半魔の勇者は第三王子を寵愛する

花房いちご

文字の大きさ
7 / 36
私たち結婚しました

私たち結婚しました【7】

 ダガンと初めて会った日を、ルナルシオンは生涯思い出し続けるだろう。

(なんて優しい騎士だろう)

 これが、ルナルシオンがダガンと初めて会った時の印象だ。
 ルナルシオンはダガンが半魔、文献で読んだ魔族と人間の合いの子であると一目で判断した。かなり魔族の特徴が濃く、顔立ちも姿も猛々しい。しかし、その身から溢れる威圧を極限まで消していることも同時に見抜き、その優しさに感動した。

(こんな優しい騎士もいるんだ)

 騎士や兵士といった者たちは、大なり小なり自分の力を示したがるものだ。故に最も礼儀を重んじる近衛騎士でさえ、ある種の威圧を伴う空気、いわゆる強者の威圧をまとっている。むしろ常に威圧を発してこそ勤めを果たせると思っている節もあった。否定できない面もあるが、にこやかに接しながらも威圧を抑えきれない彼らが、ルナルシオンは苦手だった。
 またそういった者の一部が、内心でルナルシオンを軽んじているのも察していた。
 「王族の癖に魔術も武術も使えぬ役たたず」だと、子供だからと油断し、態度に滲ませるのだ。
 確かにルナルシオンは、魔術適正もなく闘気を練ることもできない。しかし聡明で、他者の気配や思惑には敏感だ。ゆえに、ダガンの思いやりに気づけたのである。

「お初にお目にかかります。私は、王立騎士団第三師団第一部隊隊長ダガン・シュラハと申します。この度、陛下のご高配により男爵位とシュラハの家名を賜りました」

 言葉は固いが声は優しい。眼差しもだ。努力しているのが察せれた。恐らく、ルナルシオンたち八人兄弟姉妹を怯えさせないためだ。だが、それは他の兄弟姉妹には伝わらなかった。

「そ、そなたがダガンか……」

「ひっ!な、なに、怖い……!」

「頭の角?魔族?何故ここに?」

「お前ら下がれ!」

 他の兄弟たちは、ダガンの見た目に怯えるか嫌悪した。臆病なところのある第五王女ステラリリスと第四王女フルールリア、血の気の多い第二王子サンライアンと第二王女ラヴィネリッサが怯えたり騒ぐのはまだわかるが、他も嫌悪や恐怖を隠してない。今まで動揺した所を見せた事のない第一王子スカイレッドまで声を震わせている。
 そして、その反応を見たダガンは少しだけ表情を変えた。悲しそうに。
 ルナルシオンは、気付けば口を開いていた。

「みんな、どうして怖がってるの。こんなに優しい金色の目をしていて、私たちを怖がらせないよう穏やかな声を出してくれているのに。失礼だよ」

 ダガンの目が驚きに見開かれ、ルナルシオンだけを見た。なぜかルナルシオンの胸が高鳴る。

(あれ?どうして?)

 恐ろしいわけでもないのにと疑問だったが、まずは礼儀を示さねばと笑顔を浮かべた。立派な騎士に向けるに相応しい表情だといいと思いながら。

「君がダガンだね。いつも私たちのために戦ってくれてありがとう。北端砦の攻防も、ランダリオンの戦いも、ワイバーンの大発生も、君のおかげでおさまったと聞いたよ。これからもよろしくね」

 ルナルシオンはダガンに微笑みかけ、歩み寄って手を差し出した。自分たち王侯貴族が騎士に忠誠を許し、信頼を表明する際の姿勢だ。第三王子の自分が出過ぎた真似かとも思ったが、素直な感謝と信頼を示したかった。
 ダガンは居住まいを正し、ルナルシオンの手に己の手を差し出す。ルナルシオンの背丈が小さいので、自然と手と手が重なった。大きくて分厚い、温かな手だ。意識してまた胸が高鳴った。やはり、嫌な感覚はしない。
 手が重なって数瞬後、ダガンの眼差しが変わった。眩しく強い意志の力がこもった目だ。

「身に余るお言葉を賜り恐悦至極に存じます。このダガン・シュラハ。我が剣と魂に誓い、我が命果てるまでローゼラント王家にお仕え申し上げます」

 次いで紡がれた声も深く、強い。しかし、ルナルシオンに対する敬意と忠誠に満ちていた。

「ルナルシオン・ローゼラントはそなたの忠誠と献身を許し、それを忘れず報いると誓う」

 胸の高鳴りに突き動かされるまま、ルナルシオンは誓いの言葉に返した。

 恐らく、あの瞬間からルナルシオンはダガンを好きだったのだ。自覚したのは五年前、旅立つダガンを見送った瞬間だ。以来、ダガンの帰りをずっと待ち、今に至る。

 ◆◆◆◆◆

「ダガン……好き……」

 お花畑である。仕方ない。出会って十四年、想いを自覚して五年。ずっと帰りを待っていた相手と結ばれるのだ。二十二歳の青年には刺激が強い。

「私を好きじゃなくても好き」
感想 2

あなたにおすすめの小説

騎士は魔石に跪く

叶崎みお
BL
森の中の小さな家でひとりぼっちで暮らしていたセオドアは、ある日全身傷だらけの男を拾う。ヒューゴと名乗った男は、魔女一族の村の唯一の男であり落ちこぼれの自分に優しく寄り添ってくれるようになった。ヒューゴを大事な存在だと思う気持ちを強くしていくセオドアだが、様々な理由から恋をするのに躊躇いがあり──一方ヒューゴもセオドアに言えない事情を抱えていた。 魔力にまつわる特殊体質騎士と力を失った青年が互いに存在を支えに前を向いていくお話です。 他サイト様でも投稿しています。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

【完結】名前のない皇后 −記憶を失ったSubオメガはもう一度愛を知る−

社菘
BL
息子を産んで3年。 瀕死の状態で見つかったエリアスは、それ以前の記憶をすっかり失っていた。 自分の名前も覚えていなかったが唯一所持品のハンカチに刺繍されていた名前を名乗り、森の中にひっそりと存在する地図上から消された村で医師として働く人間と竜の混血種。 ある日、診療所に運ばれてきた重病人との出会いがエリアスの止まっていた時を動かすことになる。 「――お前が俺の元から逃げたからだ、エリアス!」 「本当に、本当になにも覚えていないんだっ!」 「ととさま、かかさまをいじめちゃメッ!」 破滅を歩む純白竜の皇帝《Domアルファ》× 記憶がない混血竜《Subオメガ》 「俺の皇后……」 ――前の俺?それとも、今の俺? 俺は一体、何者なのだろうか? ※オメガバース、ドムサブユニバース特殊設定あり(かなり好き勝手に詳細設定をしています) ※本作では第二性→オメガバース、第三性(稀)→ドムサブユニバース、二つをまとめてSubオメガ、などの総称にしています ※作中のセリフで「〈〉」この中のセリフはコマンドになります。読みやすいよう、コマンドは英語表記ではなく、本作では言葉として表記しています ※性的な描写がある話数に*をつけています ✧毎日7時40分+17時40分に更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。