八法の拳

篠崎流

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「実際直ぐ決まらない」

そうみやびが云った通り、NEOプロレスの公式試合は決まらなかった、無論演出上の「ごねにごねて」という盛り上げも一つ

織田社長とみやびの打ち合わせ、峰岸との示し合わせ。更にこの一件は多くの注目から格闘技ファン並びにマスメディア、スポンサーも多く付いた、ここまで大事と成ると事を定めるのも簡単ではない

試合が決まったのは2月、国立武道館とされた
無論、通常のプロレスの興行もあり、大きな試合が組まれた、そのメインに3戦、八陣との対抗戦が実現、という流れである

この時期のプロレスと言えば固定のファンが居るものの、スポンサーやテレビがつかない事もあり、深夜枠、しかも一時間以内という苦境にあった

ある意味、社長からすればこの事態は渡りに船ともいえる、実際テレビ中継が昼間付いたのだ

試合が決まった。この時点で既に織田社長は多くの「得」があったとも言える

その事態に成ったのも彼の「切れ者」具合とやり方のお陰である、だが、それの更に上を読んでいたのがみやびでもある

陣と葉月も「八陣」の者として出る以上、勝ち負けは兎も角みっともない試合は出来ない。元々さぼる人間ではないが更に励んだのである、それも「狙い」の一つである

目標とか意識がハッキリしている、というのは大事な事だ練習一つとっても身の入りが違うからだ

陣は激情家ではないし、感情をあまり表に出さないし、表面上は分らない

だが葉月は元々「ファン」である為、恥ずかしい真似は出来ない、と凄く励んだ

実際相手したみやびも陣もあまりの何時もと違う「キレ」に驚く程であった

そして多くの者に周知されたこの「試合」は当日、凄まじい人の入りで迎えたのである

ルールは単純にプロレス方式、お互い「何でもありに元々近いルール」であるからだ

時間無制限、3カウント、ダウン10カウント、ギブアップ、エスケープ

打撃、投げ、関節あり、ただ、それでも配慮あって特別ルールもある

レフェリーストップの裁量の広さである、大怪我も困るというのもあるし八陣の側は女性だし、若い

そしてもう一つは対戦カードも決まってないという事、これはみやびの要請であり、プロレス側が出した相手に、こちらが誰を出すかその時決めるというものだ

だが、最初から八陣の側は誰が見ても不利であり、NEO側は譲る

そして第三者から見て、あまり悲惨な一方的な試合も困るという事。女性や若年者を大怪我させて勝ちましたと成っても寧ろ自分らの評価が落ちる

故、ストップ範囲、ルールカードの部分で譲り、配慮を外に向けてした

ただ、それ自体八陣には無意味ではある、勝ち負けにこだわりはあまりないが、元々「時と場所、得物を選ばない」のではある

「うえー、凄い人だなぁ‥」
「ここまで煽った試合だとな」
「まあ、最後の方だしプロレスみよーぜ」
「私見るの初めてです!」

となんか知らんが叶は楽しそうだった
無論溜り場メンバーも応援に来た

そしてそれも社長から見れば期待通りである「いわば新規のファンの掘り起こし」である、そこで試合を行う事で興味のなかった人も見てくれるのである

そこからファンが出来ればこれ以上ありがたい事はないのだ、まっこと「切れ者」である、そして彼の側の関係者も理解していた

「まあ、どうなるかはしらねーけど、お客さん多いのはいいっすね」
「流石社長」だった

そして、午後3時ごろから始まった「プロレス」の試合も好評である、初めて見る観客も居て昔の「大人気だった頃」の勢いがあった

夕方頃、一旦休憩を挟んでいよいよ、となったのである


みやびはいつもの「公式の場」の胴着
そして陣と葉月も空手とも拳法とも見える衣装を与えられた、白上に深い紫の下で肩の出る半袖

葉月の場合本来の女性用でなく男性用とも言える、というのも跳び技、関節技がメインで、はかま、着物でない方が良いというのである

