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CHAPTER4
3
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連続殺人事件の捜査本部が設置された代々木中央署に到着したのは、その日の午後九時過ぎだった。
緊急配備の検問が実施された箇所で、捜査本部が着目したのは、東京都西多摩郡奥多摩町の国道四一一号線、八王子市南浅川町の国道二〇号線、神奈川県相模原市緑区の国道四一二号線、そして中央自動車道の各インターチェンジ。つまり首都圏へ向かう主要幹線道路だ。
更に都内数十箇所に設置されたオービスおよびNシステムによって、女性の死体が遺棄された当日十四日深夜から翌十五日未明に掛けて、問題の道路を通過した車両を割り出す。
ヒットした数は数百台だ。
緊急招集が掛けられ、出払っている捜査員が、帳場に戻ってきたのは午後十時過ぎだった。
「諸君、今夜は徹夜だ。覚悟してくれ」
保科管理官が檄を飛ばす。
「はいっ!」
本庁及び、周辺の所轄署から集められた捜査員計二百人ほどが一斉に立ちあがり敬礼する。
「田村君、キミはこの三十枚ね。東海林君はこれ。古澤君はこれ。藪さんはハイこれ」
と言って可南子は、各班に割り当てられた捜査資料を部下たちに配布した。
「了解っ!」
威勢よく答えたのは、東海林だけだった。
「二日続きの徹夜……」
露骨に顔を歪めた納得がいかないという表情で、所轄の田村は資料を手に取った。
「文句を言わずにさっさとチェックする」
注意を促す可南子の傍らで、年配者の森は、
「年寄りにはきついよ」
と愚痴を零した。
「まあそう言わず、頑張ってください森さん」
可南子が老人を励ますように声を掛けると、森は半ば諦めたように、
「仕方ない。老体に鞭打って頑張りますか……」
と頭を掻いた。
日付が変わった翌十七日、水曜日、午前一時十分。
殺気立っている捜査本部には不似合いな、最新の流行曲が鳴った。田村のスマートフォンの着うただ。
「いつも言っているでしょ、マナーモードにしておきなさいって」
可南子が小声で叱りつける。
田村は内ポケットからスマホを取り出し、着信者が誰か確かめる。
「あっ、優奈ちゃんからだ……」
「優奈ちゃんって、まさかあの山口さんのこと?」
可南子が訝しげに田村の顔を見た。
「はい」
田村に電話を掛けてきたのは、Y大の東谷朱美教授の助手山口優奈だった。
「呆れたわ。田村君あんた仕事はまだ半人前のくせに、女性を口説くのは早いのね」
「まあ……」
田村は、どうしたものかといった表情で、可南子の顔色を窺った。
「出なさいよ」
「済みません」
と形ばかり頭を下げると、田村は電話に出た。
と同時に席を離れ、一旦講堂から廊下へと出る。可南子はその背中を目で追う。
開き戸が閉まると、再び手許の資料に視線を移した。
数分後、血相を変え田村が戻ってきた。
「どうしたの、そんな浮かない顔して、もしかして彼女に振られた?」
いつも揶揄ってくる相棒を、逆に揶揄ってみる。
「いいえ……」
「何の? はっきり言いなさいよ」
「彼女の実家、狛江市東和泉一丁目○○なんですけど……」
「それがどうしたの?」
可南子は意味がわからず首を傾げる。
「彼女、この土日、実家で過ごそうと思い……」
「はあ、それで?」
「助けにいかなくっちゃ……」
田村の声が上擦っていた。その目は虚ろで焦点が合わず宙を泳いでいる。
「えっ!? キミ、大丈夫?」
可南子は、田村の異変に気づいた。
「確りしなさい!! 田村っ!!」
彼の頬を平手打ちする。
講堂に集う捜査員の視線が、可南子と田村の二人に注がれた。
「ちゃんと説明して、私にもわかるように」
「ゆ、優奈ちゃんが、危ない……」
「危ないって……」
可南子は田村の肩を揺さ振った。
「スタンガンを持った変質者に、拉致されそうになったって……」
