境界線の知識者

篠崎流

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二重交差

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トロントでの戦後処理も一週間で片付け、ロベルタへ帰還したが、ここでロッゼとも二人きりで話し合った

「ティアやインファルにも云われたし、オレもロッゼの気持ちは知っている。ロッゼに言わせるのもオレに甲斐性が無さ過ぎるとも思ったのでオレから申し込む」

つまり「結婚しよう」だ

「え!?」と一瞬、ロッゼも驚いたが直ぐに気を取り直し、略即答で受けた「わたくしもフォレス様をずっと思っていました、喜んで‥」と

「が、色々と問題もある」
「ええ、理解しています‥どちらも「君主」ですし」

翌日朝にはこの決定が発表されて騒ぎに成った、反対は殆ど無い。基本めでたい事だという事の方が大きい。ロッゼも25だし、積極的に「思い」とか「好意」とかを出す初めての相手である

そしてフォレスは戦後の対応、高い能力、連合の主国であるし、ロベルタへの、高い貢献度と援護があり「ロベルタ」という国に対しての得が多い側面もある

官民一同素晴らしい事だとまず思った
が、「色々と問題」と言った様に更に先の問題もある、それもフォレスも先制して決めて書いた

まず、二人の間の子はロッゼの子でロベルタ側の後継者とする事、もう一つが夫婦には成るが、国の所有にはこれまで通り両君主が治め、独自性を維持する事の二つを、直ぐに閣僚会議で提言

ロッゼは自分が嫁いでも構わないと思ったが、そこは止められた、というのもロベルタもグランセルナも「二人が居てこそ」の国であるからで、現状代わりを務められる人間が居ないし、居たとしても二人程の支持は得られない、それあっての事だ

宣誓・告知から翌日には直ぐに結婚式が行われる。ただ、先の事情あって、あまり大げさに大々的にやらず、城の内部だけでと成った、式自体も、神父を挟んでの宣誓だけ

パーティーも簡素な立食パーティーだった、フォレスもそのまま帰る訳にもいかず一応5日、ロベルタに留まって配慮した

もう一つの「理解しています」もそこである、フォレス有っての国と連合である以上、グランセルナに直ぐ戻らなければ成らないという事だ

その中でもロッゼは理解して受けたそれだけにその五日間は傍を離れなかった、そしてかなりの甘えん坊だった

公人としての時間はそうでもないが私人の時間はずーーとフォレスに張り付いていた新婚といえばそうだから当然でもあるが

この間にもフォレスは忙しかった、何しろ指示面でやる事が多い、神聖騎士団や軍錬を見回ってアドバイスやこれという人物の抜擢進言、先の戦争からそのままだった派遣軍の再編と指示

お祝いに訪れた様々人との面会会食、ロベルタ地域の周辺領主国への統計の洗い直しから、治世や軍備に関する意見など、五日で全て行った

自国の派兵されている軍もその場で再編、500のロベルトのおっさんの高速騎馬軍と輸送軍をカハルに戻し

ハーベストと旧シルバの合同軍六千を半分に割って三千づつ、ハーベストとインファルの軍にし、ハーベストは大軍指揮しても問題ない事も分かったし、先の武功も有る為「大佐」に昇格させる、これも国と時代でバラバラではあるが一応、軍事の指揮権限では5000人までは持てる連隊指揮官となる

インファルに関しては「わたしも軍ほしー」という熱い要望を叶えつつ軍側としても行動、参戦出来る様に配慮した為軍事的にはハーベストと同じ大佐にしておく

インファルの場合、立国からの人材不足、なんでも出来る系で色々任せた事もあり、正直かなり立場というか階級は難しい、教師、外交官、内政官、参謀までやっておりその上軍権まで欲しいとか言われてもどういう地位を与えたら適切なのかという所がある