陣も葉月も「具足」である。無論八陣以外には「草斬り」の様な技は無いだろうがあらゆる準備という意味これが正規の物に近い

そしてセコンド、トレーナー的立場に萌が付いて先にリングサイドに出て待った

彼女も一門であるし、与命をいくばか習っている、ヘタな医者より医術が出来る為である

「やべぇ、オレの方が緊張してきた!」
「だよな」

悟と長行も他人事ではない

1戦目である
入場曲とともにNEO側の一人目がリングに上がる、若手ではあるが最も体格に恵まれている期待の新人「関本」

逆に八陣の側は静かなまま、花道から初戦からみやびが出てくる

「え?いきなり?!」

と全員思った、両者の紹介がされて対峙、紙テープがありえないくらい舞う

対峙してみると体格差にまず驚く

みやび172cm 53キロ
関本190cm 120キロである

並ぶと凄まじい体格差である


ゴングが鳴らされたがみやびは静かに、構えもせず、直立
関本も注意しながら構えて距離を保った

実際「社長」は若手がいきり立っているとは言ったが実際そんな奴はこの関本ともう2人だけである、後はどうせお遊びくらいしか思ってなかった

だが、関本は真剣である、門下生、試合に出せない新人とは云え、みやびになにも出来ずやられたのだ

「少なくとも偽者ではない」と最初から目算があった

ジリジリ両手を広げ、組みかかる姿勢だが、踏み込めない「怖い」のだ、真剣であればあるほどみやびと対面すると怖い

「何かみやび姉、ガチ?」
「だな、相手が触れない、余計な事するつもりだな」
「それって‥」と陣と葉月には分った

それが一分も続いた。何もしてないのに関本の額から汗が流れ落ちる

だが、動かないと始まらない、何かに追い立てられる様に関本は間合いに踏み込み、上から被せるように肩を掴みに行った、両手でそして左右に振り回そうとした、が

みやびは直立のまま、動かない、まるで巨大な石に掴みかかったようだ

「ウソだろ!?」と思った途端腹に強烈な打撃を受けて
「うご!?」と声を上げて体をくの字に折って下がった

ガラ空きの腹にみやびは掌打を打った軽くに見えるか失神しかねないものだった

「与命」の発頸、ただの打ちではない、気功術の一種で表面的ダメージは無いが体の内部に浸透するこれを打ち返した

関本はよろめいてコーナに下がって審判も確認して間に入ったがストップは無い

表面上、ケガは0なのだ。そして関本も分った

「気功、聞いた事はあったが見るのも食らうのも初めてだ‥漫画やアニメの世界だけかと思ってた」

だが、元々、強い、のは分っていた、そして自分は試合している、それで引いても何も生まれない故、またも掴みに行った

今度はその瞬間みやびは襟を掴まれた相手の左手を掴ませたまま運足して相手の左側面にそのまま歩いた

手首が逆に捻られ関本は崩れる、前につんのめるような形で崩れ今度は前に投げ飛ばされた

別にダメージは大して無いゴロンと前に転がって直ぐに向き直った

が、中腰から立ち上がろうとした途端、今度は後ろに投げ飛ばされる

柔道の大外刈りに近いが、同時に首への前腕手刀を喉に放つ、空手で云う「内腕刀」である

そしてそれも転がってすぐ立つがそこに追い討ち伏せに近い体勢のまま頭の後ろをつかまれ更に一回転、前に転がされる

それだけではない、それが終った途端仰向けの体勢で今度はみやびに「立ったまま」の腕十字に取られた

見ている客も審判も頭を振って追う程、リング内狭しとコロコロ転がされる、あまりの展開とめまぐるしい連続技に目がおっ付かない

そして受けている関本もどうしょうもない、関節、合気、打撃を投げながら混ぜられ、耐えるもかわすもヘッタクレもないのである

むしろ、投げに逆らうと関節と打撃がモロに入る、従って元々「受身練習」を徹底してやってる

「プロレスだから」やられてないとも言える

受けた十字固めも無理に剥がさず、足を伸ばしてロープエスケープして外す

「耐える、受ける」のプロレスならではの正しい判断だ、立ち技系ならもう終ってる試合に等しい

みやびはそれで関節を解いて後ろに転がって離れた、そしてみやびも一つ関心した「上手いわね」と

関本は怯まない、立って掴みに行く、硬直・睨み合い等無い、それがプロレスであり、アイデンティティでもある

またもみやびの両肩をガシッと組むが今度は掴んだ右手の肘の内側に肘を切るように打ち込まれて外される、余りの痛みに仰け反った

第一拳「影」枝払いの、根きり。同じ枝払いだがこれは、掴まれた場合その手に打ち当てをする物

また、見切りのすれ違いにカットするような肘、抜き手などを打ち込む

これで引いた相手が下がった途端、今度は「フッ」と前に引っ張られる、そして宙を舞った

一本背負いの形、空いた手、切られた右手の逆左手を掴み返され投げ飛ばされた

しかも左手の親指関節を掴んで

第五拳「芙蓉」の指きり。これも合気道に近い技がある、ただ、試合でなければ極めた指を「折っている」技だ

それだけではない、宙を舞って逆さまになった相手の胸に掌打も打ち込んだ

無論「剄打」である
それで関本は横にドン、と飛ばされる、そのままの勢いで、コーナーに叩きつけられたズルズルと落ちてうつ伏せのまま、動かなかった

レフェリーも慌てて寄って確認するが、間を置かずジェスチャーを続けた「ゴング要請」である、それと同時タンカも要求である

これで決着「TKO」だった、もう観客もボーゼンである

「すっげ!」
「つよ!‥」

と悟と七海もこれしか出なかった程である

「今の何?」
「反発剄だな、剄力は打撃に合せて出す場合、二種ある、浸透と反発」
「磁石のプラスとマイナス?」
「まあ、そんなもんだ、ただ浸透と違って派手に飛ばす為のモンだ」
「なるほど、じゃあ?」
「ああ、加減とはいえないだろうが見た目ほど派手にはダメージは無い」
「そっか」
「はぁ‥しかしなぁ‥」
「うん?」
「やっぱ派手に、余計な事やったな」
「たしかに‥」

そう「余計な事」つまり、みやびは思いっきり派手に勝った、こうなると相手側がもう本気でやるしかないのである

それはこれから出る、陣も葉月もいい迷惑だ、油断も手加減もないだろうとの事だ

そして二試合目、NEO側は早々に選手が出て準備を整えた

「紫藤 丈」182センチ 90キロ

若手、には違い無いのだが、総合への出場もある「ガチ」選手である、そこでの経験もある期待の新星だ

打撃メインの所謂「シューター」で、無論技は少ないがスリーパーやキック等をどこからでも仕掛けてくる危険な相手だ。というのを葉月の説明で理解した

「ま、オレだろうな‥」と陣が出た

当然だが葉月には荷が重い。しかも喧嘩戦になるのは目に見えていた

「おお!陣さんだ!」
「いけー!!」と始まる前から大騒ぎの悟と七海である

一方叶は失神しそうになってた

両者リングに上がって対峙、間に審判が入りルール確認である。だが相手は「みやびが余計な事した」だけにガチだった睨み付けてこう言った

「加減してやる余裕ねーぞ小僧」
「ですよね」としか云いようが無い

ただ、前試合とは違って体格差はそこまでない

紫藤 182 90
陣 175 72である

そして、この試合から解説席にみやびがついた、八陣の技がさっぱりで、先ほどの試合も殆ど実況、解説が成り立ってない、故である

「という訳で一戦目を終えた九重みやびさんに解説をお願いします」
「宜しくお願いします」とインカム装備で

「実際体格差はそこまでありませんね~どう見立てますかみやびさん」
「体格差は八陣には問題になりません、元が野試合上等の武術ですから」
「なるほどー、相手はシューター、打撃から関節という総合経験のある選手ですが」
「総合、という意味では私と陣は万能性に置いて対応出来ます。問題は立ち技メインであれば打撃での天秤の傾きです、そこからの優位性でしょうか」
「では、やはり不利ですか?」
「どうでしょう?打撃と言っても持ち手の多さが余りにも差がありますからね」
「つまりどうなっても対応出来る?と?」
「と、思います」

