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CHAPTER 5
4
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麻布中央署の留置係員が、両手に手錠を掛けられ腰縄を付けた金村龍平を連れ、取調室で待つ私たちの前に現れた。
「そこに、座りなさい」
「はい」
金村は小さく頷くと、スチールデスクを挟んで私と対座するようにパイプ椅子に腰掛けた。
数年前まで日本中の女子を虜にした元アイドルの落魄れた姿を目の当たりにして、私の方が溜め息を吐いた。
「まずは、本人確認から、あなたの氏名は?」
「金村龍平です……何ですか? さっさと送検して下さいよ、刑事さん。俺、素直にクスリの所持と使用も認めているんだからさ」
「今日はその件じゃありません」
「じゃあ何っ?」
「この方、ご存知ですよね?」
私は、『トゥモローランドプロダクション』の水原から借りてきた甘井心愛こと遠野真央の写真を机の上に置いた。
「ああ。心愛だろ。俺の女だ。あいつ、昨夜俺を捨てて一人だけ逃げやがった。糞ーッ、頭に来る」
「金村さん、あなたは昨夜から麻布中央署でご厄介になっていて知らないと思いますが、実は甘井心愛は既に亡くなられていると思われます」
私は麻布中央署に来る前、稲城市百村で発見された女性の他殺体が、甘井心愛本人であると考えてほぼ間違いないとの報告を受けていた。明日、北海道夕張市末広二丁目○○の実家から家族が上京して、正式に本人確認を行う手筈となっている。
「嘘だろうっ、おいっ、嘘だ……」
「いいえ、本当の話です」
「クスリか。心愛が死んだのはクスリの所為か? あいつも俺と寝る時はいつもクスリ、キメていたから……」
「彼女の死因は、覚せい剤の中毒死ではありません」
「じゃあ何だよ。刑事さんっ?」
「甘井心愛は、昨日あなたと別れた後何者かに殺害され、その死体を稲城市百村の堅谷戸大橋の高架下に遺棄され、本日発見されました。お気の毒です」
「だ、誰だよ。心愛を殺したのは誰だよぉーっ!?」
「……目下のところ、被疑者の見当は付いておりません」
私はかぶりを振った。一応、捜査本部では、小林清志を犯人と断定し現在その行方を追っている。
「金村さん。犯人の身柄を確保するためにもあなたの協力が必要です」
「わかった。協力する。何でも喋るよ、刑事さん」
一時間ほど事情聴取が続いたが、甘井心愛こと遠野真央を拉致して殺害した犯人を、小林清志と断定するだけの有力な証言を、金村から引き出せることはできなかった。
「そこに、座りなさい」
「はい」
金村は小さく頷くと、スチールデスクを挟んで私と対座するようにパイプ椅子に腰掛けた。
数年前まで日本中の女子を虜にした元アイドルの落魄れた姿を目の当たりにして、私の方が溜め息を吐いた。
「まずは、本人確認から、あなたの氏名は?」
「金村龍平です……何ですか? さっさと送検して下さいよ、刑事さん。俺、素直にクスリの所持と使用も認めているんだからさ」
「今日はその件じゃありません」
「じゃあ何っ?」
「この方、ご存知ですよね?」
私は、『トゥモローランドプロダクション』の水原から借りてきた甘井心愛こと遠野真央の写真を机の上に置いた。
「ああ。心愛だろ。俺の女だ。あいつ、昨夜俺を捨てて一人だけ逃げやがった。糞ーッ、頭に来る」
「金村さん、あなたは昨夜から麻布中央署でご厄介になっていて知らないと思いますが、実は甘井心愛は既に亡くなられていると思われます」
私は麻布中央署に来る前、稲城市百村で発見された女性の他殺体が、甘井心愛本人であると考えてほぼ間違いないとの報告を受けていた。明日、北海道夕張市末広二丁目○○の実家から家族が上京して、正式に本人確認を行う手筈となっている。
「嘘だろうっ、おいっ、嘘だ……」
「いいえ、本当の話です」
「クスリか。心愛が死んだのはクスリの所為か? あいつも俺と寝る時はいつもクスリ、キメていたから……」
「彼女の死因は、覚せい剤の中毒死ではありません」
「じゃあ何だよ。刑事さんっ?」
「甘井心愛は、昨日あなたと別れた後何者かに殺害され、その死体を稲城市百村の堅谷戸大橋の高架下に遺棄され、本日発見されました。お気の毒です」
「だ、誰だよ。心愛を殺したのは誰だよぉーっ!?」
「……目下のところ、被疑者の見当は付いておりません」
私はかぶりを振った。一応、捜査本部では、小林清志を犯人と断定し現在その行方を追っている。
「金村さん。犯人の身柄を確保するためにもあなたの協力が必要です」
「わかった。協力する。何でも喋るよ、刑事さん」
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