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番外編三 ある侍女のひとりごと 後編
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前半はリリ視点。後半は侍女視点に戻ります。
◆◆◆◆◆
ラヴェンナさんと恋話して二日後の昼過ぎ。
私はシルビアーナの自室にいた。
二人がけのソファに並んで座り、茶菓子をつまみながら話に花を咲かせる。
「あ、そうだ。ラヴェンナさんとグレイ様は上手く行ったよ。次の休みの日にお互いの家に挨拶に行くらしいし、すぐ婚約するんじゃないかな」
「まあ!お祝いを用意しないといけないわね!」
頷きつつ、しみじみした。ドック様と共にグレイ様のケツを叩いた甲斐があった。
実は七日前、こんなやりとりがあったのだ。
『ジュリアス・ドック!ラヴェンナ嬢と二人きりで何をしていたんだ!』
『人聞きが悪い言い方やめろ!このヘタレ!』
『なんだと貴様ァ!誰がヘタレだ!この酒乱!』
『んだとテメェ!やんのかコラぁ!』
ラヴェンナさんとドック様が二人きりで話していたので、グレイ様が嫉妬心丸出しでドック様に詰め寄ったのだ。
私は拳で仲裁し、二人から話を聞いた。
『と、言うわけで、ラヴェンナちゃんはお前の想い人を探しに行ったのでした』
『どうしてそうなるんだ!俺はラヴェンナ嬢一筋だぞ!』
ゴールドバンデッド公爵家では周知の事実だ。グレイ様の嫉妬深さと独占欲も含めて。
だけどねえ。
『ザックス、お前は言葉が足りない。外堀を埋めて囲い込むことしか考えてないだろ。ラヴェンナちゃんは恋愛経験がなくて自信のない子だ。はっきり『好きだ!』って言わないと伝わらないぜ?』
『ぐっ!そ、そんなことは……!』
『そうですよ。もたもたしているなら他の人を紹介しますよ』
『いや、ブランカ殿それは……は?紹介?』
『ええ。シルビアーナ様のご意向です。ラヴェンナさんにはマートル領でも仕えて欲しいので、良縁の世話をしたいと……』
『やめてくれ!わかった!ちゃんとラヴェンナ嬢に告げる!』
と、言うやりとりがあったのよね。グレイ様は護衛騎士としては有能なのに、恋愛が絡むとヘタレらしい。
「グレイ様からは感謝された。しっかり恩が売れてよかったよ」
「本当によかったわ。……これで、グレイとラヴェンナがマートル領に付いてきてくれたら良いのだけど」
「きっとそうなるよ。ラヴェンナさんはシルビアーナを敬愛しているし、私も説得するから」
優しく穏やかなシルビアーナだけど、実は心から信頼している相手は少ない。身分と立場上無理もない話だけど。
例えば、護衛騎士のドック様は有能な騎士だけどシルビアーナは苦手に思っている。あの豪快さとやや下世話なところが苦手らしい。
グレイ様とラヴェンナさんは、そんなシルビアーナがある程度信頼して気を許せる相手だ。出来ればマートル領にも連れて行きたい。
特に、ラヴェンナさんは必要な人材だ。
「それで、ティアナの恋人の件は?」
「黒。元ガーデニア公爵家の残党が裏で手を引いていた」
恋人がティアナに近づいたのは、ゴールドバンデッド公爵家の情報を引き出すためだった。残党が商会の弱みを握っていたので、跡取りに命じて間諜の真似事をさせたのだ。
目的は復讐。逆恨みもはなはだしい。
もちろん、残党どもは始末した。商会も処分を受け、近く解体される予定だ。
ティアナ自身は、何も知らなかったし殆ど情報を流していなかったのでお咎めなし。本人の安全のため、真実を告げることも出来ないけれど。
失恋の痛みが早く癒えることを祈るばかりだ。
「他にも怪しい話が幾つかあったけど、それは精査中」
「ご苦労様。それにしても、ラヴェンナにこんな才能があったなんてね。話していて和む子だとは思ってたけど」
「わかる。あの子、栗鼠みたいで見ててほっこりするし、話しやすいんだよね。油断を誘うというか……」
あれは才能だ。本人には自覚がないけど。あと、侍女としてもなかなか優秀だ。突出した能力はないけれど、どの業務も手際よくこなせる。
ごく稀に暴走するのが玉に瑕だけど。
「自覚のないまま活用させてもらいましょう。リリ、絶対に逃しちゃ駄目よ?」
「わかってるよ。ラヴェンナさんは貴女の癒しでもあるしね」
ちょっと嫉妬しつつ言うと、シルビアーナが満足そうに微笑んだ。
「私の一番の癒しは貴女よ。わかっているでしょう?」
「それはもちろん。誰にも譲らない……」
シルビアーナが私の身体にしなだれかかる。
「……だから今夜、癒してね?」
「っ!もちろんいいよ。寝かせてあげれないかもだけど」
「あらあら。リリったらいけない子ねえ」
からかう唇を奪いソファに身を沈めた。まずは今、癒してあげなくちゃね。
◆◆◆◆◆
ザックスさんと恋人になってから、世界がなんだかキラキラしている。
周りからも祝福してもらえてるし、来月には両家のご挨拶を済ませて婚約するし、来年の春には結婚するのが決まった。こんなに幸せでいいのかしら?
