[完結]世にも奇妙な少女に家も婚約者も盗られました

らいむぽとす

文字の大きさ
2 / 38

世にも奇妙な少女

しおりを挟む
 その日、あの時間、あの場所を、どうして通ってしまったのかアンバー・ドゥリーは眉間に皺をよせて、激しく後悔していた。

「それで、あなたは付いてきてしまったというの?」

 くりんとした目を瞬かせてアンバーは自室のベッドの横に置いてある椅子に座って、目の前にいる世にも奇妙な少女に聞いた。

「ええ、だって久しぶりだったのですもの」

 世にも奇妙な少女は大きなピンク色の瞳からポロポロと涙を流し、上目遣いにアンバーを見る。

 ―― うわっあざといんですけど……

 アンバーはくらくらした。

「久しぶりに気付いてもらえたからって付いてきちゃ駄目でしょう」

 優しく諭すような声で囁くように世にも奇妙な少女にアンバーは言う。

「決して迷惑はかけませんわ」

 世にも奇妙な少女の美しいハニーブロンドのふわふわな髪が揺れる。

「すでに迷惑なんですけど……」

 痛くなる頭に眉をひそめ、侍女のミミルに薬をもらおうかとアンバーは思案する。
 
「そっ……そんなっ酷いっ」
 
 世にも奇妙な少女は崩れ落ちると、潤みゆらゆら揺れるピンクの瞳でアンバーを見上げる。その儚げで憂いを帯び庇護欲をそそる媚態は、男が見たら欲情を掻き立てられるだろう。残念ながらアンバーは女なのであざといとしか感じないが。

「だって自分の部屋に幽霊がいるなんて、誰だって嫌に決まってると思いますけど?」

 アンバーは首を傾げて、世にも奇妙な少女に言った。


 アンバー・ドゥリーは伯爵家の一人娘だ。
 母はアンバーが十歳で亡くなり、父と二人暮らしをしている。
 さして裕福ではないが、貧乏でもないそこそこの貴族である。

 ドゥリー家にはごくたまにこの世の者でない人が見える人間が生まれる。
 アンバーもそんな一人で、でもさして能力は高くない。
 だからアンバーに見えるのは、たまに波長が合ってしまったこの世の者でない人なのだが、そのたまに波長が合ったこの世の者でない人が、あろうことか家まで付いてきてしまったのだ。
 
 アンバーにとって初めての経験である。
 
 ――さてどうしたものか……

 自室で(幽霊がいるせいで)物思いには耽れないので、応接室で耽っている。

 あの世にも奇妙な少女はアンバーが話をした感触では、どうも伯爵邸から出ていく気はなさそうだ。では伯爵邸に世にも奇妙な少女が居付くとして、伯爵家に利益があるのか、損失はあるのかを考えていた。

 だがとちらも今のところは、これといってアンバーには想像できない。まだ世にも奇妙な少女が伯爵邸に居付いて半日である。暫く様子を見るしかないのかとアンバーは溜め息を吐いた。

 一番いいのは世にも奇妙な少女が成仏してくれること。この考えは間違っていないはず。だが残念にもアンバーには除霊できる高等技術など習得していないし、除霊できる友人もいない。話はできるから、成仏するように説得はできるが、説得してよしんば彼女が納得してくれたとして、それで成仏してくれるものなのかはアンバーには不明であった。
 

 そんなことをアンバーがつらつら考えていると、侍女がやって来てアンバーの婚約者の来訪を告げた。

「えっオブリン様が?約束していたかしら?」

 アンバーは怪訝そうに侍女のミミルに聞いた。

「いえ、約束はなかったかと」

 あらでは何故来たのかしら?アンバーは更に怪訝そうに首を傾げた。

「まぁいいわ。ここにお通ししてくださる」

 オブリン・パーカーは子爵家の次男で、アンバーとは二年前に婚約し王都の国立学園を卒業したら結婚する予定だ。
 
 商売の付き合いとか、事業の付き合いとかそんなの一切なく、ただアンバーの父とパーカー子爵が友達だっただけで決められた政略結婚だった。

 可もなく不可もないアンバーは可もなく不可もないオブリンを、釣り合いの取れた相手だと思っている。

「やぁ突然すまない。実は王都の有名なお菓子を手に入れたのだけど、日持ちがしなくてね。それで今日持ってきたんだ」

 満面の笑みのオブリンにアンバーは薄く笑い返した。

 オブリンは優しいし気がきく。それは今日のように、有名なお菓子をわざわざ持ってきてくれることでも分かる。
 だけどそれがアンバーには、作られた優しさや気遣いに思えて仕方がなく、落ち着かないのだ。
 
