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第一章

第二十八話 星空に瞬く者たち

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 上着を脱ぎ、Tシャツのみでマリアは腰かけていた。

「大佐も眠れないんですか?」

 適切な距離を保ちながら、レイはマリアの隣に腰を下ろした。

「…ああ」

 彼女の表情には陰がある。それは今までレイが一度も見た事がないものである。
 俯き加減で曇った表情のマリアというのは、今まで共に行動してきた中では想像し難いものだった。

「…昼間の事は、大佐の責任じゃないですよ」
「そうかもしれない…でもそれでは納得できないのだ。
 私たちは誇りと正義のために戦っている、そう教えられていたはずなのに…」

 マリアは深く溜息をついた。

「…結局お飾りに過ぎないのは、軍にいても王室にいても変わらんというわけか」
「王室?」
「なんだ、知らないのか? 少尉辺りが教えているとばかり思っていたが…」

 少し間を置いて、彼女は言った。

「私はな、当代アズリエル国王・リチャード王の娘だ」
「…え⁉︎」

 リチャード王。
 直接会ったことは一度しかないが、レイはその顔を鮮明に覚えていた。
 あの濁りきったような両眼は、忘れようとしても中々忘れられるものではない。
 レイは改めて彼女の顔を見た。
 あの深い陰りを含んだ形相と、誰の目から見ても人形のように美しい容貌のマリアは、どう足掻いても結びつかなかった。

「お、王女様…になるわけですか?」
「いいや、そうはならなかった。私は何十人もの側室の一人が生んだ子供に過ぎないからな」
「な、何十人もの側室って…マジかよ、あの王様」

 レイは驚くのを通り越して呆れてしまった。
 軟派な一般人や芸能関係者ならまだしも、国のトップに当たる人間が過剰に女性関係が派手というのは、羨む気持ちよりも蔑む気持ちの方が勝る。

「仕方のない話さ。王室関係者でもあり、さらには英雄譚まで持っているからな」
「英雄譚? って確か、ジョルジュとかいうテロリストを倒したとかいう話でしたっけ」
「それもあるし、加えてあの男はジョルジュに破壊された王立孤児院出身で、まだ若干12歳でジョルジュに立ち向かい勝った。
 孤独な身の上に加え途方もない力を持ったあの男は、瞬く間に勇者と呼ばれ、軍隊のトップにまでのしあがり…そして最終的にはヘイリー王妃と結婚し、晴れて王族入りというわけさ」

 マリアが父をあの男呼ばわりするところに、彼女の本音が見えた気がした。

「私が生まれた2年後に、正室であるヘイリー王妃が義弟おとうとのニコラス王子を産んだ。
 正式な王位継承権はニコラスに渡り、私は王室のプロパガンダ用の人形に成り下がったわけさ」
「…しかしまた、なんで軍隊に?」
「王位継承権のない私は、ただ大衆の前に引っ張り出されて、愛想を売るだけだ。
 私は私自身の力を示したかった…そうすれば妾の子と陰で罵られることもない、王家の人形でない私自身の人生が掴める、そう思っていたんだ」

 そうして彼女は俯いた。

「しかし現実はこの有り様だ。私の存在はアズリエル軍の正当化や神格化に使われ、王室にいたときと何も変わらない。
 聖アズリエル騎士団大佐なんて仰々しい地位を与えられても、結局は上の方針に従うだけの操り人形だ」
「…そんな事はないと思いますが」

 レイは口を開いた。

「アズリエル最強と呼ばれる猛者達を統率し、まとめ上げれる器なんてそうそういないでしょう。
 それは大佐の人徳と実力以外の何物でもないはずです」

 少し驚いた表情の後、マリアは微笑んだ。

「…ありがとう。優しいんだな」
「大佐が可愛いからです」
「台無しだ!」

 レイとマリアは、二人で笑いあった。上官とここまで打ち解けた話が出来るとは、普通は考えられないだろう。
 それが出来るのはまさしくマリアの人徳の成せる業である。

「…星が綺麗ですね」
「ああ、そうだな」
「でも大佐の方が綺麗です」
「馬鹿なのか?」

 そんな風にやり取りをしながら、二人は空を見ていた。
 すると、突如として星が瞬いたような強い輝きを、レイは目にした。

「…?」
「どうした?」
「いや…何か…」

 一つだけではない、多くの星が瞬いていた。しかもそれが流星のように、地面にゆっくりと近づいている。
 何やらレイは奇妙な違和感を感じざるを得なかった。

(一体何だ?)

 レイは遠視魔法の術式を両眼に展開した。

(…あれは‼︎)





 ドォォン!





 それが何か気付いた瞬間、後方で爆音が響いた。

「何だ⁉︎」
「敵襲です! 奴ら、上空から奇襲をかけてきました‼︎」

 レイは確かに見た。
 上空から輝く飛行術式を纏った、人型の龍のような生き物が多数降下してくるのを。



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