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番外編二 真冬のバカンスは白猫と共に 前編
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「面白かったわ」
シルビアーナは、読み終えた本を閉じて微笑んだ。前から読みたかった小説は、期待以上に面白く没頭していたのだ。
シルビアーナは本をテーブルに置き、余韻に浸りつつソファの背もたれに体重をかける。
(なんだか、とってもあたたかい……このまま眠ってしまいそうね)
外は粉雪がちらついているが、サンルームの中は暖炉のおかげもあって暖かい。身体もぽかぽかしている。
(あら?それだけじゃないわね)
最も熱を与えてくれているのは膝に感じる重みだ。視線を下に向けたシルビアーナは微笑む。
「あらあら。大きな白猫ちゃんがいたわ」
シルビアーナの膝を枕にしているのは、愛おしい恋人であるリリだった。銀髪で白いチュニックワンピースを着ていることもあり、眠る姿は正に主人に甘える白猫だ。
シルビアーナは泣きそうになった。
「こんな風にのんびりできる日が来るなんてね……」
ずっとこのまま、この別荘で暮らせたらいいのに。そう願いながら幸福を噛み締める。
◆◆◆◆◆
今から半月前。
ガーデニア公爵一派の処刑を見届けたシルビアーナとリリは、保養のため旅立った。
目的地はバーリスといい、エデンローズ王国王都から馬車で一週間の場所にある観光地だ。
比較的温暖な気候と温泉が有名だが、冬期は観光客が少ない。お忍びの旅にちょうどいい場所だった。
バーリスに到着した二人は、馬車の窓から外を眺めながらキャッキャとはしゃいだ。
「シルビアーナ、あの建物が公衆浴場?資料で読んだ印象より大きいね!お城みたい!」
「そうよ。私は行ったことが無いけれど、中もきらびやかだそうよ」
シルビアーナは、幼い頃の記憶を浮かべる。母が生きていた頃は、年に数度はバーリスに来ていたのだ。
少し切なくも幸せな記憶に浸っていると、リリがさらに目を輝かせた。
「わあ!素敵!あれが別荘?」
別荘といっても屋敷と言って差し支えない大きさだ。白い壁に優美な彫刻が施され、適度に管理された森に囲まれている。
「ええ。ふふふ。リリったら、そんなに窓に顔を近づけて。子供みたいね」
「だって嬉しいもの。今日からシルビアーナと二人っきりで過ごせるんだから」
その通りだ。シルビアーナとリリは、バーリスにあるゴールドバンデッド公爵家所有の別荘に二人きりで滞在する事になっている。別荘を管理している使用人たちには用がない限り離れに下がっているよう、あらかじめ命じている。
それは、馬車旅に同行している御者たちと護衛騎士たちも同じだ。流石に外出の際は護衛騎士がつく事になったが、外出しない限りは二人きりになれるようにしている。
かなりの我儘だが、シルビアーナは『婚約破棄後の心労を静かに癒したい』と言って押し通した。
まあ、王都からついてきた護衛騎士たちはシルビアーナの本心を察しているだろうが。
「一カ月も二人っきりでイチャイチャできるだなんて最高!」
「うふふ。この旅行を計画した甲斐があったわね」
とはいえ、護衛騎士や使用人たちの前では節度を守り、ただの【公爵令嬢と専属侍女】でいるつもりだ。
馬車から降りるまでに切り替えなければと、シルビアーナは自分に言い聞かせたのだった。
その後。別荘の使用人たちとの挨拶を済ませ、邸内の設備の説明を受けた。
(久しぶりだから変わっている場所も多いわね。あら。サンルームは昔のままなのね。よかったわ)
サンルームは、生前の母のお気に入りの部屋だった。シルビアーナら子供たちも、よく過ごしたものだ。沢山の幸福な思い出がある。
(リリとの思い出も作りたいわね)
シルビアーナは、密かに感傷と期待に浸った。
その後は荷解きしたり、ゆっくり風呂に入ったりした。別荘の風呂は流石に温泉ではないが、広々としていて癒される。
シルビアーナが風呂から出ると、脱衣所にリリが居た。手にはタオルがあるあたり色っぽい意図はなく、シルビアーナの着替えを手伝ったり髪を乾かすつもりなのだろう。
「リリ、貴女も一緒にお風呂に入ればよかったのに」
