詐欺師と青い竜

朱々丸

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第一話

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カルテス共和国の港町は、今日も底冷えのする濃霧に塗り潰されていた。 

黒い岩礁にひしめく船団からは、潮の香りに混じって、安酒の酸っぱい臭気と、安物の煙草の紫煙が漂っている。ネオンが虚飾の色彩を放つ表通りの喧騒を余所に、路地裏では詐欺師たちが獲物の気配を嗅ぎ回っていた。

そんな街の片隅、私兵たちが軍靴を鳴らして闊歩する港の倉庫街で――ジャックは、その華々しき詐欺師人生に痛恨の終止符を打たれた。

「ちっ、ツイてねぇぜ……」

スレートグレーの薄手シャツに、同系色のベストを重ねたその身なりは、一見すれば闇に紛れる「鼠」のようでありながら、上質な生地が放つ微かな光沢や、襟元を飾る洗練された装身具が、彼がただの浮浪者ではない「品」のある詐欺師であることを無言で主張していた。

無精髭を蓄えた顔で忌々しげに舌打ちし、ジャックは鎖の冷たさに毒づきながら牢獄船へと押し込まれる。その髭の一本一本に至るまで、獲物を惑わすためのセクシーなラインを保つようミリ単位で調整されていることなど、捕縛した私兵たちは知る由もない。

イカサマ、ロマンス詐欺、魔導具の転売。裏社会では日常茶飯事の罪だが、今回は運が悪すぎた。――今夜の港は妙に目が光っていたのだ。港を牛耳るファミリーのトップが変わったという噂を耳にしてはいたが、ジャックはよくあることだと笑い飛ばしてしまっていた。
その油断が招いた報いは、あまりにも重い。
船体には「協会」の紋章。表向きは救済、その実態は犯罪者を島送りにする牢獄船であった。甲板で潮風に晒されながら、ジャックは自身の詰めの甘さを呪う。

数日の航海を経て、霧の中から現れた目的地――マーテル島は、白大理石の神殿が朝日を浴びて真珠のように輝き、そよ風に乗って甘美な花の香りが漂う聖域だった。

「天国みてぇなとこじゃねぇか。女がたくさんいるのは不気味だが……」

束の間、機嫌を良くしたジャックであったが出迎えた信者たちの瞳を見た瞬間、背筋に氷の楔が打ち込まれた。彼らの瞳は死んだ魚のように無感情で、雄としての生命の灯が、塵ひとつ残らず消し飛ばされていたからだ。

「ようこそ、サンクト・マーテルへ。貴方達には更正の機会が与えられます」

シスターの冷徹な声に導かれ、地下へと降りる。階段を下るごとに空気は粘りつくような湿り気を帯び、清廉な聖歌の音を塗り潰すように、男たちの獣じみた呻き声が反響し始めた。

そこは、暗く湿った地獄であった。
数百の男たちが繋がれ、その多くが股間に「青白い光の紋様」を浮かべ、虚ろに天井を見つめている。

「おい、何だこれ。あいつらのアレ、どうしちまったんだ? 変な模様がついてるぞ」

ジャックの問いに、隣の囚人は力なく笑った。

「協会の聖なる呪縛だよ。欲望を魔法で縛られて、力を吸われ続ける。……もう、雄としては終わりってわけだ」

ジャックは猛烈な吐き気を催した。男の尊厳を奪い、生命力を吸い取る家畜小屋。それがこの聖なる島の正体であった。

夜、儀式室へと引き立てられる道中、シスターが手をかざし、眠りの魔法を紡ぐ。

「……安らかに、その醜い欲望と共に眠りなさい」

意識が泥の中に沈むような強烈な倦怠感。だが、ジャックは内心で悪巧みの笑みを浮かべた。

(眠らせて運ぶ気か。……これはチャンスだぜ)

彼は指輪に仕込んだ極小の針を、躊躇いなく自身の逞しい太ももに突き刺した。

「っ……!」

鋭い激痛が神経を貫き、意識を力技で繋ぎ止める。
ジャックは眠ったふりをし、冷たい石の祭壇へと横たわった。中央に立つのは、雪のように白いローブに身を包んだ、高位の魔法使い「聖母」であった。

「汚らわしい男よ。お前の欲望を永遠に封じ、聖なる力を捧げるのだ」

鎖で固定されたジャックの腰布が容赦なく剥ぎ取られる。そこに露わになったのは、詐欺師としての有利を引き出すために磨き上げられた、完成された「漢」の肢体であった。

月の光を弾くほどに逞しい大胸筋、そして引き締まった腹筋の溝に沿って、胸元から下腹部へと整えられた濃く美しい毛並みが流れる。

彼女が手を翳すと、その掌が眩い光を放ち、ジャックの屹立しかけた陰茎に幾何学的な紋様が浮かび上がった。

「あ、が……っ!? あああああああっ!!」

熱い。内側から焼けるような激痛が走り、自身の剛健な一部が、目に見えぬ冷たい鎖で締め上げられていく。それは生命力を無理やり凍結させ、石化させるような、雄の魂に対する冒涜的な感覚だった。

