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ベイルモンド砂漠編
洞窟の町で
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ベイルモンド砂漠の西方を南北に延びるウルフェルト山脈。崖のような斜面が続き、登山する者は居ない。山頂は年に数回だが、冠雪することもあるらしい。
その山脈の麓にあるのが、洞窟の町ムズルク。名前からして、町がすっぽり全部洞窟の中にあるのかと想像していたが、そうではなかった。酸素消費が多く煙も出す鍛冶施設や工芸品の商店は洞窟の外に、鉱道や鉱夫の生活区域は洞窟の中にある。前者を東区、後者は洞窟区と呼ばれているそうだ。
私たちは東区にある鍛冶屋に荷を届ける。
「そういえば、荷物の中身って何だったんだろう。」
私が問うと、カラフが答えた。
「アルサーヤで渡された時にちらっと中を見たんだけどさ、金属細工だったぜ。」
鍛冶屋から金属細工を運ぶんじゃなくて、鍛冶屋に金属細工を運ぶ?
首を捻る私にライラが軽く言う。
「修理の依頼じゃないの。」
そうなのだろうか。まあ、関係ないか。
仕事を終えたら、各自お買い物タイムだ。ラシェッドは剣の店へ、ライラは矢尻を売っている店へ向かった。私は防具が欲しかったので、同じく防具を探すカラフと一緒に行動した。行先は、カラフの勧める洞窟区内の防具屋だ。
初めて訪れた洞窟区は美しかった。広い空洞に石と青銅を用いた建物が並ぶ。青銅は良い感じに錆びて、緑青に輝いている。
大勢の鉱夫や討伐者とすれ違いながら、目的の店に入る。カラフが勧めるほどのことはあって、様々な盾や鎧が揃えてあった。材質は、青銅か鉄のものが多く、高級なものとしては洞窟で出る魔物の革で出来た物もあった。
値札を見ながら、どれほど予算を使うか悩む。魔物をどんどん討伐していくなら、その分自分がダメージを追う危険性も高くなり、防具は少しでも良い物を選ぶべきだろう。だが、そもそも私は積極的に魔物を倒したい訳ではない。ただ、魔法を創意工夫で使うのが楽しく実戦で使ってみたいというのと、単純に旅費を貯めるための金稼ぎのつもりである。
悩んでいるのはカラフも同じようで、鉄の鎧を眺めながら自分の天然パーマの髪を左手でくしゃくしゃと弄っている。
いつまでも悩んでいてもしょうがないので、銀貨10枚以内であること、重すぎないこと、と二つの条件を決めて、改めて店内を物色する。
幾つか候補を選んだところで、店の入り口付近で怒鳴り合いが始まった。片方は、店員である顔の大きい勝気なおばさん。対するは、太い眉が印象的な30歳ほどの大柄な男。下品なくらい金ぴかな腕輪を沢山嵌めている。
「もう一度言ってごらん!うちの店の商品がなんだって!?」
「ここで扱う品は屑だ!本物の防具とは、我が持っているようなミスリルのものを言うのだ。」
金ぴか男は、そう言って自慢げに銀色の盾を掲げた。周囲の客がざわざわと騒ぐ。
「ふん!偽物だろう。胡散臭いんだよ!」
おばさん店員が鼻を鳴らすと、金ぴか男はニヤリと笑った。
「ほお?では、試して貰おうか。そこの者、剣でも槍でもいい、この盾に攻撃したまえ。傷一つつかんぞ。」
いきなり指名された客は、思い切りの良い性格なのか、自分の剣で横一文字に盾を切り付けた。しかし、盾はカァンと音をたてただけで、傷ついた様子は無い。
それを見た店員は、苦々しげに言った。
「多少丈夫かもしれないが、ミスリルの本質は魔法への防御だろ。」
