王宮のキューレター〜キューレター誕生編〜

らいむぽとす

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王宮のキューレター誕生

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 町娘のような装いをしたアマーリアは、裏角に馬車を止めると人並みに紛れるように道を歩く。

 目的地の東洋堂に着けば動きを止めて店を見上げると、慣れたようすで中へと入っていく。

 狭い通路を商品に触れて落とさないように気をつけながら奥へ奥へと向かえば、いつもの胡散くさい顔で大人ターレンがいた。

小姐シャオチエよくきた」


 大人ターレンは嬉しそうにアマーリアに近寄ってきて軽くハグをするといそいそとお茶の準備を始める。 

「ちょうどよかった。見てほしいものがある」

 そう言ってぱんぱんと手を叩けば、怪しげなものを持った数人の男女が現れて、アマーリアの前に品物を置いた。

小姐シャオチエどうかな?」

 置かれた瞬間から怪訝な顔のアマーリアだが、それには気づかないのかワクワクと期待する顔の大人ターレンがそわそわとしている。

 アマーリアはまじまじと目の前に置かれた品物を見て、最も妖しげな東洋の人形を手に取った。

大人ターレン、これはなんですの?」

 おー小姐シャオチエお目が高い!――とでも言いたそうに大人は目を輝かせて

「それは髪が伸びる人形ある」

と言って人形の髪をそれはそれは嬉しそうに撫でた。

「一年で三センチ伸びるよ」

 余計な情報つきで……。

アマーリアが言葉を失っていると、大人ターレンは目を輝かせてアマーリアの発言をわくわくして待っている。大人ターレンの醸しだすオーラがそういっている。

「………………お祓い案件ですわ……」

 アマーリアの言葉にあきらかにがっかりする大人ターレン

 大人ターレンの期待には応えたいけど、『お祓い案件』以外の文言を残念ながらアマーリアは持っていない。……というかあるなら教えて欲しい。

 気を取り直して近くにあった巻物をくるくると紐解けば、そこには柳腰の若く美しい女性が描かれていた。

……嫌な予感しかない……。

「たっ大人ターレン、こっこれはなんですの?」

小姐シャオチエお目が高いと大人ターレンの目が語っている……。

「これは最高の一品ね!夜になるとその美人が絵から現れて、世話をやいてくれるよ。勿論あっちの世話もね」

 なぜか、むふふと含み笑いをする大人ターレン

 やはりお祓い案件……。

 あっちの世話とはどんな世話かはアマーリアには分からなかったが、呪われたりするのでないなら、まぁいいか――と無理やり自分を納得させる。

大人ターレン、いいものを仕入れましたわね。わたくしには必要ありませんが、きっとこれを望む方がいらっしゃいますわ」

 などとアマーリアは心にもないことを言ってみれば、大人ターレンの欲する回答だったようで、満面の笑みで何度も頷くと、湯気をたてた鉄瓶 てつびんを持ち上げて茶を入れ始めた。

「ところで小姐シャオチエは今日はどんな用あるか?」

 古物の品定めが落ち着いた頃合いで、大人ターレンはアマーリアの前に茶の入った茶器をそっと置いた。
 
大人ターレンに調べて欲しいことがありますの」

「ふむ。どんな?」

 取っ手のない茶器に手を伸ばし、口元へ近づければ芳しい香りが広がった。

「ローリー伯爵邸はご存じ?売りにだされてますの」

「あぁ、あの幽霊屋敷ね。あの界隈では有名ある」

「ふふふっ。屋敷の中も噂に違わずですわ。――でも改装してますのよ。それもたぶん最近に。調べて欲しいのは、その改装を請け負った人を知りたいのです」

 薄い飲み口の茶碗には赤い花が描かれていて、それが可愛らしくみせている。なかなかの品だ。

 大人ターレンはこういった日常使いの物のセンスはいいのだ。

 なのにどうして店に展示する商品の仕入れでは、あんなに胡散くさくて禍々しいものばかりになってしまうのだろうか。

「ほう?それはまた変わったお願いね」

 大人ターレンの好々爺とした雰囲気が鋭いものに変わる。

「違和感を感じたのです」

 ローリー伯爵邸の応接室で感じた違和感の原因を探る気持ちが常にアマーリアの脳裏の隅にあった。ふっとした瞬間に違和感の正体を考える自分がいた。――そして

 気づいたのだ、あの応接室は他の部屋に比べてと。

 真っ白な壁紙。他の部屋のいたるところにある黄ばんだ箇所も剥がれたところも応接室にはなかった。

 それに微かな刺激臭。あれは壁紙を貼る糊の臭い。

 おそらく屋敷の内覧が始まる前に、あの部屋だけ内装の手直しをしたのではないか。という結論に至る。

 すると、どうしてあの部屋だけを?という疑問ができた。――――そして

「ふむ。他ならぬ小姐シャオチエの頼みだ――それにローリー伯爵と最近ツルんでいる男のこともあるし――――ホレ、調べるよ」

 大人ターレンの言葉に壁際に控えていた男は軽く会釈をすると部屋をでて行った。

「ローリー伯爵と最近一緒の男?」

 大人ターレンは不味ったという表情をしたが、アマーリアがあまりにも真剣な顔をしているので、これは誤魔化せないと判断したのか、素直に話しだした。

「若い小姐シャオチエにこんな話はどうかあるが、この界隈ではジョーと呼ばれている男がおってな。まぁ早い話しがジゴロのようなことをしてるヤツあるよ」

 ズズーっとお茶で舌を潤す大人ターレン

「まぁその……な。ジョーは女の扱いに長けたヤツで、ワタシが経営している妓館 ぎかんにもいい女を紹介してくれてたから、少々悪さしても目を瞑っていたあるが……この頃めっきり質が落ちたよ」

「質が落ちた?」

「いやそのある。娘娘 ニャンニャンの容姿はいいある。だけど……妓館 ぎかんにくる前に壊れてるよ。……その精神的に」

 悲しげな大人ターレンはこの界隈の有力者だ。東洋堂などは大人ターレンの趣味の延長の店で、本業は妓館 ぎかんなどを経営する経営者であり、裏社会のボスだ。

 王都で大人ターレンの知らないことはないといわれる情報通でもある。――大人ターレンの飯のタネでもあるが。

 アマーリアには好々爺だけど、本来は容赦のない恐ろしい人なのだとか。

「それって……」

「そう。……証拠はないあるが、十中八九……。小姐シャオチエの方でも問題になってるあるか?」

「残念ながら摘発量が増えてますわ」

大人ターレンはアマーリアの言葉に考え込む様子をみせた。

「対策を考えなくてはいかんあるよ。――この話は今は関係ないあるな。――――まぁそんな事情もあってジョーの動向には注意してたある」

 なるほど。きっとあのローリー伯爵令息と名乗る男がジョーなのだろう。

「さてもう少しで小姐シャオチエの知りたい情報が返ってくるよ。時間潰しにどっちするあるか?」

 大人ターレンは将棋の駒と碁石を取りだした。

 すでに鼻がむずむずするアマーリアだったが、自分からお願いをしたのに帰るという選択肢など選べようがなかった。

 曖昧に笑って碁石を指差し、体調よ!もう少しもってちょうだい――と祈ったのである。

 
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