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CHAPTER2
INTERLUDE2
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新たに物色した獲物を、私は例の如く自宅にお持ち帰りした。
どうやって私の可愛い蝶たちを拉致するかって知りたいのかい?
簡単なことだよ。
ナンパするのさ。
「ねえ、お姉さん、お茶しない」
って声を掛けりゃ、大概の女は、自慢のメルセデス・ベンツの右側に乗ってくる。何の疑いもなしにね。
医者である私のような超エリートは、他人から羨望の眼差しを受けて当然の人種なのだから。
だから女なんて簡単に引っ掛けることができるって訳だ。
まあしかし、こう言っては何だが、今日八王子の自宅にお持ち帰りした女は、殊更頭のできの悪い娘だった。
「ウチ、あんたのカノジョになって上げてもいいよ」
などとタメ口を吐きやがって、当然、母がこの娘を気にいる筈がない。
「何なの、今度の娘は? あの娘は頂けないわ。ああいう娘、お母さん好きじゃない」
母は、きっぱりと否定した。
「わかったよ母さん。二、三日、地下室で飼ったあと、ちゃんと始末するから、許してください」
謝ったあと、私は母の顔も見ずすぐに席を立った。
「ちょっとどこいくの? 話まだ終わってないでしょ」
母は、いつものように捲くし立ててくる。
だけど私は振り返ることなく、ドアを開け、リビングから出ていった。
二階へあがり、連れ込んだ女を待たせている南側の十二畳の洋間に入った。
「ねえ、あんた、凄い家に住んでるんだね。お金持ちなんだ」
女は、羨ましそうに私を見る。
「親が建てた家さ……」
「親って、あんた、一人で住んでじゃないの」
「母と一緒……」
「何だ、お母さんいるのか? 少し残念。ウチさ、あんたのお母さんと上手くやっていけるかな」
図々しいというか、この女はもう既に私の彼女気取りで、この先同棲する気でいるらしい。
「ねえ、お母さん、紹介してよ。挨拶しなくっちゃ」
「う、うん……あとで紹介してやるよ。それよりさ、こっちこいよ」
と女を誘った。
女も満更ではない様子だ。口許を緩ませ、厭らしい笑みを零した。
「スケベっ、お金持ちってみんなどうしてエッチなんだろうね。ウチが以前フーゾクで働いていた時も、お金持ちの客多かったし」
何だ、糞っ、この女、風俗嬢だったのか……。
急に抱く気が失せた。
でも女は、そんなことはお構いなしに身体を擦り寄せくる。九十センチほどのバストが、私の左腕に当たった。女は甘ったるい息を吹き掛けてくる。右手を伸ばしデニムのジッパーを降ろすと、私の股間を撫で始めた。意思とは反対に、下半身が敏感に反応した。まったく身体って奴はどうしてこう正直なんだろう。
だがしかし、私は性欲を抑え、この女をどうやって拘束するか考えた。以前、拉致した女のように、彼女が着ているワンピースを脱がし、更にブラジャーを外す振りをして、それを使い行き成り両腕を縛り、自由を奪ってやることにした。
ちぇっ、ニップルピアスに、髑髏とドラゴンのタトゥー……。
「あんた、そう言う趣味あるんだ?」
女は、私がS気があると思ったらしい。
ただ、今回拉致した女は、前回の女とは少し勝手が違い、かなりのドMだった。
「ねえ、縛るんだったら、もっと、強く縛って……」
嬉しそうに潤んだ瞳で懇願してきた。
ちょっと引いた。
「……いいだろう。お望み通りきつめに縛ってやる」
私は予めベッドの下に隠して置いたレザーロープを取り出し、この女の身体を縛りあげた。
「地下室に調教部屋がある。続きはそこでやろう」
私は、女の首筋を指先で撫でた。
女は身震いする。
「うん……」
ドM女は、当然の如く嬉しそうに頷いた。
後悔しても遅いよ……。
と、口許にせせら笑いを浮かべ、私は冷酷な眸で女を見詰めた。
「さあ、下で楽しもうぜ……」
「なんだか、ワクワクする。どんなプレイすんのか、楽しみ」
と何も知らない女は、愛想よく茶目っ気たっぷりな笑顔で返した。
私は女を抱きあげ、一階におりた。小柄に見えても意外と重い。体重は五十キロ前後ってところか。肉付きもよく、豊満な身体をしていやがる。腕がジンジンと痺れてくる。
一階におりてみると、リビングに母の姿はなかった。もう寝たらしい。
女を抱きあげたままリビング脇の廊下を通り、地下室へおりる階段へと向かう。
階段の前の六畳ほどのフロアで、一旦女を床におろした。抱き抱えたまま照明のスイッチを入れるのが、ちょっと辛かったからだ。
少し抑え気味の暖色系の柔らかい光が、階段に私と女の影を落とす。
女を自分の足で歩かせることにした。