「くくくっ!よし、ならば魔法だ。おい、ここに魔法使いは居ないか?」
金ぴか男がキョロキョロと頭を回す。関わる気は無かったが、カラフが興味津々といった様子で私を指差して言った。
「ここに優れた土魔法使いが居るぞ!」
こうなっては逃げ隠れ出来ない。憂鬱そうな顔をする私に、金ぴか男が言った。
「よし、盾を攻撃してみろ。全力で構わんぞ。」
「いや、弁償とかさせられても困るし…。」
「くつ!くくくつ!!弁償しろなどとは言わんよ。傷つけられるものなら傷つけてみよ!」
ミスリルという物質がどんなものかは知らないが、そこまで言うなら試してみよう。
私は盾の前まで移動し、土魔法で砂を出現させる。天然の砂より粒子のサイズが揃っていて、不純物も混じっていない。その砂を細く高速で射出したサンドカッターで盾を上から下まで削っていく。
鉄よりは丈夫かもしれないが、それでも盾はギギギと音を上げて二つに裂けていく。完全に盾が二つに分かれた時、周囲の人々は奇妙な沈黙に包まれていた。
最初に我に返ったおばさん店主が叫ぶ。
「ほら見た事か!なにがミスリルだ!真っ二つじゃないか!」
「嘘だ!あり得ない!10人の魔術師がどれだけ攻撃しても無傷だった盾が…、たかが砂に…砂に…!」
金ぴか男は口をパクパクさせ、それから顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。
「ずるだ!詐欺だ!どんなトリックを使った!!?」
だが、人々の視線は冷たい。
「魔法で傷つかないって言って傷ついたんだから、詐欺はお前だろ。」
「合金をミスリルと偽る輩がいると噂があったが…。」
誰も味方が居ないと悟った男は、半分ずつになった盾を抱え、私の方をギロリと睨んでから、走り去っていった。
その後ろ姿をニヤニヤしながら見送ったおばさん店員は、大きな手で私の背中をばしんと叩いた。
「よくやったよ、魔法使い!最近あの手の連中が他所から来ることが多くて、イライラしてたんだ。」
お礼に銀貨5枚までの品なら半額にしてくれることになった。随分と気前が良いものだ。面白そうに様子を見ていたカラフも、良かったなと笑う。次からは勝手に巻き込まないように、と厳重注意した。
結局私は、ベイルモンド蝙蝠の革で出来たズボンと鉄のハーフアーマーを選んだ。カラフは更に悩んでいたが、最終的に鎧ではなく鉄製の盾だけを買った。
予め決めてあった東区の宿に着く。まだラシェッドはとライラは来ていないようだ。
「デート中だろう。夜までは戻ってこないよ。」
カラフをそう言って、買ってきた盾を磨き始めた。かなり気に入ったらしい。
「あの二人は付き合っていたのか。言われてみれば、そんな雰囲気があったな。…カラフはそういうのどうなんだ?」
「アキヒコ。その尋ね方、おっさん臭いよ。俺は、あっちこっちに目移りしちゃうタイプだからなあ。」
「まあ、若いうちはそんなものだろう。」
カラフは盾を磨く手を休めずに尋ねてきた。
「アキヒコは、故郷に女を残してきた、とかないのかよ。」
問われて、地球での思い出が頭の中をちらつく。そういえば七緒は元気にしているだろうか。最後に会ったのは、7年前か。
「ないこともないが、若者が聞いてもつまらん話さ。」
私の返事にカラフは肩を竦め、それ以上尋ねてくることは無かった。
翌日、私たちは再びラクダに乗って、洞窟の町ムズルクを去る。
だが町を離れてすぐ、昨日の面倒な男につかまった。金ぴか男は、部下らしいチンピラ6人を引き連れている。彼らの痩せた体つきを見るに、討伐者ではなさそうだ。