「えっ変質者?」
可南子が頓狂な声をあげた。
その次の瞬間。
再び、田村のスマホが派手な着うたを奏でた。
緊急配備の検問が実施された箇所で、捜査本部が着目したのは、東京都西多摩郡奥多摩町の国道四一一号線、八王子市南浅川町の国道二〇号線、神奈川県相模原市緑区の国道四一二号線、そして中央自動車道の各インターチェンジ。つまり首都圏へ向かう主要幹線道路だ。
更に都内数十箇所に設置されたオービスおよびNシステムによって、女性の死体が遺棄された当日十四日深夜から翌十五日未明に掛けて、問題の道路を通過した車両を割り出す。
ヒットした数は数百台だ。
緊急招集が掛けられ、出払っている捜査員が、帳場に戻ってきたのは午後十時過ぎだった。
「諸君、今夜は徹夜だ。覚悟してくれ」
保科管理官が檄を飛ばす。
「はいっ!」
本庁及び、周辺の所轄署から集められた捜査員計二百人ほどが一斉に立ちあがり敬礼する。
「田村君、キミはこの三十枚ね。東海林君はこれ。古澤君はこれ。藪さんはハイこれ」
と言って可南子は、各班に割り当てられた捜査資料を部下たちに配布した。
「了解っ!」
威勢よく答えたのは、東海林だけだった。
「二日続きの徹夜……」
露骨に顔を歪めた納得がいかないという表情で、所轄の田村は資料を手に取った。
「文句を言わずにさっさとチェックする」
注意を促す可南子の傍らで、年配者の森は、
「年寄りにはきついよ」
と愚痴を零した。
「まあそう言わず、頑張ってください森さん」
可南子が老人を励ますように声を掛けると、森は半ば諦めたように、
「仕方ない。老体に鞭打って頑張りますか……」
と頭を掻いた。
日付が変わった翌十七日、水曜日、午前一時十分。
殺気立っている捜査本部には不似合いな、最新の流行曲が鳴った。田村のスマートフォンの着うただ。
「いつも言っているでしょ、マナーモードにしておきなさいって」
可南子が小声で叱りつける。
田村は内ポケットからスマホを取り出し、着信者が誰か確かめる。
「あっ、優奈ちゃんからだ……」
「優奈ちゃんって、まさかあの山口さんのこと?」
可南子が訝しげに田村の顔を見た。
「はい」
田村に電話を掛けてきたのは、Y大の東谷朱美教授の助手山口優奈だった。
「呆れたわ。田村君あんた仕事はまだ半人前のくせに、女性を口説くのは早いのね」
「まあ……」
田村は、どうしたものかといった表情で、可南子の顔色を窺った。
「出なさいよ」
「済みません」
と形ばかり頭を下げると、田村は電話に出た。
と同時に席を離れ、一旦講堂から廊下へと出る。可南子はその背中を目で追う。
開き戸が閉まると、再び手許の資料に視線を移した。
数分後、血相を変え田村が戻ってきた。
「どうしたの、そんな浮かない顔して、もしかして彼女に振られた?」
いつも揶揄ってくる相棒を、逆に揶揄ってみる。
「いいえ……」
「何の? はっきり言いなさいよ」
「彼女の実家、狛江市東和泉一丁目○○なんですけど……」
「それがどうしたの?」
可南子は意味がわからず首を傾げる。
「彼女、この土日、実家で過ごそうと思い……」
「はあ、それで?」
「助けにいかなくっちゃ……」
田村の声が上擦っていた。その目は虚ろで焦点が合わず宙を泳いでいる。
「えっ!? キミ、大丈夫?」
可南子は、田村の異変に気づいた。
「確りしなさい!! 田村っ!!」
彼の頬を平手打ちする。
講堂に集う捜査員の視線が、可南子と田村の二人に注がれた。
「ちゃんと説明して、私にもわかるように」
「ゆ、優奈ちゃんが、危ない……」
「危ないって……」
可南子は田村の肩を揺さ振った。
「スタンガンを持った変質者に、拉致されそうになったって……」
「えっ変質者?」
可南子が頓狂な声をあげた。
その次の瞬間。
再び、田村のスマホが派手な着うたを奏でた。
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