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第一部「《神滅覇王》――其の者、神をも滅する覇の道を往きて――」 異世界転生 1日目

第21話 異世界温泉 ~ウヅキと~その2

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 その瞬間。
 今まで俺を支配していた無限とも思える際限ないたかぶりが、まるで潮が引いていくように急速に消えていった。
 
「俺は――俺は何をしているんだ?」
 そう自問する。

 なぁ麻奈志漏まなしろ誠也、お前はいったい何をしているんだ?
 お前は何のために異世界転生したんだ?
 自分の欲望を満たすためだけに、震える女の子を構わずどうこうするためだったのか?

 それじゃあ、あの時倒した低級妖魔どもとやっていることが同じじゃないか。
 お前が異世界転生したのは、低級妖魔どもと同じ下衆になり下がるためなのか?
 違うだろ――?

「そうだ、俺が異世界に求めているのは、モテモテハーレムだ――」

 ハーレムは俺が幸せなのは当然として、女の子たちも幸せでないと意味がない。
 お互いが幸せだからこそ『史上最高究極至高のパーフェクトでグゥレイト』なんだ。
 じゃあ今俺がすべきことは、なんだ?

「はっ、そんなの言われるまでもない――!」
 やるべきことを見定めたことで、ストンと気持ちが落ち着いた。

「ウヅキ――大丈夫だから」
 俺が出せるであろういちばんやさしい声で、俺はウヅキに語りかける。
 これ以上怖がらせないようにと、ゆっくりと振り向いた。

 そうして向かい合ってから、震えるウヅキの手をそっと握ってあげる。
 こんなセリフと行動は、はっきり言って俺には似合わない。

 でも、大丈夫。
 だって今の俺には、ラブコメ系S級チート『ただしイケメンに限る』があるのだから。
 だから少しくらい、震えている女の子に気障きざなことを言ってみたっていいじゃないか。

「あの、ごめんなさい……ごめんなさい……」
「なんでウヅキが謝るのさ」

「だって、わたし、ここまできておいて……ちゃんと決意をしたのに……覚悟を決めたのに……なのに最後の最後でわたし、怖くなってしまって……」
 ああ、さっき言ってた決意とか覚悟ってのは、こういうことだったのか。

「嫌だったらさ、無理することはないよ。俺はそんなこと、ウヅキに少しだって求めてない。決意とか覚悟とか、そんな風に追い込んじゃって、俺の方こそごめんな」
「嫌じゃないんです、全然、嫌じゃないんです。なのに、なのに、なんで――」
 ウヅキは自分で自分が分からないって感じで、力なく首を振る。

「うんとさ、俺はウヅキの笑顔が好きなんだ。ウヅキに笑顔でいてほしいんだ。今日会ったばかりだけど、出会ってからずっとウヅキの笑顔を見るたびにすっごく幸せな気持ちになれたんだ。この笑顔を守ってあげたいって、そう思ったんだ。そのために――俺は俺のためにやったんだよ。だからウヅキが恩とか、そういう風に感じる必要はないんだ」
「そんなの、ダメですよ……セーヤさんに助けてもらってばかりで……そんなのだめです……」

「うーん、じゃあさ。俺のために何かしたいって言ってたろ? なら俺のために笑顔のウヅキに戻ってくれないか? 俺が見たいウヅキの笑顔を、俺のために見せてくれないか? これも、ダメか?」
「それは、ダメじゃ……ないです」

「なら、ほら。笑ってくれよ。何度も言うけど、俺はウヅキの笑顔に一目ぼれしたんだ。ウヅキの笑顔のためなら、なんだって頑張れる」
「セーヤさん……」

「ほら、笑って」
「え、えへへ……」
 その笑顔はまだ少しぎこちなかったけれど。

「うん、いい笑顔だ。やっぱりウヅキには笑顔そっちのほうが似合ってる」
「セーヤさん……」
「ウヅキ……」

 あれ?
 なんかいい感じに話がまとまったと思ったら、同時にムードもいい感じになってきたような?
 つまりこれが、急がば回れってやつ?
 一見遠回りだけど、結果的に俺は最高の選択をしたってこと?

 ウヅキと二人、既にお互いに言葉はいらず、ただただ静かに見つめあう。
 すると、

「は、恥ずかしいです……」
 なんて言って、ちょっと離れつつ上目づかいで可愛く言いながら、ウヅキがふっと目を逸らした――のだが、その先にあったものがまずかった。

 目を逸らして下を見たウヅキの視線の先にあったもの、それは――
「あ、あの、セーヤさんのお、お、おちん――はうっ、いえそのっ! もう一人のセーヤさんが、おっきなゾウさんで!」
 俺のガチガチになった股間のアレだったのだ!

 そう。
 格好つけたセリフを語っていた時、実は俺は全裸の丸出しでギンギンのままだったのだ!
 な、なんだってー!

「心の中はあんなに落ち着いていたのに、なぜ!?」

 しかもウヅキはフリーズしちゃって視線を逸らすこともできないのか、油の切れたブリキ人形みたいに固まったまま、俺の下腹部をガン見しちゃっているんですけど……!?

「お、落ち着け、落ち着くんだウヅキ。これは言ってみれば、そう事故だよ、事故なんだ!」
「自己!? つまりセーヤさん自身ってことですか!? このゾウさんこそが俺だ、よく見ろ!ってことですか!?」
「なにその超解釈!? テンパりすぎじゃない!?」

怒髪どはつ天を突くワガママ聞かん棒のもう一人のセーヤさんが、つまりセーヤさん自身で――えっと、つまりその、はわわ――きゅう」
 処理能力を超えてしまったのか、可愛い声を上げたかと思うとプツンと気を失って倒れるウヅキ。
 とっさにその腰と背中を抱きかかえた。

「んぁ――っ」
 一瞬、俺の先っちょがウヅキの太ももの付け根あたりに触れてしまい、先っぽが柔肉のサンドイッチ的なものに軽く包まれるようないけない感触があって、思わず情けない声を出してしまう。
 ……じゃなくてだな!

「おーい、ウヅキ! おーい! だめだ、まったく反応がない……」
 それでもどうにかこうにか、ラブコメ系A級チート『お姫様抱っこ』で抱きかかえて、脱衣所まで運んでいった。

 チートのおかげでほとんど重さは感じないんだけど、視線のやり場とか触り心地に困るんだよ!
 見ないように頑張ってるのに、歩くだけでおっぱいがたゆんたゆん揺れるのが視界の隅っこの方に見えちゃうんだよ!
 思わず下を見そうになっちゃうんだよ!
 察してよ!

「それにしても受け止めたり運んだりと、名前だけ聞くと汎用性皆無なのに、意外と便利なチートなんだな……」
 『お姫様抱っこ』がA級にランク付けされているのに、少し納得がいった俺だった。

 その後。
 ウヅキを脱衣所に運び入れると、すぐにグンマさんたちを呼びに行ったのだが。

「我慢強いウヅキが気をやるとは、マナシロさまはあちらのほうもなかなかの逸品をお持ちのようですな」
 などと孫娘の成長を喜ぶような優しげな眼をしたグンマさんから、壮絶な勘違いをされ。

「まなしー、ちんちん、ってる」
 ハヅキには容赦なく指差し確認されてしまったのだった。
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