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第二部「気高き黄金」 異世界転生 5日目
第98話 やれやれ、ちょっと本気出すとするか……
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「さぁ、この中からどうぞ好きな弓を選んでくださいな?」
ついてくるようにと言われた先は、射場のすぐ脇にある――、なんだろう、武器庫?
色んな種類の弓がたくさん置いてあって、しかもそれが全てこの金髪ぺたん娘お嬢さまの私物らしい。
「どこの世界でも、お金ってあるところにはあるんだよなぁ……」
それが理不尽だとは思わないけど、ぶっちゃけ羨ましくはある。
……えっ?
こういう時は普通は逆だろって?
ふっ、愚か者めが!
この俺がそんなできた人間だとでも思ったか!
お金持ちなのは心底羨ましいに決まってるだろう!
おっと、話を戻そう。
この中から一つ好きに選んで使っていいとのことなので、多種多様なそれらをざっと眺めてみてから――、
「じゃあ俺はこれを」
俺が選んだのはこの中で一番大きな、そして質実剛健な機能美が実に見事な長弓だった――、のだが、
「――ふっ、ふふふ……あはははは! あなた! それが何か知っているんですの?」
金髪ぺたん娘お嬢さまは、俺の選んだ弓を見た途端に腹を抱えて笑い出したのだ。
「何って、そりゃ弓だろ? 何がおかしいんだよ?」
「だって、これが笑わずにいられまして?」
言って、目元の涙を指ですくいながら金髪ぺたん娘お嬢さまは言葉を続ける。
「弓は弓でも、それは『ワキュウ』と呼ばれる扱いが非常に特殊な弓ですわ。わたくしだってワキュウはまだ完璧には使いこなせませんのに、それをあなたが? まったく、無学というのはそれだけで罪ですわね? ぷー、くすくすくすくす――」
「ワキュー? ……ああ、和弓か」
日本人的には弓と言えばこれだから、改めて『和弓』と言われると一瞬ちょっと戸惑うな。
そして可笑しくって仕方ないって感じの金髪ぺたん娘お嬢さまは、ひとしきり笑い終えると、
「別の弓に交換するなら、今のうちでしてよ? それと後から下手な言い訳でもされると癪ですので、あらかじめ言っておきますけれど。ここにある弓はどれもこれも超が付くほどの一級品ばかりですの。そのワキュウも、とある蒐集家から格別の御配慮をいただき譲っていただいたもの。ですから間違っても、道具のせいにされないことですわ」
「いやこれでいい。道具を言い訳にするつもりも毛頭ないさ」
既に弓に関するS級チートは、待機状態で稼働済みだ。
そいつが「これを選べ」と言っているのだから――!
「わたくしは慈悲深い女ですの。だからあなたに、もう一度だけチャンスを差し上げますの。今からでも遅くはありませんわ。無礼を謝罪をするというのでしたら、全て水に流して差し上げてもよろしくってよ?」
美しい髪をさらっとかき上げながら告げる姿は、なかなかどうして様になっていて、可愛いじゃないか。
でもな――。
「構わないからとっとと始めようぜ。俺はこの後、ディリンデンの街を見に行きたいんだ。ちんたらしてるとゆっくり見て回れないだろ」
もらったお小遣いで、一つ買いたいものもあるしな。
「……本当にいい度胸ですの。それだけは認めて差し上げますわ。ですが誰に喧嘩を売ったのか、そのことを後で死ぬほど悔い改めることですわ――!」
そうして一触即発の俺たちは射場へと向かうと、
「では、わたくしから始めますわ」
言うが早いか金髪少女は、弓をつがえると90メートル離れた的に向かって矢を射放った。
トスン!
と、小気味よい音がして、矢は的のほぼ中央にピシャリと的中する。
(さすが、おみごとですわ!)
(なにせ真ん中を外したところを見たことがありませんもの!)
