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甘い罠(7)
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「……行ってきます」
朝、莉子は大学へ行く時に使う鞄を持って家を出た。
小走りで角を曲がる。そこには要がいた。
「なにもそんな鞄、持ってこなくてもいいのに」
彼は苦笑したが、莉子にしてみれば、家族の誰にも見とがめられたくはなかった。
「別に、勉強道具は持ってきてないわよ?」
莉子の言葉に要は肩をすくめた。
「じゃ、行くか」
「うん」
どちらともなく手を繋ぐ。今日は隣町に行くことになっていた。
とりとめのない話をしている時、莉子は気づいた。歩道を歩いている時には、彼は自然と車道側で歩いてくれる。
そう思ってみれば、歩幅も合わせてくれている。中・高と女子校の山百合学園の生徒だった莉子にとって、このくらいでも胸がドキドキした。
「どうかした?」
要が尋ねる。
「ううん、なんでも。……ねえ、山口くんてモテるでしょ?」
即答するかと思いきや、彼は首を傾げた。
「……そうでもないよ。まあ、相手がいなかったわけじゃないけど、別れざるをえなかったからね」
「そうなんだ……」
先程までドキドキしていた莉子の胸は、今度はチクチクと痛み出した。こんなにカッコいいのだ。元カノのひとりやふたり、いてもおかしくない。
「莉子ちゃんは? 結構モテるでしょう」
思わぬことを訊かれ、莉子はぶんぶんと首を振った。
「とんでもない! 中学高校は女子校だったし! 男女交際も禁止だったんだよ!?」
力んで言うと、要は声をあげて笑った。いつもは少し厳しい表情が、笑うと優しくなる。
隣町の映画館まで来ると、要は周りを見回した。
「うーん、何見る?」
莉子も視線をめぐらした。
恋愛映画は気まずくなったら嫌だし、ホラーやスプラッターは論外。
「ファンタジーがいいかなあ……」
右側に『堕天使の恋』というタイトルのポスターが目に入った。
要の腕を引っ張ってポスターを指差すと、彼はなぜか嫌な顔をした。
「まんまじゃないか……」
「え? 何が?」
莉子が聞き返すと、要は彼女の手を握り直した。
「莉子ちゃんが観たいなら観よう」
そう言うと要は、テーブルと椅子のある所に莉子を連れて待たせると、自分はチケットと飲み物を買いに行ってしまった。
莉子は椅子に座ると、ほっと息をついた。
そこへ、
「ねえ、君1人? 映画なんて観ないで、どこかで遊ばない?」
と若い男たち数人が話しかけてくる。
映画館に来ておいてそれはないだろうと莉子は思い、
「結構です」
と言った。
「そんなこと言わないでさあ」
ふと見ると、男たちに囲まれていることに気づいた。
(ちょっとやばいかも)
と莉子が構えた時だった。
「俺の連れに何してくれるんだ?」
要がチケットと2人分の飲み物を持って、戻ってきた。
「なんだ? てめえは」
「彼女の連れだと言っている。そんなことも理解できないのか? 脳みそ洗って出直してこい」
なんて挑発的な、と思ったのは莉子だけではないらしい。頭に血が上った男の一人が、要に襲いかかった。
しかし彼は動じることなく、
「これ持ってて」
と莉子にチケットと飲み物を渡すと、男の腕をつかんだ。そして思いきりひねる。
「いてててて」
男は悲鳴をあげた。周りの仲間たちが一斉に要へと突撃する。
要はひねった男の腕を放した。そして周囲の男たちをにらみつける。
その直後、男たちは四方に弾けとんだ。最初に腕をひねられた男が青ざめる。
「行くぞ!!」
彼の言葉に若い男たちは退散する。その時になって、やっと係員が走ってきた。
「困りますよ、ここで暴れられちゃあ」
あわてて莉子が言った。
「彼は悪くないんです。あの人たちが……」
なおも言い募ろうとする莉子を制止し、要は係員に頭を下げた。
「申し訳ありませんでした」
係員は急におどおどし、
「いやー、わかってくれればいいんです」
とつぶやくと行ってしまった。
「ごめんね、山口くん」
「いや。莉子ちゃんをひとりにした俺が悪い。……さ、行こうか」
莉子は立ち上がると、チケット一枚と飲み物のカップのひとつを要に差し出した。
