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しおりを挟む「私はあなたが元の世界に帰る為の方法を探している。貴方は元の世界に帰るべきだ。」
大賢者と呼ばれる老人の言葉に、応接間は静まり返った。
今、一体僕は何を言われたのだろうか……。
幻聴が聞こえたのだろうか?確かに耳に聞こえた筈なのに、言葉の意味を全く頭が理解してくれない。
「今、なんと言われたのですか………。」
問いかけるその声は、滑稽な程震えている。
「貴方は元の世界に帰った方が良いと言った。」
老人は強い意志を込めた言葉で、僕の想像した通りの内容を告げた。
「………帰る方法なんて、ないのでしょう?」
意味を正しく理解しても、疑問は尽きない。帰る方法は無かった筈だ。
だからこそ、行く宛のない僕は地下牢に放り込まれるところだったのだ。
あの時の全てに見捨てられた絶望がフラッシュバッグする。
帰る方法があるなら何故あの時に教えてくれなかったのだ。
今頃そんな話をされても僕は………。
「いや、帰る方法はきっとある。私はそれを探している。」
僕の葛藤を他所に、きっぱりと言い張る老人に今度はジュークが我慢ができずに詰め寄った。
「今更何を、根拠のないことを言ってセツを混乱させないで頂きたい。」
「根拠が無いわけではない。理由は言えないが、必ず帰る方法は見つかる。」
「理由も話さずに信用しろと言われるのか。」
怒りを孕んだジュークの物言いにも臆さず、老人は僕に向かって話を進める。
「貴方はどうお考えだ?元の世界に帰りたいのではないか?」
「……僕は……。」
家族の、次いで友人達の顔が浮かんだ。きっと心配している……。
「セツ………!」
僕が即答できずにいると、横から懇願するような声が聞こえ、肩に痛みが走る。
痛みに顔を顰めてそちらを見ると、ジュークに肩を強い力で掴まれていた。
悩んでいる僕を見てショックを受けたのだろう、ジュークの方が痛みに耐えているような顔をしている。
「ジューク…。」
「頼むセツ、帰らないでくれ。」
辛そうに歪む顔は、真に僕を必要としてくれている顔だった。
その顔を見て決意が固まる。ジュークの言う通り今更だ。
もう僕はとっくに、あの想いを伝えあった日にジュークとの未来を選んだのだから。
「僕はこの世界に残ります。」
ジュークの手を握り、老人に宣言するように伝えると、ジュークの手が喜びに震えた。
老人からは以外そうな目を向けられる。
「失礼だが、この世界は貴方にとって行きにくい世界でしょう。」
確かに誰からも嫌われるこの世界は、僕にとっては息苦しい世界だ。
だけど、僕の唯一がいる世界はここだけなのだ。
「それでもこの世界を選びます。この世界に大切なひとができたので。」
そう言ってジュークに向かって微笑むと、ジュークも安心したように抱きしめられる。
「貴方は今、幸せですか?」
そんな様子を見て、老人は問いかける。それに間髪入れず答えた。
「はい、愛する人と一緒に過ごすことが出来て、とても幸せです。」
老人は思うところがあったのか、暫く何も言わなかった。
ただ屋敷を出る時に、一言帰る方法が見つかればまた訪問する旨を告げて去っていった。
大賢者を見送るセツを横目に、安堵の思いがこみあげてくる。
セツはこの世界を、俺と共に生涯を歩む決意をしてくれた。生まれ故郷を捨てて、家族を失って……。
それは並大抵の覚悟ではなかっただろう。それでも俺を選んでくれたセツの想いに胸を打たれた。
だが、同時に恐怖を抱いた。セツが元の世界に帰る可能性があることに、セツが迷いを見せたことに……。
大賢者に帰りたいかと問われた時に、セツは即答しなかった。その顔を見れば、明らかに誰かを思い浮かべ、辛い顔をしていた。
許せないと思った。例えそれがセツの大切な家族だとしても、二人を引き離す因子になるのであれば許せなかった。
(冷静になれ、セツを怯えさせるな……。)
自分に言い聞かせながらセツに笑いかける。
同じように笑いかけてくれるセツに、己の自制が成功したと感じるが、内心は少しも冷静ではなかった。
大賢者はまた来ると言った。帰る方法が見つかればまた来ると………。
その時、セツは俺を選んでくれるのか……?
そこまで考え頭を振る。セツが元の世界を選ぶ筈がない。こんなにも俺を愛してくれているセツが俺を捨てる訳がない。
だけどもし、セツが元の世界を選ぶのであれば、その時は…………。
暗い想いが胸を支配する。
セツと言う至上の愛を手に入れて、今更奪れる等、そんな未来は想像したくもなかった。
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