比嘉可南子の帰還 女刑事は笑わない

繁村錦

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CHAPTER3

INTERLUDE 3

 アメリカ合衆国 グアム島沖合

 八月下旬――。
 望月絵里奈は、沖合に出た途端クルーザーの縁に腰掛けた。
 目の前には紺碧の海が広がっている。
 絵里奈が沢村尚美を見やって、

「どうすんの潜るの?」

 怪訝そうに眉根を寄せ尋ねる。
 尚美は川尻から手渡されたタンクを受け取り、

「本当に大丈夫かな」

 小首を傾げる。
 スキューバダイビング初心者の彼女は、少し不安な気持ちが先立ち、グアムの海に潜ることに躊躇いがちだった。

「大丈夫、私も一緒に潜るからさ」

 尚美の背後から涼子が声を掛ける。

「ホント?」

 首だけで振り返り、尚美は涼子に尋ねた。

「ホントだってば」

 うんうんと相槌を何度も打つ涼子の顔をまじまじと見詰め、少しだけ気が晴れた感じがして、尚美はこくりと頷いた。

「私だって最初は怖かったけど、涼子や秀幸たちに誘われ、もう今じゃ病みつきになっちゃった。海の中はサイコーよっ」

 満面の笑みを浮かべ絵里奈がいった。

「そう……」

 大学時代の友人に誘われ、尚美は四泊五日でグアムに来ていた。スキューバダイビング初心者ということもあって最初は躊躇していたが、いざ、海の中に潜ってしまえば案外楽しいものだと思い始めている自分に気づいた。
 尚美を含む同じT大卒の同級生六人は、目の前に広がるサンゴ礁に感動していた。
 明後日には日本に帰国する。尚美は、絵里奈と同じT女子医大に勤務している。ただ、絵里奈の方は臨床医だ。しかも心療内科、所謂精神科医だった。

 五年前、国家試験に合格し、医師免許を取得した折、絵里奈は如何にも怪訝そうに尚美に問い掛けて来た。

「何でまた法医学なんて目指す訳。あんな風水かオカルト的なものを」

「そういうあなただって、血が怖いから外科医や内科医は不向きだから精神科医を目指すっていってたくせしてさ」

「五月蠅いわね、放っておいてよ…。それで、あんたは何で法医学者になりたい訳。そこんところが気になるのね、私としては」

 絵里奈は尚美の澄んだ瞳を凝視して真顔で尋ねた。

「昔から興味があったの、死体とか」

「ふぅん、そう。変わってる」

「そう、私はみんなと違って少し変わってるのよ」

「でも取り敢えず、三年間の研修期間中はどっかの病院で勤務しなくっちゃね」

「そうね……、このままT大に残ろうかしら、研究生として」

「大学院に?」

 絵里奈は低い声で尋ねた。

「まあね……。絵里奈はどうすんの?」

 尚美の問い掛けに、絵里奈は薄い笑みを浮かべ、

「地元の市立病院でお世話になります」

「地元って?」

「あれ、いってなかったけ」

「うん、聞いてない」

 尚美はかぶりを振った。

「北海道、苫小牧市」

「へぇぇっ、絵里奈って道産子だったんだ」

 尚美は絵里奈の出身地を初めて知って、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
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