ここタマ! ~ここは府立珠河高等学校~

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~閑話休題 鉛筆の芯とダイアモンド~

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 ドタバタした文化祭を終えた数日後、学校近くのお好み焼き屋に生物部の部員たちが集まっていた。
「みんなが頑張ったおかげで文化祭は無事完売する事ができました。お疲れさまでした」
 注文したお好み焼きセットのソフトドリンクが全員の手に渡ったところで、優子がそう言って乾杯の音頭を取り、生物部の文化祭の打ち上げ会が始まった。
「賑やかやね」
 お好み焼きの生地が入ったアルミカップを持ってきた、お好み焼き屋の店主のおばさんが部員たちに話しかけてくる。
「今日は文化祭の打ち上げなんです」
「そうなん? 楽しそうでええねぇ…」
 そう言って店主は笑うと、お好み焼きを自分で焼くか、お店で焼くか訊いてきた。
「自分たちで焼きま~す」
 部員たちは揃ってそう言うと、お好み焼きの生地を慣れた手つきでかき混ぜ始める。
 観光客などでにぎわう大手のお好み焼きチェーン店ならともかく、大阪の街の小さなお店などでは、自分で焼くのを選ぶ客も多い。
 先に加熱していた鉄板が高温になったのを確認して、鉄板に生地を流し落としていく。
 生地が焼けるジュ―という音を聞いて香奈子が「美味しい音」と微笑みを浮かべた。
 そんな香奈子に藤木が「日本語として、音に美味しいはおかしいんじゃないか」と言い始める。
「おかしいですか? 焼肉の時なんかの時に、お肉が焼ける音って食欲をそそられません?」
 そう言って反論する香奈子の言葉に藤木以外のメンバーは頷く。
「——しかしだな、音は耳で感じるものであるが、味は舌で感じるではないか!」
「それをいったら美味しいって『美しい』『味』じゃない。味が美しいってのもおかしいって事になるんだけど」
 華に冷静にそう言われ、藤木は言葉に詰まる。
「あんたが人様にいちゃもんを付けるなんて十年早いわ」
 華の横でお好み焼きの焼き加減を見ていた静香が嗤った。
――相変わらす、この二人、藤木先輩には容赦ないよなぁ…
 優子の横で彼らの会話を聞いていた渉はそんな事を思いながら、同情するような表情を浮かべる。
 ここのお好み焼き屋は入ってすぐの場所にはカウンター席、奥には四人掛けのボックス席が四つあり、藤木、岡部、古谷のテーブル、優子、香奈子、あおい、渉のテーブル、静香、華、洋司のテーブルに座っていて、座席は藤木達と静香たちが狭い通路を挟んで隣り合わせ、藤木達のテーブルと優子たちのテーブルは背中合わせという位置関係であった。
「ところで先輩…うちのテーブルのお好み焼きだけ、なんでこんなサイズバラバラだし、変な配置で焼いているんですか?」
 渉は自分の目の前の鉄板いっぱいに広げられたお好み焼きの生地を見ながら、焼き奉行をやっている優子を見る。
「四大大陸のつもりなんだけど…渉君の方からじゃ逆さまだからわかりにくいね」
「あ…なるほど」
 優子の説明を聞いてようやく渉はお好み焼きの形の意味を理解した。
 渉の席は優子の斜め対面なので、世界地図を逆さまに眺めている様な状態だったので、すぐに気が付かなかった。
「さっきから小さなコテで生地の端っこをちょこちょこ触ってるな…と思っていたんですが、形を整えていたのか…」
 不思議に思っていた疑問が解けたのか、渉は納得した表情を浮かべる。
「ユーラシア大陸…ひっくり返せます?」
 巨大なお好み焼きとなったユーラシア大陸部分を指さしながら渉が訊くと、優子は鉄板の傍に置かれた大きな小手を両手に取り、「大丈夫」と不敵な笑顔を浮かべた。
「小さい頃からたこ焼きとお好み焼きは家で焼いてたからね」
 そう言いながら優子はお好み焼きと鉄板の間にコテをぐるっと差し込んでいき、左右にコテを深く差し入れると、一気に巨大なお好み焼きをひっくり返した。
「すげぇ~」
 かなり大きいにも関わらず、ひっくり返しても形を保ったままの状態だったので、渉が思わず感嘆の声を上げる。その声に優子はサムズアップで応えると続けて他の大陸の形をしたお好み焼きも返していく。
「先輩、北米大陸と南米大陸離れてるけど、それはいいの?」
 あおいがひっくり返したばかりのお好み焼きを指しながら優子に訊いた。
「パナマの辺りは最後の仕上げで連結するから」と優子は笑う。
「…しかし、お好み焼きで世界地図とか、相変わらす変な事考えますね」
 優子は「日本と大陸の話をしようかな…って思ったのよ」と渉に告げると、大陸の形をしたお好み焼きを手にしたコテで動かしはじめた。
「渉君から見て、この配置の大陸、何に見える?」
「…あれ? これって日本?」
