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番外編 アナベルと出会うまでのエリック(エリック視点)
番外編8話 恋愛相談と迷惑な噂(エリック視点)
翌朝、俺は早速行動を起こした。
まずミシエラに事情を話して協力を願った。ミシエラは金の瞳を細め、めちゃくちゃ性格悪そうな笑顔になった。聖女としてどうなんだその顔は。
「お爺ちゃ……エリックにしては思い切りましたねえ。というか私が言った通りじゃないですか。やっぱり意識してたんですね。
それにしても……んっふふ!あのお爺ちゃんっぽいエリックが恋!恋って!で、でもわかります。アナベルさんってとっても可愛らしいですものね。んふふふふふ!」
畜生。面白がりやがって。確かに色恋沙汰が似合う性格だとは思わないが、ここまで言われる筋合いはない。
「爺って言うなクソガキ。いいから協力しろ。お前の愛しい第二王子殿下にお前の恥ずかしい話を暴露するぞ。木登りで降りれなくなって泣き喚いた話とか、神官様のお嫁さんになるって騒いで暴れた話とか、料理をしようとして大失敗した話とか」
「ごめんなさい止めて!」
付き合いが長いとこういうことが出来るのが強みだ。伊達にミシエラの教師役……もとい兄貴分やってないからな。
「本当にごめんなさい。からかい過ぎました。
……貴方が、初めて自分自身のためだけに行動しているのが嬉しくて、つい」
急に真面目になったミシエラに面食らう。
「は?そうか?俺は、俺のやりたいように生きてきたぞ?」
ミシエラは苦笑した。俺を揶揄う時の意地悪な笑顔とも、聖女モードの華やかな笑顔とも違う。薄雲をまとう月のような優しくも寂しそうな笑顔だ。
あの小さかったミシエラも、ずいぶん大人びた表情をするようになったんだな。
「ええ。きっと貴方自身のためでもあったのでしょう。ですが貴方は常に『自分以外の誰かにとっても良い結果になるよう』考えて行動してました。
村で働きだしたのはアンおば様のため、教会を気にかけていたのは神官様と私たち孤児のため、聖騎士になったのは私が寂しくないようにするのと、村のみんなが豊かになるためだった。
……ねえ、エリック。私たちは貴方に感謝しているけど、いつも心配だったよ。貴方はいつか、自分を犠牲にして擦り減ってしまいそうで……」
最後は聖女ミシエラではなく、俺の妹分であるただのミシエラとして語っている。その語りかけが俺の心を震わせた。
「ミシエラ……そんな風に思ってたのか」
「うん。エリックお兄ちゃんは無理ばっかりするから。
……でも、もう大丈夫そうですね。これまでのお礼も兼ねて、アナベルさんとの仲を全力で応援します。この聖女ミシエラにお任せ下さい」
晴れやかな笑顔に胸が熱くなる。俺の生徒……いや、妹分は頼もしく育った。
「それに、お二人の婚約は私にとっても都合が良いですし」
「というと?」
ミシエラの顔が曇る。
「実は、私と貴方が恋仲だという噂があるのです」
「は?」
寝耳に水とはこのことだ。そんな事実無根の噂があるなんて、俺は全く知らなかった。
「俺とミシエラが恋仲?本気で言ってるのか?」
「ですよねえ。私も耳を疑いましたよ。まあ、色々と思惑があるようですが。
私たちと面識がない貴族……特に、私と第二王子殿下の婚約を反対していた者たちが広めているらしいのです」
「なるほどな。娘を第二王子妃に推していた、あるいは息子にミシエラを娶らせようとしていた貴族たちが、まだ諦めてないって訳だな」
ミシエラと第二王子殿下の縁談が持ち上がり、婚約が決まるまでの間。かなりの大騒ぎで大変だったのを思い出す。
噂によって婚約解消まで追い詰められれば良し、そこまで出来なくても嫌がらせになる。そんな意図があるそうだ。
社交界に噂話は絶えないもの。いちいち気にしていたらやっていけない。だが、この噂は広まるのが早く、本気で信じている者もいるらしい。
「確かに聖女聖人が聖騎士や神官とくっつくのは珍しくないが、なんで俺が相手なんだ?
