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第二章
第三話 最初の喪失
しおりを挟むその夜は、レイ達にとって何度目かのパーティーだった。
だが今夜は様子が違った。
これが予定されている最後のパーティーである上、国家首脳陣が直々に参加する予定だった。
そして会場はアズリエル総行政府とあって、これまででも最大の規模であった。
さらにはレイや国王のスピーチは中継放送されるらしい。
否が応でも国民は沸き立った。
4人はパーティーが開かれているホールとは別に、重要人物だけが集まるVIPルームとでも言うべき場所に最初に通された。
そこには現国王リチャードと、その息子ニコラス王子、そしてこの国のトップ達が勢揃いしていた。
その中には将軍であるバリー・コンドレンの姿もあり、その他閣僚も何人かが揃っている様子である。
「此度の件は見事であった…誇るがいい」
相変わらずその両眼は濁った硝子玉のようであり、他人を畏怖させた。
口の端を吊り上げるような笑い方に、レイは常に不快感を覚える。
今日のように茶番を演じさせるときなどは、特に酷い。
一方で、その横に控えるニコラス王子は父の面影など欠片もなく、にこやかにレイ達を労った。
「救国の勇者とお話できるとは、光栄です。私が第一王子、ニコラス・アレクサンドルです」
「あ、はい…」
姉のマリアもだが、二人とも母親似なのだろうかとレイは感じた。
あまりにも父親の面影が無さすぎるからだ。
清潔でサラサラと靡く黒髪、澄んだ瞳、そしてモデルのように整った顔立ちと体型は、まさしく”王子”といった趣だ。
「悪の権化、魔王を討ち取ったその功績。全国民が知っているよ」
アーロン国防長官が四人と握手した。
レイは内心、彼の事も信用ならないと思っていた。
現在の亜人排斥ムードは、彼の言論によるものだと聞いていたからだ。
「いやはや、君たちのお陰で頭痛の種が減ったよ。はっはっは」
レイがその顔を直接見るのは、これが初めての機会だった。
バリー・コンドレン将軍、殲滅戦を命じた軍上層部の一人である。
その瞬間、四人の顔が途端に険しいものになった。
次第に眉間に皺が寄るのを、レイ自身でも感じられた。
「おいおい、そんな顔をしないでくれ。誰が敵かわからない以上、ああするしかなかったのさ」
「……確かにそれは全員ムカついてるが、俺はそれだけが言いたいんじゃない」
全員の顔を見た。
「あんたらは俺に情報を伏せてたな。
ミスリル資源の事も、ディミトリ共和国の事も、開拓の負の歴史も!
俺が異世界から来たのにつけ込んで、都合のいい事だけ教えて、自分たちの操り人形にしやがったな‼︎」
レイの言葉に一瞬ポカンとした表情を浮かべ、やがて将軍たちが声を上げて大笑い始めた。
その中でジョセフィーン・メイやフランシス・トロワといった人間だけは目を伏せたが、それに高笑いする下衆な人間たちが気付く事はなかった。
さも可笑しい物を見る目で、鼻でせせら笑いながらリチャード王が言った。
「何を言うと思えば、そんな下らない事か?
確かに我が王国には負の歴史はある。
だがそれと今回の戦争は無関係だ。
結局奴らは口で綺麗事を言っても、ただのテロリストなのだよ。
その目で血の祝祭を目撃し、魔王と対峙した身ならわかるはずだ」
「たとえそうだとしても、そうなった原因はあんたらにあったんじゃないか!
あんたらの私利私欲で大勢の敵味方問わず、多くの人間が死んだんだぞ‼︎」
「陰謀論か? 笑わせる。
もしアガルタと戦争になったとしても、それは自然の成り行きだ。
非人種は基本的に主張だけして何もせん種族だ。
我々が粛清したところで何の問題もあるまい。
今も昔も、我々は正義を実行しているに過ぎないのだよ」
「正義だと⁉︎ 虐殺、略奪、強姦、あんなものの何処が正義だって言うんだ!」
「ほう、そんな事があったのか。どうなのかね、将軍」
「何の報告もありませんでしたな」
「嘘だ! あんたらは見て見ぬ振りをしていただけだ‼︎
元帥や将軍は戦場での不法行為を意図的に隠蔽していたんだ‼︎
俺は忘れていないぞ、何を命令されたか、カイン達があそこで何をしたか‼︎」
話し飽きたのか、リチャードは溜息をつきレイを見据えた。
「やれやれ、もうたくさんだ。
そんなに不満があるなら出て行くがいい。
貴様抜きでも宴は成り立つ」
「言われるまでもねぇよ! 行くぞ、みんな‼︎」
「ま、待ってください、レイさ…ま…」
レイを追いかけようとしたエレナの足が、不意によろめいた。
「あ…」
そして、そのまま倒れ伏した。
「え、エレナ⁉︎」
「しっかりして、エレナ‼︎」
「揺さぶるな、救護班を呼ぶんだ‼︎」
その場は大騒ぎになった。
ベッドの上で、エレナは眠っているだけのように見えた。
彼女は安らかに目を閉じ、寝息とたてている。
人工呼吸器さえなければ、ただ安らかに夢見ているようにも思える程だ。
しかし医師から告げられた現実は違っていた。
「これは向精神性の薬草の過剰摂取です。
おそらく症状からして、かなり長期かつ多量に摂取していたと思われます」
「向精神…つまり、麻薬って事ですか?」
「ある種、そうとも言えますね…普通は薬として使われますが、依存性は高いですから」
おそらくエレナが従軍していた頃から、常習的に服用していたとみられていた。
心当たり自体はあった。
目の前で多くの味方が死んでいき、彼女はそれを間近で看取るのだ。
彼女の疲弊しきり、生気の消えた顔を何度も見てきた。
しかしまさか薬物中毒になっていたとは、レイも流石に驚いた。
「どのくらいになれば、目を覚ますんですか?」
すると、医師は目を伏せた。
「落ち着いて聞いてください…恐らく、彼女が目を覚ますことはないでしょう」
「…え?」
その場にいた全員が、凍りついた。
「かなり多くの種類の薬草を摂取していたようですね。
その中にはかなり毒性の強いものも含まれています。
結果的に脳の一部が完全に機能不全になっている状態です。
事実上の植物状態であり…目を覚ますための有効な手段は存在しません」
全員が唖然となった。
「エレナ…そんな…」
ライリーは膝から崩れ落ちた。
「コーヴィック…」
マリアはただ拳を握りしめた。
病室にはレイとエレナだけが残された。
マリアもライリーも、お互いの家族に引き取られて帰っていった。
元帥たちはやってこなかった。
おそらく未だパーティーの後始末などがあるのだろう。
レイにとっては好都合だった。
エレナと二人きりになりたかったからだ。
その安らかに見える寝顔を、レイは見つめた。
「エレナ…そこまでして…」
まるで知らなかった。
薬物中毒になってまで、彼女は他人を救い続けた。
そして最後までそんな素振りを、レイ達に見せなかった。
「もう…俺の名前を呼んではくれないんだな」
その頰に触れた。
「エレナ…」
涙が出た。
ずっとこのままでいたい。
彼女のそばを離れたくはなかった。
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