婚約破棄された元聖女、魔王の息子に攫われて溺愛されています

百合川八千花

文字の大きさ
21 / 32

21「オルフィーとの再会」

しおりを挟む
 華やかなパーティ会場に響く一つの名前が、私の心を瞬時に凍らせた。

「オルフィー殿下のご到着です!」

 まるで世界が音を失ったかのように、私の耳にはその声しか届かなかった。
 ほんの数か月ぶりなのに、胸がざわつく。
 顔を見たくないと願い続けた相手と、今この場所で再会するなんて――

 足音が近づく。周囲の貴族たちが一斉に道を開け、現れたのは。

「……変わらないな、アルティア」

 黄金の髪、碧眼の王子。人形のように美しく、その祝福された唇で私に「別れ」を突きつけた人。

「……ご無沙汰しております、オルフィー殿下」

 口角を上げて微笑んだつもりだけれど、手が震えているのが自分でもわかる。
 目線が自然とカミーユとエルを探してしまって、それが悔しかった。
 
「ねえ、君と話がしたいんだ」
「お話しすることなどありませんでしょう。どうぞ、奥様とお子様と末永くお幸せに」
「はは、言うと思ったよ。どうか嫉妬しないで」

 なんだろう、話がかみ合っていない気がする。
 そんな違和感に気を取られていると、そっと頭を撫でられた。

「なっ――」

 ぞわりぞわり。怖気だつような感覚が髪の毛から伝わる。
 かつて優しく頭を撫でてくれていた人なのに、もう触れられるのも嫌になってしまっていた。

「ここではうまくやっていないんじゃないか……君が主役のパーティーにそんな地味な色のドレスを着てくるなんて」
「これは――」
「ヴェルグが王子だったのは魔王の国があってこそ。いまはただの伯爵だろう? 君を満足に養うことなんてできていないんじゃないか?」
「ヴェルグを馬鹿にしないで……!」

 私の抗議も他所に、殿下は好き放題言葉を続ける。

「ベルモンドに返っておいで、アルティア。カミーユのことなら気にするな、あれは妾でしかないのだから」
「勝手なこと言わないで」
「君は家で静かに暮らしていればいい。もう勇者ごっこもしなくていいんだよ。綺麗なドレスを着て、爪を磨いて、美しい頃に戻ろう」
「私の話を聞いて――」

「もういい、アルティア」

 勝手にぺらぺらと喋るオルフィーを黙らせたのは、闇のような漆黒の髪を持つ男――ヴェルグだった。

「オルフィー殿下、僕の婚約者に勝手に触れないでもらえますか」
「……ヴェルグ・アシュペー」

 ヴェルグはオルフィーの手を取ると、じり、と小さく力を籠める。
 ぱちぱちと黒い瘴気が爆ぜていて、彼が本気で怒っているのだとわかった。

「手を離しなさい。私を誰だと思っている」

 だが、不思議なことに気弱なオルフィー殿下も引かない。
 私の記憶なら、トラブルを徹底していやがる人で、もめ事になりそうなときはいつだってへらへらと笑って過ごしていたはずだった。
 それなのに、今の彼は何かに急かされるような焦りがある。ばちり、殿下の近くでも黒い瘴気がはぜていた。

(瘴気が、濃い……)

 様子がおかしい。オルフィー殿下に何か声をかけようとした時、ヴェルグが横に立って遮る。

「僕の婚約者を横取りしようとする、あさましい野良犬?」
「さすが魔王の息子だ。躾をされていない」
「ベルモンド王族の高い教育の結果がそれか。素晴らしい国だね」
「国すら失った君ににはわからないだろうね」

「もういいかしら」

 ばちばちと火花が――本当に文字通りの瘴気の火花が――爆ぜる中、私は二人の間に体をねじ込ませる。

「オルフィー殿下。私はあなたにされた仕打ちを忘れることはできません。どのような理由があろうとも、二度とベルモンドの地を踏むことはないでしょう」
「それについてはゆっくり話そう。何か誤解があるようだ」
「誤解があってもなくても、私はあなたの元にはいきません。なぜなら――」

 私はヴェルグの顎にそっと触れると、下を向かせる。
 ヴェルグは私を信頼しきっていて、されるがままに動いてくれた。
 ヴェルグの薄い唇が目の前に見える。どきどきと爆発してしまいそうな心臓を押さえて、私はヴェルグにそっと口づけをした。

「私はヴェルグを愛しています。彼の伴侶として生きる覚悟です」
「魔王の息子の……伴侶だと……」
「婚約のお話はアシュフォード帝王様にもお伝え済。あとは式を待つのみの身ですから」
「アルティア……!」

 ヴェルグの顔を見るのが恥ずかしくてそっぽを向いていると、ヴェルグに後ろからぎゅっと抱きしめられた。

「このドレスは夫となるヴェルグの髪の色を表したもの、銀の刺繍は彼の瞳。たとえ地味でも、私にとっては大切なドレスなんです」
「……何を」
「それに、私は美しさも平穏もいりません。これからも身を粉にして人々のために尽くします」
「それが君を醜くしているんだ!」
「働いているアルティアを美しいと思えないなんて、やっぱり君はアルティアが好きじゃないんだ」