前に飼育していた看護師は、細身でそれほど重くはなかったので、抱き抱えたまま階段を降りることができたが、今日の女は流石にきつい。このままの状態で地下室までいこうものなら、多分、最後まで腕がもたないだろう。後々困ることになる。何故かって? 地下室でこの女を押さえつける時、それこそ抵抗でもされたら大変だ。だって、弱った腕じゃ反撃できなくなる。
ドアの前で一旦立ち止まり、ジーンズの左ポケットに手を突っ込んだ。キーを取り出し、鍵穴に挿入した。
普段からこの部屋は施錠し、鍵を肌身離さず常に持ち歩くように心掛けていた。もし、私の留守中に、第三者にこの部屋を覗かれでもしたら、それこそ一大事。一巻の終わりだ。
「な、何っ!? この臭い……?」
地下室に入るなり、女は部屋中に漂う鼻を指す異臭に気づいた。
以前、この部屋で飼っていた女どもが垂れ流した汚物の臭いだ。彼女たちの怨念が篭った死臭だ。
スイッチを入れ照明を点ける。
間髪入れず、私は左隣に立つ女を襲った。鳩尾を思いっ切り殴ると女は悶絶し、その場に屈み込むように崩れ落ちた。
「ぐぐぅぐぅうぅぅ…………」
前屈みで踠き苦しむ女の腕を取り、電気コードなどを束ねる結束バンドで、抵抗できないよう即座に固定する。できる限り迅速に行わなければ、女に反撃する機会を与え兼ねない。
さっき二階の私の部屋で行っていたSMプレイと違い、ここから先は本格的な調教が始まる。
「……ちょっとあんた、どう言うこと」
突然、豹変した私に、女は戸惑い、窮屈な体勢のまま顔だけを捻じってこちらを見た。
「何だ、その目はッ!?」
私は、素行の悪い連中がよくやる中指を立てたポーズで、女を挑発してやった。
「あんた、何者なの?」
頭のできが悪い上に、勘も鈍いというか、この女は、私の正体が、今世間を騒がしている連続婦女拉致監禁及び殺害犯である、という事実にまだ気づいていない。更に自分が獲物であるということにも。
中腰になり、女の顎をグイッとあげた。
「こら、口を開けろ!」
穴あきボールギャグを女の口に装着した。
女は、涙目になって私の顔を睨んだ。
口をもごもご動かして頻りに何か訴えているが、ボールギャグを填めているため、よく聞き取れない。
「これから、ここでお前を飼う」
女の耳元で囁いた。
当然、この女も、今まで飼育した奴らと同じように、泣き喚き、首を横に振った。勿論、床には、女が垂れ流す鼻水と涙と涎が付着している。
「うひぇー、汚ねー」
汚物を一瞥すると、私は一度この地下室を離れることにした。夕食を摂るためだ。
女が私の顔色を窺った。ジタバタと足を動かすその姿が堪らなく意地らしい。
照明を消し、ドアに鍵を掛けた。
階段を上がる私の耳に、女が必死になって足搔いている音が届いた。
これで当分の間、楽しめるぞ……。
元風俗嬢を八王子の自宅の地下室で飼い始め、三日経った。やはり三日もすると、流石に飽きてきた。以前、ここで飼っていたあの看護師のように泣き喚くだけのただの女となってしまった。必死に命乞いする泣き声が、凄く耳障りで鬱陶しい。
結局、殺すことに決めた。
さて、どうやって殺すかだ。
指先の自由を奪い、レザーロープで首を縛ってやろうか?
いや、それでは芸がない。前回とまったく一緒の方法では詰まらないじゃないか。
迷っていると、また母がアドバイスしてくれた。
「ペンチで、上唇ごと前歯全部、圧し折って上げたらどう」
母の話を聞き、思わず身震いした。想像しただけでも、実に痛々しい。
「で、そのあとはどうするの」
物欲しげに母の顔色を窺う。
「ビニール袋の中にスマートフォンと何か錘になるような物を入れ、それを、レモンソーダを注いだ10Lサイズのバケツに沈めるの」
「はあ……? レモンソーダを注いだ10Lサイズのバケツに沈めるって……?」
母の意図が理解できず、私は鸚鵡返しに訊ねた。
「下品なあの女に、『助かりたければソーダを全部飲み干して、ビニール袋の中のスマートフォンを取り出し、助けを呼ぶしかないわ』って教えてあげるのよ」
「でも母さん、あの女がバケツをひっくり返し、ソーダを零してスマホ取り出したらどうすんのさぁ」
少し馬鹿にしたように、母のことを嘲笑うと、
「私に意見したいのなら、話を全部聞き終わってからにしなさいっ!」
とこっ酷く叱られた。
少し不機嫌に鼻を鳴らしたあと、母は話を続けた。
「まず、あの女を腹這いにして針金で身体を縛る。そして、軟銅線を剥き出しにした電気コードを女の身体に触れないようにしてタイル張りの床の上に置き、プラグをコンセントに差し込む」
ここまでうんうんと頷きながら、母の説明を黙って聞いていた私は、我慢ができず、つい口を挟んでしまった。
