【完結】死に戻りの悪役令息Ωは、悪妻となってフラグを折りたい。僕を殺した王子αが離してくれないけど。

てんつぶ

文字の大きさ
15 / 47

第四話-⑤ ルイーナの秘密

 僕の視線に気付いたのか、シュルズは一瞬僕を振り返り、落ち着かせるかのようにニコッと笑う。
 それから再び王太子に向き直る。

「陛下にも許可を頂いています。そうですよね?」

「ああ。公爵令嬢だ。特に問題ないだろう」

 シュルズに同意を求められた陛下は、髭を撫でながら鷹揚に答えた。
 これは陛下にも認められているのだと伝えたかったのだろうが、どうやら王太子の気に障ったらしい。
 王太子はグイとグラスを煽り、それからフンと鼻で笑う。

「妹連れの輿入れを許なんて、懐が深い男だな。ああ、両手に花というやつか?」

「殿下、それはルイーナにもシュルズ殿下にも失礼です」

 ラーニャ妃は我慢しきれなくなったのか、立ち上がって夫である王太子を批難する。
 だが王太子は眉根を寄せるだけで、チラとラーニャ妃を見るとまたワインを飲んだ。

「ラーニャ様、お気になさらず。わたくしは、王族の皆様のご厚意に感謝しております」

「ルイーナ……貴方、いい子すぎるわ」

 弱々しい微笑みを浮かべたルイーナは、健気な言葉を口にする。
 それがラーニャ妃にはさらに庇護対象に見えたのだろう。
 豊満な胸をルイーナに押しつけるようにして、抱きしめた。

 前回にはなかった展開だが、なんとか丸く収まったようで僕はホッと胸を撫で下ろす。
 小さく震えていた自分の手を、ギュッと握った。

「ふむ、ルイーナは賢い娘だな」

 そう呟いたのは、陛下だった。
 ルイーナは慌てるでもなく、落ち着いた態度で頭を下げる。

「光栄ですわ、陛下」

「ふうむ。気に入った。シュルズは嫁に貰う相手を間違えたのではないか?」

 その言葉に、僕は思わず固まった。
 固まったのは部屋の空気もだろうか。
 結婚して数日の新妻を前にして言うことかと思う。

 だがこの国の主は、自分の考えを述べることに躊躇いはない。
 何かに気付いたような顔で、指先で机をトンと叩く。

「ああそうだった。事故でオメガの機能が駄目になったのだったな」

 微笑みを浮かべていたルイーナの表情が、笑みの形を作ったまま色をなくした。
 陛下の心ない一言で、僕の身体も凍り付く。

 僕たちが子供の頃、ルイーナは両親と一緒に健康な脚を失った。
 脚だけではない。

 その事故のせいで腹部を強く打ち、オメガなのにオメガではなくなったのだ。
 医師が言うには、オメガ特有のホルモンを司る臓器が損傷したせいだという。

 公爵令嬢であるルイーナに、十八を過ぎても婚約者がいないのは、脚だけが理由ではない。
 だけどそれは公然の秘密でもあったし、まさか直接ルイーナにぶつける人間が陛下だとは。
 いくら悪妻を目指す僕であっても、言葉に窮した。

「公爵令嬢のオメガとなれば、引く手数多だっただろうに。いや、女として普通に子は成せるのだろう? ならばやはり、シュルズに嫁がせてもよかったのではないか」

「陛下……」

 小さく諫めるのは、隣に座る王妃殿下だ。

「なに、ただの冗談だ。なあ」

 陛下はそう言って笑うと、僕たちを見た。
 冗談だと仰るのなら、笑って受け流すべきだ。

 なのに今、僕はうまく笑顔が作れているか、自信がない。

 膝の上で握っていた拳に、温かいものが触れる。
 ハッと顔を向けると、隣に座るシュルズが微笑んでいた。
 拳に重なるシュルズの手が、緩んだ僕の指に絡む。

「陛下。私はエディッドがいいんですよ。オメガだからではなく、子を産めるからでもなく、エディッドだから、いいんです」

 シュルズの横顔が、力強い言葉を紡ぐ。
 嘘をついている様子もない。
 僕は無意識に、握られた手に力が籠もっていた。

 グッと握り返されて、慌てて手を離す。
 別にこれくらい、なんとも思ってない。

 性別を理由にバカにされることくらい、僕たちオメガには日常茶飯事だ。
 それなのになんだか、顔が熱い。

「はっはっは。これはすまない。新婚夫婦を相手に言うことじゃなかった」

「そうですわよ、陛下。さあ、食事が止まっていますわ」

 豪快に笑う陛下と妃殿下の取りなしで、食事は進む。
 僕は詰めていた息を、こっそり吐いた。
 一時はどうなるかと思っていたが、なんとかなった、のだろうか。

 前に座るルイーナをチラと見ると視線が合って、目だけで「大丈夫」と返ってきた。
 不穏な空気に黙り込んでいたリュワッツ王子だったが、子供ながら空気を変えようとしたのだろう。
 隣に座る父である王太子に話しかける。

「父上、あの、このソース、おいしいですね」

「静かに食べなさい」

 だがさっきのやりとりで機嫌を損ねたか、王太子は隣を見もせずに手元の肉を切る。

「まあ殿下。息子の言葉くらい、聞いてあげてくださいまし」

「お前が聞いてやればいいだろう。オメガなんだから」

「まあ……!」 

 淡々と棘のある言葉を放つ王太子に、ラーニャ妃は眉をつり上げる。
 その隣でリュワッツ王子は泣きそうな顔をしている。
 確かに前回から、なんだか仲がよくない夫婦だと思っていたが、ここまでだったとは。

