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夢の続き
夢と現実の狭間で住人達はアリスを守り、消えて誰も残らない
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するとそこへノックの音……びくりとする。こんな時間の訪問者も、先の出来事を思えばただものではない。鼓動が早まった。
開く。ノックしたと言うのに返事を待つつもりはないらしい。
「あなた早いって」
「別にどうせ入るんだろ」
──なんだか聞き覚えのある声で。
「それもそうだけれど、騒ぎになったら困るわよ」
「おまえを傷つけさせたりはさせない」
懐かしいやり取りに、私はあの二人を思い出す。
けれども、部屋に入ってきた男女の容姿はまるで──
「双子」
違うのは髪の色と眼鏡の有無と身長くらいか。
男の方は黒い髪に眼鏡をかけている。女の方は茶色に染めてからかなり月日が経っているのか、耳の辺りまで黒色が出てきてしまっている。
それ以外は目鼻立ちも雰囲気も……あらゆるものがそっくりだった。
私の呟きに男の方が嫌な顔をしてみせた。
「相変わらず無神経だな」
舌打ちをして呟く男。すぐにそっぽを向いた。
一方、女の方はこちらをじっと見つめている。色は違えど、その瞳にも既視感を覚える。
──もしかして。
いや……もしかしなくても。
「遅くなってごめん」
だけどすぐに彼女の視線は私から帽子屋のお姉さんへと移った。
「いいの、入って入って」
「すぐに行くから」
「ああ、そうね……残念。 結局皆でお茶会できなかったわね」
「またいつか」
「ええ。必ず」
二人が部屋に入り、扉を静かに閉める。男はジャージで、女も飾りっ気のない服装なのに、抱えている荷物がまるで外行きのように大きいものだった。人間一人分入るくらいのキャリーケースを男が引き、女はそれより一回り小さく花柄で可愛らしいものを引っ張っていた。それらに追加して荷物を一つ……それを帽子屋さんへと手渡す。
「落ち着いたら連絡先送るから」
「わかった。 それまで預かっておく。 でも荷物そんなに少なくて大丈夫?」
「必要最小限で行くから。 それに二人でいれば大丈夫……そう誰かに言われたし」
これから何処かへ出掛けるのだろうか──会話からそんな空気を読み取っていると、双子の女の方が私を見た。じっと見つめてくる。何を言わんとしているのか、何を意味しているのか……夢の中の出来事をまた思い出した。
「寂しいわ」
「ありがとう。 アンタも頑張って。 また連絡する」
「うん、待っている」
握手を交わす二人……それもすぐに離れた。
勿論私に握手は求めてこない。代わりに冷めたような……いや、鋭い視線を送ってくる。
「勘違いしないで欲しいのは、アンタのためにやる訳じゃないってこと 。でも守ってあげるくらいはいいって判断したから」
「なに? どういう──」
双子はあの場にいなかったのに。きっと何かをしてきている。
「さよなら」
「ふん、俺はどうでもいいけどな」
相変わらず腹が立つ態度だ。
だけど……何故か寂しさを隠せずにはいられなかった。
「何で泣くのよ」
自分でも驚くくらい、いつの間には流れていた涙。彼女はそれを指先でぬぐい……初めて少しだけ笑った。
そうして、双子がもう振り向くことはなかった。
彼等が出ていくと、追い掛けるようにうさぎも立ち上がった。
「さぁ……お嬢さんもお部屋に帰る時間だよ」
「じゃあ私も一緒に送るわ」
二人に言われるがまま、自室へ促される。
私はかつての夢の住人に導かれるまま、ベッドへ横になる。
「何処へ行くの」
「何処って、自分の部屋に戻るだけよ? おかしなアリスちゃん。こんな時間に起きていたのがバレたら怒られてしまうわ」
「彼が監視カメラを誤魔化せるのも限界だ。それにそろそろ巡回の時間だろうに。電気を消そう」
