死亡フラグだらけの悪役令嬢〜魔王の胃袋を掴めば回避できるって本当ですか?

きゃる

文字の大きさ
6 / 57
第一章 魔界に来たようです

牢の中でもピンチです

しおりを挟む

 ――なーんて余計なことを考えられたのも、最初のうちだけ。

「魔王様を呼び捨てるなど、とんでもないぞ、人間!」

 すぐ横で声が聞こえたと思ったら、吸血鬼が私を怒るため、舞い上がっていた。
 
「……よい。クリストラン、ご苦労だった」

 魔王は声もよく響く。
 肘掛ひじかけに肘をつき、ため息をつく姿まで美しい。

「罪人を魔の森に追放するのはやめろと再三忠告したのに、人の愚かな頭では理解しがたいらしいな。よもや我の直轄地にまで侵入させるとは。ズタズタに切り裂き、見せしめにするだけでは気が済まない」

 恐ろしい内容に、心臓が一気に縮み上がる。

「そうですね。傲慢ごうまんな人間に、情けをかける必要などございません」

 クリストランと呼ばれた吸血鬼が、嬉しそうに相槌あいづちを打つ。
 魔王は面白くもなさそうに、長く尖った爪で肘掛けをコツコツ叩いている。

 ――悪役令嬢に覆い被さる黒い影は、やっぱり魔王だったのね。私、殺される!!

「…………」

 悲鳴も上げられない。

 無実の罪での追放も、この地に迷い込んだのも、私の意思じゃない。
 ここまで来て、死にたくなんかないのに!!

 なんとか目に意識を集中し、私は魔王をにらみつけた。

「ほう? たかだか人間が、我を睨むのか」

「貴様っ!」

 吸血鬼が激怒する。
 逆に魔王は冷静で、私を脅した吸血鬼を軽い手の一振りであっさりはじく。

「邪魔だ」

「申し訳ございません」

 吸血鬼は空中で体勢を立て直し、その場で深々一礼する。

「我に刃向かう者を、楽に処刑するなどもったいない。ひとまず牢に入れておけ」

 玉座から立ち上がった魔王が、私に向かって手を伸ばす。
 すると私の着ていたシャツのボタンがはじけ飛び、胸元が熱くなる。

 ――きゃあっ。

 身体が光ったかと思うと、続いて意識を奪われた。

 ――まさか私、これで終わり? 



 現在、絶賛ほこりっぽいろうの中。
 やることもなく暇なので、胸に手を当てつぶやく。

「痛くもなんともなかったわ。もしかしてわたくし、魔法に耐性がある?」

 胸元に刻まれたのは、握りこぶしくらいの魔法陣。

「これって罪人の印?」

 私はイケメン魔王に、罪人認定されたようだ。

「結局、死に場所が変わっただけか……」

 処刑の日は、追って伝えるとのこと。
 その日が来るまで私は、蜘蛛くもの巣だらけの埃っぽい地下牢で過ごさなくてはならない。

 魔界の牢は堅固けんごで、三方を石の壁に囲まれている。正面は鉄柵の代わりに『吸血』のつるで覆われていた。これはれっきとした魔界の植物で、触れると巻きつき血を吸うらしい。

「ほらよ、食事だ」

「……あ。どうも」

 サイのような顔で鼻に角の生えた看守から、食事を渡された。
 受け取った木のお盆には、コップの他に茶色がかった緑のスープと真っ黒なかたまりと、うごめく何かがっている。何かは濃い紫色の物体で、触手のようなものまで見えた。

「うわ、怖っ。こんなものを与えるなんて、餓死させるつもりかしら」

「まさか。みんなこんなもんだぞ」

「え? なんで言葉がわかるの?」

 返事をもらってふと気づく。
 サイの看守は、不思議そうに首をかしげていた。

「わかるも何も、魔王様直々の刻印だろう? 魔力が宿っているから、当たり前じゃないか」

「そんなものなのね」

 刻印って便利な機能だ。
 びっくりしたけど、全然痛くなかったし。

 気を取り直してご飯を食べよう!
 牢の中での楽しみは、きっと食事だけ。
 見た目はアレでも、案外美味しいかもしれないし?

 私は濁った沼色スープを口にふくんだ。

「うっ……」

 両手で口を塞ぎ、き出したくなるのをとっさにこらえた。

「舌がビリビリする。味がないのに、これって何?」

 スープは諦め、黒い塊に挑戦する。

でた芋? にしてはゴムみたいな食感ね。口の中でねばつくし、しょっぱいってことは塩を入れすぎ?」 

 残るはうごめく野菜(?)のみ。
 かじろうとすると、触手の吸盤が顔に吸い付いた。

「無理無理無理。こんなの食べられない!」

 再び口にする勇気はなく、しょっぱい塊も諦めた。
 飲みものはというと……。

「真っ赤な液体? こっちも、嫌な予感がする」

 ところが見た目に反し、飲みものだけはまともだった。
 味は、前世で飲んだグァバジュースに似ているかな?