「私とエリックは初代聖女様と聖騎士様の生まれ変わりで、何度でも結ばれる運命だそうですよ」
初代聖女と聖騎士といえば、この国の初代女王と王配でもある。建国史によれば、今よりはるかに魔獣だらけだったこの地にやってきて、魔獣を倒して土地を清めて建国したのだとか。
この二人の見た目がミシエラと俺と同じ、銀髪金眼の可憐な美少女と黒髪黒目の偉丈夫だったという。
「そんな理由で馬鹿貴族どもの噂を信じてるのか?すごい妄想だな。たかが髪だの目の色だので生まれ変わりだっていうなら、いったい何人生まれ変わりがいるのやらだ」
俺の黒髪黒目はありふれた色だ。聖騎士にも何人かいる。ミシエラの銀髪金眼は珍しいが、高位貴族に範囲を絞れば何人もいる。聖女聖人見習いの中にも一人か二人いたはずだ。
「ですよね。あまりにも現実からかけ離れています。たとえ生まれ変わりがあるとしても、あくまで現世と前世は別人でしょう。生まれ変わりだからと言って、同じように恋するだなんて無理があります。
そもそも私とエリックは家族のようなものですし、なによりお互いにときめきません」
「だよなあ。考えたこともない」
「私もです。ですが、噂を信じる人は増えています。すでに噂の火消しに取り掛かってはいますが、今後は私たちの接触も減らした方がいいですね。
今だって二人きりではありませんが、ご自分の都合の良い物しか見えない、聞こえない方が、とても多いようですし」
その通り。ここはミシエラにあてがわれた客室だが、部屋の隅にはミシエラの身の回りの世話をする神官たちがいる。
『二人で話したい』と言ったので口を挟まないが、俺たちの会話が聞こえる距離にいる。これはミシエラの身を守るためと、醜聞を避けるのだ。
俺たちは男女であり、それぞれ身分がある。教会に入って以降、緊急時以外で二人きりになったことはない。
少し窮屈だが、それがこの世界のこの国の常識だし、ミシエラの名誉のためだ。
だが、アナベル嬢とは二人きりで会いたいし話したい。
あと、早く婚約しないと駄目だ。俺以外にも求婚者が現れるだろう。あんなに可愛くて一生懸命なんだから。
そう。一生懸命なのだ。これまでの遅れを取り戻すため、自発的に勉強をはじめているし、今の段階で出来ることを探して取り組んでいる。
頑張り屋で健気だ。守りたい。
「絶対に、アナベル嬢と婚約する。どんな手を使ってもだ」
「怖。急に何ですか?エリック、恋に浮かれるのはいいですが、聖騎士として恥じない程度にしなさいね。暴走したら止めますからね」
まずミシエラに事情を話して協力を願った。ミシエラは金の瞳を細め、めちゃくちゃ性格悪そうな笑顔になった。聖女としてどうなんだその顔は。
「お爺ちゃ……エリックにしては思い切りましたねえ。というか私が言った通りじゃないですか。やっぱり意識してたんですね。
それにしても……んっふふ!あのお爺ちゃんっぽいエリックが恋!恋って!で、でもわかります。アナベルさんってとっても可愛らしいですものね。んふふふふふ!」
畜生。面白がりやがって。確かに色恋沙汰が似合う性格だとは思わないが、ここまで言われる筋合いはない。
「爺って言うなクソガキ。いいから協力しろ。お前の愛しい第二王子殿下にお前の恥ずかしい話を暴露するぞ。木登りで降りれなくなって泣き喚いた話とか、神官様のお嫁さんになるって騒いで暴れた話とか、料理をしようとして大失敗した話とか」
「ごめんなさい止めて!」
付き合いが長いとこういうことが出来るのが強みだ。伊達にミシエラの教師役……もとい兄貴分やってないからな。
「本当にごめんなさい。からかい過ぎました。
……貴方が、初めて自分自身のためだけに行動しているのが嬉しくて、つい」
急に真面目になったミシエラに面食らう。
「は?そうか?俺は、俺のやりたいように生きてきたぞ?」
ミシエラは苦笑した。俺を揶揄う時の意地悪な笑顔とも、聖女モードの華やかな笑顔とも違う。薄雲をまとう月のような優しくも寂しそうな笑顔だ。
あの小さかったミシエラも、ずいぶん大人びた表情をするようになったんだな。
「ええ。きっと貴方自身のためでもあったのでしょう。ですが貴方は常に『自分以外の誰かにとっても良い結果になるよう』考えて行動してました。
村で働きだしたのはアンおば様のため、教会を気にかけていたのは神官様と私たち孤児のため、聖騎士になったのは私が寂しくないようにするのと、村のみんなが豊かになるためだった。
