【完結】死に戻りの悪役令息Ωは、悪妻となってフラグを折りたい。僕を殺した王子αが離してくれないけど。

てんつぶ

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第五話-② 怒らないでェ? エディにいさまぁ?


 結婚し、間もなく一ヶ月が経とうとしていた。
 今日ものんびりとルイーナと編み物に精を出していると、メイドが困ったような顔をして招かざる客の訪れを告げた。

「エディッド様。マール公爵閣下がお見えでございます」

「……はああ? あいつがあ?」

「お兄様、お顔」  

 ルイーナが諫めるほどに、僕の顔はへしゃげていたのだろう。
 それもそうだ。
 現・マール公爵といえば、従兄弟であるワッツガーゼンを指す。

 僕たちの両親が亡くなった後、マール公爵となった叔父が亡くなったため、ワッツガーゼンは若くして公爵の座をついだ。
 もちろん僕はオメガだし、ルイーナもいつかは嫁に行く。
 ベータだろうが、ワッツガーゼンがマール公爵当主となるのは必然なのだ。が。

「だって僕、アイツのこと嫌いなんだから。しょうがないじゃん」

 そう、単純に嫌いなのだ。ワッツガーゼンが。
 地味な外見をどうこう言うつもりはない。
 確かに僕もルイーナも美人の類いだが、容姿に恵まれているだけだと理解している。
 ベータであることもどうでもいい。
 むしろオメガだのアルファだの、面倒なしがらみがなくてうらやましいと思うこともある。

 しかし。
 そう、しかしだ。

「ルイーナだって嫌いだろ。アイツ、いつも弄ってくるし。ちょっかいかけてくるし」

「でもお兄様。ワッツガーゼン義兄様も、根は悪い方ではないのよ」

 博愛主義と言おうか、ルイーナは聖母のようだといつも思う。
 あの嫌みな男を悪い人間ではないなんて、僕なら嘘でも言えないことだ。

「人間、根が見えないからこそ、見えてるところくらい取り繕ってほしいね」

「あらお兄様。それはなかなか素敵な言葉ですわね」

 ルイーナは両手をポンと合わせた。
 賢いルイーナに褒められると、つい嬉しくなってしまう。

「え、そ、そうかな?」

「ええ。人は根っこが見えませんもの。なにを考えているのか、見えたらどれだけいいか」

「……そうだなあ」

 微笑みを浮かべるルイーナは、幼い頃にオメガとしての機能を失い、脚も動かなくなっている。
 僕が知っているだけでも、ルイーナをコソコソとバカにする人間は多かった。
 一体どれだけ傷つけられてきたのかと、考えるだけで胸が痛い。

「だからお兄様も。ワッツガーゼン義兄様としっかり対応してくださいね。根っこが駄目な義弟だなんて、思われないように」

「うっ」

 口元を押さえ、ルイーナはウフフと笑う。

 賢いルイーナの言葉は巧みで、時々こうやって煙に巻かれることがある。
 結局自分の言葉が自分に返ってきてしまって、僕は唇を尖らせた。





 離宮の応接室に入ると、既に通されていたワッツガーゼンがソファに座っていた。
 短い赤毛と、そばかすの目立つ白い肌。
 つり目の三白眼が、ワッツガーゼンの性格をそのまま現しているようだ。

「来たか。随分待たせるじゃないか」

 ワッツガーゼンはそう言って、僕たちの姿を見るなり立ち上がり、ルイーナの車椅子を勝手に押す。
 シュルズよりはうんと低い身長だが、僕よりも高い。
 腕を伸ばして遮ろうとするが、あっという間にルイーナを移動させられてしまった。

「おい、やめろよワッツガーゼン。ルイーナは自分で車椅子を動かしたいんだって、知らないのか」

「はあ? 結婚しても相変わらずだな、お前は。妹に構ってないで、ダンナに構えよ」

「な……ッ!」

 ワッツガーゼンはうんざりしたような顔を向け、僕を気にせずルイーナの車椅子をソファの隣に置いてしまった。

「エディ兄様、いいんですのよ。ワッツガーゼン義兄様は、わたくしを気遣ってくださったんですから、そう怒らないで」

「そーそー。怒らないでェ? エディにいさまぁ?」

 ソファに座ったワッツガーゼンは、ルイーナの真似をしているつもりなのか、裏声を使って声真似をしてくる。
 ルイーナはしていないようなシナを作り、明らかに僕を挑発していた。

「ぐ、ぐぬ……」

 だが事前にルイーナに注意されていたため、僕は拳を握りながらも挑発に耐えた。
 向かい合わせのソファにボスンと乱暴に腰を下ろし、淹れてくれたお茶を一気に飲み干す。

「なんだ、エディッド、つまらねえな。結婚した途端に丸くなったのか」

 ワッツガーゼンもカップに手を伸ばし、そんなことを言ってくる。
 本当に、ルイーナはこいつのどこをどう見て「悪い人じゃない」なんて言えるんだろう。
 どこからどう見ても、僕をおちょくる嫌な男だろうが。

「ま、その調子なら城でもうまくやれてるようだな。心配するまでもなかったか」

「……僕を心配してたのか? お前が??」

 ワッツガーゼンはカップをテーブルに置き、ソファの背もたれに両手を広げて体重を預けている。
 脚を組む姿は柄の悪い三流貴族のようだ。
 きっと誰も、こんなだらしない男がマール公爵当主だなんて思うまい。

「お前を? まさか。ルイーナを心配してたんだっつーの」

「はあ?」

 ハンと鼻で笑う男は顎を上げ、憎たらしい顔をして僕を見下ろしてくる。

「いくら双子だからって、王家に妹連れで輿入れするなんて馬鹿な真似に付き合わされたんだ。心配くらいするだろ」

「それは」

 グッと言葉に詰まる。
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