142 / 566
異世界転生 7日目
第134.5話 ハチロク
しおりを挟む
この辺りはまだ余裕で安全地帯、なので俺は抱っこしたサーシャとまったりお話を続けていく。
「あと替え馬だっけ? あれも便利なシステムだよな」
今回は急ぎということもあって荷馬車にしては相当飛ばしているため、荷台を引く馬の疲労はかなりのものだ。
しかし街道沿いの宿場町につくたびに荷馬車を引く馬を手早く交換することで、問題なく速力を維持しているのだった。
もちろんその替え馬を運営しているのもトラヴィス商会である。
「ふふっ、商いとは単に物の売り買いだけではありませんの。街道や宿場の整備も含めた、流通を維持・管理することも肝要なのですわ」
そういうサーシャはちょっと自慢げだ。
「あと、この荷馬車も乗り心地がよくていいな。サスペンションがしっかり効いてるから想像をはるかに超えて快適そのものだし」
「これはトラヴィス商会の看板商品の一つ、軽量かつ安定性に優れた86年式荷馬車ですわ。その筋では年式を取って『ハチロク』と呼ばれておりますの。それをさらにうちの技師たちが、高速輸送用に特別カスタマイズしたものですわ」
「ハチロク……」
「しかもクリスはかつて、荷馬車を使った街道バトルでは東の辺境で敵う者なし、街道最速理論を打ちたてた『辺境の白い彗星』と呼ばれたテクニシャンですのよ?」
「なんだそりゃ……まぁ、御者はクリスさんに任せておけば安心ってことだな……」
っていうかあのメイドさんの経歴が謎すぎるんだけど……。
そうして。
替え馬を繋ぎ続けること、出発してから約15時間。
既に時刻は深夜を回っており、夜通し月明かりだけを頼りに進む荷馬車はしかし、快調そのもの。
このまま何事もなく朝になって帝都に到着――そんな甘い希望を抱き始めたころだった。
「妙に静かですね」
クリスさんが御者台から唐突に声をかけてきたのは。
「夜も遅いからじゃないですか?」
乗り心地が良すぎるからか、サーシャは俺の腕の中ですやすやと寝息を立ててしまっているので、起こさないようにギリギリ声が届く大きさで言葉を返す。
サーシャはよほど安心して寝入っているのか、時おり「うへへ……」だの「フヒヒ……」だの女の子的にはヤバい寝言が聞こえてきたんだけど、モテ紳士を目指す俺としては、全て聞かなかったことにするのが当然の嗜みであるからして。
それはさておき。
「いいえ、夜には夜の生物の気配というものがあるのです。鳥の夜鳴き声一つ、狐の遠吠え一つすら聞こえません。あまりに静かすぎるのです――」
そう、クリスさんが疑念を伝えた瞬間だった。
俺の左目が、闇夜を照らす満月のごとく妖しい黄金色に光り出した――!
危険を察知する知覚系S級チート『龍眼』が、近づいてきた強大な力の波動を感じ取ったのだ――!
「っ! サーシャ、起きてくれ」
「むにゃむにゃ……これが成長したわたくしの……巨乳、いえもはやこれは超乳おっぱいですわ……」
うん、儚くても切ない、とてもいい夢を見ているんだな……。
正直起こすのは忍びないんだけど、そうも言ってはいられない。
「ごめんなサーシャ、起きてくれ」
言って、軽くサーシャの肩を揺すってやる。
「……セーヤ様? わたくしついに超乳に……あれ、ぺたんこ? あ、わたくし寝てしまって……」
「ああ、急に起こしちまって悪いんだが――敵だ」
「――っ! 出ましたのねっ!」
サーシャの表情が一瞬にして真剣モードに切り替わる。
今この時をもって、平和な旅は終わりを告げたのだった――。
「あと替え馬だっけ? あれも便利なシステムだよな」
今回は急ぎということもあって荷馬車にしては相当飛ばしているため、荷台を引く馬の疲労はかなりのものだ。
しかし街道沿いの宿場町につくたびに荷馬車を引く馬を手早く交換することで、問題なく速力を維持しているのだった。
もちろんその替え馬を運営しているのもトラヴィス商会である。
「ふふっ、商いとは単に物の売り買いだけではありませんの。街道や宿場の整備も含めた、流通を維持・管理することも肝要なのですわ」
そういうサーシャはちょっと自慢げだ。
「あと、この荷馬車も乗り心地がよくていいな。サスペンションがしっかり効いてるから想像をはるかに超えて快適そのものだし」
「これはトラヴィス商会の看板商品の一つ、軽量かつ安定性に優れた86年式荷馬車ですわ。その筋では年式を取って『ハチロク』と呼ばれておりますの。それをさらにうちの技師たちが、高速輸送用に特別カスタマイズしたものですわ」
「ハチロク……」
「しかもクリスはかつて、荷馬車を使った街道バトルでは東の辺境で敵う者なし、街道最速理論を打ちたてた『辺境の白い彗星』と呼ばれたテクニシャンですのよ?」
「なんだそりゃ……まぁ、御者はクリスさんに任せておけば安心ってことだな……」
っていうかあのメイドさんの経歴が謎すぎるんだけど……。
そうして。
替え馬を繋ぎ続けること、出発してから約15時間。
既に時刻は深夜を回っており、夜通し月明かりだけを頼りに進む荷馬車はしかし、快調そのもの。
このまま何事もなく朝になって帝都に到着――そんな甘い希望を抱き始めたころだった。
「妙に静かですね」
クリスさんが御者台から唐突に声をかけてきたのは。
「夜も遅いからじゃないですか?」
乗り心地が良すぎるからか、サーシャは俺の腕の中ですやすやと寝息を立ててしまっているので、起こさないようにギリギリ声が届く大きさで言葉を返す。
サーシャはよほど安心して寝入っているのか、時おり「うへへ……」だの「フヒヒ……」だの女の子的にはヤバい寝言が聞こえてきたんだけど、モテ紳士を目指す俺としては、全て聞かなかったことにするのが当然の嗜みであるからして。
それはさておき。
「いいえ、夜には夜の生物の気配というものがあるのです。鳥の夜鳴き声一つ、狐の遠吠え一つすら聞こえません。あまりに静かすぎるのです――」
そう、クリスさんが疑念を伝えた瞬間だった。
俺の左目が、闇夜を照らす満月のごとく妖しい黄金色に光り出した――!
危険を察知する知覚系S級チート『龍眼』が、近づいてきた強大な力の波動を感じ取ったのだ――!
「っ! サーシャ、起きてくれ」
「むにゃむにゃ……これが成長したわたくしの……巨乳、いえもはやこれは超乳おっぱいですわ……」
うん、儚くても切ない、とてもいい夢を見ているんだな……。
正直起こすのは忍びないんだけど、そうも言ってはいられない。
「ごめんなサーシャ、起きてくれ」
言って、軽くサーシャの肩を揺すってやる。
「……セーヤ様? わたくしついに超乳に……あれ、ぺたんこ? あ、わたくし寝てしまって……」
「ああ、急に起こしちまって悪いんだが――敵だ」
「――っ! 出ましたのねっ!」
サーシャの表情が一瞬にして真剣モードに切り替わる。
今この時をもって、平和な旅は終わりを告げたのだった――。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,938
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる