混血の守護神

篠崎流

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そこでまた3年程篭ってまだやっていない仙術を試して比較的簡単に出来たのだが、これは実戦ではあまり役に立たなそうだとそれ程重視しなかった

まあ、あればあったで有効な「術」が幾つかの内、二つ習得した、のだがこれは「円」には使い道は薄いと感じた

一つが、内気功。気の循環を高め、回復力を上げる。これは元々の自身の回復力が高い為、まず使わない

二つに。遠気砲。拳法辺りでいう「百歩神拳」つまり遠距離で離れた相手に気砲を打ち込む技

文字通り百歩離れた距離、という意味だが

これを習得した後、実際枯れ木に撃ってみたのだが打撃が遠距離で通るという程度で、牽制に近い、しかも離れる程、文字通り「百歩」以上離れると、威力が落ちる

更に云えば、攻撃力の割、自身の気の消耗が激しく飛び道具でも投げた方がマシだった故だ

ただ、近接に混ぜて使う分には良い、自身と対象の距離が近い程、威力が出る為。拳が届かない、と見せかけて撃つ分には奇襲の意味でも有効だろう

コストパフォーマンスの悪さから一応で済ませた。何しろ五発も撃てばいきなり気が空だし燃費が悪すぎる

が、もう一つ、それが幸いして思い立った事もある

「じゃあ、気の上限を上げればいい」に

元々そういう訓練もある事からそれも日常に加える
この辺りで、再び下界に下りどこぞかに移動する

「とは云え、どこ行こう」
「どうせならまだ行ってない所かな?」でテキトーに決めた

過去、最初に中国に辿り着いた先から首都に移動し皇宮に仕えた為、中国本土で言えば、西、南はあまり知らないので、半ば興味本意だが、そう決定して歩いた。そしてまた町から町へである

これもついでだがこの時点に至って、アチコチの拳法も習い始める

「技を増やすのは案外有用、色々合せると結構組み合わせ次第で強い」

仙術の部分から感じ「取り入れられるものは全部入れてしまおう」と辺り構わず収集を図った

中央から南東更に南とこれも街々を回りながらだが、特に、長期という程でもなく、適当に1,2ヶ月住家を借りながらだった

ここまで来ると態々門下に入って習う必要もない「見学」だけで、もう大体分る。自身も基礎だけとは言え、略、武芸の功夫だけで言えば頂点に近い所にあったし、これも「コツ」の部分で大体同じだと分ったからだ

「難しい体術と言っても、それ程無茶苦茶なモノは無い、要は、如何に効率的に徒手で相手の戦力を奪うかに集約される」
「人間が1から習得するモノに非常識なモノ等無い両手足を使った打撃には違い無いな」という事である

其の中で得たのが奇襲技、足技、歩法、相手を地面に転がす投げや、超近接で使う肘、体当たり等だった

これは「見学」だけで覚えて、家に帰って使って試し習得するに終始した

習うはいいが、対人の手合わせ等、出来ようハズもないし「これだけ教えて」て訳にも行かない「必要な所だけ」では相手が受けないだろう

もう一つが「武芸繋がり」で覚えた「ツボ」「整体」である、元々、武芸には「ツボ、急所突き」があるのと、整体も体の特徴を知る為、略苦労せず短期で覚えた、壊すも治すも表裏一体なのである

10ヶ月程それを繰り返して、最初に円が流れ着いた港。現在で言う福建省北まで辿り着いた。見た感じは過去とそれ程変わりは無いのだが、嘗ての若い夫婦バン一家の痕跡は無論無く、分っているとは言え寂しかった

