白狼と虎と竜神

朱々丸

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第二章

六話

宿の食堂は旅人たちの喧騒で満ちていた。

ウォルカ、ティーガ、リューゴの三人は隅のテーブルに座り、静かに夕食を摂っていた。ウォルカは周囲を警戒しつつ、ティーガの様子を気にかけ、リューゴの立てる耳障りな羽音に眉を寄せている。

隣のテーブルから、酔った商人たちの会話が漏れ聞こえてきた。

「最近、リュゴニアから怪しい連中が入国してるらしいぜ。魔導具を安く売って回ってるんだが、代わりに紫の蜥蜴を探してるってよ」

ウォルカの耳がピクリと動き、紅い瞳が鋭く細められた。ティーガは箸を止め、リューゴは羽根を震わせる。三人は視線を交わし、ウォルカは低く呟いた。

「……追手だ。急ごう」

素早く食事を終え、部屋へと戻るなり、ウォルカはドアに施錠し、窓を固く閉ざした。

「ヴェルガルドまであと少しだ。追手がここまで来ているなら、明朝早く出発する」

ティーガはベッドに腰を下ろし、どこか他人事のように苦笑を浮かべた。

「悪いな、ウォルカ。お前がいなきゃ、俺たちは関所で捕まってたぜ」

ウォルカは少し照れくさそうに視線を逸らし、荷物の確認を始めた。

その時、リューゴがティーガの肩で羽根を激しくバタつかせ、悲鳴のような声を上げた。

「待て待て! 補給が先だ! もう限界だぞ!」

見れば、リューゴの小さな身体が、紫の羽根の先からどろどろと溶け始めていた。スライム状になった一部が床にぽたぽたと落ち、粘つく音を立てる。

「げっ、まじかよ。どうなってんだそれ……大丈夫か?」

ティーガは溶けゆくリューゴを慌てて手で掬い上げた。

「うわ、どろどろになっちまってる。なんか器に入れるか……おい、ウォルカ、皿みてぇなのあるか?」

ウォルカは一瞬、顔をしかめて露骨な不快感を滲ませた。さっきまでの凛々しい騎士の面影はどこへやら、溶け出すリューゴの姿に生理的な鳥肌が立っているようで、眉間の皺が深く刻まれている。

「皿なら、ある。だが……」

ウォルカは荷物から木皿を取り出そうとするが、やはり躊躇して手が止まる。潔癖な彼にとって、正体不明の粘液状の物体は嫌悪の対象だった。

「ティーガ、その……頼む。俺に持たせないでくれ。それは……その、生理的に、あまりにおぞましい……」

ティーガはウォルカのあまりの「引きっぷり」にきょとんとして、思わず噴き出した。

「なんだお前、こういうの苦手なのか? よく代わりに補給するなんて言えたな」

「……苦手というより、正気ではいられん。溶けるなんて、聞いていない……」

ティーガはくくと喉を鳴らしながら皿を受け取り、リューゴをそこへ乗せた。そのままベッドへ向かい、無造作にベルトを外し始める。

ウォルカの首筋からうなじにかけて、うっすらと朱色が広がっていく。トカゲへの嫌悪と、肌を晒したティーガへの情欲が、ウォルカの中でせめぎ合う。

「ティーガ、本当に大丈夫なのか? それに、本当に……その……勃つのか」

ウォルカの声は震え、内心の葛藤が伝わってくる。ティーガを心配する一方で、自分の中に芽生える猛烈な嫉妬が彼を苛んでいた。

「……いや、その……手伝おうか」

そう言うのが精一杯だ。

ティーガはベッドに腰を下ろし、ズボンの前を寛げて自身のモノを引き摺り出した。

「はは、無理すんな。まぁ俺は、こういう状況には慣れてる。なんとかやるさ」

まだ力なく垂れ下がったままのそれを、大きな手で無造作に玩びつつ苦笑する。
それを見て、もはや首から上しか形を保てていないリューゴがうねうねと蠢いた。

「案ずるな、お主は我と繋がっておると言ったであろ……むむむ、我の食欲よ、伝われ~」

リューゴの間抜けた掛け声とともにティーガの紋様が鈍く紫色に光る。それに伴い、みるみるうちにティーガの男根が雄々しく怒張し、熱を持って反り上がった。

「……うっ……なんだそれ、しょうもねぇな。勃つのは勃ったけど……はぁ……」

ティーガの喉から、甘く湿った吐息が漏れる。
ウォルカは紅い瞳を細め、その様子をじっと見つめていた。リューゴに対する気味の悪さなど、もはやどうでもよくなっていた。目の前で快感に緩み始めているティーガの表情、その唯一無二の熱を、自分以外の存在に支配されていることが何より許せなかった。