「今度ね。まだ使用人たちがいるから駄目。シルビアーナの着替えが済んだら入るよ」
シルビアーナは少し残念に思いつつ、大人しく世話を焼かれるのだった。
風呂から出たシルビアーナは使用人たちを労い、離れへと下がらせた。
食堂でリリを待つ。テーブルの上には、二人分の食事が並べられている。
使用人たちは、シルビアーナが専属侍女であるリリと食事を共にすることに驚いていたが『彼女は私の護衛と毒味も兼ねているの』と、言えば納得してくれた。
(嘘よ。お茶会と夜会以外でリリと食事するのは初めてよ)
心地よく過ごす為の小さな嘘だ。
シルビアーナは、リリが恋人であることを隠すつもりはないが、理由なく見せびらかすつもりもない。
クリスティアンに見せつけたのは、『絶対に男とは結婚しない』という、国王への意思表示でもあったのだ。
今回は秘めておくことにした。使用人たちに説明するのも面倒が起こりそうだし、どうせ此処には一カ月しかいない。
(でも、若い使用人には牽制しておいた方がいいかしら?リリったらモテるから……)
つらつら考えていると、ドアを叩く音がした。リリだ。入室を許可する。
「ごめん。お待たせしちゃったね」
シルビアーナは、その姿に静かに感動した。
(私が、『リリの普段着姿が見たい』と、言ったから叶えてくれたのね)
リリは、白いブラウスの上に深緑色の毛糸のカーディガンを羽織り、茶色い長いスカートを着ている。小柄だが豊満な身体をゆったり隠す格好だ。
下ろした髪がゆるく波打っているのも相待って、とても愛らしい。
「素敵ね。良く似合っているわ」
「ありがとう。シルビアーナも素敵よ」
シルビアーナも気軽な格好だ。厚手の生地を重ねた紫色のワンピースに、丈の長い紺色のカーディガンを羽織っている。
髪も、リリと同じく結わずに下ろしている。
「ふふ。貴女が服を選んで着付けてくれたからよ」
二人は向かい合って座り、使用人たちが用意してくれた夕食を食べた。初めての二人きりの晩餐は、驚くほど会話が弾む。
その後はリリが片付けを済ませ、同じ寝台の中で眠った。
翌朝。シルビアーナはリリの柔らかな声と、自分を揺さぶる振動で覚醒した。
「シルビアーナ、起きて」
シルビアーナは、読み終えた本を閉じて微笑んだ。前から読みたかった小説は、期待以上に面白く没頭していたのだ。
シルビアーナは本をテーブルに置き、余韻に浸りつつソファの背もたれに体重をかける。
(なんだか、とってもあたたかい……このまま眠ってしまいそうね)
外は粉雪がちらついているが、サンルームの中は暖炉のおかげもあって暖かい。身体もぽかぽかしている。
(あら?それだけじゃないわね)
最も熱を与えてくれているのは膝に感じる重みだ。視線を下に向けたシルビアーナは微笑む。
「あらあら。大きな白猫ちゃんがいたわ」
シルビアーナの膝を枕にしているのは、愛おしい恋人であるリリだった。銀髪で白いチュニックワンピースを着ていることもあり、眠る姿は正に主人に甘える白猫だ。
シルビアーナは泣きそうになった。
「こんな風にのんびりできる日が来るなんてね……」
ずっとこのまま、この別荘で暮らせたらいいのに。そう願いながら幸福を噛み締める。
◆◆◆◆◆
今から半月前。
ガーデニア公爵一派の処刑を見届けたシルビアーナとリリは、保養のため旅立った。
目的地はバーリスといい、エデンローズ王国王都から馬車で一週間の場所にある観光地だ。
比較的温暖な気候と温泉が有名だが、冬期は観光客が少ない。お忍びの旅にちょうどいい場所だった。
バーリスに到着した二人は、馬車の窓から外を眺めながらキャッキャとはしゃいだ。
「シルビアーナ、あの建物が公衆浴場?資料で読んだ印象より大きいね!お城みたい!」
「そうよ。私は行ったことが無いけれど、中もきらびやかだそうよ」
シルビアーナは、幼い頃の記憶を浮かべる。母が生きていた頃は、年に数度はバーリスに来ていたのだ。
少し切なくも幸せな記憶に浸っていると、リリがさらに目を輝かせた。
「わあ!素敵!あれが別荘?」
別荘といっても屋敷と言って差し支えない大きさだ。白い壁に優美な彫刻が施され、適度に管理された森に囲まれている。
「ええ。ふふふ。リリったら、そんなに窓に顔を近づけて。子供みたいね」
