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第十三話-② 見慣れた人物
だから大通りを歩き、大衆劇場からワッと大勢の人が流れ出て来たタイミングで、スルスルと人混みの間を通り抜けた。
後ろから近衛騎士がなにかを叫んでいたが、人が多いから仕方がない。
「ふっふっふ。騎士たる者、僕に撒かれるようではまだまだだな」
後ろに誰も着いてこないことを確認し、僕は浮き足だって市内を歩く。
少し歩いたところで「あ」と声が出た。
「しまった。お金を貰い忘れてたな」
特に買いたいものがあるわけではないが、せっかくなら買い食いの一つくらいしてみたい。
一旦戻ろうかと振り返った、その時だった。
「んう!?」
口元をゴツゴツとした手で押さえられ、一瞬で路地裏に引きずり込まれた。
バタバタを手足を動かして逃げようとしても、太い腕がそれを許さない。
「こいつに間違いないな」
「へえ。ピンクの髪と目、貴族らしい格好、間違いありやせん」
「しっかし、男に見えねえっすね。オメガってのはみんな、こうなんすか」
僕を捕らえた男は、一人ではない。
薄暗い路地で僕をジロジロと見下ろす男たちは三人いた。
端がすり切れた麻のシャツを着ていて、どうやらその辺の荒くれ者のようだ。
線の細い僕を拘束しているからか、油断で僅かに緩んだ手を僕は思いっきり噛んだ。
「いてぇ! こいつ、噛みやがった!」
離れた手から一気に逃げ出し、大通りに向かって走っていく。
「この……ッ、じゃじゃ馬が!」
「うっ!」
襟ぐりを掴まれ、壁に背中を打ち付けられた。
怒りに眉をつり上げる男は、手加減を知らないらしい。
僕は震える膝を叱責し、キッと男を睨み付ける。
「何が目的だ! だ、誰に頼まれたんだ!」
声が、震える。
だけど怯むわけにはいかない。
男はバカにした様子で僕を見下ろすと、片頬を上げて「はあ~?」と笑った。
「言うわけねえだろ?」
「そうそう。大金積まれたんだ、お前をめちゃくちゃにしてやれって」
「言ってんじゃねえすか」
ぎゃははと下卑た笑いが響く。
だが僕の肩を押さえつける手は、全く緩むことはない。
「金貰ってイイことできるんだから、オイシイよなあ?」
「自分、オメガは初めてっす」
男がズボンを下げようとする仕草に、吐き気がこみ上げる。
僕を抑え込む男が「順番だ」と蹴っているが、秩序なんてここにはない。
こんな男たちに、僕は。
ギュッと拳を握って耐えようとしても、カチカチと奥歯が鳴った。
でもだからといって、易々と組み敷かれるほど僕は安い男ではない。
機を狙って、絶対にここから脱出してやる。
押さえつけてくる男を睨み付けるものの、男はフムと僕の顔をのぞき込んできた。
「しかし、本当に同じ顔だなあ――」
「え……?」
男の言葉に、僕は大きく目を見開いた。
だがその時だった。
目の前にいたはず男が、顔面から吹き飛んだ。
派手に飛んだ男の身体は、路地奥にある木箱に当たって二・三度跳ねた後、ピクリともしない。
「な……っ?」
「お、お頭ぁ――ぎゃあっ!」
仲間の男たちも動揺の声を上げながら、地面に沈み込む。
「いてえ、いてえよお……」
殴られた頬を押さえながら、男はヒイヒイと情けない声を上げている。
そんな声に耳を貸すこともなく、太陽を背にまっすぐに男たちを見下ろす人物は。
「殺されないだけ、感謝してほしいな」
「……シュルズ……」
「エディ、大丈夫? 護衛騎士とはぐれたと聞いた時には、肝が冷えたよ」
まさか自分で騎士を撒いたとは言えない。
気まずさはあるものの、助けてくれたのは事実だ。
「あの……ありがとう」
「無事でよかった。怪我は? なにかされていない?」