一応、貴族制度もあるにはあるがこの世界ではあまり使われていないし、フォレスも特権階級を導入するつもりはなかった、あればあったで統治には便利ではあるのだが。

例えば  王
  貴族 貴族 貴族 

と下に作って其々に土地と裁量を与えると三貴族が委任地域に近くなるので、王様のやる事が減る、領地の管理と、防備とかを委託できるからだが、勿論問題も多い、割拠とか統治地で圧政とか、仕事の如何に関わらず膨大な利益が発生するので不正も起こり易い

なのであくまで政軍、君の判断で全部関わっていいよ、とする為に既存の階級職で高い権限を持つ、王国政軍参与を与える

政・軍に垣根なく口出し出来る、ハイスペ専門何でもアドバイザーで状況に応じて補佐、適切な者が居ない場面や現場では仕切っていい、ていう万能職という感じに収まる

建国からの日数の問題、もう一つにグランセルナの重要人物、物事の中心に居る人物が、地位立場に固執しないというのもある、何しろフォレス自身も未だに「代理王様」くらいにしか思ってない、故に「形」の整えは一応したという程度の事ではあった

「せんせー、所で、あたしらこのままロベルタでいいの?」
「うーん‥正直どうすっかなぁ、とも思ってる、悩み中、ただ暫くロベルタ周辺の兵力が回復するまでハーベストは置いておいた方がいいなぁ」
「んだね、先の結果あるし、置いとくだけで牽制にはなるよね」
「僕は?」
「テラもそのままハーベストについててくれ、ハーベストは武ではからっきしだし」
「了解です」
「今回は武装の優位性で押したけど、ウチ弓軍て常に使える訳じゃないしな、そうなった時武芸者居ないと困る」
「そだね、弩兵も蓮弩兵も天候次第の面もあるし‥」

そうインファルが云ったとおり、グランセルナ軍の「弩兵」は非常に強いが逆に他軍と違った欠点もある

弓兵も三種類居る、手弓は通常の何処にでもある部隊で問題なく稼動出来るが、弩兵は、通常のハンドクロスボウの二倍の長さと重さがある、銃身を長く、矢も長くしてあり、長距離を飛ばせるようにねじり加工がしてあり

クロスボウ本体も「コルクスクリュークロスボウ」つまり、より矢が回転しながら飛ぶように、独自開発された物だ、弦を引くのも道具が要り、装填に時間がかかる、一番問題なのは特殊加工故の

「環境影響」点。非常に天候 特に、風雨の影響を受けやすく、風が強い日等ほぼ狙った所に飛ばないというか不規則な
動きをするためだ

連弩に至っては、3本装填で「打ち方、と込め方」の人員分業が居る、まだ狙って当てるでなく、ばら撒いて当てるだから遠距離で無ければ使えるが

基本的に弩兵と違うが同じ欠点がある、そして鉄矢じり無しの全木材加工である為、軽い、気圧や湿気の影響すら出るのだ

その為「それが使えない状況、効果を発揮し難い状況」もあり、そうなった場合、無しでも戦える保険が居るのである

フォレスが本国に戻る際もロッゼは門まで出て見送った、ここまでべったりで寂しそうにされると正直離れるのも申し訳なくなってくる

「転移陣があるからどうしてもという時は使っていいよ」
「はい」
「それから何れロッゼが国を離れても問題ないシステムを構築する」
「出来るのですか?」
「連合になったし、一応半々統治的な立場でもある、こっちの人員も結構出せるだろう」
「はい、お待ちしております、その時を」

とそこでも抱きつかれて熱いキスを受けた
周りに居る者も思わず照れる程だった

「こりゃ裏切る様な事になったら殺されるな」と一同も思った

転移でグランセルナに単身戻ったが、状況の変化あって色々考えざる得ない、王座で休みながら肩肘頬杖で暫く唸っていた、こうしたい、と思うプランはあるが、制約条件もあり、出来ない事も多い