「母さん、あの? そんなことしちゃ感電しちゃうよ」
「ねえ、馬鹿なの、あんた? 車のバッテリーのように、プラスとマイナスのコードを同時に触れない限り感電することはないでしょ。それにこれは、感電させるのが目的なんだから」
「感電させるって……」
訴えるような視線を母に注ぐ。
すると母は、呆れたように溜め息を吐いた。
「これであの女がバケツをひっくり返し、スマホを取り出すことはできなくなるわね。もしソーダが零れて、銅線が剥き出しのコードに掛かれば、忽ち感電しちゃうわ。あとは、地下室のシンクの蛇口にホースを繫ぎ、捻って水を出すだけ。でも思いっ切り捻っちゃ駄目。ちょっとだけよ。そうね、ホースの先からチョロチョロと水が出るくらいがいいわ。じっくりと死の恐怖を味わわせてあげなくっちゃね。感電して、ブレーカーが落ちた時がゲーム終了の合図」
これで母の話は全部終わった。
そこで私は、思い切って母に質問をぶつけてみた。
「でも母さん、腹這いにして針金で身体を縛るだけじゃ、毛虫のように動けるじゃない。あの女が身体をくねらせながら這って入り口までいったらどうすんの」
「じゃあ母さんが、今から針金使ってあんたの身体縛ってあげるから、試してみる」
「……いいよ、遠慮しとく……」
これ以上母に反論することができず、私は口籠ってしまった。
母の考えたゲームが、前回よりも更にエスカレートしていたため、私は怖気を感じた。両腕が粟立つ。
「納得したら、ぼうっとしていないで、さっさとゲームに必要な道具を揃えなさい」
せっかちな性格の母に急かされるようにして、私は元風俗嬢を殺害するために必要な道具を集めた。
「10Lもレモンソーダないよ」
「食塩水でもいいわ」
母は、いつものようにメンソールの煙草を吹かしながら、私の顔も見ず告げた。
「食塩水か……」
「傷口に沁みる物だったら、何でもいいのよ」
紫の煙を気だるく吐き出すと、母はTVのリモコンを手に取り、チャンネルを変えた。
液晶画面に、母の嫌いな女性タレントが映っていたからだ。
体育会系の男性タレントが出ている栄養ドリンクのCMのあと、画面はニュース番組に変わった。中東情勢のニュースの途中で、母がTVを消したため、私は思わず、
「あっ!?」
と口を吐いてしまった。
「何よ、あんた、ニュースの続き見たかったの。あんたみたいな極悪人でも、国際情勢気になるんだ」
私を揶揄ったあと、母は指の間に挟んでいる吸い掛けの煙草を灰皿で揉み消すと、徐に立ちあがった。
「さあ、いくわよ」
母は地下室を指差す。
「うん」
頷くと私は、また母と一緒に饐えた臭いが漂う地下室へおりた。
勿論、女にトラップを仕掛けに行くためだ。
前回の女同様、元風俗嬢も殺されまいと必死だった。
穴あきボールギャグを女の口から外すと、早速、
「変態っ!」
と言って私のことを罵った。
「まあ、威勢のいいお嬢さんだこと」
母が女を嘲笑った。
「近寄らないでよっ!」
女は、私と母に向かって罵声を吐く。
「五月蠅いよ、少し静かにしろよ。また、近所のおばさんが怒鳴り込んでくるじゃないか」
二、三発、女の頬に平手打ちをする。
「ヤダッ、痛いっ!」
「早く、押さえつけなさい!」
「わかったよ母さん」
「……あんた? 頭おかしいんじゃない」
女は私を罵りながら、手足を動かし抵抗する。
「いい加減、観念したら?」
と言いつつ、私は針金の先端を手に取った。
「誰が、あんたなんかに……」
女は抵抗を止めない。ジタバタと足を動かす。爪先が私の脛に当たった。少し痛かった。
「この野郎っ!」
ついカッとなってしまい、女の腹に蹴りを喰らわせた。
女は苦悶の表情を浮かべ、その場に崩れ落ち嘔吐する。この三日間、女に食事を与えていなかったため、嘔吐した物は胃液だけだった。饐えた異臭が私の鼻を刺した。私も思わず吐きそうになり、口を押さえた。
「早くしなさいっ!」
せっかちな母に急かされ、腹這いになった女の上に馬乗りになると、柔道の寝技を掛けるように押さえ込む。力尽くで身体を押さえつけ、何重にも針金を巻きつけると、漸く観念したようで、女は抵抗するのを諦めた。
「おい、口を開けろ」
「嫌だ。止めてっ!」
頭のできが悪い女でも、私が右手に持つペンチを見て、これから何が行われるのか容易に想像がついたらしく、鼻水を垂らしながら泣き喚き出した。
女の髪の毛を掴み、顔を持ち上げる。
「口を開けろって言ってんのっ!」
私は威圧的な態度で、女を睨みつけた。
女は涙目で訴えるが、寧ろ加虐的な私には逆効果だ。更に欲情させる結果を生む。
薄ら笑いを浮かべつつ、私は左手に持つペンチをイヤイヤと首を振る女の口許に近づけた。右手で女の顎をあげると、無理やりペンチで女の口を抉じ開ける。