頬にシュルズの手が触れる。
安全を確認するような、心配する碧の瞳に見つめられて泣きそうになった。
震える手で思わずシュルズの腕を掴むと、そのまま胸に抱き寄せられた。
ふわりと香る甘い匂い。
それから耳に落ちる、底冷えするような声。
「どうせ処刑が決まってるんだから、この男たちはここで殺してしまおうか」
シュルズの言葉に、蹲る男たちが震えた。
「な、なんなんだよお! 俺たちはただ、金を貰って引き受けただけだ!」
「誰に?」
「し、知らねえ! 俺たちが貴族の名前を知るわけねえだろ!」
「なら、生かしておく理由もないね」
護衛騎士から受け取ったのか、シュルズは腰に下げていた剣をスルリと引き抜いた。
「ひいい……ま、待て! 同じだった、おんなじだった!」
へたり込む男はズリズリと後ずさりしながら、シュルズに向かって命乞いをする。
同じ。
その言葉に、僕は背筋に嫌な汗が伝う。
男が、僕を指さし叫んだ。
「そいつと、同じ顔をした、同じ髪色の奴に頼まれたんだ!」
目の前がグラリと歪むようだった。
シュルズに抱き留められていなければ、倒れていたかもしれない。
僕と同じ顔をした、同じ髪色の人間。
普通なら、男が命惜しさに戯れ言を言っていると断じられるだろう。
だが僕には、いる。
同じ顔をした、双子が――。
路地裏に、カツンと靴音が響く。
「いやだわ、やっぱりごろつきなんて雇うものじゃないわね」
奥から静かに歩いてきた人物がいた。
まず見えたのは、茶色の編み上げブーツ。
僕とお揃いで購入したものだ。
それからズボンにジャケット。
僕のクローゼットに並ぶ服でもある。
長い髪の毛は後ろに結ばれて、ジャケットの中に隠されているのだろう。
普段浮かべている穏やかなピンクの瞳は細められ、今は侮蔑の色が浮かんでいた。
「ごきげんよう、お兄様」
「……ルイーナ」
ズボンの端をまるでドレスのようにつまみ、ルイーナは腰を下ろして淑女の礼をする。
後ろから近衛騎士がなにかを叫んでいたが、人が多いから仕方がない。
「ふっふっふ。騎士たる者、僕に撒かれるようではまだまだだな」
後ろに誰も着いてこないことを確認し、僕は浮き足だって市内を歩く。
少し歩いたところで「あ」と声が出た。
「しまった。お金を貰い忘れてたな」
特に買いたいものがあるわけではないが、せっかくなら買い食いの一つくらいしてみたい。
一旦戻ろうかと振り返った、その時だった。
「んう!?」
口元をゴツゴツとした手で押さえられ、一瞬で路地裏に引きずり込まれた。
バタバタを手足を動かして逃げようとしても、太い腕がそれを許さない。
「こいつに間違いないな」
「へえ。ピンクの髪と目、貴族らしい格好、間違いありやせん」
「しっかし、男に見えねえっすね。オメガってのはみんな、こうなんすか」
僕を捕らえた男は、一人ではない。
薄暗い路地で僕をジロジロと見下ろす男たちは三人いた。
端がすり切れた麻のシャツを着ていて、どうやらその辺の荒くれ者のようだ。
線の細い僕を拘束しているからか、油断で僅かに緩んだ手を僕は思いっきり噛んだ。
「いてぇ! こいつ、噛みやがった!」
離れた手から一気に逃げ出し、大通りに向かって走っていく。
「この……ッ、じゃじゃ馬が!」
「うっ!」
襟ぐりを掴まれ、壁に背中を打ち付けられた。
怒りに眉をつり上げる男は、手加減を知らないらしい。
僕は震える膝を叱責し、キッと男を睨み付ける。
「何が目的だ! だ、誰に頼まれたんだ!」
声が、震える。
だけど怯むわけにはいかない。
男はバカにした様子で僕を見下ろすと、片頬を上げて「はあ~?」と笑った。
「言うわけねえだろ?」
「そうそう。大金積まれたんだ、お前をめちゃくちゃにしてやれって」
「言ってんじゃねえすか」
