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19「歓迎」
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「海神少尉、よくいらっしゃいました」
軍事施設は地下にあった。
地上の劇場とは違い、地下はコンクリート張りの床に石壁の壁で作られた重々しい空間が広がっている。
地下通路の先にある指令室前には屈強な軍人が私を待ち構えていた。
「本日は司令官のジョージ・サラトガ大佐ご同席のもと、琅玕隊紐育支部の最高責任者、ジョン・ベインブリッジ少将が特別に出席されております」
「少将がいらっしゃるのは珍しい……織歌さん、難しいでしょうが無礼のないようにお願いしますね」
「しませんよ、そんなこと」
軍人の淡々とした口調の合間に、エンゼル神父のちくちくした言葉が混じる。
もう彼は私の腕から解き放たれているが、女性に抱きかかえられたまま運ばれた辱めをまだ根に持っているようだった。
(こんなことならもうちょっと抱きかかえていればよかった……)
エンゼル神父の厭味にむっとしながらも、ここからが私の正念場だ。
エンゼル神父と兵曹に私の力を見せてやろう、私は彼らを振り返って不敵にほほ笑んだ。
「私を誰だと思っているんです? 日本の代表として相応しい振る舞いを見せてごらんに入れますよ」
◇ ◇ ◇
「エンゼル神父からお前が海魔を連れてきたと報告があったが、どういうことか説明しろ!」
「彼は公爵家の秘匿していた存在のため私の口からは申し上げられません!」
「そいつ自体の秘密はどうでもいい! 海魔を連れてくると事前連絡をよこさなかった説明をしろ!」
「タクシー強盗をしたアジア人の男もはそいつだろう!」
「私たちはタクシー運転手の提示した金額を支払っております! 強盗ではありません!」
「殴ったのは認めるんだな!」
「マフィアと観劇していたのはどういうことだ!?」
「彼とは駅で運命的に出会った関係であり、これは自由恋愛に値します!」
「赴任初日に浮かれるな!」
サラトガ大佐の恫喝のような質問攻めに対し、私は怯むことなく大声で返事をする。
たとえ彼の台詞のすべてが正しかろうが、私の論理に穴があろうが、胸を張って堂々としていればいい。
そうすればなんでも正しく見えるものだ。
「大佐、質問はもういい。詳しい話は政府を通してこちらから聞いておく」
「ベインブリッジ少将……」
大声の応酬で私とサラトガ大佐の息が切れだした時、ベインブリッジ少将の呆れたような声で仲裁される。
詳しい話を政府に聞いてくれるのはむしろありがたかった。
(私だって知りたいくらいだ……)
兵曹を送り込んだのは公爵家のご令嬢であることに間違いはないのだから、言い訳も政治も公爵家がどうにかするだろう。
(それでも駄目なら、またこいつを守る方法を考えればいい)
私の活躍を見たか、という意味を込めて兵曹とエンゼル神父の顔を振り返る。
英語の理解できない兵曹は神妙な顔で頷くが、エンゼル神父は初めて会った時のような冷めた目でこちらを見ていた。
「さて、残念なことだが、我々は君たちの”魔法”を使えない」
魔法とは、霊力のことだろう。
言語の違いはどうしようもないが、ベインブリッジ少将の口調からは日本風の言い方をあえて避けている雰囲気があり、あまりいい気はしない。
「問題ありません。適性は私で判断できますし、適性がない者への配置・指示も行えます」
「ほう、それはすばらしい」
「では、まずは小隊の隊員をご紹介いただけますでしょうか」
これは事前に通知していた内容で、想定されていた会話のはずだった。
だが私の言葉に、エンゼル神父が小さく息をのむ声が聞こえた。
サラトガ大佐を見るが、彼は気まずそうに視線を地面にむけている。
「それも残念なことに、数年前の”事件”で小隊がほぼ機能していなくてな……」
嫌な予感がする……ベインブリッジ少将の嘲笑を噛み殺したような声がねちねちと耳に絡みつく。