「まずは、前歯からだ……」
「悪魔っ! 変態っ!」
最後の悪足掻きのように、女は罵声を飛ばす。
ペンチの先が前歯に触れた。
唇ごと前歯をペンチで鋏み、力一杯握り締める。
ペンチのグリップを通じて、前歯が砕ける感触が伝わってくる。
「ギヤァァァァァァァァァァァァーーーーッ!」
絶叫とともに鮮血を吐き出す。
それがピンク色の泡となって零れた。前歯の抜けた間抜け面を晒し、女は白目を剥いた状態で気を失っている。
歯が一本圧し折られる度、女はその痛みで覚醒し、絶叫し、また気を失う。
私はその光景を楽しむかのようにゆっくりと時間を掛け、上唇ごと前歯を圧し折っていった。
約一時間後、左右の上顎中切歯、側切歯、犬歯の計六本の歯を、女の口から奪い取ってやった。
「気分はどう?」
私が訊ねると、女は絶望的な眼差しを返した。
鮮血が溢れ出す唇を動かしながら、必死になって何かを訴えている。だが、前歯がないため、何を言っているのかまったく伝わらない。
「お遊びは、これで終わりだ。ここからは本気だぞ。これが何かわかるか? そう、お前のスマホだ。今からこのスマホと錘代わりの石をビニールの中に入れ、たっぷりと食塩水が入ったバケツの中へ沈める。助かりたかったら、食塩水すべて飲み干し、スマホを取り出すんだ」
私は真顔で伝えると、早速作業に取り掛かった。
女を腹這いにし、食塩水を注いだバケツを目の前に置き、スマホを沈めた。次に、軟銅線を剥き出しにした電気コードを床に置き、コンセントにプラグを差し込んだ。
「バケツをひっくり返し、スマホを取り出そうとしても無駄だよ。食塩水がコードに触れた瞬間、感電して、お前は終わりだ」
「○□△×$&%#……」
もごもごと口を動かし、女が何かを訴えている。
恐らく私を呪う言葉でも言っているのだろう。
私は女の戯言に耳を傾けることなく、洗面台に向かい、蛇口にホースを取りつけた。
「蛇口を捻って水を出すから」
ホースの先をくるくると回し、女にアピールする。
「○□△×$&%#ッ! &$#%○□△ッ!」
泣き喚く女を完全に無視し、最後の仕上げに蛇口を捻った。
これでトラップは完成だ。
あとは、一階のリビングに戻り、ブレーカーが落ちるのを待つだけだ。
十分持たずに、ブレーカーが落ちた。
女が死んだかどうか確かめるため、もう一度地下室におりた。
勿論、ブレーカーは落としたままだ。リセットして地下室に入ろうものならば、私も感電してしまう恐れがある。そのため、照明を点けることができず、懐中電灯を手に地下室のドアを開けた。
ライトで足元を照らし、恐る恐る室内に入る。
中ほどまで歩いていき、腹這いに横たわる女にライトを当てる。
光が当たった部分が、まるで夜光虫のように輝いていた。
バケツが横倒しなり、中の食塩水が零れ、床に広がっている。
「おい」
声を掛けてみるが、返事はない。
「……死んでいるのかな?」
半信半疑のまま横たわる女に近寄る。
私は、爪先で女の身体を軽く蹴ってみた。
まったく反応がない。
次に私は腰を落とし、女の顔にライトを当てた。口から血の混じったピンク色の泡を吹き、白目を剥いている。
脈を調べるため、女の首筋に手を当てた。
脈拍もない。呼吸音も聞こえない。
完全に心肺停止状態だ。
女の死を確認すると、コンセントからプラグを抜き、蛇口を閉じ、一旦一階に戻った。
「あの女、死んでいたよ、母さん……」
「そう」
母は素っ気なく返した。
顔はTV画面に向いたままだ。
私は、母の背を見詰めたまま、リビングの壁天井近くに備えつけられているブレーカーに向かって歩いていった。爪先を立て背伸びして、落ちている地下室のブレーカーを入れる。
「あの娘、どこに捨てる気なの?」
不意に母が訊ねてきた。
「どこにって……」
「都心方面は駄目よ。県境を越え、山梨県側の山中にでも捨てなさい」
母は私に適正なアドバイスを与えてくれた。
再び地下室へ下り、元風俗嬢を寝袋の中に入れた。七月だけあって痛み易い。私は少しでも腐敗が遅れるように、この地下室のクーラーの温度設定を十七℃にセットした。
残るは、地下室の掃除と、トラップを仕掛けるために用意した道具を片付けるだけだ。
ロッカーを開け、モップを取り出し、食塩水で濡れた床を拭く。バケツとホースは、庭の物置小屋にしまった。
「このコード、どうしようかな……?」
このような何気ないものから、意外と足が付く。
掃除用のビニール手袋を嵌め、コードに付着した自分の指紋を丁寧に拭き取った。
「明日、出勤途中に、多摩川にでも捨てるか?」
私はひとり納得したように呟き、母が待つリビングへ戻った。
どうやって私の可愛い蝶たちを拉致するかって知りたいのかい?