ぎゃははと下卑た笑いが響く。
だが僕の肩を押さえつける手は、全く緩むことはない。
「金貰ってイイことできるんだから、オイシイよなあ?」
「自分、オメガは初めてっす」
男がズボンを下げようとする仕草に、吐き気がこみ上げる。
僕を抑え込む男が「順番だ」と蹴っているが、秩序なんてここにはない。
こんな男たちに、僕は。
ギュッと拳を握って耐えようとしても、カチカチと奥歯が鳴った。
でもだからといって、易々と組み敷かれるほど僕は安い男ではない。
機を狙って、絶対にここから脱出してやる。
押さえつけてくる男を睨み付けるものの、男はフムと僕の顔をのぞき込んできた。
「しかし、本当に同じ顔だなあ――」
「え……?」
男の言葉に、僕は大きく目を見開いた。
だがその時だった。
目の前にいたはず男が、顔面から吹き飛んだ。
派手に飛んだ男の身体は、路地奥にある木箱に当たって二・三度跳ねた後、ピクリともしない。
「な……っ?」
「お、お頭ぁ――ぎゃあっ!」
仲間の男たちも動揺の声を上げながら、地面に沈み込む。
「いてえ、いてえよお……」
殴られた頬を押さえながら、男はヒイヒイと情けない声を上げている。
そんな声に耳を貸すこともなく、太陽を背にまっすぐに男たちを見下ろす人物は。
「殺されないだけ、感謝してほしいな」
「……シュルズ……」
「エディ、大丈夫? 護衛騎士とはぐれたと聞いた時には、肝が冷えたよ」
まさか自分で騎士を撒いたとは言えない。
気まずさはあるものの、助けてくれたのは事実だ。
「あの……ありがとう」
「無事でよかった。怪我は? なにかされていない?」
頬にシュルズの手が触れる。
安全を確認するような、心配する碧の瞳に見つめられて泣きそうになった。
震える手で思わずシュルズの腕を掴むと、そのまま胸に抱き寄せられた。
ふわりと香る甘い匂い。
それから耳に落ちる、底冷えするような声。
「どうせ処刑が決まってるんだから、この男たちはここで殺してしまおうか」
シュルズの言葉に、蹲る男たちが震えた。
「な、なんなんだよお! 俺たちはただ、金を貰って引き受けただけだ!」
「誰に?」
「し、知らねえ! 俺たちが貴族の名前を知るわけねえだろ!」
「なら、生かしておく理由もないね」
護衛騎士から受け取ったのか、シュルズは腰に下げていた剣をスルリと引き抜いた。
「ひいい……ま、待て! 同じだった、おんなじだった!」
へたり込む男はズリズリと後ずさりしながら、シュルズに向かって命乞いをする。
同じ。
その言葉に、僕は背筋に嫌な汗が伝う。
男が、僕を指さし叫んだ。
「そいつと、同じ顔をした、同じ髪色の奴に頼まれたんだ!」
目の前がグラリと歪むようだった。
シュルズに抱き留められていなければ、倒れていたかもしれない。
僕と同じ顔をした、同じ髪色の人間。
普通なら、男が命惜しさに戯れ言を言っていると断じられるだろう。
だが僕には、いる。
同じ顔をした、双子が――。
路地裏に、カツンと靴音が響く。
「いやだわ、やっぱりごろつきなんて雇うものじゃないわね」
奥から静かに歩いてきた人物がいた。
まず見えたのは、茶色の編み上げブーツ。
僕とお揃いで購入したものだ。
それからズボンにジャケット。
僕のクローゼットに並ぶ服でもある。
長い髪の毛は後ろに結ばれて、ジャケットの中に隠されているのだろう。
普段浮かべている穏やかなピンクの瞳は細められ、今は侮蔑の色が浮かんでいた。
「ごきげんよう、お兄様」
「……ルイーナ」
ズボンの端をまるでドレスのようにつまみ、ルイーナは腰を下ろして淑女の礼をする。
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