メゴ ~追いやられた神子様と下男の俺~

てんつぶ

文字の大きさ
9 / 9

エピローグ

 いつも通りの朝。日の出と共に目が覚めて、小さなタライを持って近くの井戸に水を汲みに行く。
「きゃー、メゴ様! そんな事なさらないでください! 我々がしますから!」
「いや……暇だし」
 しかし僅かな時間だというのに、もう既に働き始めていた神官の一人に見とがめられてしまった。こうなるから、そうっと人気の無いルートを選んできたと言うのに。
「メゴ様のお仕事は、神子様のお側にいることですから! その他のことは我らが行います!」
「……ハイ」
 そう言われれば返す言葉も無い。
 だけど長い間働いていた習慣を、急に取り上げられてはやることが見つからない。
 昨日はミコト様の服を繕ってみようかと思ったけど、あの人の服は神殿側が管理しているせいかシミ一つ無い。
 一昨日は確か、部屋の掃除をしようかと思ったけど。こちらも定期的にやってくる人が綺麗にしてくれるためやることが殆ど無かった。
 暇を潰す、という事を人生でやったことが無い為、どうにも身の置き場が無くてソワソワしながら生きている。
 ミコト様と婚姻を結び、神子の伴侶として神殿で一緒に暮らし始めて一ヶ月。自分自身はただの平民だというのに、まるで自分まで偉くなってしまったかのような扱いを受けている。
 正直、落ち着かない。
「……おっと」
 与えられた自室の隣、ミコト様の寝室という名の、夫婦の部屋の前で俺は足音を消す。
 まだ寝ているだろうミコト様を起こさないように、そうっと扉を開けて入る。
 天蓋付のベッドの中で、彼はシーツにくるまったままで寝てくれているようだ。良かった。
 バレないようにそっとシーツをめくって、ベッドの中へと身体を滑らせると。
「おはよう、メゴ。毎朝毎朝、働き者だの」
 ……バレてたらしい。
 巻き付いてくるその太い腕に、抵抗すること無く包み込まれた。随分食も太くなったというのに、まだまだ俺はすっぽりとミコト様の腕の中に収まってしまう。
「新婚のうち位は、こうやって朝を迎えてもいいんでないか? それとも、可愛がり足りない?」
「ちょ、……っ、朝から、何をっ」
 差し込む柔らかな日の光の中で、夜の雰囲気を浮かべるのは止めて欲しい。
 それでなくても、毎晩手を出してくる人なのに。
 周囲が言う「神子様のお側に」いる事がこれを指しているなら、笑えない。
「まって、何処触って……!」
「なんだかんだ、おは元気だよの? あれだけヤって、朝からクルクル動くんだし」
「こ、こら……! 止めてください! 朝から、はしたない!」
 まさぐってくるその手を、軽くはたき落とす。だけどミコト様はそれに気を悪くした様子も無く、ふああと大きなあくびをした。
「体力の差かな? オレも、鍛えようかな?」
「ミコト様は浄化のお仕事だけじゃなくて、治療までされてるじゃないですか。少しでも休んだ方が良いんですよ」
 そう、ミコト様は歴代の神子様以上の能力を持つと、あの一件で神殿側にはバレてしまっている。
 本気を出せば難病でも治してしまうらしいが、全ての人を癒やすことは出来ないからと、彼は主に金の無い平民達の病気を、自己回復出来るギリギリまで治しているんだとか。一気に治してしまうと人はそれをアテにしてしまうとのミコト様の言葉に、今まで歩んできた彼の人生に興味を持った。
「あ、そうだメゴ。今日はあれ食べたい。前に作ってくれた、ちょっと酸っぱいの」
「……? ああ、コナの実をかけて焼いたやつですかね? でもあれ平民の食べ物ですよ」
「あれがいい。メゴが作ったあれが食べたい。あれを食べないと仕事しない」
 ミコト様はそう言って、俺の身体をぎゅうぎゅうと抱きしめた。
「まったく……。はいはい、分かりました。今日はそれを作りますかね」
 呆れながらも、俺はこの人の優しさを理解していた。
 日々を持て余している俺に、役割を与えてくれるのだ。ただ余所者の俺が厨房を使っては角が立つから、神子様のワガママという体でやらせてくれる。
 それが分かっているからこそ、ミコト様がそうするように俺も知らんぷりをして頷くのだ。
「ありがとの、メゴ」
「……こちらこそ」
 そろそろ朝を告げる鐘が鳴る頃だ。
 窓から入るのは爽やかな風と、小さな小鳥のさえずりだけ。