横で前試合解説していた専門家が固まった

そしてゴングが鳴った、期待と不安の二戦目である

だが、それは「動くのを待つ」までも無く動いた、ゴングと同時、構えた相手紫藤の頭が右に弾かれ、尻餅を付いてダウンした

「でた!一拍子!」
「前の大会みたい‥」

そう一拍子右回し蹴り、構えた相手のガードをかいくぐり、紫藤のアゴを下から斜め上に蹴り上げ、早々にダウンを取った

だが、ダメージ無しではない、あまりに当たり所が良かった為紫藤も慌てて立とうとするが前に手を付いた

簡単に言うと「目を回した」のである、レフェリーも「ダウン」を取った

そこで実況も固まった

「い、今のは??右ハイ?」
「ええ、右上段回し蹴り、一拍子というウチの技です」

そこでまたかと思ったが一応説明した

「本来の蹴り、腕を振り上げ、足を引き、蹴る、という動作は3つのアクションですが、ウチの一拍子という蹴りはそれを全部「1」でやります、従って相手は略認知できません、なのであの様に簡単に食らいます、何しろ「見えてません」から」
「な、なるほど~」と実況も言ったが

また、横にいた専門家の解説者が固まった


紫藤もカウント8で頭を叩いて立ち上がった、構えて向き直った

そして冷静でなかった、かなり頭にきたのか即座に「こんどはこっちのを食らえ!」とばかりに左足を大きく踏み込み、右ハイキックを放つ

が、今度は打ったハズの紫藤の頭が逆、左に弾かれ、横倒しに吹っ飛んで倒れた

「うへ‥」と葉月も思わず出た

一拍子、左上段回し蹴り、を相手の右ハイにクロスさせる様に打ち当てた。

ボクシングのクロスカウンターを足でやったようなもんだ、もう言葉も無い程完璧に綺麗に入ってぶっ飛んだ

「そういう訳です」

とみやびに解説されて、実況も言葉がない

そして紫藤はダウンカウント9でどうにかロープを頼りに起き上がった

「信じられねぇ‥化け物か‥」紫藤もどうしょうもなかった

知らない業をかけられる、これが異種格闘技での怖さだ、余程事前に相手の研究をしていないと何を出してくるか分からない、実戦で体感するまで、業などの対応手段が無いのである

それでKOされる程レスラーは脆くないがこうなると一方的に蹴り倒されるだけだ、やむなく回復と防御

つまり亀ガードで体を低く保って顔を守ってジリジリ動く、そこから近づき「当てるだけのローを打つ」ダメージはいらない、こっちの回復が先だ、である

そして身長とリーチがあるので、そうしてチクチクしておけば踏み込んではこれないと思った、しばらく、10手程それが続いた

紫藤がローを射し、陣は膝を上げてブロックする、遠くから、花道からだが見ている、葉月と北条には分る

「狙ってるな、あの顔」
「うん、タイミング計ってるね」

そして続けざまに打ち込まれるローの内、一つ選んで「アレ」をやった

「枝払い」である、打ったローを逆に狙って蹴り返した「かかと」で

「!?」と声にならない声を挙げて紫藤は足を下げた、その瞬間がら空きの腹に前蹴りが打ち込まれ、後ろにひっくり返った

「つまり、打撃に打撃を返しただけです、それで相手の手足を破壊する技です」
「よくあるストッピング、とは違うんですか?」

と固まっていた解説者も聞いた、それなりに対話が成り立つようになってた

「ええ、止めるだけじゃない、全力で蹴り返します、しかも硬い部分で」
「なるほど、肘や膝ブロックとは根本から違いますね」
「ええ、それだけで上手くすれば戦闘不能に出来ます、ただ、使うほうもかなり見切りが上手くないといけません」