横に着いたメリルもフォレスがブツブツ云ってるのにイチイチ話相手になった

「弩、連弩もカハルやロベルタ軍に配備させたいが‥材料と職人がなぁ‥」
「アイアンウッドもどこでもあるという訳ではありませんからね」
「うむ、カルディアの軍を色々な場面に使うには今の完全攻撃型の武装では困るので何らかの、武装を増やしたいが、アイアンウッドはここと南西にしか自生してない」
「技術や作り方も特殊ですからね」
「そうなんだよね、代理統治の面ではメリル、インファル、ターニャ、オルガ、ティア、ハーベストとトリスにも出来るだろうが、カルディアの軍の全近接の騎馬では使い難い」
「そうですね…グランセルナ防衛戦の時の様な、高機動と火力と生かした伏兵とか裏を突くとかではいいんでしょうが」
「だな、当人が戦場戦闘でも策でも秀でているからそうなってるのもあるし」
「何か作りますか?」
「戦車は少しやってるが、これも超攻撃型だしな、一応後ろに置いて拠点防衛は出来るが応答性が低い。最低弓と支援軍は居るな」
「うちの弩をこっちで作って送るしかないですね」
「そうだな、これを向こうの騎馬軍に充てて一部遠距離にしてもらうか」
「いいと思います、では増産を急がせます」
「頼む、それから一応構成の変更があったので軍会議を、それとローラにも声掛けてくれ」

帰還して当日だが早速午後には軍官会議
まず、この一声から始まった

「おめでとう御座います陛下」である
「ああ、有難う、ま、嫁はこっち居ないけどね」
「それにしても思い切った事をしたな‥」
「ロッゼの痛いほど、いや、突き刺さる程の思いは分ったしな、知らん顔も出来んし、東が整って、連合にもなったから、まあいいだろう的な」
「ま、そうだな」
「ただ、この結婚は俺ら個人の物と思ってもらっていい、国自体を割れても困るし、そういう宣誓も書いてあるので、今までどおりで」
「なるほど」

「で、陛下、今日の会議ですが」
「ああ、ハーベストとインファルに其々軍を三千づつ一応大佐待遇に任免して与えた、どちらも戦術面と知は力あるし、援軍派兵の意味でも独自軍が有った方がいい、先の戦争でも最初からインファルに自軍があればもう少しマシだった可能性もある、これも、オレの判断の誤りだ」
「とんでも御座いません‥」
「で、メリルとも話したのだが、連合の各国にこっちの武装を一部回したい、あくまでコッチで生産しての提供が売買になる、特にカルディアの軍は、騎馬のみで最低弩騎馬にして遠距離対応にしたい」
「こちらから職人、技術提供はしないので?」

「一つに、この独自兵器はやたら広めるとどこかに漏洩になるしウチらだけで使う様にしたい、何れ向こうが開発して、相手に使われるにしても、優位は捨てないほうがいい」
「そうですねぇ」
「二つに材料の問題、これもアイアンウッドで作ってるし、この木自体グランセルナ周辺でしか自生してない、連合国に広めても、材料が無い事になる」
「ふむー」
「三つに、非常に使い難いし、職人の育成にしろ、アイアンウッドを植林するにも数年は掛かる、育つかどうかも謎だ」
「たしかにそうですね」
「と、いう訳でこっちで作って連合の各国主力に送るでいい、カハル、おやっさんと。ロベルタ、バルクストでいい」
「わかりました、今弩も連弩も予備に、2~300ありますので」
「まずはカハルだな、弓騎馬なので弩を全部回していい」
「はっ」
「それから、これに関連した事だがローラにも動いて貰いたい」
「西からの輸入じゃな?」
「そうだ、一応エルフの長老にもお願いして間伐での余りも譲ってもらうが、材料は多い方がいい」
「わかった、さっそく通知する」