簡単なことだよ。
ナンパするのさ。
「ねえ、お姉さん、お茶しない」
って声を掛けりゃ、大概の女は、自慢のメルセデス・ベンツの右側に乗ってくる。何の疑いもなしにね。
医者である私のような超エリートは、他人から羨望の眼差しを受けて当然の人種なのだから。
だから女なんて簡単に引っ掛けることができるって訳だ。
まあしかし、こう言っては何だが、今日八王子の自宅にお持ち帰りした女は、殊更頭のできの悪い娘だった。
「ウチ、あんたのカノジョになって上げてもいいよ」
などとタメ口を吐きやがって、当然、母がこの娘を気にいる筈がない。
「何なの、今度の娘は? あの娘は頂けないわ。ああいう娘、お母さん好きじゃない」
母は、きっぱりと否定した。
「わかったよ母さん。二、三日、地下室で飼ったあと、ちゃんと始末するから、許してください」
謝ったあと、私は母の顔も見ずすぐに席を立った。
「ちょっとどこいくの? 話まだ終わってないでしょ」
母は、いつものように捲くし立ててくる。
だけど私は振り返ることなく、ドアを開け、リビングから出ていった。
二階へあがり、連れ込んだ女を待たせている南側の十二畳の洋間に入った。
「ねえ、あんた、凄い家に住んでるんだね。お金持ちなんだ」
女は、羨ましそうに私を見る。
「親が建てた家さ……」
「親って、あんた、一人で住んでじゃないの」
「母と一緒……」
「何だ、お母さんいるのか? 少し残念。ウチさ、あんたのお母さんと上手くやっていけるかな」
図々しいというか、この女はもう既に私の彼女気取りで、この先同棲する気でいるらしい。
「ねえ、お母さん、紹介してよ。挨拶しなくっちゃ」
「う、うん……あとで紹介してやるよ。それよりさ、こっちこいよ」
と女を誘った。
女も満更ではない様子だ。口許を緩ませ、厭らしい笑みを零した。
「スケベっ、お金持ちってみんなどうしてエッチなんだろうね。ウチが以前フーゾクで働いていた時も、お金持ちの客多かったし」
何だ、糞っ、この女、風俗嬢だったのか……。
急に抱く気が失せた。
でも女は、そんなことはお構いなしに身体を擦り寄せくる。九十センチほどのバストが、私の左腕に当たった。女は甘ったるい息を吹き掛けてくる。右手を伸ばしデニムのジッパーを降ろすと、私の股間を撫で始めた。意思とは反対に、下半身が敏感に反応した。まったく身体って奴はどうしてこう正直なんだろう。
だがしかし、私は性欲を抑え、この女をどうやって拘束するか考えた。以前、拉致した女のように、彼女が着ているワンピースを脱がし、更にブラジャーを外す振りをして、それを使い行き成り両腕を縛り、自由を奪ってやることにした。
ちぇっ、ニップルピアスに、髑髏とドラゴンのタトゥー……。
「あんた、そう言う趣味あるんだ?」
女は、私がS気があると思ったらしい。
ただ、今回拉致した女は、前回の女とは少し勝手が違い、かなりのドMだった。
「ねえ、縛るんだったら、もっと、強く縛って……」
嬉しそうに潤んだ瞳で懇願してきた。
ちょっと引いた。
「……いいだろう。お望み通りきつめに縛ってやる」
私は予めベッドの下に隠して置いたレザーロープを取り出し、この女の身体を縛りあげた。
「地下室に調教部屋がある。続きはそこでやろう」
私は、女の首筋を指先で撫でた。
女は身震いする。
「うん……」
ドM女は、当然の如く嬉しそうに頷いた。
後悔しても遅いよ……。
と、口許にせせら笑いを浮かべ、私は冷酷な眸で女を見詰めた。
「さあ、下で楽しもうぜ……」
「なんだか、ワクワクする。どんなプレイすんのか、楽しみ」
と何も知らない女は、愛想よく茶目っ気たっぷりな笑顔で返した。
私は女を抱きあげ、一階におりた。小柄に見えても意外と重い。体重は五十キロ前後ってところか。肉付きもよく、豊満な身体をしていやがる。腕がジンジンと痺れてくる。
一階におりてみると、リビングに母の姿はなかった。もう寝たらしい。
女を抱きあげたままリビング脇の廊下を通り、地下室へおりる階段へと向かう。
階段の前の六畳ほどのフロアで、一旦女を床におろした。抱き抱えたまま照明のスイッチを入れるのが、ちょっと辛かったからだ。
少し抑え気味の暖色系の柔らかい光が、階段に私と女の影を落とす。
女を自分の足で歩かせることにした。
前に飼育していた看護師は、細身でそれほど重くはなかったので、抱き抱えたまま階段を降りることができたが、今日の女は流石にきつい。このままの状態で地下室までいこうものなら、多分、最後まで腕がもたないだろう。後々困ることになる。何故かって? 地下室でこの女を押さえつける時、それこそ抵抗でもされたら大変だ。だって、弱った腕じゃ反撃できなくなる。