男は唾を飛ばしながら声高に訴える。
「魔法使いよ!この我を、このパルを、よくも貶めてくれたなっ!!貴様のせいで、ムズルクでの商売予定が駄目になった!どんな卑怯なカラクリで盾を破壊したのかは知らんが、ただでは済まさんぞ!」
金ぴか男の名はパルというらしい。パルの指示で、チンピラが斧や槍を片手にこちらに迫る。ちょっと事態に責任を感じているらしいカラフが言った。
「俺が始末しようか?」
「いや、いいよ。試したい魔法もあったしね。」
念じるは風魔法。パルとその手下の足場から上空に向けて強力な空気の流れを生み出す。すると彼らは大量の砂と一緒に宙に浮かび上がった。
重力に抗うほど強力な風圧に、彼らの武器やターバンは上空へ吹っ飛ぶ。彼ら自身も風圧で喋れないし、息も碌に出来ない様子だ。空中で必死に手足をばたつかせる姿は滑稽だ。
この魔法、実は私自身が空を飛べないかと試行錯誤した結果生まれたのだ。浮くことは出来たが、その時点で呼吸が難しく、飛ぶのは諦めた。でも、こうやって他人を制圧するには丁度良いかんじだ。
数分で魔法を解いた。彼らは2mほどの高さからドサッと地面に落ちて、必死に呼吸している。立ち上がれる者はいない。
「じゃあ、行こうか。」
私がそう言うと、ラシェッドは呆れて溜息をついた。
「また妙な魔法を…。しかも当然のように風魔法も使うんだな。」
言われてみれば、まだ土と火の魔法しか見せていなかった。
一連の出来事に不安と苛立ちを覚えたらしいラクダ達が、パルに臭い唾を吐きかける。これには、思わず相手に同情した。
そこから暫く進んでから、ライラが自分も宙に浮いてみたいと言い出した。道中ずっとねだられたので、その日の休憩中にライラに風魔法を使った。砂だらけにならないように風の流れに注意する。
息を止めて一分ほど浮いたら、ライラは満足したようだ。赤茶色の髪の毛がぼさぼさになっているが気にする様子も無い。続いてカラフを浮かそうとしたが、重装備のカラフは浮かなかった。流石に風圧だけで浮かせるには重量制限があるようだ。
ラシェッドは試すのを断固拒否した。別にビビっている訳じゃないぞと言いながら、黒い瞳が左右に泳いでいる。
この帰り道では、砂漠迷宮に寄る予定だ。ムズルクからアルサーヤの間に幾つか入り口はあるが、最もアルサーヤ寄りの入り口から入ることにした。魔物を倒して戦利品を得たら、すぐ町で換金できるほうが良い。
「点々とある砂漠迷宮の入り口が、二つの町の間を移動する際に目印になるだろ。これを白の道って言うんだ。」
とラシェッドが知識を披露する。
「どうして白なの?」
ライラが尋ねたが、それは分からないらしい。
ふと、土魔法使いで私に8級討伐者への推薦を出したアレーナのことを思い出した。あの子とその師匠とやらは、今砂漠迷宮に居るのだろうか。
その山脈の麓にあるのが、洞窟の町ムズルク。名前からして、町がすっぽり全部洞窟の中にあるのかと想像していたが、そうではなかった。酸素消費が多く煙も出す鍛冶施設や工芸品の商店は洞窟の外に、鉱道や鉱夫の生活区域は洞窟の中にある。前者を東区、後者は洞窟区と呼ばれているそうだ。
私たちは東区にある鍛冶屋に荷を届ける。
「そういえば、荷物の中身って何だったんだろう。」
私が問うと、カラフが答えた。
「アルサーヤで渡された時にちらっと中を見たんだけどさ、金属細工だったぜ。」
鍛冶屋から金属細工を運ぶんじゃなくて、鍛冶屋に金属細工を運ぶ?
