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第十話-① エディッド様のおかげよ
普段よりも少しだけ胸元を華やかに装って、僕は王城の一角に足を踏み入れた。
王族の私室にほど近い庭園には、テーブルと椅子が用意されている。
咲き乱れる花よりも可愛らしい満面の笑顔が、明るく僕を出迎えてくれた。
「エディッドさま~! いらっしゃいませ!」
「今日はお招きありがとう、リュワッツ王子」
丁寧に腰を折ると、リュワッツ王子は目をぱちくりとさせる。
今日のリュワッツ王子は、お茶会の主催者だ。
こうやって客としての振るまいを見せるのも、いい勉強になるんだろう。
といっても参加者は僕とリュワッツ王子、二人きりだけど。
先日、離宮で一泊二日を過ごしたときのお礼のお茶会だという。四歳にして、なんとも義理堅いことだ。
ラーニャ妃は少し離れたところで、見守っている。
きっと彼女がこのお茶会の発案者なのだろう。
「これは手土産。気に入るといいけど」
「えっ」
差し出した箱を受け取ったリュワッツ王子は、ソワソワと周囲を見渡す。
メイドたちも、王子の年相応の姿を微笑ましい表情で眺めている。
側で控えていたラーニャ妃が、そっと助け船を出す。
「開けてもいいか、確認したらいいのよ」
「エディッドさま、開けてもいいでしゅか」
興奮のあまり、言葉を噛んだ。
普段大人びた態度を取っていたせいで、こういう些細な子どもらしさにはついキュンとしてしまう。
「もちろん」
許可を貰ったリュワッツ王子は、さっそく箱を開けて「わあ」と声を上げた。
「これは、なんですか?」
大きいものから小さいものまで、五個ほど用意させた。
上に細長いつまみがあり、捻って回す。
「独楽(こま)だ。そこの取っ手をもって、くるっと回す……こうやって」
「わっ……」
回転する独楽は、彫金が施されている。
はめ込まれた宝石に太陽の光が当たって、テーブルの上でチカチカと光った。
「みんなで遊んでくれ。でもこういうのは案外、子どもが一番上手いんだよな」
「うふふ。ボクが父上より上手だったら、どうしましょう」
「その時は、リュワッツ王子が教えてやったらいいさ」
箱を胸に抱えて上機嫌な王子の姿に、周囲は温かい空気が漂う。
すぐ近くで見つめているラーニャ妃は、目元をハンカチで押さえていた。
「本当に、エディッド様には感謝してもしきれませんわ」
「大げさだなあ」
箱をメイドに預けたリュワッツ王子と共に、椅子に腰掛ける。
「なあリュワッツ王子。ラーニャ妃も一緒でいいんじゃないか」
「えっ。いいんですか」
「大勢の方が、楽しいだろ」
僕の提案に、リュワッツ王子はラーニャ妃の元にピュンと走って行った。
遠慮するラーニャ妃の手をグイグイと引っ張って、テーブルへつれて来る。
大人に気を遣っていた少し前のリュワッツ王子からは、想像もできない姿だ。
「ごめんなさい、リュワッツが無理を言ってしまって」
テーブルに着きながら、ラーニャ妃は申し訳なさそうな顔をする。
「僕が言ったことだ。ラーニャ妃がいたほうが、リュワッツ王子も喜ぶし。なあ?」
「はい! 大好きなひとばっかりで、嬉しいです!」
「おっ、僕もリュワッツ王子が好きだから、一緒だな」
「いっしょ、嬉しいです」
ふっくらとした頬を両手で押さえ、リュワッツ王子はへにゃっと嬉しそうに笑った。
ラーニャ妃はまた目元をハンカチで押さえている。
どちらかといえば強気な印象があったが、こんなに涙もろい人だったのか。
カップに注がれていくお茶を見つめながら、ラーニャ妃はポツリと呟いた。
「息子と一緒にお茶を飲む……本当に、こんな日がくるなんて夢のようだわ」
何度も繰り返しそう呟くラーニャ妃だったが、僕から見れば理解しにくい。
先日「不仲な二人がリュワッツ王子を疎ましく思うなら、僕が代わりに育てるぞ」と宣言したことがきっかけで、どうやら母子の仲のみならず夫婦仲まで改善したそうだ。
オメガに免疫がなく不器用な王太子は、妻と子に歩み寄ることを覚え。
差別的な視線を感じてつい強がってしまったラーニャ妃も、素直に受け答えできるようになったのだとか。
夫婦の不仲が改善され、二人とも心からリュワッツ王子を大事にしていると判明した。
おかげで息子であるリュワッツ王子も、こうやって子どもらしい笑顔を浮かべられるようになったというわけだ。
いいことなんだとは思うが、僕がきっかけだと拝まれるのはなんだか、複雑だ。
「僕はなにもしてないし、家族みんなが幸せになったならよかったんじゃないか」
「いいえ、やっぱりエディッド様のおかげよ。ねえ、リュワッツ」
「はい! エディッドさまに「あたまが上がらない」って父上も言ってました」
焼き菓子を口の端に付けながら、リュワッツ王子までそんなことを言う。
「でも今思うと、どうしてあんなに拗れてしまったのか。私もリュワッツをあまり構っては威厳を損ねると言われて、つい納得してしまっていたし……」