だが、儀式の完成を信じて信者たちが祈りを捧げた、その刹那。

「ふざけんな!! 訳の分からん呪いかけやがって!! 俺の商売道具だぞコラァ!!」

断末魔のような叫びと共に、ジャックは祭壇の上で猛烈に跳ねた。
慣れ親しんだ指先の感覚を研ぎ澄ませ、自分を押さえ付けようとする信者の腰から鍵束を音もなく掠め取る。

「へっ、甘ぇな!!」

ガチリと鍵が回り、解き放たれたジャックは信者を突き飛ばして儀式室を飛び出した。
地下通路を駆け抜け、彼は鉄格子のすべてに鍵を差し込み、囚人たちに向かって絶叫した。

「逃げろ!! この島は地獄だ!! 変な呪いかけられんぞ!!」

その魂の叫びは、囚人たちの眠っていた本能を激しく揺さぶった。怒号と混乱が広がる神殿を背に、ジャックは己の「誇り」を守り抜くため、闇深い森の中へとその身を躍らせた。


ーーー


神殿の裏口から広がる、月の光を遮るほどに深い森。

ジャックは荒い息を吐き出し、肺を焼くような渇きに耐えながら、幾重にも重なる木々の間を必死で駆け抜けた。背後からは、未だ混乱の醒めやらぬ追手たちの怒号が、風に乗って微かに届いている。逃走中に枝葉で負った傷が、呪縛の疼きと共に、彼の屈強な身体に重くのしかかっていた。

「くそっ、水だ……水はねぇか……」

ひび割れた唇から漏れたのは、祈りにも似た嗄れた声だった。

やがて、銀色の月明かりを反射して静かに揺らめく小川を見つけ、ジャックはよろめきながら川辺へと進み、膝をついた。

彼は自身の身なりを整える余裕すら失っていた。先の儀式によって下半身を露にされたままの、無様かつ雄々しい姿。夜風が、呪縛の紋様の青白く浮かぶ剥き出しの「尊厳」を無慈悲に撫で上げていく。

「はぁ、はぁ……まずは喉を潤して、この忌々しい島から逃げる船を……」

水面に顔を近づけ、震える手でそれを掬おうとした瞬間だった。

――ぽこん

静寂を保っていたはずの水面が、唐突に跳ねた。

「……あ?」

目を擦ったジャックの視界に飛び込んできたのは、掌ほどの小さな、不定形の謎の物体だった。それは形を保つことすら危うい程に溶解し、弱々しく光を放ちながら、あろうことかジャックの「剥き出しの股間」へと真っ直ぐに飛びついた。

「ぐわっ!! なんだてめぇ!! ちんぽに絡みつくんじゃねぇ!!」

仰天して尻もちをつくジャック。しかし、その正体不明の「なにか」は、逃がさぬと言わんばかりにジャックの剛直へと粘液質の体を巻き付け、ぬるりと這い回った。

「……人間よ……生命力を……分けてもらえぬか……このままでは……儂は……消えてしまう……」

「はぁっ!? なんだこいつ、喋るスライムかよ!? ちんぽに絡みついてんじゃねぇ……っ、くっ、この、ぬるぬるしやがって……!!」

ジャックはそれを引き剥がそうと試みたが、その体は吸盤のような強力な粘着性を持ち、離れるどころか亀頭を丸ごと吸い込むように密着度を増していく。

さらに驚くべきことに、絡みつかれた部位から芯の通った熱が伝わり、呪縛の紋様が、疼きとともに激しく明滅を始めた。

「……お前の陰茎に刻まれた呪縛……協会のものだな。儂と契約を結べば……その呪いを解いてやれる……」

「は? 契約だと? ふざけんな、俺はそんなもん……んぐっ!! くっ、待てよ……このうねり……やべぇ……!」

「……お前の精を……儂に与えよ。それが契約の証だ……もっと……深く……感じろ……」

「くそっ、変態スライムめ……こんなんで、呪いが解けるのかよ……んあっ!! っく……それやめっ!……うっ!くっ……!」

ジャックは歯を食いしばり、腰を引いて耐えようとするが、その粘液の攻勢は容赦が無かった。自身の意思に反して楔が脈打ち、硬度を増していく。

「こ、……このっ……スライムなんかに……イかされてたまるか……!」

しかしスライムは内部の波打ちを千変万化させ、敏感な亀頭の先を執拗に吸い上げながら、根元をリズミカルに締め上げる。溢れ出した先走りがとろりとその体に混じり合い、月光の下で全体がてらてらと卑猥に光り輝いた。

「……ふむ……人間よ……我慢強いな……。だが……儂の体内で……もっとよくしてやろう……」

「ン゛く……お゛っ!……くそ、なんだこれ……やべ……っ……まだ……っ!」

ジャックの腰がびくびくと小刻みに震え、逞しい太腿に力が入り、地面を蹴る。
目尻に涙が浮かび、土を掴んで耐えるが、スライムの体はさらに内部をうねらせ、先端を強烈に吸い込んだ。