 翌日以降も食事抜き。
 いや、あるにはあるけど紫や黒や時々うごめく食事は『吸血樹』さえ避ける上、見た目以上にマズい。

「しょっぱいし酸っぱいし、硬いし美味しくないし、やっぱり無理だわ。見た目も味ものどごしも悪いって、相当ね」
 
 サイの看守と手に水かきがついた看守が、私の発言を聞きつける。

贅沢ぜいたく言うな。人間界でどれだけ美味いものを食べていたのか知らんが、ここではこれが普通だ」

「そうだぞ。同族や人間殺しが禁止だから、こんなものしかないんだ」

 人間殺し?
 看守の私に向ける目が気になって、思わず後ずさる。

「安心しろ。五十年前に今の魔王が魔界を統一してから、食事のための殺戮さつりくは一切禁じられた。たとえ人であってもだ」

 安心どころか不安しか残らない。
 油断した途端、お腹を空かせた魔物に頭からバリバリ食べられるのではないかしら?

 震えたせいでほこりが立って、思わず咳き込む。

「ゴホッ、ゴホッ」

「安心しろって言ったのに。魔王様の囚人に手を出すほど、俺らは命知らずじゃない」

「ああ。こんなもんでも魔力は得られるからな。でも、もう少しマシなものが食べたい」

「確かに。俺らはまだいいが、下級魔族は我慢の限界じゃないか? この前も……」

 看守達は、私を無視して会話を続ける。
 とりあえず命の危険はないようだけど、今のままではわからない。私は魔界の情報を集めるために、耳を澄ます。

 それによると、魔界の食事は楽しむためではなく、魔力を保つための手段に過ぎないそうだ。味に期待しないのは、そのためらしい。

 また、彼らは自分達のことを『魔物』ではなく『魔族』と呼んでいた。魔族は上級・中級・下級に分類されているようで、上級魔族は力も強く権力もあるみたい。

 人で言う貴族、かな?

 城で働く看守はたぶん『中級魔族』で、知能が低く力の弱い魔族は『下級』とバカにされていた。それぞれ自分より上位に逆らえず、全ての頂点に魔王が君臨しているようだ。

 魔界にも人間社会のような身分制度があるなんて、思ってもみなかった。

「ああ、それからホウキと濡れた布だっけ? 持ってきてやったぞ。こんなもの、なんに使うんだ?」

「ありがとうございます。もちろん掃除です」

「そうじ? なんだ、それ」

 再び話しかけられたのでお礼を言うが、看守は掃除を知らないようだ。
 牢がほこりっぽいのって、今まで一度も清掃しなかったせい!?

 ランプの明かりで輝くのは、空気中に舞う埃。あとは蜘蛛の巣?

 とにかくこの状況には耐えられないと、私は床をホウキでいた。

「……っと、その前に蜘蛛の巣か」
 
 壁際の巣を全て取り払い、再びホウキに手を伸ばす。
 その時、部屋のすみにある大きな埃に気がついた。

「あれ? さっき、こんなのあったっけ?」

 黒い塊は二つあり、それぞれがバスケットボールくらい。ここまで大きいのに、なぜ気づかなかったのだろう?

「ま、いっか。掃除を続けよう」

 貴族は掃除をせず使用人に任せているけれど、前世の私は社会人。広い料理教室を、ピカピカになるまで一人で磨いたこともある。

「とりあえず、ホウキで掃き出して……」

 触れた直後、塊が動く。
 
「きゅーいー」

「きゅい、きゅい」

 埃が鳴いた!?
 違う、よく見れば頭に角が生えている。

 埃、ならぬ角が生えた黒い毛玉の塊は、大きくねると私に襲いかかった!
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~

巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!? //////////////////////////////////////////////////// 悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。 しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。 琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇! ※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……? ※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。 ※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。 隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。

虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、 【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。 互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、 戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。 そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。 暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、 不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。 凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。 妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、 彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。 だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、 なぜかアラン本人に興味を持ち始める。 「君は、なぜそこまで必死なんだ?」 「妹のためです!」 ……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。 妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。 ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。 そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。 断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。 誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。

悪役令嬢に転生したけど、破滅エンドは王子たちに押し付けました

タマ マコト
ファンタジー
27歳の社畜OL・藤咲真帆は、仕事でも恋でも“都合のいい人”として生きてきた。 ある夜、交通事故に遭った瞬間、心の底から叫んだーー「もう我慢なんてしたくない!」 目を覚ますと、乙女ゲームの“悪役令嬢レティシア”に転生していた。 破滅が約束された物語の中で、彼女は決意する。 今度こそ、泣くのは私じゃない。 破滅は“彼ら”に押し付けて、私の人生を取り戻してみせる。

処理中です...