ふうとため息をつくラーニャ妃の言葉を聞き流しそうになって、僕は途中で止めた。
王族の私室にほど近い庭園には、テーブルと椅子が用意されている。
咲き乱れる花よりも可愛らしい満面の笑顔が、明るく僕を出迎えてくれた。
「エディッドさま~! いらっしゃいませ!」
「今日はお招きありがとう、リュワッツ王子」
丁寧に腰を折ると、リュワッツ王子は目をぱちくりとさせる。
今日のリュワッツ王子は、お茶会の主催者だ。
こうやって客としての振るまいを見せるのも、いい勉強になるんだろう。
といっても参加者は僕とリュワッツ王子、二人きりだけど。
先日、離宮で一泊二日を過ごしたときのお礼のお茶会だという。四歳にして、なんとも義理堅いことだ。
ラーニャ妃は少し離れたところで、見守っている。
きっと彼女がこのお茶会の発案者なのだろう。
「これは手土産。気に入るといいけど」
「えっ」
差し出した箱を受け取ったリュワッツ王子は、ソワソワと周囲を見渡す。
メイドたちも、王子の年相応の姿を微笑ましい表情で眺めている。
側で控えていたラーニャ妃が、そっと助け船を出す。
「開けてもいいか、確認したらいいのよ」
「エディッドさま、開けてもいいでしゅか」
興奮のあまり、言葉を噛んだ。
普段大人びた態度を取っていたせいで、こういう些細な子どもらしさにはついキュンとしてしまう。
「もちろん」
許可を貰ったリュワッツ王子は、さっそく箱を開けて「わあ」と声を上げた。
「これは、なんですか?」
大きいものから小さいものまで、五個ほど用意させた。
上に細長いつまみがあり、捻って回す。
「独楽(こま)だ。そこの取っ手をもって、くるっと回す……こうやって」
「わっ……」
回転する独楽は、彫金が施されている。
はめ込まれた宝石に太陽の光が当たって、テーブルの上でチカチカと光った。
「みんなで遊んでくれ。でもこういうのは案外、子どもが一番上手いんだよな」
「うふふ。ボクが父上より上手だったら、どうしましょう」
「その時は、リュワッツ王子が教えてやったらいいさ」
箱を胸に抱えて上機嫌な王子の姿に、周囲は温かい空気が漂う。
すぐ近くで見つめているラーニャ妃は、目元をハンカチで押さえていた。
「本当に、エディッド様には感謝してもしきれませんわ」
「大げさだなあ」
箱をメイドに預けたリュワッツ王子と共に、椅子に腰掛ける。
「なあリュワッツ王子。ラーニャ妃も一緒でいいんじゃないか」
「えっ。いいんですか」
「大勢の方が、楽しいだろ」
僕の提案に、リュワッツ王子はラーニャ妃の元にピュンと走って行った。
遠慮するラーニャ妃の手をグイグイと引っ張って、テーブルへつれて来る。
大人に気を遣っていた少し前のリュワッツ王子からは、想像もできない姿だ。
「ごめんなさい、リュワッツが無理を言ってしまって」
テーブルに着きながら、ラーニャ妃は申し訳なさそうな顔をする。
「僕が言ったことだ。ラーニャ妃がいたほうが、リュワッツ王子も喜ぶし。なあ?」
「はい! 大好きなひとばっかりで、嬉しいです!」
「おっ、僕もリュワッツ王子が好きだから、一緒だな」
「いっしょ、嬉しいです」
ふっくらとした頬を両手で押さえ、リュワッツ王子はへにゃっと嬉しそうに笑った。
ラーニャ妃はまた目元をハンカチで押さえている。
どちらかといえば強気な印象があったが、こんなに涙もろい人だったのか。
カップに注がれていくお茶を見つめながら、ラーニャ妃はポツリと呟いた。
「息子と一緒にお茶を飲む……本当に、こんな日がくるなんて夢のようだわ」
何度も繰り返しそう呟くラーニャ妃だったが、僕から見れば理解しにくい。
先日「不仲な二人がリュワッツ王子を疎ましく思うなら、僕が代わりに育てるぞ」と宣言したことがきっかけで、どうやら母子の仲のみならず夫婦仲まで改善したそうだ。
オメガに免疫がなく不器用な王太子は、妻と子に歩み寄ることを覚え。
差別的な視線を感じてつい強がってしまったラーニャ妃も、素直に受け答えできるようになったのだとか。
夫婦の不仲が改善され、二人とも心からリュワッツ王子を大事にしていると判明した。
おかげで息子であるリュワッツ王子も、こうやって子どもらしい笑顔を浮かべられるようになったというわけだ。
いいことなんだとは思うが、僕がきっかけだと拝まれるのはなんだか、複雑だ。
「僕はなにもしてないし、家族みんなが幸せになったならよかったんじゃないか」
「いいえ、やっぱりエディッド様のおかげよ。ねえ、リュワッツ」
「はい! エディッドさまに「あたまが上がらない」って父上も言ってました」
焼き菓子を口の端に付けながら、リュワッツ王子までそんなことを言う。
「でも今思うと、どうしてあんなに拗れてしまったのか。私もリュワッツをあまり構っては威厳を損ねると言われて、つい納得してしまっていたし……」
ふうとため息をつくラーニャ妃の言葉を聞き流しそうになって、僕は途中で止めた。
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