……ねえ、エリック。私たちは貴方に感謝しているけど、いつも心配だったよ。貴方はいつか、自分を犠牲にして擦り減ってしまいそうで……」
最後は聖女ミシエラではなく、俺の妹分であるただのミシエラとして語っている。その語りかけが俺の心を震わせた。
「ミシエラ……そんな風に思ってたのか」
「うん。エリックお兄ちゃんは無理ばっかりするから。
……でも、もう大丈夫そうですね。これまでのお礼も兼ねて、アナベルさんとの仲を全力で応援します。この聖女ミシエラにお任せ下さい」
晴れやかな笑顔に胸が熱くなる。俺の生徒……いや、妹分は頼もしく育った。
「それに、お二人の婚約は私にとっても都合が良いですし」
「というと?」
ミシエラの顔が曇る。
「実は、私と貴方が恋仲だという噂があるのです」
「は?」
寝耳に水とはこのことだ。そんな事実無根の噂があるなんて、俺は全く知らなかった。
「俺とミシエラが恋仲?本気で言ってるのか?」
「ですよねえ。私も耳を疑いましたよ。まあ、色々と思惑があるようですが。
私たちと面識がない貴族……特に、私と第二王子殿下の婚約を反対していた者たちが広めているらしいのです」
「なるほどな。娘を第二王子妃に推していた、あるいは息子にミシエラを娶らせようとしていた貴族たちが、まだ諦めてないって訳だな」
ミシエラと第二王子殿下の縁談が持ち上がり、婚約が決まるまでの間。かなりの大騒ぎで大変だったのを思い出す。
噂によって婚約解消まで追い詰められれば良し、そこまで出来なくても嫌がらせになる。そんな意図があるそうだ。
社交界に噂話は絶えないもの。いちいち気にしていたらやっていけない。だが、この噂は広まるのが早く、本気で信じている者もいるらしい。
「確かに聖女聖人が聖騎士や神官とくっつくのは珍しくないが、なんで俺が相手なんだ?
「私とエリックは初代聖女様と聖騎士様の生まれ変わりで、何度でも結ばれる運命だそうですよ」
初代聖女と聖騎士といえば、この国の初代女王と王配でもある。建国史によれば、今よりはるかに魔獣だらけだったこの地にやってきて、魔獣を倒して土地を清めて建国したのだとか。
この二人の見た目がミシエラと俺と同じ、銀髪金眼の可憐な美少女と黒髪黒目の偉丈夫だったという。
「そんな理由で馬鹿貴族どもの噂を信じてるのか?すごい妄想だな。たかが髪だの目の色だので生まれ変わりだっていうなら、いったい何人生まれ変わりがいるのやらだ」
俺の黒髪黒目はありふれた色だ。聖騎士にも何人かいる。ミシエラの銀髪金眼は珍しいが、高位貴族に範囲を絞れば何人もいる。聖女聖人見習いの中にも一人か二人いたはずだ。
「ですよね。あまりにも現実からかけ離れています。たとえ生まれ変わりがあるとしても、あくまで現世と前世は別人でしょう。生まれ変わりだからと言って、同じように恋するだなんて無理があります。
そもそも私とエリックは家族のようなものですし、なによりお互いにときめきません」
「だよなあ。考えたこともない」
「私もです。ですが、噂を信じる人は増えています。すでに噂の火消しに取り掛かってはいますが、今後は私たちの接触も減らした方がいいですね。
今だって二人きりではありませんが、ご自分の都合の良い物しか見えない、聞こえない方が、とても多いようですし」
その通り。ここはミシエラにあてがわれた客室だが、部屋の隅にはミシエラの身の回りの世話をする神官たちがいる。
『二人で話したい』と言ったので口を挟まないが、俺たちの会話が聞こえる距離にいる。これはミシエラの身を守るためと、醜聞を避けるのだ。
俺たちは男女であり、それぞれ身分がある。教会に入って以降、緊急時以外で二人きりになったことはない。
少し窮屈だが、それがこの世界のこの国の常識だし、ミシエラの名誉のためだ。
だが、アナベル嬢とは二人きりで会いたいし話したい。
あと、早く婚約しないと駄目だ。俺以外にも求婚者が現れるだろう。あんなに可愛くて一生懸命なんだから。
そう。一生懸命なのだ。これまでの遅れを取り戻すため、自発的に勉強をはじめているし、今の段階で出来ることを探して取り組んでいる。
頑張り屋で健気だ。守りたい。
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