婚約破棄された元聖女、魔王の息子に攫われて溺愛されています

百合川八千花

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23「嬉しい報告」

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 帝王陛下の寛大なお心により、私は一時辺境のヴェルグ領へ帰ることができた。
 結婚式を開くまでには少し時間があるが、ヴェルグはたまっていた仕事を片付けるために走り回っている。
 私がすべきことは親しい人の招待と――自分の正体を明かすこと。

「――というわけで、私は本当はアルティアでして……ティアというのは偽名なんです」
 
 まずは帝王陛下の血縁で、ここに滞在している公爵令嬢、マルグリッドに話を通すのが筋だろうということでお茶会に誘った。
 教師ティアとして変装しているときの琥珀色の髪と桃色の瞳の魔法を解き、乳白色の髪と黒い瞳を彼女に晒す。

「先生が……聖女……」
「嘘をついていてごめんなさい!」
「そんなの……」

 生徒に嘘をついていたなんて……済んだ紅茶に映る私の顔はとんでもなく情けなかった。
 だけど―― 
 
「ほとんどの方は気づいてらっしゃると思いますが」
「はぇ」

 私の心配は杞憂に終わりそうだ。
 それまで黙っていたリズもくすりと思わず笑いがこぼれてしまっている。
 ちらっと覗くと、慌てて口笛を吹いてごまかしていた。
 
「い、いつから……」
「はじめはさすがに気づきませんでしたわ。なんというか、先生はすこし……その……落ち着いてらしたから」

 私は再び琥珀色の髪に桃色の瞳に戻す。目立たない外見を選んだつもりだったけど、ぐさりと刺されると堪えた。
 
「地味で目立たなかったのね……」
「……こほん。でも、魔物相手にあれだけの大立ち回りをされたら、先生が聖女だというのはすぐにわかります」

 あ、そうか。授業初日に魔物を倒しまくったっけ。
 魔物の話をするとマルグリッドの顔が少し暗く沈む、そんな顔をしてほしいわけじゃないのに。まだ魔物を呼び寄せてしまったことを気に病んでいるようだった。
 
「マルグリッド……」
「あの鮮やかな剣技、華やかな魔法を見たら、どんな鈍い人だって気づきますわよ」

 何か言葉を描けようとすると、マルグリッドは明るい笑顔で取り繕う。
 嘘でも明るさを取り繕うことができるのは、彼女の心が強い証。私は気づかないふりをしてあげることにした。

「まあ、先生のご活躍を生で見ていない方にはまだ気づかれてはいないでしょうが。生徒はみな気づいておりますわよ」
「それなのに、みんな黙っててくれたの?」
「何か理由があるのかと思いましたので」

 マルグリッドの優しい言葉に、嘘をついていた後ろめたい心がほぐれていく。
 いじらしい彼女をぎゅっと抱きしめると、マルグリッドは「もう」と言いながらもそれを受け入れてくれた。

「それよりもご結婚なさるんですね。おめでとうございます、先生。悔しい気持ちもないわけではないですが、先生の幸せを心から祝福しておりますわ」
「マルグリッド……! あなたは本当に素敵な子だわ!」
「リズも、リズもお願いします!」

 マルグリッドをぎゅうと抱きしめていると、リズが無理やり間に割り込んできた。
 そのまま女子三人でぎゅっと抱きしめ合う。誰ともなくくすくすと笑い声が聞こえて、私たちは花の咲く庭でほほ笑みあった。

「こんにちは、華やかなお茶会だなあ」

 朗らかな声に、爽やかな外見。そこにいるのはカフェのマスターにして私の共同経営者のカイル。

「カイル!」
「やあ、ティア」

 あ、そうだ。今はティアの外見をしていたんだった。
 正体を明かそうと意気込んできたので、彼を見ると心臓が早鐘を打つ。
 彼も私のことに気づいているのかしら、それとも、嘘つきだと軽蔑する…?
 
「カイル先生、ごきげんよう」
「マルグリッド様。俺は先生じゃないぜ」
「何をおっしゃいます。ティア先生不在の際は代わりに教鞭をとってくださったではないですか」
「簡単な読み書きだけだよ」

 私が悩んでいる間、マルグリッドがカイルの注意を引き寄せてくれた。
 リズがつんつんと裾を引っ張って合図をくれる。
 ふたりがくれたチャンスを無駄にしまいと、私は呼吸を整えてカイルに呼び掛けた。

「カイル。あなたに打ち明けたいことがあるの」
「なんだよ改まって。怖い話じゃないだろうな」
「ひとつは嬉しい報告よ……もうひとつは……えっと……」
「まったまった、じゃあ俺から先にさせてくれ。俺もアンタに報告があってさ。あ、嬉しい報告だからな」
「私に?」
 
 私が正体を明かす前に、カイルは後ろに隠れていた女の子を呼び寄せる。

「新しい生徒だ。まだ小さいんだが、親とはぐれちまったらしくて……しばらくの間預かってやることにしたんだ」
「あら、それは大変ね……」
「戦争の後だから、こういう子はあんまり珍しくないんだが。いい服を着てるからいいとこのお嬢ちゃんじゃないかと思うんだよ」

 なんだか深刻な話になってしまった。
 喉まで出かかった自分の正体を押し込めて、私は迷子の女の子の元に膝をつく。

「っ――!!」
「挨拶できるかい? エル」

 そこにいたのは、桃色の髪に緑色の瞳の美しい幼女。

「わたし、エル」

 その顔には、かつて私が愛した王子の面影が宿っていた。
 ――オルフィーとカミーユの娘、エルだった。
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