ドアの前で一旦立ち止まり、ジーンズの左ポケットに手を突っ込んだ。キーを取り出し、鍵穴に挿入した。
普段からこの部屋は施錠し、鍵を肌身離さず常に持ち歩くように心掛けていた。もし、私の留守中に、第三者にこの部屋を覗かれでもしたら、それこそ一大事。一巻の終わりだ。
「な、何っ!? この臭い……?」
地下室に入るなり、女は部屋中に漂う鼻を指す異臭に気づいた。
以前、この部屋で飼っていた女どもが垂れ流した汚物の臭いだ。彼女たちの怨念が篭った死臭だ。
スイッチを入れ照明を点ける。
間髪入れず、私は左隣に立つ女を襲った。鳩尾を思いっ切り殴ると女は悶絶し、その場に屈み込むように崩れ落ちた。
「ぐぐぅぐぅうぅぅ…………」
前屈みで踠き苦しむ女の腕を取り、電気コードなどを束ねる結束バンドで、抵抗できないよう即座に固定する。できる限り迅速に行わなければ、女に反撃する機会を与え兼ねない。
さっき二階の私の部屋で行っていたSMプレイと違い、ここから先は本格的な調教が始まる。
「……ちょっとあんた、どう言うこと」
突然、豹変した私に、女は戸惑い、窮屈な体勢のまま顔だけを捻じってこちらを見た。
「何だ、その目はッ!?」
私は、素行の悪い連中がよくやる中指を立てたポーズで、女を挑発してやった。
「あんた、何者なの?」
頭のできが悪い上に、勘も鈍いというか、この女は、私の正体が、今世間を騒がしている連続婦女拉致監禁及び殺害犯である、という事実にまだ気づいていない。更に自分が獲物であるということにも。
中腰になり、女の顎をグイッとあげた。
「こら、口を開けろ!」
穴あきボールギャグを女の口に装着した。
女は、涙目になって私の顔を睨んだ。
口をもごもご動かして頻りに何か訴えているが、ボールギャグを填めているため、よく聞き取れない。
「これから、ここでお前を飼う」
女の耳元で囁いた。
当然、この女も、今まで飼育した奴らと同じように、泣き喚き、首を横に振った。勿論、床には、女が垂れ流す鼻水と涙と涎が付着している。
「うひぇー、汚ねー」
汚物を一瞥すると、私は一度この地下室を離れることにした。夕食を摂るためだ。
女が私の顔色を窺った。ジタバタと足を動かすその姿が堪らなく意地らしい。
照明を消し、ドアに鍵を掛けた。
階段を上がる私の耳に、女が必死になって足搔いている音が届いた。
これで当分の間、楽しめるぞ……。
元風俗嬢を八王子の自宅の地下室で飼い始め、三日経った。やはり三日もすると、流石に飽きてきた。以前、ここで飼っていたあの看護師のように泣き喚くだけのただの女となってしまった。必死に命乞いする泣き声が、凄く耳障りで鬱陶しい。
結局、殺すことに決めた。
さて、どうやって殺すかだ。
指先の自由を奪い、レザーロープで首を縛ってやろうか?
いや、それでは芸がない。前回とまったく一緒の方法では詰まらないじゃないか。
迷っていると、また母がアドバイスしてくれた。
「ペンチで、上唇ごと前歯全部、圧し折って上げたらどう」
母の話を聞き、思わず身震いした。想像しただけでも、実に痛々しい。
「で、そのあとはどうするの」
物欲しげに母の顔色を窺う。
「ビニール袋の中にスマートフォンと何か錘になるような物を入れ、それを、レモンソーダを注いだ10Lサイズのバケツに沈めるの」
「はあ……? レモンソーダを注いだ10Lサイズのバケツに沈めるって……?」
母の意図が理解できず、私は鸚鵡返しに訊ねた。
「下品なあの女に、『助かりたければソーダを全部飲み干して、ビニール袋の中のスマートフォンを取り出し、助けを呼ぶしかないわ』って教えてあげるのよ」
「でも母さん、あの女がバケツをひっくり返し、ソーダを零してスマホ取り出したらどうすんのさぁ」
少し馬鹿にしたように、母のことを嘲笑うと、
「私に意見したいのなら、話を全部聞き終わってからにしなさいっ!」
とこっ酷く叱られた。
少し不機嫌に鼻を鳴らしたあと、母は話を続けた。
「まず、あの女を腹這いにして針金で身体を縛る。そして、軟銅線を剥き出しにした電気コードを女の身体に触れないようにしてタイル張りの床の上に置き、プラグをコンセントに差し込む」
ここまでうんうんと頷きながら、母の説明を黙って聞いていた私は、我慢ができず、つい口を挟んでしまった。
「母さん、あの? そんなことしちゃ感電しちゃうよ」
「ねえ、馬鹿なの、あんた? 車のバッテリーのように、プラスとマイナスのコードを同時に触れない限り感電することはないでしょ。それにこれは、感電させるのが目的なんだから」