慣れたようにパチリと照明を落とす。うさぎは布団をかけて、私の頭を皺だらけの手でゆっくりと撫でた。
「さぁ、ゆっくりお休みなさい。目が覚めたらきっと、今度こそ、本当の世界が待っているよ。君はその世界で生きていきなさい。後のことは夢の住人達が何とかするよ」
「うさぎさん」
「小さく、浅はかで、愚直な、か弱いアリスさん」
君が幸せであるように──。
まるで魔法でもかかっていたかのように、彼のその言葉を聞くと急激な眠気が襲ってきた。
もう夢が夢でなくなってしまいそうで、悲しくて引き留めたいのに……眠気が邪魔をする。
コトンと扉が閉まる音がする頃には、私の瞼は落ちていた。
──確かに全て貴方ではなく、貴方のお母さんのためにやったことなのかもしれない。
だけど僅かな時間でも、僕達は君に魅せられた。貴方には僕等がそうすべく価値があると判断した。自身の保守を捨て置き、誰かのために動くという。
誰もがそうです、誰かに守られている。貴方を守るべく動いた母君のために、僕等は動いた。守られているということに感謝しなさい。しかしそれを常日頃意識する必要はないのです。ふと気付いた時に、ありがとうと言ってあげて下さい。おや、難しい話ですかね。困らせてしまってすみません。
そして守られるべく存在であり、あの世界のように誰かを守る存在でもありなさい。他者を傷つけることで得られる物なんて後から見ればたかが知れています。奪えたものはいつか奪われるのです。他者を顧みろとまでは言いません。誰かのお陰であることをどうか忘れないでいて下さい。一身の愛を受けているのです。
──夢の中で、うさぎは私にそう語りかけた。
目が覚めると、私はほとんど見覚えのない看護師さん達に頭を下げ、眠っていた病院から転院となった。今度は祖母が通っている、より近場の病院で改めて入院。色々な検査をしたけどこれといった問題は見つからなかったそうだ。唯一、切った頭皮を縫い合わせた傷しか変化は感じなかった。
──後で聞いた話、私は駅の階段から落ちたそうだ。
その際に居合わせた医者が、最初の病院へ運んでくれと言ってあそこへ入院となったらしい。
不思議な夢を見ることとなった、あの場所に。
開く。ノックしたと言うのに返事を待つつもりはないらしい。
「あなた早いって」
「別にどうせ入るんだろ」
──なんだか聞き覚えのある声で。
「それもそうだけれど、騒ぎになったら困るわよ」
「おまえを傷つけさせたりはさせない」
懐かしいやり取りに、私はあの二人を思い出す。
けれども、部屋に入ってきた男女の容姿はまるで──
「双子」
違うのは髪の色と眼鏡の有無と身長くらいか。
男の方は黒い髪に眼鏡をかけている。女の方は茶色に染めてからかなり月日が経っているのか、耳の辺りまで黒色が出てきてしまっている。
それ以外は目鼻立ちも雰囲気も……あらゆるものがそっくりだった。
私の呟きに男の方が嫌な顔をしてみせた。
「相変わらず無神経だな」
舌打ちをして呟く男。すぐにそっぽを向いた。
一方、女の方はこちらをじっと見つめている。色は違えど、その瞳にも既視感を覚える。
──もしかして。
いや……もしかしなくても。
「遅くなってごめん」
だけどすぐに彼女の視線は私から帽子屋のお姉さんへと移った。
「いいの、入って入って」
「すぐに行くから」
「ああ、そうね……残念。 結局皆でお茶会できなかったわね」
「またいつか」
「ええ。必ず」
二人が部屋に入り、扉を静かに閉める。男はジャージで、女も飾りっ気のない服装なのに、抱えている荷物がまるで外行きのように大きいものだった。人間一人分入るくらいのキャリーケースを男が引き、女はそれより一回り小さく花柄で可愛らしいものを引っ張っていた。それらに追加して荷物を一つ……それを帽子屋さんへと手渡す。
「落ち着いたら連絡先送るから」
「わかった。 それまで預かっておく。 でも荷物そんなに少なくて大丈夫?」
「必要最小限で行くから。 それに二人でいれば大丈夫……そう誰かに言われたし」