ギャラリーから、その見事な腕前を褒めたたえる声がいくつも上がる。
「ふぅ、まずまずの結果ですわ。さて、次はあなたの番ですわよ?」
「一応確認なんだけどさ、お前の矢より内側に中てれば、俺の勝ちってことでいいんだよな?」
「ええ、そうですわね。的の中央を射抜いたわたくしの、さらに内側などがありましたら、ですけれども」
「いや、ほぼ中央だろ。言葉は正確に使ったほうがいいぞ」
「なんですって!?」
「ほら、次は俺の手番だ。終わった奴は向こうに行ってな」
「ぐぬぬぬぬぬ……!」
さて、と。
とっとと文句なしの結果でもって、この茶番にケリをつけるとするか。
「戦闘系S級チート『那須与一』発動――!」
それは源平合戦に英雄としてその名を残す、伝説の弓の名手の名前。
その名を冠した弓系の最高峰チートの前では、動かない的にただ中てることなど、児戯に等しい――!
俺は一度、大きく深呼吸をすると、
立ち位置を決め、
姿勢を整え、
弦に指をかけ、
弓を持ち上げ、
弓を引き、
狙いを定める――。
(ぷーくすくす、弓のあんなに下側を持っておりますわ)
(弓は中央を持つのが基本中の基本ですのに)
(おおかた大きければ良い、とでも考えたのでしょう)
(やはり格好だけのニセモノですわね)
ギャラリーが失笑のさざ波を立てる中、
「いいえ……! ワキュウは世にも珍しい非対称弓。それにこれは射法八節! ワキュウを射る時の儀礼作法ですわ! 古い文献にわずかに残るこの秘儀をいったいどこで……? しかも完璧なまでのその所作は、惚れ惚れするほどの美しさですの……! この男、いったい何者ですの……!?」
金髪ぺたん娘お嬢さまだけが一人、慄きの声を小さくあげていた。
ギャラリーの失笑にも金髪少女の戦慄にも、俺は特に気負うことはなく。
まるで息を吐くように自然なままに、つがえた矢を解き放つ。
キーン!
大弓が鮮やかにくるっと弓返りを見せるとともに、心地よい弦音が木霊して――、
ストン!
俺の放った矢は見事に的の真ん真ん中に――、金髪少女の矢をかすめるようにして、さらにその内側へと突き刺さっていた。
予想外の結果を前に、
「弓まで扱えるなんて凄すぎです、さすがです、セーヤさん! ……って、あの?」
俺のことを嬉しそうに褒めたたえるウヅキを除いた、ギャラリーの誰もが言葉を失い――。
いまだ残心の境地にあった俺を中心に、周囲は静寂に包まれたのだった。
ついてくるようにと言われた先は、射場のすぐ脇にある――、なんだろう、武器庫?
色んな種類の弓がたくさん置いてあって、しかもそれが全てこの金髪ぺたん娘お嬢さまの私物らしい。
「どこの世界でも、お金ってあるところにはあるんだよなぁ……」
それが理不尽だとは思わないけど、ぶっちゃけ羨ましくはある。
……えっ?
こういう時は普通は逆だろって?
ふっ、愚か者めが!
この俺がそんなできた人間だとでも思ったか!
お金持ちなのは心底羨ましいに決まってるだろう!
おっと、話を戻そう。
この中から一つ好きに選んで使っていいとのことなので、多種多様なそれらをざっと眺めてみてから――、
「じゃあ俺はこれを」
俺が選んだのはこの中で一番大きな、そして質実剛健な機能美が実に見事な長弓だった――、のだが、
「――ふっ、ふふふ……あはははは! あなた! それが何か知っているんですの?」
金髪ぺたん娘お嬢さまは、俺の選んだ弓を見た途端に腹を抱えて笑い出したのだ。
「何って、そりゃ弓だろ? 何がおかしいんだよ?」
「だって、これが笑わずにいられまして?」
言って、目元の涙を指ですくいながら金髪ぺたん娘お嬢さまは言葉を続ける。
「弓は弓でも、それは『ワキュウ』と呼ばれる扱いが非常に特殊な弓ですわ。わたくしだってワキュウはまだ完璧には使いこなせませんのに、それをあなたが? まったく、無学というのはそれだけで罪ですわね? ぷー、くすくすくすくす――」
「ワキュー? ……ああ、和弓か」
日本人的には弓と言えばこれだから、改めて『和弓』と言われると一瞬ちょっと戸惑うな。
そして可笑しくって仕方ないって感じの金髪ぺたん娘お嬢さまは、ひとしきり笑い終えると、
「別の弓に交換するなら、今のうちでしてよ? それと後から下手な言い訳でもされると癪ですので、あらかじめ言っておきますけれど。ここにある弓はどれもこれも超が付くほどの一級品ばかりですの。そのワキュウも、とある蒐集家から格別の御配慮をいただき譲っていただいたもの。ですから間違っても、道具のせいにされないことですわ」
「いやこれでいい。道具を言い訳にするつもりも毛頭ないさ」
既に弓に関するS級チートは、待機状態で稼働済みだ。
そいつが「これを選べ」と言っているのだから――!
