半魔の勇者は第三王子を寵愛する

花房いちご

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私たち結婚しました

私たち結婚しました【6】

「お命じになられたのは、ダガン様が旅立たれてすぐです。『必ずお帰りになられる。お過ごしになりやすいように変えておこう』そうおっしゃられたのです。無事に帰った暁には、貴方様は英雄として遇され居城が与えられます。出来れば共に過ごしたここを選んで欲しいと……ダガン様?」

 ダガンは膝から崩れ落ちた。
 魔王に内部から内臓を切り刻まれた時も、魔王配下に無数の氷の矢を刺された時も、滞在した館の主に身体が腐る毒を仕込まれた時も、騎士団で集団リンチされかけた時も、馴染みの娼婦に寝首をかかれそうになった時も、子供のころ幼馴染に裏切られ魔獣の巣に放り込まれた時も折れなかった膝が、ルナルシオンの健気さに折れてしまった。
 同時に、王城に凱旋がいせんした時のやり取りの真意も悟った。

『ダガン様!よくぞご無事で!』

 真っ先に自分を迎えたルナルシオン。立派な青年になっていたのは嬉しかった。しかし、自分に敬語で話しかけ『世界を救った勇者』として礼を尽くすのに言い知れぬ寂しさと喪失感を抱いた。
 さらに、臣籍降下するから自分を文官として使って欲しいと言われた瞬間、あの無邪気に自分を慕った少年は居なくなってしまったのだと確信してしまう。王族として、勇者を囲い込むための発言なのだと判断したのだ。そんな事のために人生を浪費して欲しくない。嬉しくもない。だから宴でルナルシオンをおとしめた。遠ざけるために。
 いいや違う。ルナルシオンが変わった事にすねていたのだ。真実が見えていないだけだった。ルナルシオンはただ、ダガンの側にいたくて必死なだけだったのだ。

「アイツめちゃくちゃ俺のこと好きじゃないか。なんでだよ……」

 ダガンは赤黒い肌をより赤くして顔を覆う。執事はいい歳した元同僚が悶えているのを「えぇ……」と、言いたげな顔で見つつ端的たんてきに述べた。

「恋に理屈は無い。古よりそう言われていますな」

 ダガンは頭を上げ、覚悟を決めた顔でルナルシオンの居場所を聞いた。執事は生温い眼差しで教える。

「ルナルシオン殿下はご寝所にいらっしゃいます。色々と初夜のご準備をされていました。それも終わり、後はダガン様がお好きな時に……との事です」

 ダガン以上の覚悟にまた膝から崩れ落ちそうだったが、なんとか耐えて歩き出した。ポツリとこぼす。

「俺もめっちゃアイツのこと好きだ」

「あ、はい。ここに居る全員が存じ上げております」

 執事の目は雄弁に「ええからさっさと行けや」と訴えるのだった。

◆◆◆◆◆

 ダガンが執事にドン引きされていた頃、ルナルシオンは不安と期待でいっぱいになりながら巨大なベッドの上でゴロンゴロンしていた。
 綺麗に整えた長い白金の髪、色気たっぷりの薄絹の衣装、魔術ランプのムーディーな光、とっておきの香、そして何より月に喩えられる美貌も台無しな有様だが、頭の中がお花畑であった。

「あああああ……相変わらずダガンかっこよかった!……いや、渋みが増した!最高……好きだ……!」

 ルナルシオンは喜びでいっぱいだった。
 出会って十四年、想いを自覚して五年。ずっと帰りを待っていた相手と結ばれるのだ。二十二歳の青年には刺激が強い。
 ルナルシオンは過去を振り返り、喜びを噛み締める。
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