 くっ、とオルフィー殿下の言葉が詰まる。
 だんだんと人の目が集まってきて、居心地が悪くなったのだろう。
 オルフィー殿下は悔しそうに舌打ちをするとその場を立ち去った。
 
「アルティア、僕は諦めないぞ」
 
 予言めいた、不穏な言葉を残して。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

「偽聖女」と追放された令嬢は、冷酷な獣人王に溺愛されました~私を捨てた祖国が魔物で滅亡寸前?今更言われても、もう遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢フィーア・エメラインは、地味で効果が現れるのに時間がかかる「大地の浄化」の力を持っていたため、派手な治癒魔法を使う異母妹リシアンの嫉妬により、「偽聖女」として断罪され、魔物汚染が深刻な獣人族の国へ追放される。 絶望的な状況の中、フィーアは「冷酷な牙」と恐れられる最強の獣人王ガゼルと出会い、「国の安寧のために力を提供する」という愛のない契約結婚を結ぶ。

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

「神に見捨てられた無能の職業は追放!」隣国で“優秀な女性”だと溺愛される

佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢アンナ・ローレンスはグランベル王国第一王子ダニエル・クロムハートに突然の婚約破棄を言い渡された。 その理由はアンナの職業にあった。職業至上主義の世界でアンナは無能と言われる職業を成人の儀で神に与えられた。その日からアンナは転落人生を歩むことになった。公爵家の家族に使用人はアンナに冷たい態度を取り始める。 アンナにはレイチェルという妹がいた。そのレイチェルの職業は神に選ばれた人しかなれない特別な職業と言われる聖女。アンナとレイチェルは才能を比較された。姉のアンナは能力が劣っていると言われて苦しい日常を送る。 そして幼馴染でもある婚約者のダニエルをレイチェルに取られて最終的には公爵家当主の父ジョセフによって公爵家を追放されてしまった。 貴族から平民に落とされたアンナは旅に出て違う国で新しい生活をスタートする。一方アンナが出て行った公爵家では様々な問題が発生する。実はアンナは一人で公爵家のあらゆる仕事をこなしていた。使用人たちはアンナに無能だからとぞんざいに扱って仕事を押し付けていた。

捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています

h.h
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。 自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。 しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━? 「おかえりなさいませ、皇太子殿下」 「は? 皇太子? 誰が?」 「俺と婚約してほしいんだが」 「はい?」 なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。

私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!

近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。 「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」 声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。 ※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です! ※「カクヨム」にも掲載しています。

【完結】追放された大聖女は黒狼王子の『運命の番』だったようです

天咲リンネ
恋愛
聖女アンジェリカは平民ながら聖王国の王妃候補に選ばれた。 しかし他の王妃候補の妨害工作に遭い、冤罪で国外追放されてしまう。 契約精霊と共に向かった亜人の国で、過去に自分を助けてくれたシャノンと再会を果たすアンジェリカ。 亜人は人間に迫害されているためアンジェリカを快く思わない者もいたが、アンジェリカは少しずつ彼らの心を開いていく。 たとえ問題が起きても解決します! だって私、四大精霊を従える大聖女なので! 気づけばアンジェリカは亜人たちに愛され始める。 そしてアンジェリカはシャノンの『運命の番』であることが発覚し――?

「女のくせに強すぎて可愛げがない」と言われ婚約破棄された追放聖女は薬師にジョブチェンジします

紅城えりす☆VTuber
恋愛
*毎日投稿・完結保証・ハッピーエンド  どこにでも居る普通の令嬢レージュ。  冷気を放つ魔法を使えば、部屋一帯がや雪山に。  風魔法を使えば、山が吹っ飛び。  水魔法を使えば大洪水。  レージュの正体は無尽蔵の魔力を持つ、チート令嬢であり、力の強さゆえに聖女となったのだ。  聖女として国のために魔力を捧げてきたレージュ。しかし、義妹イゼルマの策略により、国からは追放され、婚約者からは「お前みたいな可愛げがないやつと結婚するつもりはない」と婚約者破棄されてしまう。  一人で泥道を歩くレージュの前に一人の男が現れた。 「その命。要らないなら俺にくれないか?」  彼はダーレン。理不尽な理由で魔界から追放された皇子であった。  もうこれ以上、どんな苦難が訪れようとも私はめげない!  ダーレンの助けもあって、自信を取り戻したレージュは、聖女としての最強魔力を駆使しながら薬師としてのセカンドライフを始める。  レージュの噂は隣国までも伝わり、評判はうなぎ登り。  一方、レージュを追放した帝国は……。

王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~

しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。 豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。 ――食事が、冷めているのだ。 どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。 「温かいごはんが食べたい」 そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。 地下厨房からの高速搬送。 専用レーンを爆走するカートメイド。 扉の開閉に命をかけるオープナー。 ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!? 温かさは、ホッとさせてくれる。 それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。 冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、 食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ! -

処理中です...