というか、こんなに素早く色々進むものなのかしら?ザックスさんが有能だからかだからかな?
侍女仲間たちが『外堀埋め立て済みだからね……』と言っていたけど、どういう意味だろう?
ところで、侍女仲間といえばリリさんだ。
リリさんとシルビアーナお嬢様は、今日も仲睦まじい。互いを見る眼差しは、とろんと甘くて柔らかい。
だからやっぱり……。
まあ、お幸せそうだからどちらでも良いけど。
私とザックスさんもお二人と一緒にマートル領に行くし、いつかはっきりと教えてもらえるといいな。
私は未来に思いを馳せつつ、今日も侍女として働くのだった。
おしまい
◆◆◆◆◆
ここまでお読みいただきありがとうございました。
皆様の閲覧、お気に入り登録、ハート、エールなどの反応ありがとうございます。皆さまの反応のおかげでここまで書けました。
今後も番外編を更新するかもしれませんが、現時点で書きたい話は全て書いたので完結表示にします。
今後ともよろしくお願いいたします。
◆◆◆◆◆
ラヴェンナさんと恋話して二日後の昼過ぎ。
私はシルビアーナの自室にいた。
二人がけのソファに並んで座り、茶菓子をつまみながら話に花を咲かせる。
「あ、そうだ。ラヴェンナさんとグレイ様は上手く行ったよ。次の休みの日にお互いの家に挨拶に行くらしいし、すぐ婚約するんじゃないかな」
「まあ!お祝いを用意しないといけないわね!」
頷きつつ、しみじみした。ドック様と共にグレイ様のケツを叩いた甲斐があった。
実は七日前、こんなやりとりがあったのだ。
『ジュリアス・ドック!ラヴェンナ嬢と二人きりで何をしていたんだ!』
『人聞きが悪い言い方やめろ!このヘタレ!』
『なんだと貴様ァ!誰がヘタレだ!この酒乱!』
『んだとテメェ!やんのかコラぁ!』
ラヴェンナさんとドック様が二人きりで話していたので、グレイ様が嫉妬心丸出しでドック様に詰め寄ったのだ。
私は拳で仲裁し、二人から話を聞いた。
『と、言うわけで、ラヴェンナちゃんはお前の想い人を探しに行ったのでした』
『どうしてそうなるんだ!俺はラヴェンナ嬢一筋だぞ!』
ゴールドバンデッド公爵家では周知の事実だ。グレイ様の嫉妬深さと独占欲も含めて。
だけどねえ。
『ザックス、お前は言葉が足りない。外堀を埋めて囲い込むことしか考えてないだろ。ラヴェンナちゃんは恋愛経験がなくて自信のない子だ。はっきり『好きだ!』って言わないと伝わらないぜ?』
『ぐっ!そ、そんなことは……!』
『そうですよ。もたもたしているなら他の人を紹介しますよ』
『いや、ブランカ殿それは……は?紹介?』
『ええ。シルビアーナ様のご意向です。ラヴェンナさんにはマートル領でも仕えて欲しいので、良縁の世話をしたいと……』
『やめてくれ!わかった!ちゃんとラヴェンナ嬢に告げる!』
と、言うやりとりがあったのよね。グレイ様は護衛騎士としては有能なのに、恋愛が絡むとヘタレらしい。
「グレイ様からは感謝された。しっかり恩が売れてよかったよ」
「本当によかったわ。……これで、グレイとラヴェンナがマートル領に付いてきてくれたら良いのだけど」
「きっとそうなるよ。ラヴェンナさんはシルビアーナを敬愛しているし、私も説得するから」
優しく穏やかなシルビアーナだけど、実は心から信頼している相手は少ない。身分と立場上無理もない話だけど。
例えば、護衛騎士のドック様は有能な騎士だけどシルビアーナは苦手に思っている。あの豪快さとやや下世話なところが苦手らしい。