「感電させるって……」
訴えるような視線を母に注ぐ。
すると母は、呆れたように溜め息を吐いた。
「これであの女がバケツをひっくり返し、スマホを取り出すことはできなくなるわね。もしソーダが零れて、銅線が剥き出しのコードに掛かれば、忽ち感電しちゃうわ。あとは、地下室のシンクの蛇口にホースを繫ぎ、捻って水を出すだけ。でも思いっ切り捻っちゃ駄目。ちょっとだけよ。そうね、ホースの先からチョロチョロと水が出るくらいがいいわ。じっくりと死の恐怖を味わわせてあげなくっちゃね。感電して、ブレーカーが落ちた時がゲーム終了の合図」
これで母の話は全部終わった。
そこで私は、思い切って母に質問をぶつけてみた。
「でも母さん、腹這いにして針金で身体を縛るだけじゃ、毛虫のように動けるじゃない。あの女が身体をくねらせながら這って入り口までいったらどうすんの」
「じゃあ母さんが、今から針金使ってあんたの身体縛ってあげるから、試してみる」
「……いいよ、遠慮しとく……」
これ以上母に反論することができず、私は口籠ってしまった。
母の考えたゲームが、前回よりも更にエスカレートしていたため、私は怖気を感じた。両腕が粟立つ。
「納得したら、ぼうっとしていないで、さっさとゲームに必要な道具を揃えなさい」
せっかちな性格の母に急かされるようにして、私は元風俗嬢を殺害するために必要な道具を集めた。
「10Lもレモンソーダないよ」
「食塩水でもいいわ」
母は、いつものようにメンソールの煙草を吹かしながら、私の顔も見ず告げた。
「食塩水か……」
「傷口に沁みる物だったら、何でもいいのよ」
紫の煙を気だるく吐き出すと、母はTVのリモコンを手に取り、チャンネルを変えた。
液晶画面に、母の嫌いな女性タレントが映っていたからだ。
体育会系の男性タレントが出ている栄養ドリンクのCMのあと、画面はニュース番組に変わった。中東情勢のニュースの途中で、母がTVを消したため、私は思わず、
「あっ!?」
と口を吐いてしまった。
「何よ、あんた、ニュースの続き見たかったの。あんたみたいな極悪人でも、国際情勢気になるんだ」
私を揶揄ったあと、母は指の間に挟んでいる吸い掛けの煙草を灰皿で揉み消すと、徐に立ちあがった。
「さあ、いくわよ」
母は地下室を指差す。
「うん」
頷くと私は、また母と一緒に饐えた臭いが漂う地下室へおりた。
勿論、女にトラップを仕掛けに行くためだ。
前回の女同様、元風俗嬢も殺されまいと必死だった。
穴あきボールギャグを女の口から外すと、早速、
「変態っ!」
と言って私のことを罵った。
「まあ、威勢のいいお嬢さんだこと」
母が女を嘲笑った。
「近寄らないでよっ!」
女は、私と母に向かって罵声を吐く。
「五月蠅いよ、少し静かにしろよ。また、近所のおばさんが怒鳴り込んでくるじゃないか」
二、三発、女の頬に平手打ちをする。
「ヤダッ、痛いっ!」
「早く、押さえつけなさい!」
「わかったよ母さん」
「……あんた? 頭おかしいんじゃない」
女は私を罵りながら、手足を動かし抵抗する。
「いい加減、観念したら?」
と言いつつ、私は針金の先端を手に取った。
「誰が、あんたなんかに……」
女は抵抗を止めない。ジタバタと足を動かす。爪先が私の脛に当たった。少し痛かった。
「この野郎っ!」
ついカッとなってしまい、女の腹に蹴りを喰らわせた。
女は苦悶の表情を浮かべ、その場に崩れ落ち嘔吐する。この三日間、女に食事を与えていなかったため、嘔吐した物は胃液だけだった。饐えた異臭が私の鼻を刺した。私も思わず吐きそうになり、口を押さえた。
「早くしなさいっ!」
せっかちな母に急かされ、腹這いになった女の上に馬乗りになると、柔道の寝技を掛けるように押さえ込む。力尽くで身体を押さえつけ、何重にも針金を巻きつけると、漸く観念したようで、女は抵抗するのを諦めた。
「おい、口を開けろ」
「嫌だ。止めてっ!」
頭のできが悪い女でも、私が右手に持つペンチを見て、これから何が行われるのか容易に想像がついたらしく、鼻水を垂らしながら泣き喚き出した。
女の髪の毛を掴み、顔を持ち上げる。
「口を開けろって言ってんのっ!」
私は威圧的な態度で、女を睨みつけた。
女は涙目で訴えるが、寧ろ加虐的な私には逆効果だ。更に欲情させる結果を生む。
薄ら笑いを浮かべつつ、私は左手に持つペンチをイヤイヤと首を振る女の口許に近づけた。右手で女の顎をあげると、無理やりペンチで女の口を抉じ開ける。
「まずは、前歯からだ……」
「悪魔っ! 変態っ!」
最後の悪足掻きのように、女は罵声を飛ばす。
ペンチの先が前歯に触れた。
