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追放編
第5話 突然の来訪者
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メルビルが追放を宣告された2日後。
メルビルは実家であるオーバーハウゼン侯爵家で、荷造りに勤しんでいた。
「ふぅ、これでだいたい必要なものは片付いたかしら。フライブルク王国内にはいられないから、ひとまずは隣国のシェアステラ王国に身を寄せるとして。改良コンニャクの販売で懇意にしていたシェアステラ王国・御用商人のミカワ屋さんで働かせてもらおうかしら」
あと数日でメルビルは国外退去しなければならない。
今まで大切に育ててくれた両親や、とても尽くしてくれた使用人たちとのお別れが近づき、また生まれた時から見守ってくれた侯爵邸ももう見納めかと思うと、否が応でも心が切なくて悲しくなってしまうメルビルだった。
そんな傷心のメルビルの元へ、とある人物がやってきた。
「よっ、ご無沙汰だなメルビル。なんか大変なことになったみたいだけど、とりあえずは思ってたよりは元気そうで良かったよ」
それはちょうどメルビルが向かおうと思っていた、隣国で大国でもあるシェアステラ王国の第二王子ウィリアムだった。
ウィリアム王子は、平民相手でも分け隔てなくざっくばらんに話しかける、表裏のない明るく気のいい好青年だ。
この辺りではとても珍しい黒目・黒髪は、初代女王であるアストレア=シェアステラの王配だった『クロノユウシャ』リュージの血を色濃く引いていることの証でもある。
ユベリアス王太子の婚約者だったメルビルは、そんなウィリアム王子と何度もパーティで顔を合わせたことがあった。
「お久しぶりですウィリアム王子殿下。この度はわざわざ当家まで足を運んでいただき恐悦至極にございます。しかしながら今の私は追放を宣告された身、おもてなしも満足にできないのです」
王太子の婚約者と侯爵家令嬢という地位を剥奪され、我が子のごとき改良コンニャクを破棄されたとしても、清く正しく育てられたメルビルの心にある誇りと気高さはわずかたりとも失われたりはしない。
ウィリアム王子に対していささかの礼を失することもなく、美しいカートシーでお辞儀をし、これ以上なく丁寧に対応するメルビルに、
「おいおい、えらく他人行儀だな。王子殿下はよしてくれよ、いつもみたいにウィリアムでいいよ」
ウィリアム王子は手を軽く振って苦笑しながら答えた。
「申し訳ありません、私はもうユベリアス王太子殿下の婚約者でもなく、オーバーハウゼン侯爵家令嬢でもなく、平民降下させられたただの一庶民です。大国シェアステラ王国の第二王子であるウィリアム王子殿下とはあまりに身分が違い過ぎます。今までのように話すことは到底許されないことですから」
なにせ一国の王子と庶民ではその差は歴然、月とスッポンである。
メルビルのこの対応は至極当然だった。
「じゃあせめて殿下はやめてくれ殿下は。あ、これは命令だからな」
しかしウィリアム王子はというと、そんなメルビルの言葉を特に気にすることウィンクしながら茶目っ気たっぷりに言ってくるのだ。
「では僭越ながらウィリアム王子と呼ばせていただきます」
これまでも何度も目にしたウィリアム王子の人柄の良さを改めて見せられて、メルビルは少しだけ表情を崩した。
「それでメルビル、早速本題に入るんだけど。聞けば行く当てがなくて、うち――シェアステラ王国に身を寄せようと思ってるんだって?」
ウィリアム王子が切り出した。
メルビルは実家であるオーバーハウゼン侯爵家で、荷造りに勤しんでいた。
「ふぅ、これでだいたい必要なものは片付いたかしら。フライブルク王国内にはいられないから、ひとまずは隣国のシェアステラ王国に身を寄せるとして。改良コンニャクの販売で懇意にしていたシェアステラ王国・御用商人のミカワ屋さんで働かせてもらおうかしら」
あと数日でメルビルは国外退去しなければならない。
今まで大切に育ててくれた両親や、とても尽くしてくれた使用人たちとのお別れが近づき、また生まれた時から見守ってくれた侯爵邸ももう見納めかと思うと、否が応でも心が切なくて悲しくなってしまうメルビルだった。
そんな傷心のメルビルの元へ、とある人物がやってきた。
「よっ、ご無沙汰だなメルビル。なんか大変なことになったみたいだけど、とりあえずは思ってたよりは元気そうで良かったよ」
それはちょうどメルビルが向かおうと思っていた、隣国で大国でもあるシェアステラ王国の第二王子ウィリアムだった。
ウィリアム王子は、平民相手でも分け隔てなくざっくばらんに話しかける、表裏のない明るく気のいい好青年だ。
この辺りではとても珍しい黒目・黒髪は、初代女王であるアストレア=シェアステラの王配だった『クロノユウシャ』リュージの血を色濃く引いていることの証でもある。
ユベリアス王太子の婚約者だったメルビルは、そんなウィリアム王子と何度もパーティで顔を合わせたことがあった。
「お久しぶりですウィリアム王子殿下。この度はわざわざ当家まで足を運んでいただき恐悦至極にございます。しかしながら今の私は追放を宣告された身、おもてなしも満足にできないのです」
王太子の婚約者と侯爵家令嬢という地位を剥奪され、我が子のごとき改良コンニャクを破棄されたとしても、清く正しく育てられたメルビルの心にある誇りと気高さはわずかたりとも失われたりはしない。
ウィリアム王子に対していささかの礼を失することもなく、美しいカートシーでお辞儀をし、これ以上なく丁寧に対応するメルビルに、
「おいおい、えらく他人行儀だな。王子殿下はよしてくれよ、いつもみたいにウィリアムでいいよ」
ウィリアム王子は手を軽く振って苦笑しながら答えた。
「申し訳ありません、私はもうユベリアス王太子殿下の婚約者でもなく、オーバーハウゼン侯爵家令嬢でもなく、平民降下させられたただの一庶民です。大国シェアステラ王国の第二王子であるウィリアム王子殿下とはあまりに身分が違い過ぎます。今までのように話すことは到底許されないことですから」
なにせ一国の王子と庶民ではその差は歴然、月とスッポンである。
メルビルのこの対応は至極当然だった。
「じゃあせめて殿下はやめてくれ殿下は。あ、これは命令だからな」
しかしウィリアム王子はというと、そんなメルビルの言葉を特に気にすることウィンクしながら茶目っ気たっぷりに言ってくるのだ。
「では僭越ながらウィリアム王子と呼ばせていただきます」
これまでも何度も目にしたウィリアム王子の人柄の良さを改めて見せられて、メルビルは少しだけ表情を崩した。
「それでメルビル、早速本題に入るんだけど。聞けば行く当てがなくて、うち――シェアステラ王国に身を寄せようと思ってるんだって?」
ウィリアム王子が切り出した。
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