グレイ様とラヴェンナさんは、そんなシルビアーナがある程度信頼して気を許せる相手だ。出来ればマートル領にも連れて行きたい。
特に、ラヴェンナさんは必要な人材だ。
「それで、ティアナの恋人の件は?」
「黒。元ガーデニア公爵家の残党が裏で手を引いていた」
恋人がティアナに近づいたのは、ゴールドバンデッド公爵家の情報を引き出すためだった。残党が商会の弱みを握っていたので、跡取りに命じて間諜の真似事をさせたのだ。
目的は復讐。逆恨みもはなはだしい。
もちろん、残党どもは始末した。商会も処分を受け、近く解体される予定だ。
ティアナ自身は、何も知らなかったし殆ど情報を流していなかったのでお咎めなし。本人の安全のため、真実を告げることも出来ないけれど。
失恋の痛みが早く癒えることを祈るばかりだ。
「他にも怪しい話が幾つかあったけど、それは精査中」
「ご苦労様。それにしても、ラヴェンナにこんな才能があったなんてね。話していて和む子だとは思ってたけど」
「わかる。あの子、栗鼠みたいで見ててほっこりするし、話しやすいんだよね。油断を誘うというか……」
あれは才能だ。本人には自覚がないけど。あと、侍女としてもなかなか優秀だ。突出した能力はないけれど、どの業務も手際よくこなせる。
ごく稀に暴走するのが玉に瑕だけど。
「自覚のないまま活用させてもらいましょう。リリ、絶対に逃しちゃ駄目よ?」
「わかってるよ。ラヴェンナさんは貴女の癒しでもあるしね」
ちょっと嫉妬しつつ言うと、シルビアーナが満足そうに微笑んだ。
「私の一番の癒しは貴女よ。わかっているでしょう?」
「それはもちろん。誰にも譲らない……」
シルビアーナが私の身体にしなだれかかる。
「……だから今夜、癒してね?」
「っ!もちろんいいよ。寝かせてあげれないかもだけど」
「あらあら。リリったらいけない子ねえ」
からかう唇を奪いソファに身を沈めた。まずは今、癒してあげなくちゃね。
◆◆◆◆◆
ザックスさんと恋人になってから、世界がなんだかキラキラしている。
周りからも祝福してもらえてるし、来月には両家のご挨拶を済ませて婚約するし、来年の春には結婚するのが決まった。こんなに幸せでいいのかしら?
というか、こんなに素早く色々進むものなのかしら?ザックスさんが有能だからかだからかな?
侍女仲間たちが『外堀埋め立て済みだからね……』と言っていたけど、どういう意味だろう?
ところで、侍女仲間といえばリリさんだ。
リリさんとシルビアーナお嬢様は、今日も仲睦まじい。互いを見る眼差しは、とろんと甘くて柔らかい。
だからやっぱり……。
まあ、お幸せそうだからどちらでも良いけど。
私とザックスさんもお二人と一緒にマートル領に行くし、いつかはっきりと教えてもらえるといいな。
私は未来に思いを馳せつつ、今日も侍女として働くのだった。
おしまい
◆◆◆◆◆
ここまでお読みいただきありがとうございました。
皆様の閲覧、お気に入り登録、ハート、エールなどの反応ありがとうございます。皆さまの反応のおかげでここまで書けました。
今後も番外編を更新するかもしれませんが、現時点で書きたい話は全て書いたので完結表示にします。
今後ともよろしくお願いいたします。
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