「……」

 僕はチラリと隣を盗み見た。

「どうしたの?」

「べ、べつにっ」

 シュルズはすぐに僕の視線に気付いて顔を向けて来たので、慌てて顔を背ける。
 前回はなかったシュルズの言動は、なんだか僕の胸の中をかき乱す。

 落ち着かない胸をギュッと押さえる。

 結局今回の王族揃い踏みの食事会は、前回と同じく、三者三様の複雑な雰囲気で幕を下ろしたのだった。
  
  

感想 7

あなたにおすすめの小説

愛されたいだけなのに

まさお
BL
我儘令息だったノアは一回目の人生で最愛の人からの裏切りの末、殺される。 気がつくと人生が巻き戻っていて人生二週目が始まる。 しかしまた殺される。 何度も何度も繰り返した人生の中で自分が愛されることを諦めてしまう。

『偽物の番』だと捨てられた不憫な第三王子、隣国の冷徹皇帝に拾われて真実の愛を教え込まれる

レイ
BL
「出来損ない」と捨てられた場所は、私の居場所ではありませんでした。 ラングリス王国の第三王子・フィオーレは、王族の証である『聖種の紋様』が現れなかったことで「偽物の番」と罵られ、雪降る国境へと追放される。 死を覚悟した彼の前に現れたのは、隣国アイゼン帝国の「冷徹皇帝」ヴォルフラムだった。

貴族様からイジメられてる孤児院のボッチだって幸せになりたい

極寒の日々
BL
孤児院で暮らすイオはかつて親友だった貴族の子息に嫌がらせを受けていた。 きっかけはイオが勇者をカッコいいと褒めたから。 互いに話し合い離れる事を決めたが、その日以来イオは親友により孤児院で孤立することになる。 そんな日々の中で慰めてくれたのは勇者だった。 ある日魔王の贄としての役目を命じられ、勇者と共に旅に出ることに。 イオは自らの死を覚悟しながらも勇者との旅を喜んだ。

悪役の運命から逃げたいのに、独占欲騎士様が離してくれません

ちとせ
BL
執着バリバリなクールイケメン騎士×一生懸命な元悪役美貌転生者 地味に生きたい転生悪役と、全力で囲い込む氷の騎士。 乙女ゲームの断罪予定悪役に転生してしまった春野奏。 新しい人生では断罪を回避して穏やかに暮らしたい——そう決意した奏ことカイ・フォン・リヒテンベルクは、善行を積み、目立たず生きることを目標にする。 だが、唯一の誤算は護衛騎士・ゼクスの存在だった。 冷静で用心深く、厳格な彼が護衛としてそばにいるということはやり直し人生前途多難だ… そう思っていたのに─── 「ご自身を大事にしない分、私が守ります」 「あなたは、すべて私のものです。 上書きが……必要ですね」 断罪回避のはずが、護衛騎士に執着されて逃げ道ゼロ!? 護られてるはずなのに、なんだか囚われている気がするのは気のせい? 警戒から始まる、甘く切なく、そしてどこまでも執着深い恋。 一生懸命な転生悪役と、独占欲モンスターな護衛騎士の、主従ラブストーリー!

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

勇者に捨てられた俺のヒーラー(♂)が、世界一可愛い

いちみりヒビキ
BL
最弱モブ青年・レンが出会ったのは、銀髪ショートボブの儚げの青年ヒーラー・カオル。 健気で天然、守ってあげたくなるのに色気は凶器級。世話焼きなレンは毎日距離を詰められ、気づけば守護欲MAXのスパダリ化。 星空の下での初キス、密着修行、両片想いのすれ違い――。 だが現れた勇者は、カオルを侮辱し価値を否定する。その瞬間、モブ攻めレンはブチ切れた。 「その言葉、取り消せ」 これは、最弱攻めが愛する美人受けのために勇者をぶっ飛ばし、溺愛覚醒する異世界BL。 ざまぁあり、甘々あり、最後はてえてえのハッピーエンドです。 ※完全健全です。安心してお読み頂けます。 ◾️AI活用 ・表紙(AIイラスト) ・会話テンポの調整と文章校正 ・タイトル案、概要案など ◾️各話リスト  1 召喚された美青年  2 世話焼きモブ青年と健気ヒーラー  3 密着イベント連発  4 星空の下、初めてのキス  5 勇者一行、来村  6 モブ、勇者に喧嘩を売る  7 絶望、それでも立て  8 愛でぶっ倒す勇者戦  9 お前しか見えてねえ 10 手を繋いで、世界へ

転生天使は平穏に眠りたい〜社畜を辞めたら美形王子の腕の中でとろとろに甘やかされる日々が始まりました〜

メープル
BL
毎日深夜まで残業、食事はコンビニの冷たいパン。そんな社畜としての人生を使い果たし、過労死した俺が転生したのは――なんと、四枚の美しい羽を持つ本物の天使だった。 ​「今世こそは、働かずに一生寝て過ごしたい!」 ​平穏な隠居生活を夢見るシオンは、正体を隠して王国の第一王子・アリスターの元に居候することに。ところが、この王子、爽やかな笑顔の裏で俺への重すぎる執着を隠し持っていた!?

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
【完結/番外編準備中】 目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです! ---------- 追記:読んでくださった皆さま、本当にどうもありがとうございました!! 完結しましたが回収しきれていないエピソードが私の中でいくつかあるので笑、後日番外編をアップしたいなと現在準備中です。 詳しい更新日まだ未定ですが、もしよろしかったらゼヒまた覗いてやってくださいねー!