――完――

感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

いちこ
2023.02.18 いちこ

こんにちは。
完結まで程よくサクッと読めて、すごく面白かったです。
東北なのか沖縄なのか鹿児島なのかって思ってました。
たぶん東北?
男前神子良いですね。

できれば番外編ほしいです。

解除
なぁ恋
2023.02.16 なぁ恋

可愛い❤
最高の物語!
幸せ気分にどっぷりつかった( ˶ˆ꒳ˆ˵ )✧︎

ご馳走様でした❤
後日談読んでみたいです!!


ちょっと*ご報告*

かわいい、めご

の中の

過去にしていたおなざりの……は、
…………………おざなりの
かも。しれない。

解除

あなたにおすすめの小説

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

あなたの愛したご令嬢は俺なんです

久野字
BL
「愛しい令息と結ばれたい。お前の家を金銭援助するからなんとかしろ」 没落寸前の家を救うため、強制的な契約を結ばれたアディル。一年限りで自分の体が令嬢に変わる秘薬を飲まされた彼は、無事に令息と思いを通じ合わせることに成功するが……

声を失った悪役令息は北の砦で覚醒する〜無詠唱結界で最強と呼ばれ、冷酷侯爵に囲われました〜

天気
BL
完結に向けて頑張ります 5月中旬頃完結予定です その後は、サイドストーリーをちょこちょこ投稿していこうと思ってます

呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない

波崎 亨璃
BL
ーーー呪われた辺境伯に捕まったのは、俺の方だった。 異世界に迷い込んだ駆真は「呪われた辺境伯」と呼ばれるレオニスの領地に落ちてしまう。 強すぎる魔力のせいで、人を近づけることができないレオニス。 彼に触れれば衰弱し、最悪の場合、命を落とす。 しかしカルマだけはなぜかその影響を一切受けなかった。その事実に気づいたレオニスは次第にカルマを手放さなくなっていく。 「俺に触れられるのは、お前だけだ」 呪いよりも重い執着と孤独から始まる、救済BL。 となります。

悪役令嬢と呼ばれた侯爵家三男は、隣国皇子に愛される

木月月
BL
貴族学園に通う主人公、シリル。ある日、ローズピンクな髪が特徴的な令嬢にいきなりぶつかられ「悪役令嬢」と指を指されたが、シリルはれっきとした男。令嬢ではないため無視していたら、学園のエントランスの踊り場の階段から突き落とされる。骨折や打撲を覚悟してたシリルを抱き抱え助けたのは、隣国からの留学生で同じクラスに居る第2皇子殿下、ルシアン。シリルの家の侯爵家にホームステイしている友人でもある。シリルを突き落とした令嬢は「その人、悪役令嬢です!離れて殿下!」と叫び、ルシアンはシリルを「護るべきものだから、守った」といい始めーー ※この話は小説家になろうにも掲載しています。

家に帰ったら、妻は冷たくなっていた。突然シングルファザーになった勇者パーティーの治癒師は家族を修復したい

八朔バニラ
ファンタジー
勇者パーティーに所属し、魔王討伐した治癒師(ヒーラー)のゼノスは街の人々の歓声に包まれながら、3年ぶりに家に帰った。家族が出迎えてくれると思ったが、誰も出迎えてくれない。ゼノスは不満に思いながら家に入ると、妻の身体は冷たくなっていた。15歳の長男ルミナスはゼノスの代わりに一家の柱として妹を守り抜き、父に深い拒絶のこもった瞳を向けていた。そして、8歳の長女ミリアは父の顔も忘れていた。 ゼノスは決意する。英雄の肩書きを捨て、一人の不器用な父親として、バラバラになった家族の心を繋ぎ合わせることを。 これは世界最強の治癒師が家族を修復する物語である。