩しい花だよ」
「……ふふ。少し、お口が滑らかすぎますわ」
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もう、鏡を見るのが怖くない。
もう、誰かの評価に怯えて夜を明かすこともない。
私は、アイリス。
愛する人の瞳に映る私を信じ、自分の選んだ道を、自分の光で歩いていく。
どこまでも高く、澄み渡る青空の下。
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