捜査一課殺人犯捜査第四係 異常犯罪捜査班 比嘉可南子

繁村錦

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CHAPTER6

1

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 六日、木曜日。
 朝一番の会議に顔を出したあと、可南子は相棒である所轄の田村が運転する覆面パトカーで、東海林と森が待つ西新宿○○ビル内のファミレスに向かった。

「あんたは、ここで待っていて」

 と田村に告げると、その○○ビルに入った。

 ファミレスの入り口で、男性店員が、

「いらっしゃいませ、お一人さまですか?」

 と声を掛けてきた。
 可南子は首を横に振る。

「比嘉と申します。こちらで連れと待ち合わせの約束が……」

 周囲を見回しながら告げる。

「比嘉さまですね? 少々お待ち下さい」

 そう言うと店員は、責任者らしき中年女性の許に向かった。

「お待たせ致しました比嘉さま。お連れ様のお名前は、森さまですね?」

 先ほどの女性店員が戻ってきて、可南子に訊ねた。

「はい」

 刑事には不似合いな愛想笑いで答える。

「ご案内致します」

 可南子は店員の後を追い、店内左奥の喫煙ブースに向かった。

「お待たせ、森さんたら、相変わらずヘビースモーカーね……」

 旨そうに煙草を吹かす森を見付けるなり、可南子は嫌味を言う。

「済まんな、お嬢」

 とバツ悪そうに、森が空調装置付きの灰皿で煙草を揉み消す。

「で、東海林君は?」

「トイレだ」

「そう……。何か食べる?」

「いいや、俺はいい。朝っぱらから飯はちょっと……流石に中年親仁にはきつい」

 他愛もないやり取りをしていると、東海林がトイレから戻ってきた。

「あっ主任。いらっしゃたんですか?」

「ええ、いちゃ悪い?」

 可南子は早速東海林を揶揄う。

「そう言うことじゃなくて……」

「まあ、いいわ。ここ煙草臭いから、普通のコーナーに移りましょ」

 にべなく言うと可南子は、喫煙ブースのドアを開け、人気のない一番奥の隅っこの席へ向かって歩き出した。その後を、東海林と森が追う。

 三人が席に着くのを見計らって、先ほど可南子を案内した女性店員が、飲料水の入ったグラスを運んできた。
 可南子は、メニューも見ず、

「ミルクティーとホットコーヒー、それとコーラ」

 早口で注文した。

「お客様、当店はドリンクバーシステムになっております」

「あっ……そう……」

 思わず赤面する。
 対座するように席に着いた東海林が、ニヤリと笑った。

「何よ……? あんたのその顔っ、何か文句あんの?」

 可南子はいつものように東海林に噛みついた。

「いい……え、そ、その……済みません、主任……」

 東海林はしどろもどろになって視線を逸らす。

「おっ、いつものお嬢に戻って、東海林を揶揄う元気が出てきたな」

 古澤の殉職後、ひどく落ち込んでいた可南子を心配していた森が、手持ちの紙袋の中から茶封筒を取り出しながら言った。

「まあね……。で、森さん、今手に持っている物が、例の件の?」

「ああ、古澤のスマホの、着信と発信履歴の一覧表だ……」

 森は、心なしか憮然とした表情で茶封筒を可南子へ差し出した。
 ちょうどそのタイミングで、ウエイトレスが何も入っていない空っぽのティーカップ二つとグラスを運んできた。

「お待たせ致しました、ドリンクバーセットです。ごゆっくりどうぞ」

「ありがとう……」

 可南子はウエイトレスに軽く頭を下げた。

「さぁあて東海林君。宜しくお願いね」

 と意味あり気な笑みを零し、可南子はウインクして見せた。

「……わかりました」

 東海林は渋々立ち上がると、ティーカップ二つとグラスを手に取り、備えつけのドリンクバーに向かった。

「ごゆっくりどうぞって、そんなにゆっくりもしてられないんですけど……」

 独り言を口にしながら、可南子は受け取った茶封筒の中身を取り出す。

「……二十時三十六分に、渡辺に電話を掛け、その後二十分ほど飛んでいる。二十時五十七分か、相手はと、うん? さ、柊係長……? その次が、二十一時三分で、相手は、ほ、保科管理官……。その三分後が渡辺。十三分が私、次がまた保科管理官、そして岸谷の野郎に、森さん、一番最後があいつか」