「ありがとう。オブリン様、折角ですので二人でいただきましょう」

 ミミルがお茶を淹れてくれている。

 アンバーとオブリンが他愛ない話をしていると、突然応接室のドアが勢いよく開いた。

「お姉さま」

 と言って一人の少女が入ってきた。

 ふわふわのハニーブロンドにピンクの目の美少女

 ――あれ?どっかで見た覚えが……
  
 しかもその美少女が着ている服にも見覚えがあった。アンバーが着ているより胸の辺りはパツパツだったが。

 ――えっ?あれ私の服……

「初めまして、妹のエルノーラです」

 アンバーが驚いている間に、美少女はオブリンに自己紹介をしていた。

 ―― あれ?私に妹なんていたっけ?

「お姉さま、どうなされたの?」

 こてんと首を傾げて瞳をうるうるさせ、何故か胸の前で祈るように手を組んでいる。

 ――えっこのあざとさはもしかして……

 まじまじと目の前に立ちハニーブロンドにピンクの瞳の美少女を見る。
 
 先程までは表情は読み取れても、はっきりと目鼻立ちまでは判断できなかったけと、今ははっきりと分かる。見た目の年齢が十五歳から十八歳くらいのかなりの美少女で、透き通る白い肌をほんのり薄紅色に染めているさまは陶器の人形を連想させた。

 実際、オブリンはエルノーラと名乗った美少女に見惚れている。
 これは見惚れるよね、あざとさは抜きにしても。と、アンバーも認めざるを得ない。

 全体的に先程よりもはっきりした、より鮮明になった印象の世にも奇妙な少女だった。より肉肉しくなったというか、生々しくなったというか。

 ――あらこれ……もしかして実体化していない?

 妹だと名乗った美少女は、先程までは半透明で浮遊感があったのに、今はどう見ても生身の普通の人間に見える。

 何度も確認したが残念ながら、アンバーに付いてきた、世にも奇妙な少女だった間違いなく。

 そうこのエルノーラと名乗った世にも奇妙な少女が、これからこの伯爵邸に大嵐を巻き起こし、伯爵家の乗っ取りやアンバーとオブリンとの婚約破棄、ホラーハウスドゥリー伯爵邸と不名誉な名称をつけられる羽目になるなど、アンバーからしたらめんど……大変な事態を巻き起こしていく存在になるとはこの時のアンバーは露ほども思ってなかった。

 だからえっ、これは何が起きてるのかしらと呑気に目前に現れた、どう見ても生身の人間にしか見えない『世にも奇妙な少女』を、目を瞬かせて訝しげに見つめていたのだった。


しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

令嬢失格な私なので

あんど もあ
ファンタジー
貴族の令息令嬢が学ぶ王都学園。 そこのカースト最下位と思われている寮生の中でも、最も令嬢らしからぬディアナ。 しかしその正体は……。

「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」 仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

私の人生に、おかえりなさい。――都合のいい「お姉ちゃん」は、もうどこにもいません

しょくぱん
恋愛
「お姉ちゃんなんだから」 ――それは私を縛る呪いの言葉だった。 家族の醜い穢れを一身に吸い込み、妹の美しさの「身代わり」として生きてきた私。 痛みで感覚を失った手も、鏡に映らない存在も、全ては家族のためだと信じていた。 そんな私、私じゃない!! ―― 私は、もう逃げない。 失われた人生を取り戻した今、偽りの愛に縋る彼らに、私は告げるだろう。 「私の人生に、おかえりなさい。」

学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜

織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。 侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。 学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。

騎士団長を追放した平和ボケ王国は、七日で滅びました

藤原遊
ファンタジー
長らく戦のなかった王国で、 騎士団長の父を病で失った令嬢は、その座を引き継いだ。 だが王城に呼び出された彼女に告げられたのは、 騎士団の解体と婚約破棄。 理由はただ一つ―― 「武力を持つ者は危険だから」。 平和ボケした王子は、 非力で可愛い令嬢を侍らせ、 彼女を“国の火種”として国外追放する。 しかし王国が攻められなかった本当の理由は、 騎士団長家が持つ“戦況を覆す力”への恐れだった。 追放された令嬢は、即座に隣国帝国へ迎えられ、 軍人として正当に評価され、安泰な地位を得る。 ――そして一週間後。 守りを捨てた王国は、あっけなく陥落した。 これは、 「守る力」を理解しなかった国の末路と、 追放された騎士団長令嬢のその後の物語。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

処理中です...