オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい

広原琉璃

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第2章 冒険者1~2か月目

23話 負け筋論【中編】

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 ドアを開けると、机の上で色々資料をまとめているアルムが居た。
 資料をひとまとめにして、トントンを不揃いな部分を整えた後、彼はオレの方を向く。

「いらっしゃい。そこ、座っていいぞ」
「失礼します」

 オレはアルムの対面にあたる椅子に座る。

「んで? 用件は」
「戦い方について悩んでいて。それで、サディエルからアルムに聞いたらどうだって」
「あいつ……僕が説明苦手なのわかってて……いや、僕が説明した方が早……くないんだけど」

 あれこれとここにいないサディエルに文句を言いながらも、アルムは適当な紙を1枚取り出して、オレに渡してくれる。

「僕らの文字で書いてもあとで読み返せないから、悪いが自分で書いてくれ」
「了解」

 確かに、アルムに書いてもらっても読めないもんな。
 そうなるとオレが自分で書くしかない、うん。
 ペンも貸してもらって、準備が出来たこと合図するとアルムは話始めた。

「さてと……戦い方、ひいては前衛、中衛、後衛のどれを選ぶか、なわけだが……具体的になにで悩んでる?」

 具体的、具体的か。
 そうだな、しいて言葉にするとしたらとなると……

「まず、どの立ち位置なら戦闘時に皆に貢献出来るかなって」
「はい、ダメ」

 音速ダメ出し!

「変な方向に違う目標作ったうえで、最短を行こうとするな」

 え、今ので最短行こうといこうとしたって、どゆこと。
 しかも、違うの目標って、違わないよな!?

「最終的にパーティに貢献出来る、志は素晴らしい。だが、まず武器なり魔術なりを『使えるように』なってから見るべきことであり、使えない武器を持って適当に振り回されて、それが貢献になるわけがない。というか、本来の目標を忘れている」
「本来の目標? えーっと、戦い方を学ぶのはそもそも……あ、自衛力」
「そう。死なない為に自分の身を守ること、だ。その対象はヒロト自身であって、僕らは含まない」

 そうだった……今のオレに求められてることは、自衛力だった。
 サディエルも最初からずっと言ってたじゃん、まず自分自身の身を守れることが前提だって。

「大方、決め手に欠けるから、それらしい理由が欲しくてあれこれ考えた結果そういう結論になったんだろうが」

 うぐっ、言い返せない。

 実際、あれこれ考えていて、結局決められなくて、それならばちょっとでもサディエルたちの役に立つ方法をって考えての今だからな。
 けど、その結果が目標達成表でさんざん注意されてた最短ルートに直結してるなんて……
 意識したつもりはなかったけど、やっぱ無意識的にやってしまうことなんだな、これって。

 悪いことじゃない、はずなんだけどさ……最短を考えるってこと。

「自分がやってみたいことで、自衛出来るように、って考えで決めればいい」

 自分がやってみたいって……
 それで決めることが出来るなら苦労しないというか。
 それだったら、そりゃ剣士なわけだけど、流石に現状だと無理だなって思うから……ダメだ、思考が最初に戻った。

「……まっ、難しいか。個人的な意見としては後衛をお勧めするが、決めるのはヒロトだしな。参考情報として、前衛、中衛、後衛の役割について説明しよう」

 それぞれ書いとけよ、と言われてオレは慌てて目の前の紙にそれぞれ書き込む。
 大まかに想像こそつくけど、やっぱここでの定義確認は大事だし。
 ただでさえも、想像の斜め上なことばっかり起こりすぎてるからな、うん。

「まず、前衛は勝ち筋を作り、後衛は負け筋を潰し、中衛はそのカバー。これを念頭に聞いてくれ」
「はい」
「前衛は一番分かりやすいく、勝つために動くことだ。相手の親玉を倒すとか、一番強いやつと対峙すること」

 それは確かに分かりやすい。
 だいたいの漫画や小説、ゲームなどでいう主人公ポジションだ。
 ラスボスなんかと対決するのも、だいたい前衛になるわけだし、一番強い力を持っている、もしくは潜在能力を秘めているって感じだよな。

「ぶっちゃけると、深く考えないで直感と条件反射で動けるような奴が向いてる」
「そんな何も考えてないみたいな言い方」
「事実だ。実際、対峙する相手の敵対心を煽って、余裕無くさせることも大事な仕事だ……が、体力がめっちゃいる」

 だよなぁ、やっぱ体力がネックになるよな。
 実際、魔物との戦闘でサディエルほぼ動きっぱなしだったし、よく体力持つなって本気で関心してたもん。

「中衛は、前衛と後衛どちらかのバランスが崩れた時にフォローをする。攻撃補助したり、前衛が仕留めそこなった所を追撃するとかな」

 あれ、その内容だとリレルが中衛なのはちょっと違うよな?
 ランサーとはいえヒーラーでもあるから、後衛だと思っていたけど。

「後衛をフォローすることは滅多にない。というのも、後衛が先に危なくなるってことは、作戦の序盤~中盤に想定外があった場合が大半だ」
「あー、複数の対人戦ゲームであるなそれ。防衛ラインの横をすり抜けてそのまま裏取り、からの後衛をピンポイント狙い撃ち! みたいな」
「仮にそうなった場合、後衛は自衛に専念せざる負えないから、中衛が戦術を引き継ぐ形になる。戦いながらそこまでに出た指示と敵の動きを総括して、後の作戦を微調整しながら動くことになるから、優勢なら気が楽だが、劣勢だと一番忙しない」