「 あ゛ぁ……ッ゛……やめろって、ぁっ……!言ってんじゃ……ねぇか!……うはっ!」

「……まだ……出さんのか……? ……儂が……優しくしてやるぞ……」

ジャックの陰茎がびくびくと跳ね、呪縛の紋様が霧散するように薄れていく。

「ン゛ふ……ふ……ッ゛……たまんねぇ……くそ……!」

限界が近づき、気づけばジャックは無意識に腰を振っていた。未知の快楽に翻弄され、野生の獣のような喘ぎが漏れる。

「あぁっ!……出るっ……出ちまうっ!……っ、すげ……っ!!」

堰を切ったようにジャックの射精が始まった。
濃厚な白濁がスライムの体内に熱く注がれ、その瞬間、呪縛の紋様は完全に消え去る。それは快楽の余韻とはまったく異なる、静かな解放だった。身体の深部を締め付けていた冷たい違和感が溶け、代わりに淡い温もりが、内側からじんわりと満ちていく。
ジャックは、思わず長く息を吐いた。

「はぁーー……、はぁ……くそっ……こんな……簡単にイかされちまうなんて……でも、本当に、呪いが解けてやがる……」

スライムは青く輝きを増しながら、脳内に直接響くような甘い声で囁く。

「……まだ足りぬ……もっとだ……もっと儂に与えよ……」

その言葉と同時に、スライムの粘液体の一部がジャックの陰茎から離れ、ぬるりとその後孔へと滑り込んだ。

「っ!? な、何だ……お、おい、そこは……ちょっ、待てって……入ってくんじゃねえ……!!」

ジャックは慌てて尻を締めようとするが、その滑りは容赦なく、ぬるぬると腸壁を押し広げながら奥へ侵入する。更に前立腺を的確に捉え、ぐぐっと力強く押し込み、内部でうねうねと卑猥に波打った。

「ン゛ほぉ゛……ッ!お、ぉ゛……抉りすぎ……ぐぅ……ッ゛!」

ジャックの腰が跳ね上がり、尻がびくびくと痙攣する。陰茎と前立腺、二箇所の急所を同時に責められ、脳が快楽で白く塗り潰されていく。

「ぅ゛お゛……お、ひィ゛……ぃ゛……ッ!そこ……やめっ……抉るな…ぁ…!」

「……もっと……深く……」

「ン゛ぅ゛ん゛……ふ、ぅ゛……バカ……煽んなっ……イ゛ッ……またイ゛ッく……止まんねぇ……っ!」

そうしてあっという間に、一回目よりも勢いよく白濁が空を舞った。ジャックは無様に太股を開いて腰を突き上げ、大量の熱を噴き上げていく。今度は下腹部に、教会とは異なるじんわりと温かな青い紋様が浮かび上がっていた。

「……ふ、ぅ……はぁ……やべ……ケツの中で……まだうねって……気持ちよすぎだろ……」

ジャックは地面にへたり込み、荒い息を吐きながら、どこか充足感の混じった声で拗ねたように呟いた。

ジャックの腹の上で、どろどろとした塊が激しく脈打ち、再構築されていく。
無定形だった粘液は、瞬く間に宝石のように透き通った青い鱗へと変化した。小さな、しかし力強い四肢が虚空を掴み、背中からは繊細、かつ強靭な翼が音を立てて開く。
最後に、鋭い知性を宿した黄金の瞳が開き、威厳ある角が月光を弾いた。

それはまさに、神話から抜け出したかのような、美しくも荘厳な「竜」の姿であった。

竜は翼を力強く一振りし、その渋い低音を響かせた。

「……契約成立じゃ。ジャックよ。儂はネピス、マーテル島の偉大なる竜神である。お前はこれより儂の神使……我が力を分かち合う唯一の存在となる」

ジャックは掌の上の小さな相棒を見上げ、詐欺師らしく不敵な笑みを浮かべた。

「……はぁ……、……神使か。面白ぇな……ちんぽもケツも……お前に全部搾り取られちまったぜ……本当にただのスライムじゃねぇんだな……」

ネピスはふんと鼻を鳴らして笑い、黄金の瞳を満足げに細めた。

「……お主の精、なかなか濃く深い味わいであったぞ」

ジャックは顔を真っ赤に染めつつ、口悪く吐き捨てた。

「くそ……、……言わなくていーんだよ、そういうのは!」

いつの間にか傷も癒やされ、全身には未知の力が満ちている。
手にしていたのは、今まで盗んできた金貨よりも遥かに重く、そして貴い「神」という名の相棒だった。

「……じゃぁ、まずはこのクソ島からおさらばといこうじゃねぇか、相棒」

ジャックの言葉に応えるように、ネピスは静かに翼を広げた。
霧深いマーテル島の森を抜け、彼らの物語は、怒濤の荒波が待つ海原へと漕ぎ出していく。
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