首を捻る私にライラが軽く言う。
「修理の依頼じゃないの。」
そうなのだろうか。まあ、関係ないか。
仕事を終えたら、各自お買い物タイムだ。ラシェッドは剣の店へ、ライラは矢尻を売っている店へ向かった。私は防具が欲しかったので、同じく防具を探すカラフと一緒に行動した。行先は、カラフの勧める洞窟区内の防具屋だ。
初めて訪れた洞窟区は美しかった。広い空洞に石と青銅を用いた建物が並ぶ。青銅は良い感じに錆びて、緑青に輝いている。
大勢の鉱夫や討伐者とすれ違いながら、目的の店に入る。カラフが勧めるほどのことはあって、様々な盾や鎧が揃えてあった。材質は、青銅か鉄のものが多く、高級なものとしては洞窟で出る魔物の革で出来た物もあった。
値札を見ながら、どれほど予算を使うか悩む。魔物をどんどん討伐していくなら、その分自分がダメージを追う危険性も高くなり、防具は少しでも良い物を選ぶべきだろう。だが、そもそも私は積極的に魔物を倒したい訳ではない。ただ、魔法を創意工夫で使うのが楽しく実戦で使ってみたいというのと、単純に旅費を貯めるための金稼ぎのつもりである。
悩んでいるのはカラフも同じようで、鉄の鎧を眺めながら自分の天然パーマの髪を左手でくしゃくしゃと弄っている。
いつまでも悩んでいてもしょうがないので、銀貨10枚以内であること、重すぎないこと、と二つの条件を決めて、改めて店内を物色する。
幾つか候補を選んだところで、店の入り口付近で怒鳴り合いが始まった。片方は、店員である顔の大きい勝気なおばさん。対するは、太い眉が印象的な30歳ほどの大柄な男。下品なくらい金ぴかな腕輪を沢山嵌めている。
「もう一度言ってごらん!うちの店の商品がなんだって!?」
「ここで扱う品は屑だ!本物の防具とは、我が持っているようなミスリルのものを言うのだ。」
金ぴか男は、そう言って自慢げに銀色の盾を掲げた。周囲の客がざわざわと騒ぐ。
「ふん!偽物だろう。胡散臭いんだよ!」
おばさん店員が鼻を鳴らすと、金ぴか男はニヤリと笑った。
「ほお?では、試して貰おうか。そこの者、剣でも槍でもいい、この盾に攻撃したまえ。傷一つつかんぞ。」
いきなり指名された客は、思い切りの良い性格なのか、自分の剣で横一文字に盾を切り付けた。しかし、盾はカァンと音をたてただけで、傷ついた様子は無い。
それを見た店員は、苦々しげに言った。
「多少丈夫かもしれないが、ミスリルの本質は魔法への防御だろ。」
「くくくっ!よし、ならば魔法だ。おい、ここに魔法使いは居ないか?」
金ぴか男がキョロキョロと頭を回す。関わる気は無かったが、カラフが興味津々といった様子で私を指差して言った。
「ここに優れた土魔法使いが居るぞ!」
こうなっては逃げ隠れ出来ない。憂鬱そうな顔をする私に、金ぴか男が言った。
「よし、盾を攻撃してみろ。全力で構わんぞ。」
「いや、弁償とかさせられても困るし…。」
「くつ!くくくつ!!弁償しろなどとは言わんよ。傷つけられるものなら傷つけてみよ!」
ミスリルという物質がどんなものかは知らないが、そこまで言うなら試してみよう。
私は盾の前まで移動し、土魔法で砂を出現させる。天然の砂より粒子のサイズが揃っていて、不純物も混じっていない。その砂を細く高速で射出したサンドカッターで盾を上から下まで削っていく。
鉄よりは丈夫かもしれないが、それでも盾はギギギと音を上げて二つに裂けていく。完全に盾が二つに分かれた時、周囲の人々は奇妙な沈黙に包まれていた。
最初に我に返ったおばさん店主が叫ぶ。
「ほら見た事か!なにがミスリルだ!真っ二つじゃないか!」
「嘘だ!あり得ない!10人の魔術師がどれだけ攻撃しても無傷だった盾が…、たかが砂に…砂に…!」
金ぴか男は口をパクパクさせ、それから顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。
「ずるだ!詐欺だ!どんなトリックを使った!!?」
だが、人々の視線は冷たい。
「魔法で傷つかないって言って傷ついたんだから、詐欺はお前だろ。」
「合金をミスリルと偽る輩がいると噂があったが…。」
誰も味方が居ないと悟った男は、半分ずつになった盾を抱え、私の方をギロリと睨んでから、走り去っていった。
その後ろ姿をニヤニヤしながら見送ったおばさん店員は、大きな手で私の背中をばしんと叩いた。
「よくやったよ、魔法使い!最近あの手の連中が他所から来ることが多くて、イライラしてたんだ。」
