異世界転生チート勇者と“真の英雄”、そしてその物語について 〜本当に『最強』なのは、誰の命も奪わない事。そして赦し受け入れる事〜

Soulja-G

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外伝 〜誇り、そして愛の名を〜

1.イブラヒム・ルイス

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 イブラヒム・ルイスは、王立アカデミーでも特別な存在であった。王家の遠縁にあたるルイス公爵家の嫡男であるという事実は、名家揃いのこの校舎に於いても一際輝かしいものであり、更にはその彫刻の如く端正な顔立ちは、その奥に秘められた傲岸不遜な振る舞いさえも魅力的に見せるものであった。
 そんな姿を、親友の一人であるアイザック・ロレンゾは度々苦い顔をして非難した。彼自身は敬虔なアドナイ教信者の家系であり、元々の生まれもアルマ教主国である。絵に描いたような博愛主義を教え込まれた彼は、度々人を見下すような発言をするイブラヒムに幾度となく突っかかっていた。

「やれやれ、またトップか…捻りがねぇな。他の奴ら、勉強が足りないぜ」
「はっ。学業は優秀でも、人間性という意味合いでは最下位のくせに何を吐かす」
「なんだよ、僻んでんのか、アイザック? まぁ大体の場合は二位に甘んじているのが現状だしな」
「き、貴様! よくもまぁ人の事をそこまで堂々と侮辱出来るな!」
「まぁまぁまぁ、二人とも落ち着きなって。皆さんザワザワしちゃってるから、な?」

 危うく掴み合いの喧嘩になりかけたところを、同じく親友の一人であるダントン・デュボワ、通称ダンが止めに入るというのが、この学園内の日常的光景であった。三人の中では一番温厚かつ人の間に立つことに長けた人物である彼が間に立つことによって、彼らは常に最大のライバルであり親友同士という関係が保たれている。
 三人は名家の生まれ同士、幼い頃から家族ぐるみの付き合いがあった。それ故に共に遊び、共に学び、また争った思い出が常にあった。だからこそ、”喧嘩するほど仲が良い”といった関係性も維持できるのである。

「全く、いつかは貴様の鼻を明かしてやる」
「望むところだよ、勉強バカめ」
「はいはいはいはい…相も変わらず仲がよろしいこって」
「よろしくねぇ!」
「よろしくない!」

 その声がピッタリと重なるほどに、二人の息はぴったりだった。


 授業の間、教師の話が逸れたのをいい事に、イブラヒムは窓の外の青空を見つめた。天気は快晴であり、上空には濁りの無い青が一面に広がっていた。遮る物のない陽光は教室内を暖かく照らし、思わず微睡んでしまいそうになるほどだった。
 イブラヒムは、その身に受ける恩恵を全て享受していた。貴族の中でも最高峰に近い家系、その中で受ける王立アカデミーの生徒ですらトップに輝ける程の教育、そして約束された為政者としての未来。自分はそれに相応しい人間であると信じて疑う事は無かった。
 そしてそれに相応しくない者は、単純に劣っていると信じて疑わなかった。自らも平民を率いるような立場の者として努力を怠らなかった自覚があり、自分より身分が下の人間は自己責任でその低い立場に甘んじているのだと感じていた。
 まさしく、この時代で使役されている”亜人”などは、イブラヒムにとっては、その象徴であった。



「お帰りなさいませ、イブラヒム様」

 イブラヒムは玄関の豪奢な扉を開けると、そこには複数のメイド達が待機していた。皆が恭しく頭を下げ、顔を上げようとはしなかった。それは正しくイブラヒムと彼女たちの主従関係を明確に表したものであった。

「ああ、帰ったぞ」

 イブラヒムはそのメイドの一人に向かって、着ていた上着を少々乱暴に放り投げたが、メイドはそれを丁寧に受け取り、すぐに運んでいった。脱ぎ散らかされた靴も、すぐにメイドが一人後ろに仕え、しっかりと一対に揃えてドアの方に向けさせた。
 それらの行動は、イブラヒムにとって当然の出来事であった。彼らには皆ツノや尻尾が生えていたりと、純粋種の人間とは異なる特徴があった。それは彼女たちが”亜人”であることの証明であり、またそれは貴族であるイブラヒム達に使役される奴隷である事も示唆していた。
 彼女たちの体の一部には、魔力で刻まれた術式があり、それは亜人奴隷が意にそぐわない行動をした時の鎖だった。いざともなれば、使役権を持つ貴族は彼女たちを何時でも何処でも殺すことができる、まさしく文字通り生殺与奪を握られている状態だった。


