混血の守護神

篠崎流

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流転

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こから更に二ヶ月つまり、円が大町の屋敷に住んで五ヶ月の頃、展開がガラリと変わる戦である

元々戦はあったのだが中央が全国統一を目指して動く、中央と余り関係が無い方面にまで派兵が起こる

大抵の中国史の王やらは統一は行っている別に可笑しな事でもなく、単に歴史事例であれば当然に近い事だ

ただ、これは円の周りには宜しくない
そうなると、今まで様な生活も出来なくなるし最悪、支配されることになるが

円はまだそれがどういう物なのか知らない、なのでバンの父に「ここは疎開したほうが良い」と薦められたが円は渋った

「私だけ逃げろと?」と
「マドカは此処の人間ではないし戦に負ければ女はどうなるか知れたものではない、まして貴女は客人である」
「しかし‥」
「気持ちは判るが、マドカがここに居ても役に立つまい」

そう敢えて厳しく返して促した。

考えてみれば当然だ、義理人情の面で言えば、自分だけ逃げろと云われても受けられる訳がないが戦える訳でもないし、一人、小娘が居た所で何も変わらないそう薦められるが当然でもある

勿論、王衝も同じ考えだった、実際そう口に出して勧められる

「ここに残っても何の意味も無い、円は何れ、故郷に帰らなければ成らない、ここで囚われる意味も理由もない」とした

結局、両者にそう説得されると円も受けざる得ない、数日の内に身支度を整え、世話に成ったバンの父と王衝にも挨拶をした

その場であまり役に立つとも思えないが護身用に剣といくばか金子を渡される

「なるべく、東周りで北か南に行くと良い、街々の道のある所から、人の多い方へ行くべきだろう、その方がまだ安全だ」
「方角は分るね?」
「ええ、太陽の位置で大体」
「何れ帰るなら海に沿って、北か南に向かう方が船が出しやすい」
「分りました」円もそう言って別れる事と成った

これは倭との船の交流も北から始まっているからだ

翌日には円も街を出たが、直ぐには逃れなかった。北東の丘で「どうなるんだろう」と様子を見た事にある

自分の眼だけで遠くから見ても特に問題は無い、そもそも眼は良い、というかこの時代の人間は大抵視力は遠眼鏡並みだが。

二日後の国軍との戦は一方的にあっという間に終る、半日持たず占領

これもまあ、当然だろう、何しろこの時代の戦闘など、数の差を活かした、ひき殺し戦でしかない残らないで正解、なのだ

が、驚きなのは其の後、師やバンの父の言った通り支配された側は従順な者はそのまま徴収

そうでない者は大抵処刑か奴隷、資産とか、金になりそうなモノは徴用である

初めて見る戦と、その戦後処理に円も驚きしかない「冗談でしょう‥」としか言いようが無い、これじゃ盗賊と何も変わらない、隠れながら見ていた円も動悸と冷や汗が収まらなかった

それでも彼女は直ぐに取り直して、そのまま北に逃れた

これは様子見で北東の丘の草むらに隠れた事に起因する、直ぐ逃げる、ならそのまま西から突かれた反対側、つまり北東に逃げるが楽、という事だ

事前に言われた通り、海を右に置いて北に逃れれば、先の状況の変化に対応はし易い

旅路、と言っても街や集落の類に入りながらの移動なら、それほど危険は無い、人の行き来がそれなりにあるし道もちゃんとあるにはある

と言ってもそれは其々の土地の責任者や統治者に寄る、公共事業として整備する者と、自己利益で悪政を働く者によって分れる

そんな中、最初の街に辿り着いたのが更に五日である、ここも周囲を壁で囲った場所で其の中に街やら砦が存在する、まず、当時の場合、ちゃんとした統治国や群なら、こういう形の街が普通だ、というのも人々の生活習慣と言うか、決まりはこうだ

朝起きて、壁、城壁の外に出る農作業や狩り等して其の日の糧と仕事をする、日が落ちたら一斉に壁の内側に帰り其々の家に帰り、雨戸も閉めて外に出ない

街、壁周りを封鎖して、獣やら夜盗やらの侵入を統制している軍なり、兵なりが監視して守るというモノだ

何しろ、自然は多いし獣が多い、ヘタに深い森だの山だの行くと虎だの狼だの熊だのに結構な頻度で出会うし、賊も多い

故に、日が昇っている間だけ活動して落ちたら囲いの中に戻って安全を図るというスタイルになる

これも其々の統治者次第だが、これを怠る群やら地方やらは住民が逃げるし、危険極まる、そうなると税もへったくれもなく評判は落ちるし税収も得られない

実際、この国の歴史は民衆反乱から代表者が呼びかけて、巨大勢力に成り、都を攻めて、帝が変わる、など延々と何度も繰り返している

元農民やら、地方の役人やら名士などが、酷い迫害を受けて蜂起し、皇が攻め込まれて、転覆して入れ替わるというのが多い

だから「王」とか言っても、元々はちゃんとした血筋、とかそんなんではない

円は北へ、の方針から街や集落を渡り歩き進んだ。ただ「生きるに困る」というのは余りなかった、それが円の持っている、大陸に着いて得た技術と才能にあった、学と音である

読み書きを教えても、適当な高級店の類に入って飛び入りで弦楽を披露してもそこそこ金子なり、食い物等にありつけるからだ

芸は身を助く、とはよく言ったもんだ、まして、円は見た目も宜しいし目立つ

アジア系独特の顔の作りで無く、眼も大きく、パッチリしているし、外の作業をしてても肌も白く、背が高い、大抵のそこいらの男は「麗しい」と感じる事にある

が、どちらかと云えば「近づき難い」雰囲気だろう、衣装さえ変えれば、おそらく宮中に居てもなんら違和感が無い程だ

こうした事情で円は後の世で云う吟遊詩人の様な生活になった

こうなってくると、大抵融通が利く様に成ってくる、楽に楽が重なってくる事だ

その場その場で声を掛けられ求められる、酒の場や、酒宴で知り合う連中や、円と同じく移動が多い、武芸者や商人とも知己になり

「北に行くの」と云えば、同道させて貰ったりと便宜もある、勿論、男からすれば、下心が無い訳ではないが大抵の場合

「女一人身で旅等危険だ、我々と同道してはどうか」という事が多い

まあ、この頃の大陸の人間はまっとうな仕事をしてれば、大抵良識はあるからでもある

所謂、五常の徳の「仁義」の部分を備えた者も居る、慈愛と正義の部分簡単に云えば

「困った者は助けましょう」
「弱きを助け、強きを挫き、正義を行いましょう」の慈愛と正義が

だから円も主にこういった、まだどこにも登用されていない流浪の武芸者の厄介になる事が殆どになった

代わりに酒の相手や音を提供し詩を奏で、簡易な料理等もして旅の共として移動した

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