実際の年月、大陸の人口が激減した内乱の二百年だけに生き残る方が難しいだろう、単純に半分まで減ったのだから、家族なり、子なりが生きるのも五分五分という事だ

だが、無限に近い時間を得る、とはこういうことだ、どれ程深い関わりがあろうとも、それは何百年も残りはしない通り過ぎるだけ

自分はどれ程昨日の様に覚えて居ても、相手は影も形も残らないのだ、そう、だから「円」が残ったのである


円はそのまま港を見て海を眺め軽く故郷を思いながらも
地元で適当な宿に入って横になった

「南、と云えば、越までは行ってないなぁ、そっちまで抜けてみようかな」とごろ寝しながら考えていた。そこで直ぐ気がついた

布団から上半身を起こして先に話しかけた
「居たの?」と「おう」と答えて蜃気楼の様に姿を現したのは「ヤオ」だった

「随分感覚が鋭くなったようじゃな」
「仙術をやったからね、気で大体分る、貴女達も生物には違い無いし」
「ほう」
「で?何か用?」
「様子見、とそろそろ、簡単な仕事をこなして貰おうかと思っての」
「ええ、分った」
「物分りがええの?」
「そりゃ「約束」だし「準備」も常に整えて来たわ」

「と言っても、お主は想像を絶して強くなりすぎておるからのイージー仕事じゃろうなぁ‥」
「まあ、なんでもいいけど」
「とりあえず、越南にそのまま向かえ、領土線前までで良い」
「分った」
「後は現地で説明する」
「そっ、分ったわ、んじゃお休み」

とそのまま床についた、が

「ちょっと」
「なんじゃい」
「なんで貴女まで入ってくるのよ」
「うちも同行する」
「‥」
「なんで嫌そうなんじゃい」
「一緒に寝なくてもいいでしょ!」
「ええじゃろ別に、偶にこっちの生活も体験したいぞ」
「はぁ‥」

と、溜息をついたが、翌日から酷い事になった

「早く乗りなさいよ」
「乗った事無い」

馬に乗れず二回落っこちて円がひっぱり上げて乗せた

「おい、尻が痛い」
「馬の動きに合せるのよ‥そのまま座ってるからでしょ」
「先に言え」
「知らないとは思わないでしょフツー」
「乗った事無いと云っとろーが」
「神様のくせに‥」
「手下のくせに」

正直、初日から頭が痛い事態だった
そのまま、同行しながら南へ向かうがこの際「自称神」と同行動というのは悪くない

というのもこれまであまりにも交流が無さ過ぎる。円からしても分らない事だらけ、疑問だらけでもある

三日目に適当にまた入った宿で飯食いながらコミュニュケーションを取った、取れなかったが

「なんじゃこれ?」
「アワビ煮」
「グロイぞ」
「それなりに高い物を頼んだんだけど?」
「ふーん、この臓物みたいのがねぇー、あーグロイグロイ」

と云いながらヤオは適当に切って食った

「このスープに沈めてある臓物は何だ?」
「肉団子。臓物、臓物て止めてくれる?」
「しゃーないだろ、そうとしか見えん、あーグロイグロイ」

何だかんだ、それも平らげた

「グロイグロイ云いながら結局食うのね‥」
「味は悪くない、てゆっか、円のは何だ?草実ばっかだろ」

実際円は注文したのは青菜炒めだけで、自分で山林で採って来た、木の実を袋から出してかじってるだけだ

「仙人食よ」
「ああ、殺生するな、肉、魚食うなていうアレか、あんまり意味があるとも思えんが」
「もう習慣ね、10ウン年続けたし」
「その葉っぱ美味いのか?」
「青梗菜チンゲンサイ、葉っぱ云うな」
「葉っぱは葉っぱじゃろ」

と自分のも半分譲った勿論それも食った

「下界料理も案外美味いな」
「‥と言うか、貴女食べる必要あるの?」
「別に無いな、死ぬ訳じゃないし、ただ食と言う娯楽は必要じゃろ一応腹は減るし」
「天神て何食ってるのかしら?」
「大抵無限にそこいらの木に甘露の実がなっとるな」
「私達とあんまり変わらないのね」
「そりゃそうじゃ、単に世界が分かれとるだけで、特別神々しいモンでもない俗物くさいのも多いし」
「それ、貴女の事じゃ‥」