これから何処かへ出掛けるのだろうか──会話からそんな空気を読み取っていると、双子の女の方が私を見た。じっと見つめてくる。何を言わんとしているのか、何を意味しているのか……夢の中の出来事をまた思い出した。
「寂しいわ」
「ありがとう。 アンタも頑張って。 また連絡する」
「うん、待っている」
握手を交わす二人……それもすぐに離れた。
勿論私に握手は求めてこない。代わりに冷めたような……いや、鋭い視線を送ってくる。
「勘違いしないで欲しいのは、アンタのためにやる訳じゃないってこと 。でも守ってあげるくらいはいいって判断したから」
「なに? どういう──」
双子はあの場にいなかったのに。きっと何かをしてきている。
「さよなら」
「ふん、俺はどうでもいいけどな」
相変わらず腹が立つ態度だ。
だけど……何故か寂しさを隠せずにはいられなかった。
「何で泣くのよ」
自分でも驚くくらい、いつの間には流れていた涙。彼女はそれを指先でぬぐい……初めて少しだけ笑った。
そうして、双子がもう振り向くことはなかった。
彼等が出ていくと、追い掛けるようにうさぎも立ち上がった。
「さぁ……お嬢さんもお部屋に帰る時間だよ」
「じゃあ私も一緒に送るわ」
二人に言われるがまま、自室へ促される。
私はかつての夢の住人に導かれるまま、ベッドへ横になる。
「何処へ行くの」
「何処って、自分の部屋に戻るだけよ? おかしなアリスちゃん。こんな時間に起きていたのがバレたら怒られてしまうわ」
「彼が監視カメラを誤魔化せるのも限界だ。それにそろそろ巡回の時間だろうに。電気を消そう」
慣れたようにパチリと照明を落とす。うさぎは布団をかけて、私の頭を皺だらけの手でゆっくりと撫でた。
「さぁ、ゆっくりお休みなさい。目が覚めたらきっと、今度こそ、本当の世界が待っているよ。君はその世界で生きていきなさい。後のことは夢の住人達が何とかするよ」
「うさぎさん」
「小さく、浅はかで、愚直な、か弱いアリスさん」
君が幸せであるように──。
まるで魔法でもかかっていたかのように、彼のその言葉を聞くと急激な眠気が襲ってきた。
もう夢が夢でなくなってしまいそうで、悲しくて引き留めたいのに……眠気が邪魔をする。
コトンと扉が閉まる音がする頃には、私の瞼は落ちていた。
──確かに全て貴方ではなく、貴方のお母さんのためにやったことなのかもしれない。
だけど僅かな時間でも、僕達は君に魅せられた。貴方には僕等がそうすべく価値があると判断した。自身の保守を捨て置き、誰かのために動くという。
誰もがそうです、誰かに守られている。貴方を守るべく動いた母君のために、僕等は動いた。守られているということに感謝しなさい。しかしそれを常日頃意識する必要はないのです。ふと気付いた時に、ありがとうと言ってあげて下さい。おや、難しい話ですかね。困らせてしまってすみません。
そして守られるべく存在であり、あの世界のように誰かを守る存在でもありなさい。他者を傷つけることで得られる物なんて後から見ればたかが知れています。奪えたものはいつか奪われるのです。他者を顧みろとまでは言いません。誰かのお陰であることをどうか忘れないでいて下さい。一身の愛を受けているのです。
──夢の中で、うさぎは私にそう語りかけた。
目が覚めると、私はほとんど見覚えのない看護師さん達に頭を下げ、眠っていた病院から転院となった。今度は祖母が通っている、より近場の病院で改めて入院。色々な検査をしたけどこれといった問題は見つからなかったそうだ。唯一、切った頭皮を縫い合わせた傷しか変化は感じなかった。
──後で聞いた話、私は駅の階段から落ちたそうだ。
その際に居合わせた医者が、最初の病院へ運んでくれと言ってあそこへ入院となったらしい。
不思議な夢を見ることとなった、あの場所に。
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