「現在、君に預けられる隊員はいない」
どうやら、私はどこまでも歓迎されていないようだった。
軍事施設は地下にあった。
地上の劇場とは違い、地下はコンクリート張りの床に石壁の壁で作られた重々しい空間が広がっている。
地下通路の先にある指令室前には屈強な軍人が私を待ち構えていた。
「本日は司令官のジョージ・サラトガ大佐ご同席のもと、琅玕隊紐育支部の最高責任者、ジョン・ベインブリッジ少将が特別に出席されております」
「少将がいらっしゃるのは珍しい……織歌さん、難しいでしょうが無礼のないようにお願いしますね」
「しませんよ、そんなこと」
軍人の淡々とした口調の合間に、エンゼル神父のちくちくした言葉が混じる。
もう彼は私の腕から解き放たれているが、女性に抱きかかえられたまま運ばれた辱めをまだ根に持っているようだった。
(こんなことならもうちょっと抱きかかえていればよかった……)
エンゼル神父の厭味にむっとしながらも、ここからが私の正念場だ。
エンゼル神父と兵曹に私の力を見せてやろう、私は彼らを振り返って不敵にほほ笑んだ。
「私を誰だと思っているんです? 日本の代表として相応しい振る舞いを見せてごらんに入れますよ」
◇ ◇ ◇
「エンゼル神父からお前が海魔を連れてきたと報告があったが、どういうことか説明しろ!」
「彼は公爵家の秘匿していた存在のため私の口からは申し上げられません!」
「そいつ自体の秘密はどうでもいい! 海魔を連れてくると事前連絡をよこさなかった説明をしろ!」
「タクシー強盗をしたアジア人の男もはそいつだろう!」
「私たちはタクシー運転手の提示した金額を支払っております! 強盗ではありません!」
「殴ったのは認めるんだな!」
「マフィアと観劇していたのはどういうことだ!?」
「彼とは駅で運命的に出会った関係であり、これは自由恋愛に値します!」
「赴任初日に浮かれるな!」
サラトガ大佐の恫喝のような質問攻めに対し、私は怯むことなく大声で返事をする。
たとえ彼の台詞のすべてが正しかろうが、私の論理に穴があろうが、胸を張って堂々としていればいい。
そうすればなんでも正しく見えるものだ。
「大佐、質問はもういい。詳しい話は政府を通してこちらから聞いておく」
「ベインブリッジ少将……」
大声の応酬で私とサラトガ大佐の息が切れだした時、ベインブリッジ少将の呆れたような声で仲裁される。
詳しい話を政府に聞いてくれるのはむしろありがたかった。
(私だって知りたいくらいだ……)
兵曹を送り込んだのは公爵家のご令嬢であることに間違いはないのだから、言い訳も政治も公爵家がどうにかするだろう。
(それでも駄目なら、またこいつを守る方法を考えればいい)
私の活躍を見たか、という意味を込めて兵曹とエンゼル神父の顔を振り返る。
英語の理解できない兵曹は神妙な顔で頷くが、エンゼル神父は初めて会った時のような冷めた目でこちらを見ていた。
「さて、残念なことだが、我々は君たちの”魔法”を使えない」
魔法とは、霊力のことだろう。
言語の違いはどうしようもないが、ベインブリッジ少将の口調からは日本風の言い方をあえて避けている雰囲気があり、あまりいい気はしない。
「問題ありません。適性は私で判断できますし、適性がない者への配置・指示も行えます」
「ほう、それはすばらしい」
「では、まずは小隊の隊員をご紹介いただけますでしょうか」
これは事前に通知していた内容で、想定されていた会話のはずだった。
だが私の言葉に、エンゼル神父が小さく息をのむ声が聞こえた。
サラトガ大佐を見るが、彼は気まずそうに視線を地面にむけている。
「それも残念なことに、数年前の”事件”で小隊がほぼ機能していなくてな……」
嫌な予感がする……ベインブリッジ少将の嘲笑を噛み殺したような声がねちねちと耳に絡みつく。
「現在、君に預けられる隊員はいない」
どうやら、私はどこまでも歓迎されていないようだった。
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