紫藤はカウントをゆっくり聞きながら出来るだけ休んで立った

だが彼は「冷静」ではない最初の睨み合いから「陣」に吐き捨てたとおり気が強く、前へ前へという選手、だからここまでやれても前に出る

そして取った手段。は みやびVS中垣戦と同じだった
無理矢理、食らっても耐えて、掴みに行く、だった

特にレスラーであるからに、余程の打撃で無い限り、というのもあった、体ごとぶつかる様に前に跳び組に行った

だが
陣はすれ違ったのである

左横に僅かにかわし、右手で相手を喉輪気味に打撃、足を刈ってそのまま遅れて後ろに倒されマウントポジション所謂馬乗りにされる、カウンターすら打ち返されなかった

何が起きたか分らない、紫藤は兎に角下から暴れる、左手でガードしながら、右手で陣の次の攻撃を防ごうと左手を取りにいくがそれを逆に取られる

そして陣は相手の右腕をクルリと巻き取る様に取り左脇に抱える、そのまま体を右に捻って相手の右肘を逆に極める

相手も「ぐあ!」と声を挙げて極められた関節の逆方向、左に体を捻った、そこへ止めの一撃、右正拳を上から叩き込まれる

が、そこでレフェリーが止めた
そして陣の突きも紫藤の顔面の手前で止まった

「レフェリーストップ」である、二戦目もTKO勝ちとなった


二戦目だけに観客もボーゼンで無く沸いた。紙テープが投げ込まれあっという間にリングが埋まりかけない程である

勝ち名乗りを受けて陣は右手を挙げられたそこでまた大歓声となったのである

相手、紫藤もコーナに座り込んで意気消沈であった、もう立ち向かおうとか突っかけよう等と思えなかった、ハッキリ云ってレベルが違うとすら認識したのである

そしてもう一つ「なんてクレパーな相手だ‥」と呟いた。少なくとも彼はそう感じたのである

だが本来「八陣」とはそういう物だ、相手の弱い所を見極め、武器を換えつつ攻め、窮鼠と化した相手の技も一つ一つ絶望的なカウンターを入れて根本から潰す

そして追い込み確定させる。無論、陣の性格もあるが、そういう流れなのは自然でもあった

「つえー、とは思ってたけど、ここまでとは‥」
「だな」

そう悟と長行が呟いた横で
「キャーー!陣ーー!!」と七海が既に1ファンの様に叫んで横の男子組みはひっくり返った

「いやー素晴らしい技でしたねー」
「しかし3戦目は‥」
「ええ、まあ、ただ、私の見立てでは「いい勝負」出来ればというくらいだと思います」
「と言うと?」
「実際手を合せてみて大体どのくらいの強さであると、私は格闘技界、葉月の実力は知ってます」
「なるほど」
「しかし、もう二勝ですが」
「棄権?ですか?」
「失礼とは思いますが妹さんはまだ16ですよね?」
「ご尤もです、ですが、あの子楽しみにしてましたから‥」
「ええ?!」
「プロレスファンなんです‥」
「そうだったのか‥」

と同時に実況解説の二人が驚いた

そして一方葉月

「きたきたー」とスキップしそうな勢いで花道に出た、もう「手札」を待つ必要も無い、葉月しか残ってないのだ

そこで「何か派手にやってやろう」と駆けた勢いのまま、リング外から3段ロープに三角跳びの要領で駆け上がり自軍コーナーポストに登ってその頂点で天井にグーを突き上げた

「いえーい!」
「おおお‥」観客からため息の様な歓声と直ぐ後に紙テープが舞うのである

「サルみたいだな」
「いや、犬でしょ」と溜り場メンバーから酷い言葉が出る

実際、この行動を見ても、葉月は最も外向きである。萎縮しない、前に出る、何でも楽しむ好戦的、である、ある意味今日の試合一番「興行」に相応しい人物である

そして「全て掻っ攫っていく」のでもあった、見ていたみやびも、陣も目頭を押えて唸っていた

が、実況は嬉しそうだ、元々プロレスが専門である

「ものすごい身の軽さですね!どんな技を見せてくれるのか今から楽しみです!」と煽った

一方、NEO側は選手が出てこない、花道前でもめていたのである

「すげーな‥プロでもあんなバネ見た事ねーよ」
「ちっちゃいけど、面白そうっスね」

と一団の後ろからこちらも小柄な選手が声を掛けた

「え?お前やるの?」
「ダメですか?」
「しかしなぁ、此処負けたら全敗だぞ?」
「もう二敗っしょ、今更プライドもクソもねーよ」
「‥まあ、確かに」
「それに若手でオレより上な奴、居るんスカ?」
「いや‥よし!任せる!」とその選手を送り出した

テーマ曲がかかり、花道から早足気味に歩いてくる相手を見て皆認知した、それは一番葉月が驚いた

相手選手は同じ様にエプロンまで登ってやはり「トトン」とコーナーに駆け上がり頂点に立って指を突き上げる、そして同じ様に歓声が起こるのである

「おーーと!NEOはJrの最終兵器ザ、ファルコンを出してきたー」

そう若手には違い無い。だが、Jrヘビー級王者「マスクマン・ザ・ファルコン」であった


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