 夕食の席では贅を尽くした様な食事が、金や銀の食器の上に乗せられ、並べられていた。その席で、父はイブラヒムに向けてこう言った。

「イブラヒムよ、そういえばそろそろアカデミーの卒業も近いのではないか?」
「はい、お父様」
「ならば、お前もそろそろ一人前になるということだな…よし、決めた」

 父は思い付いたかのように、指をパチンと鳴らした。

「お前には、専属の奴隷を一人付けよう。そろそろお前も、自分だけの所有物が欲しい頃合いだろう」
「あらまぁ…イブラヒムも、もうそんな年になるのね」

 母は口元に手を当てて、感慨深げに呟いた。

「ありがとうございます、お父様」
「しっかりと頑丈な物を選ぶのだぞ」

 奴隷の使役というのは、意外と大変である。というのも、稼働させ続ければすぐ死んでしまい、かといって金を掛けすぎては元も子もない。すぐに死ぬような虚弱な者は、直ぐに間引きとして殺さねばならないし、反抗的な者も同様である。生かさず殺さず、尚且つ体質的に頑健で従順な”上質な奴隷”が常に必要とされているのだ。
 イブラヒムは些か興奮した。自らに奴隷が割り当てられると言う事、それはつまり自分がルイス家の中において、いよいよ一人の大人として認められたという事を意味していたからだ。そうなれば彼は遂にこの国の中枢へと躍り出るような、華々しい未来に向かって一直線である。
 その夜、イブラヒムはベッドの中で、期待に胸を躍らせた。


 その三日後、イブラヒムは奴隷市場を見物しに、町へと躍り出ていた。休日の昼間ということもあり、通りは活気に満ちており、どの店も店頭に並べられた商品を必死に売っていた。
 だが通りの端に目をやれば、薄汚いボロ布を纏ったような者たちが、身を低くしながら歩いていた。おそらく彼らは亜人奴隷であり、主人の為の使い走りであった。近くを通り過ぎる者達はみな一様に顔をしかめ、中には唾を吐く者もいた。

(まぁ、ちょっと可哀想な気もするけど…自業自得だよな)

 彼らは自分たちとは違う。生まれた時からそれは定められたことであり、実際彼らは文字を解せないほど知能も学もなく、見た目もツノや翼など獣じみた物を持っている。人間より下位の生命体なのだ。

 そうこうしている内に、イブラヒムは目当ての建物に着いた。それは奴隷商館だった。通りの中でも人通りが少ないところに位置しており、何処となく昏い雰囲気を纏っていた。
 扉を開けると、まず最初に目についたのは地下へと下る階段だった。階段の先は闇に包まれており、壁で微かに灯る炎だけが唯一の光源だった。
 少々異様な雰囲気に息を飲みながら、イブラヒムはゆっくりと階段を下っていった。手摺りさえも無かったので、一旦転げ落ちれば大怪我が免れなかった。
 その階段の先にある扉を開けると、そこは薄暗く広い部屋だった。至るところに並べられた檻にはベールが被せられ、中は見えないようにされていた。中の奴隷は叫ぶ喚くなどの抵抗を見せるかと思いきや、薬でも飲まされているのか、まるで静かなままだった。

「おお、こいつはどうも。奴隷をご所望ですかい?」

 奥の方から、大男が現れた。頬の傷痕に筋骨隆々とした体躯、そして身体中から溢れ出る殺気は、明らかに裏社会に通じている事を示唆していた。

「あ、ああ…ちょっと、奴隷を一匹買いに…」

 その威容に圧倒されながら、イブラヒムは答えた。

「ああ、いいぜ。最近特上のヤツが入ったんだ。ささ、奥へどうぞ」


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