唇ごと前歯をペンチで鋏み、力一杯握り締める。
ペンチのグリップを通じて、前歯が砕ける感触が伝わってくる。
「ギヤァァァァァァァァァァァァーーーーッ!」
絶叫とともに鮮血を吐き出す。
それがピンク色の泡となって零れた。前歯の抜けた間抜け面を晒し、女は白目を剥いた状態で気を失っている。
歯が一本圧し折られる度、女はその痛みで覚醒し、絶叫し、また気を失う。
私はその光景を楽しむかのようにゆっくりと時間を掛け、上唇ごと前歯を圧し折っていった。
約一時間後、左右の上顎中切歯、側切歯、犬歯の計六本の歯を、女の口から奪い取ってやった。
「気分はどう?」
私が訊ねると、女は絶望的な眼差しを返した。
鮮血が溢れ出す唇を動かしながら、必死になって何かを訴えている。だが、前歯がないため、何を言っているのかまったく伝わらない。
「お遊びは、これで終わりだ。ここからは本気だぞ。これが何かわかるか? そう、お前のスマホだ。今からこのスマホと錘代わりの石をビニールの中に入れ、たっぷりと食塩水が入ったバケツの中へ沈める。助かりたかったら、食塩水すべて飲み干し、スマホを取り出すんだ」
私は真顔で伝えると、早速作業に取り掛かった。
女を腹這いにし、食塩水を注いだバケツを目の前に置き、スマホを沈めた。次に、軟銅線を剥き出しにした電気コードを床に置き、コンセントにプラグを差し込んだ。
「バケツをひっくり返し、スマホを取り出そうとしても無駄だよ。食塩水がコードに触れた瞬間、感電して、お前は終わりだ」
「○□△×$&%#……」
もごもごと口を動かし、女が何かを訴えている。
恐らく私を呪う言葉でも言っているのだろう。
私は女の戯言に耳を傾けることなく、洗面台に向かい、蛇口にホースを取りつけた。
「蛇口を捻って水を出すから」
ホースの先をくるくると回し、女にアピールする。
「○□△×$&%#ッ! &$#%○□△ッ!」
泣き喚く女を完全に無視し、最後の仕上げに蛇口を捻った。
これでトラップは完成だ。
あとは、一階のリビングに戻り、ブレーカーが落ちるのを待つだけだ。
十分持たずに、ブレーカーが落ちた。
女が死んだかどうか確かめるため、もう一度地下室におりた。
勿論、ブレーカーは落としたままだ。リセットして地下室に入ろうものならば、私も感電してしまう恐れがある。そのため、照明を点けることができず、懐中電灯を手に地下室のドアを開けた。
ライトで足元を照らし、恐る恐る室内に入る。
中ほどまで歩いていき、腹這いに横たわる女にライトを当てる。
光が当たった部分が、まるで夜光虫のように輝いていた。
バケツが横倒しなり、中の食塩水が零れ、床に広がっている。
「おい」
声を掛けてみるが、返事はない。
「……死んでいるのかな?」
半信半疑のまま横たわる女に近寄る。
私は、爪先で女の身体を軽く蹴ってみた。
まったく反応がない。
次に私は腰を落とし、女の顔にライトを当てた。口から血の混じったピンク色の泡を吹き、白目を剥いている。
脈を調べるため、女の首筋に手を当てた。
脈拍もない。呼吸音も聞こえない。
完全に心肺停止状態だ。
女の死を確認すると、コンセントからプラグを抜き、蛇口を閉じ、一旦一階に戻った。
「あの女、死んでいたよ、母さん……」
「そう」
母は素っ気なく返した。
顔はTV画面に向いたままだ。
私は、母の背を見詰めたまま、リビングの壁天井近くに備えつけられているブレーカーに向かって歩いていった。爪先を立て背伸びして、落ちている地下室のブレーカーを入れる。
「あの娘、どこに捨てる気なの?」
不意に母が訊ねてきた。
「どこにって……」
「都心方面は駄目よ。県境を越え、山梨県側の山中にでも捨てなさい」
母は私に適正なアドバイスを与えてくれた。
再び地下室へ下り、元風俗嬢を寝袋の中に入れた。七月だけあって痛み易い。私は少しでも腐敗が遅れるように、この地下室のクーラーの温度設定を十七℃にセットした。
残るは、地下室の掃除と、トラップを仕掛けるために用意した道具を片付けるだけだ。
ロッカーを開け、モップを取り出し、食塩水で濡れた床を拭く。バケツとホースは、庭の物置小屋にしまった。
「このコード、どうしようかな……?」
このような何気ないものから、意外と足が付く。
掃除用のビニール手袋を嵌め、コードに付着した自分の指紋を丁寧に拭き取った。
「明日、出勤途中に、多摩川にでも捨てるか?」
私はひとり納得したように呟き、母が待つリビングへ戻った。
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