「だって嬉しいもの。今日からシルビアーナと二人っきりで過ごせるんだから」
その通りだ。シルビアーナとリリは、バーリスにあるゴールドバンデッド公爵家所有の別荘に二人きりで滞在する事になっている。別荘を管理している使用人たちには用がない限り離れに下がっているよう、あらかじめ命じている。
それは、馬車旅に同行している御者たちと護衛騎士たちも同じだ。流石に外出の際は護衛騎士がつく事になったが、外出しない限りは二人きりになれるようにしている。
かなりの我儘だが、シルビアーナは『婚約破棄後の心労を静かに癒したい』と言って押し通した。
まあ、王都からついてきた護衛騎士たちはシルビアーナの本心を察しているだろうが。
「一カ月も二人っきりでイチャイチャできるだなんて最高!」
「うふふ。この旅行を計画した甲斐があったわね」
とはいえ、護衛騎士や使用人たちの前では節度を守り、ただの【公爵令嬢と専属侍女】でいるつもりだ。
馬車から降りるまでに切り替えなければと、シルビアーナは自分に言い聞かせたのだった。
その後。別荘の使用人たちとの挨拶を済ませ、邸内の設備の説明を受けた。
(久しぶりだから変わっている場所も多いわね。あら。サンルームは昔のままなのね。よかったわ)
サンルームは、生前の母のお気に入りの部屋だった。シルビアーナら子供たちも、よく過ごしたものだ。沢山の幸福な思い出がある。
(リリとの思い出も作りたいわね)
シルビアーナは、密かに感傷と期待に浸った。
その後は荷解きしたり、ゆっくり風呂に入ったりした。別荘の風呂は流石に温泉ではないが、広々としていて癒される。
シルビアーナが風呂から出ると、脱衣所にリリが居た。手にはタオルがあるあたり色っぽい意図はなく、シルビアーナの着替えを手伝ったり髪を乾かすつもりなのだろう。
「リリ、貴女も一緒にお風呂に入ればよかったのに」
「今度ね。まだ使用人たちがいるから駄目。シルビアーナの着替えが済んだら入るよ」
シルビアーナは少し残念に思いつつ、大人しく世話を焼かれるのだった。
風呂から出たシルビアーナは使用人たちを労い、離れへと下がらせた。
食堂でリリを待つ。テーブルの上には、二人分の食事が並べられている。
使用人たちは、シルビアーナが専属侍女であるリリと食事を共にすることに驚いていたが『彼女は私の護衛と毒味も兼ねているの』と、言えば納得してくれた。
(嘘よ。お茶会と夜会以外でリリと食事するのは初めてよ)
心地よく過ごす為の小さな嘘だ。
シルビアーナは、リリが恋人であることを隠すつもりはないが、理由なく見せびらかすつもりもない。
クリスティアンに見せつけたのは、『絶対に男とは結婚しない』という、国王への意思表示でもあったのだ。
今回は秘めておくことにした。使用人たちに説明するのも面倒が起こりそうだし、どうせ此処には一カ月しかいない。
(でも、若い使用人には牽制しておいた方がいいかしら?リリったらモテるから……)
つらつら考えていると、ドアを叩く音がした。リリだ。入室を許可する。
「ごめん。お待たせしちゃったね」
シルビアーナは、その姿に静かに感動した。
(私が、『リリの普段着姿が見たい』と、言ったから叶えてくれたのね)
リリは、白いブラウスの上に深緑色の毛糸のカーディガンを羽織り、茶色い長いスカートを着ている。小柄だが豊満な身体をゆったり隠す格好だ。
下ろした髪がゆるく波打っているのも相待って、とても愛らしい。
「素敵ね。良く似合っているわ」
「ありがとう。シルビアーナも素敵よ」
シルビアーナも気軽な格好だ。厚手の生地を重ねた紫色のワンピースに、丈の長い紺色のカーディガンを羽織っている。
髪も、リリと同じく結わずに下ろしている。
「ふふ。貴女が服を選んで着付けてくれたからよ」
二人は向かい合って座り、使用人たちが用意してくれた夕食を食べた。初めての二人きりの晩餐は、驚くほど会話が弾む。
その後はリリが片付けを済ませ、同じ寝台の中で眠った。
翌朝。シルビアーナはリリの柔らかな声と、自分を揺さぶる振動で覚醒した。
「シルビアーナ、起きて」
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