「矢の方はおっつかない可能性が高い、んで、この際、本国軍も暇なので兵らにも製作の手伝いを、弩の矢は難しいので、連弩の矢を頼む、これは木材加工だが、特殊なねじりは矢自体にはないし、一応、増産はそこまでやらない、次の構想があるんで」
「了解しました、が、どういった?」
「矢の面倒があるんで、本体に改良を入れるのを考えている、正直あのねじり矢は木材とは言え、作るのが面倒だし」
「確かに‥」
「多分、どうせ機械矢だから、弦を巻き付けて打ち出す形かな、実験は少ししたが、まだ、これからだ」
「わかりました」
「ヘイルズの吸収兵と新兵の訓練が終って数の整い、武具製作と、それを配備出来る状況が整うまでやる事もないだろうな‥で、何かあるか?」

「カハルへの駐留ですが‥」
「うーん‥インファルでいいか‥折角軍与えたし、代理統治してもいいし」
「そうですな」
「まあ、ロベルトのおっさん居るし武と知のバランスもそれなりあるだろう、ただ、一月後でいい、ロベルタも軍備やってるし、そこそこ向こうが整ってから動いて貰おう」
「はっ」

「それと王様、ペンタグラムですが、先の災害からの復興は終ったとの事ですヴァイオレットさんが戻りますが‥」
「そうだなぁ‥一旦止めておこう、後でオレも一回行って見るわ、その時に次予定のアドニスと一緒に行こう、周囲調査もしてみたい」
「分りました」
「多分、当面落ち着くだろう、今の所あんまやる事ないし」
「しいて言えばロンドギアだな」
「北と結構小競り合いがあるんだっけ?」
「ええ、少ないですが、所謂嫌がらせのような」
「まあ‥連合ではないから、要請あれば出す程度でいいだろう」
「ですね」
「では、解散で」

そこからはまだ内政分の作業が主である、中央と街の職人らを集めての「次の構想」つまりコルクスクリュークロスボウの本体の改造、これを既にフォレス自身がサンプルを作ってある為設計図と本体を公開しての説明と作成依頼である

「これはそう難しくありませんな」
「うむ、本体自体にレールと弦の回転方向に合わせての二回まきだけですからな」
「ただ、陛下、強度面で鉄も必要かと」
「うーん、そうだなぁ、繰り返し使う訳だしな」
「はい」
「鉄も余ってるくらいだし構わん、これも通知しておく」
「はっ」

承認して早速生産にかかったが、実際完成から増産には結構かかる事になる、実発射、耐久試験、そこから完成品を元にした増産であるだけに

この日から三日後にはアノミアから伝心での連絡
ロンドギアと北のピスノーラの戦の気配との事だった

「ただ、それ程心配はいらんようだが」
「何時もの小競り合い、か」
「ロンドギア住民も何時もの事だろうと噂している、それ程頻繁では無いが年に一度はあるそうだからな」
「ふむ‥所謂嫌がらせか」
「その様だ、ロンドギアが何かしようとすると大抵出てきて、牽制や小戦闘を仕掛けてくるらしいな」
「削り作戦て奴だな‥とりあえずカルディアに連絡しておく」
「数はロンドギア八千、相手は一万二千だそうだ」
「了解」

そしてそのままカルディアへの連絡である、カルディアも了解して直ぐに軍を出した、ロンドギアから最も近いという事からだ

三日後に始まったロンドギアとピスノーラとの開戦も
実戦闘が一切行われず相手が後退して終える

両軍睨み合っている北街道の斜め右後ろにカルディアの軍全軍七千が現れ、ロンドギアの後ろから騎馬での姿勢だけ突撃、戦車隊5機での右回り牽制を行った為である

数の上でも一万五千対一万二千である、更に云えば、この状況でカハルと合わせる訳には行かない、連合も敵に回しかねないからである

結局二日軍を挟んでの睨み合いの末、何も起こらず終了となった、ロンドギア側も礼を言ったが大した事ではない

「相手も連合と事を構える気はないだろう、牽制軍だけ出せば引くのは分っている」

カルディアも返して即座に当日にはカハルへ戻った

「連合の人材の豊富さは羨ましい限りだな」カンツォーネも云わざる得なかった

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