ウォルカはベッドの傍らに立ち、ティーガの肩にそっと手を置いた。

「……ティーガ。お前、そんな顔をするな。俺まで……おかしくなる」

​その声に含まれた切実な嫉妬と、必死に自制しようとする不器用な熱。それを受け止めたティーガは、ふっと表情を和らげた。

突き放そうとする手紙などなかったかのように追いかけてきて、今はトカゲ相手に本気で焼き餅を焼いている。そんなウォルカの執着が、今のティーガにはたまらなく愛おしく、そして「可愛い」と思えてしまった。

​あの時の決意は、彼の体温に触れた瞬間にどこかへ溶けて消えていく。
ティーガは一度己から手を離すと、ウォルカの腰を抱き寄せ、自分の膝に跨るように座らせた。抗うことのできない柔らかな微笑を浮かべ、顔を寄せてウォルカの口を舌先でなぞる。

​「ただ見られてんのも落ち着かねぇな。……やっぱり手伝ってくれよ。お前に触られてぇんだ」

その誘いは、ウォルカの理性を焼き切るのに十分だった。
ウォルカはティーガをシーツに押し倒し、喉の奥で低く唸りながら、貪るように唇を奪った。長い舌が口内を蹂躙し、唾液の混じり合う淫らな音が響く。

「……お前がそんなことを言うなら、俺は……我慢できん」

ウォルカはティーガの熱く脈打つモノに手を伸ばし、激しく扱き始めた。リューゴの存在を意識しつつも、ティーガの快感を独占するように、指先で敏感な先端を焦らし、溢れ出した先走りを塗り広げていく。
ティーガもウォルカに手を伸ばし互いに扱き合う。
そこに、痺れを切らしたリューゴが這い寄ってきた。

「はぅぅ我にもはよう~~……お主らもっと激しく乳繰り合うのだ、はようよこせぇ…」

スライム状になったリューゴが、二人の間へと這い寄ってくる。
ぐちゅり、と不快な音。
異質な感触が、重なり合う男根を包み込んだ。

ティーガは堪らず甘い喘ぎを上げて腰を震わせた。
ウォルカもまた、その不気味な感触さえ興奮の糧にし、その喘ぎに煽られて腰を激しく押し付けた。

「あぁ、っ……も、出そうだ……っ……イ、イク、っ……!」

「くっ、ティーガ……俺も、もう……っ。一緒に……っ……!」

絶頂の瞬間、二人の熱い精が放たれ、リューゴがそれを貪るように全身で吸収していく。しゅわしゅわと音を立てて白濁が吸い込まれ、リューゴはみるみる元の姿を取り戻した。

「はぁ……はぁ……、ウォルカ……」

ベッドに身を沈め、とろんとした瞳でウォルカを見つめるティーガは、まだ物欲しげに身体を火照らせている。
ウォルカもまた、膨れ上がる情欲を抑えきれず、ティーガの首筋に鼻先を埋めて囁いた。

「はぁ……お前が、欲しくてたまらん……」

身体を重ね、服の上から乳首を弄り、再び疼き始めた熱をティーガに擦り付ける。
だが、形を取り戻したリューゴが二人の間でぴょこんと跳ねた。

「やはり美味なり!狼の汁まで混じったのは不満ではあるが……んん?二回戦目か? 勿論歓迎するぞ! もっと濃ゆいのを出すのだ、ほれほれ!」

ティーガは我に返ったように脱力した。

「……あのなぁ、そのテンションで割り込まれて続けられるかよ……」

ウォルカも耳を苛立たしげに伏せ、体を起こした。

「このスケベトカゲめ……」

リューゴを睨みつけつつ、ティーガと自分の服を素早く直す。自制を取り戻そうと無意識に尾が揺れる。

「ティーガ、……今は、ここまでだ。
明日には、追手が来る。お前を守るためにも、今夜は抑える。ゆっくり休め」

ウォルカはそう告げて、愛おしそうにティーガの額に一度だけ口づけを落とした。
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