捜査一課 猟奇殺人犯捜査官 比嘉可南子 

繁村錦

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CHAPTER4

2

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 翌日。
 西新宿六丁目のT医科大学病院へ向かう前に、私は着替えを取りに警視庁女子独身待機寮へ行った。少し大き目のキャリーバッグに数日分の下着を詰め込んだ。直感的に事件解決までに時間が掛かりそうだと感じたからだ。

「後ろのトランク開けて」

 私は運転席で待つ立花君に告げた。

「わかりました。今開けます」

 立花君にトランクを開けさせ、数日分の着替えが入ったキャリーバッグをトランクに入れた。トランクを閉め、助手席側に乗り込んだ。

「車出して。後ろ、トラックきているから気を付けてね」

「はい」

 立花君は運送会社のトラックが通り過ぎたあと、右ウインカーを点滅せ、ゆっくりとアクセルを踏んだ。走り出して数分後、前方に都庁が見えた。もう間もなくT医大病院に着く。病院の建物が視界に入った。

「あそこのコインパーキングに車入れて」

 私は、T医大病院横の駐車場を指で示した。
 立花君はハンドルを切り、スロープを下って地下駐車場へと向かった。
 適当な場所に覆面パトカーを停めた。私は先に車から降りた。

「ロック忘れずに、この辺りも車上荒らし多いから。覆面が被害に遭っちゃ洒落にならないでしょ」

「ですよね」

 立花君は頷きつつ、リモコンキーでドアをロックした。
 駐車場を出て、地上に上がる。二人は無言のまま横断歩道に向かって歩き出した。T医大病院の敷地に入り、正面玄関へ回る。
 受付で警察手帳を提示する。

「警視庁の比嘉と申します」

「東京湾岸中央署の立花君です」

「はあ、警察の方が一体何のご用でしょうか……?」

 三十代半ば過ぎの受付の女性は、少し困惑気味に訊ねた。目が不安気に泳いでいるように見えた。

「こちらの病院に勤務されておられる平泉眞先生にお会いしたいのですが?」

 私は、小林清志の担当医で、嘗て彼の精神鑑定を行った医師の名前を口にした。

「平泉ですか……。少々お待ちください」

 女性スタッフは手許の端末に目を落とし、指先でタッチパネルを操作した。

「メンタルヘルス科の平泉ですね。生憎ですが本日はこちらには出勤しておりません。大学の方だと思います」

「大学ですか……?」

 女性スタッフは無言で頷いた。

「お邪魔しました」

 私と立花君は、女性スタッフに一礼して受付を後にした。
 二人並んで正面玄関の自動ドアに向かって歩いて行く。

「大学って……?」

 立花君が訊ねた。

「新宿六丁目のT医科大学よ」

 私は正面を向いたまま答えた。
 道路を挟んで病院の向かい側に建つビルの地下駐車場へ戻ると、車に乗り込んだ。

「あとで、会計で精算してもらうから、出口のところでちゃんと領収書発行してね」

「わかってますよ」

 立花君は少し不貞腐れたようにいうと、車を動かした。
 数分後、新宿六丁目のT医科大学に到着した。正門のところで、守衛に警察だと伝え、大学の敷地内に車を乗り入れた。
 正面玄関を抜け、大学構内に入る。ここでも先ほどの病院同様、先ず受付に足を向けた。

「済みません」

 と受付のガラス戸をノックする。
 頭に少し白いものが目立ち始めた中年男性が応対に現れた。

「何でしょうか?」

 警察手帳を提示して身分を明かす。

「ご用件は?」

「先ほど病院の方で、受付の方から、本日は平泉眞先生がこちらの大学の方におられるとお聞きしたのですが……」

「お待ち下さい」

 男性は、私に断ると、事務室の奥へと消えた。
 いわれた通り暫く待っていると、男性が戻ってきた。

「平泉教授は、このあと午後一時から医療心理学の講義があります。その前のお昼休みの時間でしたらお会いになっても宜しいとのことです」

「昼休みか……」

 と呟き、私は左腕のG‐SHOCKに視線を落とした。時刻は、10:13だった。
 現在時刻を確認すると、私は立花君を見た。

「どうする?」

「まだ時間がありますね」

 立花君もロレックスRX2370デイトナで時刻を確認した。
 私は正面を向き直し、男性の瞳を凝視した。

「詳しい内容は申せませんが、殺人事件の捜査でお伺いしておりますと、もう一度平泉先生にお伝えください」

 私は凄みのある声で迫った。

「えっ!?」

 男性は驚きを禁じ得ない様子だ。私には、男性が無意識のうちに後退っているように感じられた。

「わ、わかりました……しょ、少々お、お待ちください」

 若干動揺しながら伝えると、男性はまたも事務室の奥へと消えた。
 先ほどは数分待たされたが、今度は一分も経たないうちに私たちの前に戻ってきた。

「お会いになるそうです。私がご案内しますので、どうぞ」

「宜しくお願いします」

 私は男性に軽く会釈した。
 男性の案内の下、廊下を奥へと進む。途中、白衣を着た大学関係者や学生たちと擦れ違った。その中に、知り合いは一人もいなかったが、目と目が合った相手にだけ、取り敢えず一礼した。
 エレベーターに乗り、上の階へ向かう。本館の最上階で停止した。

「こちらです」

 と男性が、『医療心理学平泉研究室』と記されたプレートが貼られたドアを示した。

「ありがとうございます」

 私は一礼した。

「平泉教授、警察の方をお連れ致しました」

「開いております」

 室内から返事がした。

「どうぞ」

 男性がドアノブに手を掛け、ドアを開けた。二人を室内へ招き入れる。

「お忙しいところ時間を割いて頂いて、申し訳ございません」

 私は、形ばかりのお決まりの謝罪の言葉を述べ、室内へ入った。立花君がその後に続いた。
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