「ありがとう」
2人はシアタールームへと入った。
朝、莉子は大学へ行く時に使う鞄を持って家を出た。
小走りで角を曲がる。そこには要がいた。
「なにもそんな鞄、持ってこなくてもいいのに」
彼は苦笑したが、莉子にしてみれば、家族の誰にも見とがめられたくはなかった。
「別に、勉強道具は持ってきてないわよ?」
莉子の言葉に要は肩をすくめた。
「じゃ、行くか」
「うん」
どちらともなく手を繋ぐ。今日は隣町に行くことになっていた。
とりとめのない話をしている時、莉子は気づいた。歩道を歩いている時には、彼は自然と車道側で歩いてくれる。
そう思ってみれば、歩幅も合わせてくれている。中・高と女子校の山百合学園の生徒だった莉子にとって、このくらいでも胸がドキドキした。
「どうかした?」
要が尋ねる。
「ううん、なんでも。……ねえ、山口くんてモテるでしょ?」
即答するかと思いきや、彼は首を傾げた。
「……そうでもないよ。まあ、相手がいなかったわけじゃないけど、別れざるをえなかったからね」
「そうなんだ……」
先程までドキドキしていた莉子の胸は、今度はチクチクと痛み出した。こんなにカッコいいのだ。元カノのひとりやふたり、いてもおかしくない。
「莉子ちゃんは? 結構モテるでしょう」
思わぬことを訊かれ、莉子はぶんぶんと首を振った。
「とんでもない! 中学高校は女子校だったし! 男女交際も禁止だったんだよ!?」
力んで言うと、要は声をあげて笑った。いつもは少し厳しい表情が、笑うと優しくなる。
隣町の映画館まで来ると、要は周りを見回した。
「うーん、何見る?」
莉子も視線をめぐらした。
恋愛映画は気まずくなったら嫌だし、ホラーやスプラッターは論外。
「ファンタジーがいいかなあ……」
右側に『堕天使の恋』というタイトルのポスターが目に入った。
要の腕を引っ張ってポスターを指差すと、彼はなぜか嫌な顔をした。
「まんまじゃないか……」
「え? 何が?」
莉子が聞き返すと、要は彼女の手を握り直した。
「莉子ちゃんが観たいなら観よう」
そう言うと要は、テーブルと椅子のある所に莉子を連れて待たせると、自分はチケットと飲み物を買いに行ってしまった。
莉子は椅子に座ると、ほっと息をついた。
そこへ、
「ねえ、君1人? 映画なんて観ないで、どこかで遊ばない?」
と若い男たち数人が話しかけてくる。
映画館に来ておいてそれはないだろうと莉子は思い、
「結構です」
と言った。
「そんなこと言わないでさあ」
ふと見ると、男たちに囲まれていることに気づいた。
(ちょっとやばいかも)
と莉子が構えた時だった。
「俺の連れに何してくれるんだ?」
要がチケットと2人分の飲み物を持って、戻ってきた。
「なんだ? てめえは」
「彼女の連れだと言っている。そんなことも理解できないのか? 脳みそ洗って出直してこい」
なんて挑発的な、と思ったのは莉子だけではないらしい。頭に血が上った男の一人が、要に襲いかかった。
しかし彼は動じることなく、
「これ持ってて」
と莉子にチケットと飲み物を渡すと、男の腕をつかんだ。そして思いきりひねる。
「いてててて」
男は悲鳴をあげた。周りの仲間たちが一斉に要へと突撃する。
要はひねった男の腕を放した。そして周囲の男たちをにらみつける。
その直後、男たちは四方に弾けとんだ。最初に腕をひねられた男が青ざめる。
「行くぞ!!」
彼の言葉に若い男たちは退散する。その時になって、やっと係員が走ってきた。
「困りますよ、ここで暴れられちゃあ」
あわてて莉子が言った。
「彼は悪くないんです。あの人たちが……」
なおも言い募ろうとする莉子を制止し、要は係員に頭を下げた。
「申し訳ありませんでした」
係員は急におどおどし、
「いやー、わかってくれればいいんです」
とつぶやくと行ってしまった。
「ごめんね、山口くん」
「いや。莉子ちゃんをひとりにした俺が悪い。……さ、行こうか」
莉子は立ち上がると、チケット一枚と飲み物のカップのひとつを要に差し出した。
「ありがとう」
2人はシアタールームへと入った。
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