君のために

野宮雪菜

文字の大きさ
5 / 25

嫁ぐ日(5)

しおりを挟む
「クラリベル様!」
 庭の噴水のそばにある椅子にマリオンと腰かけていると、シェリスがあわてた様子で走ってきた。
「そろそろお支度をなさいませんと」
 クラリベルはマリオンを見て笑った。
「時間切れみたい」
「姉さま」
 立ち上がった彼女の服のすそをつかんでマリオンは言った。

「元気でね。たまにはぼくに会いに来てね。ぼく、それまでは兄上でがまんするから」
 アシュレイが聞けば怒りそうだと思いながら、クラリベルは頷いた。
「マリオン様」
 乳母に呼ばれると、マリオンは彼女に駆け寄った。振り返るとクラリベルに手を振る。
 振り返してやると、彼はにっこり笑って回廊の中に消えていった。
 とたんに淋しさがこみあげてきたので、あわてて頭をふる。
「クラリベル様?」
 怪訝そうに問われたが、
「なんでもないわ」
 とクラリベルは歩き出した。
(父さまのやり方も、悪くなかったのかもしれないわ)
 と思った。淋しくなって、行きたくないと駄々をこねたかもしれないから。

 マルドラ小国の隊列は数頭の馬に乗った兵士たちと、エヴァレットと使者数人が乗った馬車、そしてクラリベルとシェリスの乗る馬車という簡単なものだった。
「セルモア国王陛下のおかげで、治安はよいのです。だから、この程度ですんでいるのです」
 とエヴァレットが言い、クラリベルは納得した。しかし後から馬車に乗りこんだシェリスは憤然として言った。
「バカにしていますわ。セルモアの姫様をお迎えするなら、もっと大がかりにしたってやりすぎということはありませんのに」
「そう? 私は少ない方がありがたいわ」
「……クラリベル様がそうおっしゃるなら」
 シェリスは不満げにそう言ったが、気を取り直してクラリベルに尋ねた。
「本当にわたしだけでよろしかったのですか。他の侍女たちも連れてくればよかったのでは」
 
 幼い頃から世話をしてくれていた侍女たちは、一緒に行くと言ってくれた。今はマリオンの身の回りの世話をしているクラリベルの乳母も、一人でも多く連れていった方がいいと助言してくれたが、エヴァレットに言われたのだ。
『マルドラにも侍女はおります。必要最低限の人数でお願いいたします』
 強い口調だった。その気迫に驚き、結局シェリスの名前しか出すことができなかったのだ。
「なんか、敵陣に乗りこんでいく気分ね」
「まったくですわ」
 クラリベルの言葉にシェリスは大きく頷いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

処理中です...