死亡フラグだらけの悪役令嬢〜魔王の胃袋を掴めば回避できるって本当ですか?

きゃる

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第二章 魔界の料理は命懸け!?

ゴブリンと仲良くなりました

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「いやあ、そんなにめられましても」

 隣にいたスクレットが、なぜか頭をかいている。

 魔族語にどう変換されたのかわからないけれど、これは大根ではなく砂糖大根と呼ばれるもの。すなわち、魔界版の『甜菜てんさい』だ。
 
 てんさいは、大根と似た植物だけど種類は別で、砂糖の原料となる。人間界では貴重なハチミツに代わり、重宝されていた。それが形を変えて魔界にもあるなんて!

「ええっと、台所を借りられるかしら? もし甘みだけを抽出ちゅうしゅつできたら、村の特産品になるかもしれないわ」

「えっ!?」

 ゴブリンの若者は驚くが、私には確信めいたものがある。

 勉強していて良かった。
『てんさい糖』はミネラル豊富で、身体にもいい。

 ゴブリンの若者が、自宅の台所を提供してくれることになった。

「急にすみません。お邪魔します」

「おや、まあ」

 若者の母親の協力を得て、『まだら根』こと『てんさい』を綺麗に洗ってカットする。これを温水にひたして煮出せば、糖分だけを抽出できるはずだ。

 かまどにはまきが使われていたので、木灰も入れてみる。

「なんてことを!」

「こうすれば、不純物が沈殿するんです」

 上澄みだけを集めたものを濾過ろかし、煮詰めて水分を蒸発させていく。
 やがて、甘いシロップのようなものができた。

「やっぱり。このままでもいいし、乾燥させれば使い勝手が良くなるわ」

「村長に報告してきます!!」

 慌てて飛び出す若者を、母親が笑顔で見送る。
 残された私はスクレットとともに、彼女にお茶をごちそうになった。

「……これは?」

「木の根を煮出したものよ。昔、さっきのあなたと同じようなことをしたら、父親に『燃料を無駄にするな』と怒られたわ」

「すみません。では、前からご存じで?」

「そうね、なんとなくは」

「費用はこちらで持ちますので、ご心配なく」

 事務的に応えたスクレットに、ゴブリンの母親は苦笑する。

「燃料のことはいいの。魔王様がこんな小さな村にまで注意を払ってくださるなんて、良い時代になったのねえ」

 彼女はそう言うと、感慨深げにため息をつく。

 スクレットはふんぞり返るが、訪問先のリストはすでに用意されていた。

 もしかして、あれは魔王が選んだの?

 魔王レオンザーグは、冷たいように見えて案外仲間思いなのかもしれない。

 木の根のお茶に先ほどのシロップを入れると、甘い麦茶のようなものができた。これならすぐに飲めるし、疲労回復にも効果がありそうだ。

 村長とは、さっきの長老のこと。
 連れて来た若者は、興奮している。

「『まだら根』に、価値があるんですよね!」

「ええ、恐らく」

「ほう。根っこに価値があるとして、その後は?」

 村長の言葉で、みんなの視線が私に集まった。そのため、考えながら口にする。

「持ち帰って魔王様に報告します。料理長にも話して、良い方法を検討しますね」

 今言えるのは、ここまでだ。
 どうかこの村にとって、良い結果になりますように。
 
 

 数日後、加工した『まだら根』の城への納品が決まった。
 その結果、私はゴブリン達が住むこの村に、何度も足を運んでいる。

 砂糖の作り方を村人達に教えるためだけど、軌道に乗れば今後、魔界中に流通するかもしれない。

 ゴブリン達とは、今ではすっかり顔なじみ。冗談を交わす仲になった。

「ヴィオネッタの功績を称えて、『まだら根』の名前を『ヴィオ根っ太』に変えるっていうのはどうだ?」

「いえ、それはちょっと……。『ゴブリン村の砂糖大根』でどうですか?」

「美味しくなさそうだ」

「違いねえ。今のままがいい」

「それにしても、お城で採用されるなんてねえ。そこらの根っこが、お金になるとは思わなかったよ。あんたのおかげだ」

「わたくしも、お役に立てて光栄です」

 村人達の顔は明るい。
 人間界では悪者として描かれることの多いゴブリンだけど、話せば気のいい魔族だ。面倒見の良すぎるところが、玉にきずだけど。

「ヤムヤムは、頭もいいのに独身だろ? ヴィオネッタと一緒になったらどうだい?」

 ヤムヤムというのは、初日に私達を案内してくれたゴブリンの若者だ。いつか世のため、魔王の下で働きたいと語っていた。
 
「いえ、わたくしはその……」

「魔王様やフェンリル様がお許しにならないでしょう」

 スクレットが、私の代わりに応えてくれた。

「おや、まあ!」

「そういうことだったのか。れられてるんだねぇ」

「違っ……」

 慌てて否定するものの、村人達は意味ありげに私を見つめる。

 スクレットが言いたかったのは、『罪人の分際で』という意味だ。

 完全に誤解だが、説明すると悪影響が出そうなのでやめておこう。調査の邪魔になってはいけないと、処分保留中の身であることはわざと伏せているから。

「それはそうと、黒芋の方もなんとかならないかい?」

「すみません。いろんな調理法を試しているのですが、なかなか上手くいかなくて……」

 万一の可能性を考えて、『まだら根』と同じように煮詰めてもみた。
 結果は惨敗。

 煮ても焼いても炒めても、ゴムのような食感と不味さは変わらない。試しに揚げてみたものの、やっぱりダメだった。
 
 心地よい疲れを感じて、村を後にする。城へ戻る道すがら、自然と笑みが浮かぶ。

「今日も、役に立てたわよね?」



 城に到着すると、もふ魔達が出迎えてくれた。

「ぎー、きゅきゅいい」

「ぎぃー、きゅきゅいい」

「お帰りって、言ってくれたのね。ただいま。まあ、あなた達もどこかで遊んできたのね」

「きゅい」

 返事をしたもふ魔の頭には、細長いわらのような植物がくっついている。城で見た覚えはないので、外出したとわかったのだ。

「おいで」

「きゅい」

「きゅーい♪」

 撫でようと抱えて、ハッとする。
 彼らに付着していたのは、前世でよく知る作物だ。

 これは…………稲!?
 
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