 と、可南子はドリンクバーから戻ってきた東海林を指差した。

「お待たせしました主任……? うん? ど、どうしたんですか?」

 東海林は訝しげに小首を傾げる。

「ねえ、森さんに東海林君? あの夜、古澤君から掛ってきた電話に出た?」

「いいや、出ようした寸前に切れた……」

「僕も同じです」

「それで、お嬢、お前さんは?」

 森に訊ねられ、まさか彼氏とエッチの真っ最中だったとは答える訳には行かず、可南子は顔を真っ赤に染め、

「ちょっと取り込んでいて、気づかなかった……」

 と誤魔化した。

「彼氏さんと一緒だったてことか」

 東海林がセクハラ紛いに揶揄う。

「五月蠅いっ、放っておいて……」

 やや伏せ目がちで言い捨てたあと、可南子はもう一枚の一覧表を手に取った。

「……二十時一分に、渡辺から最初の着信か……。そのあとは、森さんと東海林君の名前ばっかり」

「ああ、全部、繋がらなかった……」

「はい。僕も同じです」

「ねえ、森さん?」

「何だ、お嬢?」

「二十時一分に掛かってきた渡辺からの電話のあと、古澤くん、一度、マツノ・ナオコって娘に電話入れてる。この子、誰?」

「ああ以前、古澤の野郎が所属していた所轄の女警の松野奈緒子巡査長だ。噂によると二人は交際していたそうだ」

「そう……可哀想に。確か、彼がいた所轄って……?」

「新宿中央署の刑事課、その前が池袋中央署の組対課、その前が赤坂中央署刑事課だ」

 森は指を折りながら答えた。

「時期はちょっとずれているけど、わたしも新宿と池袋にはいた」

「ねえ、森さん?」

 東海林が隣に座る老刑事に訊ねる。

「何だ?」

「吉澤の所轄時代の上司って、誰ですか?」

「……新宿時代が確か柊係長で、池袋の時は保科管理官だ。赤坂時代にはこの二人は課長、係長として吉澤の上司だった……まさかこの二人のうちのどちらかが犯人だと言うのか?」

 森は思わず上擦った声を上げ、素っ頓狂な表情で可南子の顔を見た。
 可南子は、拳を丸めそれを顎の下に当て、

「うーん」

 と低い唸り声を発したまま、黙り込んだ。
 暫く沈黙したあと、冷めてしまったミルクティーを啜り、徐に口を開いた。

「ええ、そう考えるのが妥当な線ね。藪さん、あなたもそう思うでしょ?」

 可南子は真顔で森の目を見る。
 森は無言のまま頷いた。

「ちょっと、何考えているんですか、二人とも……、管理官と係長のうち、どちらかが犯人だなんて、冗談きついっすよ。ねえ……?」

「……東海林君、冗談じゃなくて本当のことよ」

 悲しげな表情で可南子を見詰める田村に諭すように告げる。

「『情報屋の渡辺に呼び出され、古澤が渋谷中央署の帳場を飛び出した』って、お前が俺に電話したあと、確か、『係長に連絡入れたか』って訊ねたよな……?」

「……は、はい。それが、何か?」

「電話入れたのは、何時だった?」

 森が東海林を睨み付ける。

「ま、待ってください」

 森の勢いに少し気押され、狼狽えつつ、田村は内ポケットからスマホを取り出した。

「ええぇーと、二十時十二分です。その三分後に柊係長に電話しました」

「三分後ってことは、十五分か」

「少なくともこの時既に、係長は、古澤君が渡辺に呼び出されたってこと、知っていた訳よね?」
 可南子は改めて確かめるように森に告げた。

「ああぁ、そう言うことになるな……」

 森はにべもなく頷いた。

「古澤君が撃たれた夜の、二人の行動をチェックして。それと、このことはまだ、一課長には伏せておいて」

「わかったよ、お嬢」

「あっ、それからもう一つ」

「うん?」

「二十一時十三分の私宛に掛かってきた電話と、それ以降の発信と着信がどこの基地局を経由したかも調べて、恐らく古澤君を撃ったあと、犯人が偽装工作のため電話したと思うの……、犯人の逃走経路を掴む手掛かりなるかもしれないから。」

「あいよ」

 森は笑顔で答えると、完全に冷めてしまったコーヒーを一気に飲み干した。
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