「聖書か神話を読み直してみるのじゃな、それ程間違いじゃない、地上人と同じく、嫉妬や罰もすれば、下天して敵に回る奴もいるし単に殺した人の数だけで云えば悪魔より多い」
「ああ、確かにそうね」

結局其の日はヤオが只管食って寝たので翌朝からの移動で疑問を晴らすことにした

勿論、ヤオは馬の後ろで相変わらずガクンガクンしながらだったが

「聞きたい事が色々あるんだけど?」
「なんじゃい」
「何で私が使徒なんだ?」
「前に云わんかったか?」
「それに耐える精神、とか云ったわね」
「そう、普通の人間はお前の様には成らん」
「?と云うと?」
「あのな、大体の奴は200年も人の心のまま生きてりゃぶっ壊れる」
「そうなのかしら‥」

「実際、ウチが生かしたのはお前が初じゃない何度も失敗してお前が残った」
「失敗??」
「才能と性別重視で選んで使徒にしたが、大抵そういう奴は心が壊れる」
「心?」
「んー、例えばだが、死なぬ、時間も無限にある。そうなると「オレは特別な存在になった!ヒャッハー!」とか明後日の方向にぶっとんだり。自分は死なぬのに周りは死んで行く事に耐えられず、自殺を図ったり同じ事の繰り返しに虚無、廃人になったりしてまうんだなこれが」
「あー‥、分らなくもないわ。そうなったらどうするの?」

「お前は心配いらんだろ、もう。今までそうなった連中なら中和して治療して記憶を消す、んで、人間に戻して放流じゃな」
「なるほど」
「勿論、根拠があった訳ではないが、結果お前は残った、そんだけじゃ、それに、ここまでの経過見ても、お前は完璧じゃ」
「でもさー、私以上の人なんて山ほど居るんじゃない?」
「かも知れんが、元の才能など精神面以外はさして問題ないと分った」
「と言うと?」
「人間は成長する、育つ、強くなる、それを続けられる「心」が強ければ、必ず何時か、使徒に相応しくなる故に初期スペック等微々たるものなんじゃよ」
「なるほどねぇ」

「そこがお前は飛びぬけている、事実言わせて貰うが、ハッキリ云って、時間以外の能力を与えず、その領域まで来ている、自身の修練によってな」
「そうなのかしら?‥」
「褒めて調子に乗る奴じゃないから言わせて貰うが、お前マジデ「仙人」の一歩手前だぞ?」
「マジデ‥」
「おう」

そう「神様」に言われると悪い気はしない

「で、使徒を使う理由なんだけど?」
「どういう意味で?」
「だって神自体、凄い力があるんでしょ?別に人間を使徒にしなくてもいいんじゃない?まして、私なんか」
「では逆に聞くが、何故神話では人間の英雄が登場する、それに力を貸す?」
「え‥兵士?、神界に召し上げられる、そういう奇跡の魅せ?」
「無い訳では無いが、最大の目的は「人間は強い」からだ」
「は!?」
「いあ勿論、最初はアリみたいなもんだが、それは育つ際限なく、な」
「つまり?」
「神も魔もそうだが、うちらは「格」とか「特殊能力」とかで強さが大体決まっている、が、人間はそうではない」
「つまり、チェスで言うとボーンからキングにも変わるという事?」

「そういう事だな、ウチらもパワーアップしない訳ではないがそれは主神の力添えや、授かる装備や、階級が変わるしかない、つまり自身の修練の類ではスペックは変わらんが、人間は経験や積み重ねで強化される天の側から見れば「人」は「ジョーカー」だ」
「成る程‥」
「それに、ウチみたいな連中がやたらめったらコッチに居たら大混乱じゃろ」