お礼に銀貨5枚までの品なら半額にしてくれることになった。随分と気前が良いものだ。面白そうに様子を見ていたカラフも、良かったなと笑う。次からは勝手に巻き込まないように、と厳重注意した。
結局私は、ベイルモンド蝙蝠の革で出来たズボンと鉄のハーフアーマーを選んだ。カラフは更に悩んでいたが、最終的に鎧ではなく鉄製の盾だけを買った。
予め決めてあった東区の宿に着く。まだラシェッドはとライラは来ていないようだ。
「デート中だろう。夜までは戻ってこないよ。」
カラフをそう言って、買ってきた盾を磨き始めた。かなり気に入ったらしい。
「あの二人は付き合っていたのか。言われてみれば、そんな雰囲気があったな。…カラフはそういうのどうなんだ?」
「アキヒコ。その尋ね方、おっさん臭いよ。俺は、あっちこっちに目移りしちゃうタイプだからなあ。」
「まあ、若いうちはそんなものだろう。」
カラフは盾を磨く手を休めずに尋ねてきた。
「アキヒコは、故郷に女を残してきた、とかないのかよ。」
問われて、地球での思い出が頭の中をちらつく。そういえば七緒は元気にしているだろうか。最後に会ったのは、7年前か。
「ないこともないが、若者が聞いてもつまらん話さ。」
私の返事にカラフは肩を竦め、それ以上尋ねてくることは無かった。
翌日、私たちは再びラクダに乗って、洞窟の町ムズルクを去る。
だが町を離れてすぐ、昨日の面倒な男につかまった。金ぴか男は、部下らしいチンピラ6人を引き連れている。彼らの痩せた体つきを見るに、討伐者ではなさそうだ。
男は唾を飛ばしながら声高に訴える。
「魔法使いよ!この我を、このパルを、よくも貶めてくれたなっ!!貴様のせいで、ムズルクでの商売予定が駄目になった!どんな卑怯なカラクリで盾を破壊したのかは知らんが、ただでは済まさんぞ!」
金ぴか男の名はパルというらしい。パルの指示で、チンピラが斧や槍を片手にこちらに迫る。ちょっと事態に責任を感じているらしいカラフが言った。
「俺が始末しようか?」
「いや、いいよ。試したい魔法もあったしね。」
念じるは風魔法。パルとその手下の足場から上空に向けて強力な空気の流れを生み出す。すると彼らは大量の砂と一緒に宙に浮かび上がった。
重力に抗うほど強力な風圧に、彼らの武器やターバンは上空へ吹っ飛ぶ。彼ら自身も風圧で喋れないし、息も碌に出来ない様子だ。空中で必死に手足をばたつかせる姿は滑稽だ。
この魔法、実は私自身が空を飛べないかと試行錯誤した結果生まれたのだ。浮くことは出来たが、その時点で呼吸が難しく、飛ぶのは諦めた。でも、こうやって他人を制圧するには丁度良いかんじだ。
数分で魔法を解いた。彼らは2mほどの高さからドサッと地面に落ちて、必死に呼吸している。立ち上がれる者はいない。
「じゃあ、行こうか。」
私がそう言うと、ラシェッドは呆れて溜息をついた。
「また妙な魔法を…。しかも当然のように風魔法も使うんだな。」
言われてみれば、まだ土と火の魔法しか見せていなかった。
一連の出来事に不安と苛立ちを覚えたらしいラクダ達が、パルに臭い唾を吐きかける。これには、思わず相手に同情した。
そこから暫く進んでから、ライラが自分も宙に浮いてみたいと言い出した。道中ずっとねだられたので、その日の休憩中にライラに風魔法を使った。砂だらけにならないように風の流れに注意する。
息を止めて一分ほど浮いたら、ライラは満足したようだ。赤茶色の髪の毛がぼさぼさになっているが気にする様子も無い。続いてカラフを浮かそうとしたが、重装備のカラフは浮かなかった。流石に風圧だけで浮かせるには重量制限があるようだ。
ラシェッドは試すのを断固拒否した。別にビビっている訳じゃないぞと言いながら、黒い瞳が左右に泳いでいる。
この帰り道では、砂漠迷宮に寄る予定だ。ムズルクからアルサーヤの間に幾つか入り口はあるが、最もアルサーヤ寄りの入り口から入ることにした。魔物を倒して戦利品を得たら、すぐ町で換金できるほうが良い。
「点々とある砂漠迷宮の入り口が、二つの町の間を移動する際に目印になるだろ。これを白の道って言うんだ。」
とラシェッドが知識を披露する。
「どうして白なの?」
ライラが尋ねたが、それは分からないらしい。
ふと、土魔法使いで私に8級討伐者への推薦を出したアレーナのことを思い出した。あの子とその師匠とやらは、今砂漠迷宮に居るのだろうか。
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