 体力半分、頭半分……体力に割かなくていい分、汎用性が求められるってわけか。
 うーん、あれかバランス型、悪く言えば器用貧乏。

「これは一般的な中衛の話。うちの場合、リレルの奴がちょっと特殊でな。本来ヒーラーも後衛のはずなんだがな」
「あ、後衛認識であってたんだ。って、リレル……そんなに特殊か? 先日の戦闘だけだと、普通な感じがしたけど」
「………」

 オレと問いかけに、アルムは無言になる。
 そして何か思い出したのか顔を左右に振った後

「そのうち嫌でも分かる」
「こういう場合、だいたいろくでもない理由だから、出来れば永遠に知りたくないんですが」
「諦めろ」

 諦めたくないです、叶うならば。
 いや、何で顔色悪いんですか。何ですか、狂戦士にでもなるんですか、バーサーカーですか。
 ヒーラーがバーサーカーとか結構シャレにならない気もするけど。
 
 いや、バーサーカーってるヒーラーも意外とあるあるだったわ。
 ごめん、そこだけはぜひとも、ねーよ、判定でお願いします。

「……最後に、後衛なんだが」

 アルムもこれ以上この話題に触れない、という選択肢を取ったな、こりゃ。
 
「役割としては前衛とは真逆で、負け筋を潰すことだ。周囲の確認はもちろん、前衛が強敵と対峙してる時なんかは、他に視線を向けている余裕がないから、そこをフォローする必要がある」

 負け筋を潰す、かぁ。
 言葉通りなら、負ける要素を消していくって感じなわけだけど……

「なんか難しそうだな、負け筋を潰すって……色々な可能性を考慮するってことだよな」
「ん? 負け筋潰しはそこまで難しくないぞ」
「えぇ……それ、アルムがずっとやってるから、難しくない判定なんじゃないの?」

 内容だけなら軍師ポジだよ、軍師ポジ。
 あと、特定のポジションに長く居すぎると、自分自身は普通のことでも、他の人からは1段階も2段階も10段階も上なことやってるとか、よくあるパターンだからな。

「いや、本当に難しくないから。むしろ日常的に訓練出来るし、前衛や中衛を将来的に見据えるなら、まず後衛一択だ。初心者なら尚の事、まず負け筋を学ぶべきだと僕は思うよ」
「どのあたりが!? 日常的に負け筋考えるって、どれだけ戦闘狂なの!?」
「いや、戦闘だけで括るから難しく聞こえるんだよ。本当に日常会話程度で出来るんだ」

 うっそだー……
 日常会話で? え、どこでそんなことできるの。

「オレが今まで聞いてきた会話で、それらしい内容なんて1つもなかったような気がするんだけど」
「……ヒロト、まさかだけど……僕ら、特にサディエルはずっと"負け筋"の視点で君に話してたの、気づいてなかったのか?」

 ………え?

 アルムの言葉に、オレは一瞬思考がついていかなかった。
 えーと、誰が、何視点でずっと喋っていた?

「アルム、ワンモア」
「わんもあ……?」
「もう一回お願いします」
「あぁそういう意味な……今まで君に説明してきたことのほぼ全てが、"負け筋"視点だったぞ」

 うん、よくわからん!
 今まで、特にサディエルが説明してきたことのどこが"負け筋"なわけ!?

「……ヒロト」
「はい、なんでしょう、アルム……」

「さすがの僕もサディエルが可哀そうになったから、ちょっとおさらいするか」
「お願いします……」

 なんつーか、本当にごめんサディエル。
 今頃、リレルの最終検査を終えてついでに説教食らっているであろう彼を思い出し、心の中で両手を合わせて謝罪しておく。
 え? なんで説教かって?

 リレルが全然笑ってない顔で、サディエルを部屋に迎え入れたからです。
 
「えーと、そもそもだな。僕らが君と出会ってから説明した内容は、どんなことだったか覚えてる?」
「この世界についてと、どんな事でも体力は必須だぞ、エルフェル・ブルグがめっちゃ凄い場所、あとは……」
「…………いやまぁ、うん、だいたい分かった」

 オレの返答を聞いて、アルムは右手で顔を覆って天井を仰ぐ。

「まさか一番大事な部分が伝わってなかったとは……逆に遠回し過ぎた、違うな、回りくどい? いや結論をわざと言ってなかったなアイツ。もしかして気づくの待ちだった……? 普段ならそんなことしないはずなんだが」
「えーっと、アルム。熟考してるところ申し訳ないけど、そろそろ回答お願いしたいです。オレ、心当たりないです」
「あー……そうだな、この際さくっと言っといたほうがいいな」

 はー、とため息を吐いた後、アルムはオレを見て

「結論を言うと首尾一貫で、あいつは『ヒロトが死なない為に必要なこと』しか言ってないぞ」
「……はい?」
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