「それもそうね、だからコッチで活動する貴方の代わりにする手下が要るのね」
「うむ、そしてもう一つの疑問だが、これは代理戦争に近い。人界は人のモノというルールがある、だからウチ等は直接干渉が禁止になっている、こっちは人間自治区みたいなもんだ」
「成程、双方不干渉なので私とか代理人を立ててこの世界で綱引きしている、つまり逆の存在も居るのね」
「うむ、人界は人間の物だと定められている、それを乱すとすれば、当然カウンターが生まれる、ウチはその手下を使い、天敵を抑える役割じゃ」
「そうなんだ」
「そんで、ウチは戦闘はクソ弱い」
「つまり、私が戦う訳ね‥」
「まー、つっても相手も誰かに乗り移っての事で別に悪魔と大バトルする訳じゃないから「人間として」の能力が高ければそれでいいんじゃよ」
「なるほど、それが仕事ね」
「あっさりしとるの」
「驚いた方がいいの?」
「そういう奴なのは分っとるよ」

「それともう一つ」
「うむ?」
「抑える、てどういう事?向こうを殺せばいいの?」
「そうとも云うし違うとも云う」
「?」
「相手にも寄るが、基本、神魔は死なぬ、下種なら消滅するが」
「あ‥私ですらそうだしね‥」
「そう、が、死から復活までかなり時間が掛かる場合が多い、100年かもっとか。」

「成る程、大体分った、何らかの形でコッチに進入した奴を倒す、基本死なないけど死から次まで100年とか掛かる、つまり時間稼ぎ、ね?」
「左様、まあ、それ程の相手は滅多に来ないじゃろうが」
「しかしそれも微妙ね、なんでそんな小規模なの?」
「例えばじゃが、お主らの解釈で言う悪魔とか、こっちの世界に大量に来たとする」
「うん」
「そしたらお主ら人間はどこを頼る?」
「あー‥そういう事か‥」
「そう、人界に大量に一斉に仕掛けたとして、人間はウチらを頼る、先はそっちしかない、そうなった場合、人間全部こっちの味方になるじゃろしかも人間は「最強でも最弱でもある」カードじゃ、どれだけ自分の側を危うくするか分らん生物じゃ」
「だから、裏で、少しづつ、か」

「それともう一つは、単に人間に事故的に召喚される場合もある」
「成る程、魔術ね」
「そ、しかも大抵、不完全なもんじゃ呼んだ人間を逆利用してそのまま居座って好き勝手コッチでやる奴もいる」
「ふーん、でもさ、私らがジョーカーだとして神魔を脅かすとは思えないけど」

「だとしても、どっちかに寄っては困る、だからどっちにも偏らんように、調整する必要がある」
「そうなのか」
「実際、過去に天界に召抱えられた者で天の上位に上るやつすら幾らか出ている」
「マジデ‥」
「この場合、こう言った者は「魔人」とか「英霊」と呼ばれ。我々でも武力で勝てぬ程育つ事もある」
「おっそろし」
「まぁ、それは極稀な過去の話しではあるし。殆ど人間はそれに耐えられん、お前さんの例でも明らかじゃ。どちらにしても「人」は時に愚かで貴重でもあるのじゃよどっちにとっても」
「そっか」
「お主は裏切るなよ?」
「貴女の使徒なのに?しないわよ」
「なら結構」

と冗談めかして言ったが、そういう懸念はある、人程、微妙な善悪のバランス、つまり感情や心に左右される者も居ない

何しろ、何をするにも根本となる私見、哲学ともいうが「理由」がつく、これをバランスを保って最後までどういう状況でも乱れない等ありえないだろう

そして円は既に力だけで言えば「仙人」手前の領域にあった「時間」を与えただけで、何の手助けもせずに、ここまで育った例は無い

だから「ヤオ」には出来すぎた使徒であると同時
「裏切るなよ?」は冗談ではないのだ

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