「わたくしは慈悲深い女ですの。だからあなたに、もう一度だけチャンスを差し上げますの。今からでも遅くはありませんわ。無礼を謝罪をするというのでしたら、全て水に流して差し上げてもよろしくってよ?」
美しい髪をさらっとかき上げながら告げる姿は、なかなかどうして様になっていて、可愛いじゃないか。
でもな――。
「構わないからとっとと始めようぜ。俺はこの後、ディリンデンの街を見に行きたいんだ。ちんたらしてるとゆっくり見て回れないだろ」
もらったお小遣いで、一つ買いたいものもあるしな。
「……本当にいい度胸ですの。それだけは認めて差し上げますわ。ですが誰に喧嘩を売ったのか、そのことを後で死ぬほど悔い改めることですわ――!」
そうして一触即発の俺たちは射場へと向かうと、
「では、わたくしから始めますわ」
言うが早いか金髪少女は、弓をつがえると90メートル離れた的に向かって矢を射放った。
トスン!
と、小気味よい音がして、矢は的のほぼ中央にピシャリと的中する。
(さすが、おみごとですわ!)
(なにせ真ん中を外したところを見たことがありませんもの!)
ギャラリーから、その見事な腕前を褒めたたえる声がいくつも上がる。
「ふぅ、まずまずの結果ですわ。さて、次はあなたの番ですわよ?」
「一応確認なんだけどさ、お前の矢より内側に中てれば、俺の勝ちってことでいいんだよな?」
「ええ、そうですわね。的の中央を射抜いたわたくしの、さらに内側などがありましたら、ですけれども」
「いや、ほぼ中央だろ。言葉は正確に使ったほうがいいぞ」
「なんですって!?」
「ほら、次は俺の手番だ。終わった奴は向こうに行ってな」
「ぐぬぬぬぬぬ……!」
さて、と。
とっとと文句なしの結果でもって、この茶番にケリをつけるとするか。
「戦闘系S級チート『那須与一』発動――!」
それは源平合戦に英雄としてその名を残す、伝説の弓の名手の名前。
その名を冠した弓系の最高峰チートの前では、動かない的にただ中てることなど、児戯に等しい――!
俺は一度、大きく深呼吸をすると、
立ち位置を決め、
姿勢を整え、
弦に指をかけ、
弓を持ち上げ、
弓を引き、
狙いを定める――。
(ぷーくすくす、弓のあんなに下側を持っておりますわ)
(弓は中央を持つのが基本中の基本ですのに)
(おおかた大きければ良い、とでも考えたのでしょう)
(やはり格好だけのニセモノですわね)
ギャラリーが失笑のさざ波を立てる中、
「いいえ……! ワキュウは世にも珍しい非対称弓。それにこれは射法八節! ワキュウを射る時の儀礼作法ですわ! 古い文献にわずかに残るこの秘儀をいったいどこで……? しかも完璧なまでのその所作は、惚れ惚れするほどの美しさですの……! この男、いったい何者ですの……!?」
金髪ぺたん娘お嬢さまだけが一人、慄きの声を小さくあげていた。
ギャラリーの失笑にも金髪少女の戦慄にも、俺は特に気負うことはなく。
まるで息を吐くように自然なままに、つがえた矢を解き放つ。
キーン!
大弓が鮮やかにくるっと弓返りを見せるとともに、心地よい弦音が木霊して――、
ストン!
俺の放った矢は見事に的の真ん真ん中に――、金髪少女の矢をかすめるようにして、さらにその内側へと突き刺さっていた。
予想外の結果を前に、
「弓まで扱えるなんて凄すぎです、さすがです、セーヤさん! ……って、あの?」
俺のことを嬉しそうに褒めたたえるウヅキを除いた、ギャラリーの誰もが言葉を失い――。
いまだ残心の境地にあった俺を中心に、周囲は静寂に包まれたのだった。
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