 渉の右奥に北米大陸のお好み焼きが置かれ、その下にユーラシア大陸の形のもの、その下にオーストラリア大陸、ユーラシア大陸の左斜め下に南米大陸の形のものが置かれたのだが、縮尺がおかしくはあるがその形は上から北海道、本州、四国、九州と酷似していた。
「どういうことですか?」
「地理の授業で習わなかった?」
 首を傾げる渉とあおいに優子が訊く。
「地理の授業…寝てました」
 あおいの正直な言葉に優子と香奈子が笑う。
「南極大陸以外の大陸の形って日本の語りに似てるって話を先生がする事が多いわよ」と、香奈子があおいを見た。
「そうなんですね…いつも寝てるから知らなかったですぅ」
「いつもって…」
 苦笑いを浮かべる優子にあおいは「農産品なんかの話だけは聞いてますけど」と悪びれる事も無くそう言って悪戯っ子めいた表情を浮かべる。
「さすが歩く胃袋」
 優子の揶揄にあおいは元気よく「はい!」と手を上げた。
――そこで手を上げちゃあダメだと思うけど…
 渉が苦笑いを浮かべて隣のあおいを見ていると、優子が「日本って世界の雛型って言われてるのよ」と言う。
「雛型?」
「そう。日本は世界の縮図…いわばミニチュアね」
 雛型という言葉は聞きなれないものだったが、ミニチュアという言葉なら知っているので渉とあおいは、その意味を理解する事が出来た。
「これって不思議な一致だよね」
 そう言うと優子は再びお好み焼きの位置を世界地図の配置に戻し、北米大陸と南米大陸を繋げるようにアルミカップの中に少し残して置いたお好み焼きの生地を鉄板に慎重に流して箸でその形をパナマのあるあたりを作っていった。
「芸が細かいなぁ…」
 関心するやら呆れるやら、複雑な表情を浮かべながらその作業を渉が見守っていると、生物部顧問の武田がやって来た。
「お、たけやんいいタイミング」
 ちょうど各テーブルのお好み焼きが焼きあがった所での武田の登場に岡部がそう言って笑う。
「…で、先生、その顔どうしたんですか?」
 自分たちのいるボックス席に座った武田に華が訊ねる。
「——ああ、これか? カミさんにグーで殴られた」
 武田の左目の周りには青あざが出来ていて、その理由を説明して武田は眼鏡を外しおしぼりで顔を拭いた。
「先生の奥さんが…って、いったい何があったんですか?」
 静香もその理由が気になるらしく武田に尋ねる。
「——もうすぐ20回目の結婚記念日なんだけど、その記念にダイヤのアクセサリーが欲しいって言われたんだ」
 武田から結婚記念日と告げられ部員たちは祝福の言葉を口にする。
「10年目の時は頑張ってスイートテンダイアモンドってやつ? が欲しいって言うから頑張ってプレゼントをしたらすごく喜んでくれたんだけど、その後、結局一、二度着けただけで箪笥の肥やしになったんだよな」
「…」
「——で、今度もそうなりそうだから、鉛筆の芯を二十個用意して渡したらぶん殴られた」
 話を聞いた部員たちは顔を見合わせる。
「ダイアじゃなく…鉛筆の芯?」
 怪訝そうな表情を浮かべ静香が武田に訊く。
「ダイアも鉛筆の芯も同じ炭素だからね」
 そんな武田の言葉に華は「…そりゃあ奥さん怒るわ」と言って天を仰ぎ、静香は「これだから理系バカは…」と大きなため息を吐く。
「炭素を人工ダイアにするのには、5~6GPa(通常の気圧の5~6万倍)と1500℃以上の高温条件が必要なんですから、一般家庭で作れる訳ないじゃないですか」と優子が爆笑する。
「しまい込んで箪笥の肥やしにするんだから、鉛筆の芯でもダイアでも一緒じゃないか」と主張する武田に、「愛する人からのプレゼントなんだから、記念に仕舞っておくだけなんだから何でも構わないと俺は思う」と藤木が同意する。
 それを聞いた女性陣は「女心が全く分かってない唐変木」と呆れた。
「唐変木って何ですか?」
 ニュアンス的によくない事を表現している言葉なのは理解できたが、その言葉の意味が気になった渉は遠慮気味に苦笑いを浮かべている香奈子に小声で尋ねる。
「唐変木ってのは、気の利かない人とか物分かりが悪い人に対して使う罵り言葉よ」と、香奈子が渉に囁くように教えてくれた。
「…なるほど」
 確かに武田や藤木の考え方は、女子から見れば唐変木なんだろう。
「先生、そんなのでよく結婚出来ましたね」
 呆れるあおいに武田は苦笑いを浮かべる。
「うちのカミさんのご機嫌取りは美味しい食べ物が一番だから」という武田の言葉を聞いて古谷が「あおいちゃんと同じタイプなんや」と噴出した。
「私は美味しい食べ物なんかで騙されたりしないですぅ」
 抗議するあおいに古谷は「そない怒らんと――僕のお好み焼き、半分あげるから機嫌なおしてぇな」と、コテで自分のお好み焼きを半分切り離し皿に取ると、それをあおいに差し出した。
「わーい、貢物。仕方がないですね――今回だけですよ」
「…って、貰うのね」
 古谷からお好み焼きを受け取ったあおいに静香が呆れ顔を浮かべる。
「もちろん、美味しいものをくれると言うなら何でももらいますよ~」とあおいはそう言うと、嬉しそうにお好み焼きを食べ始めた。
「その青あざは自業自得の気もしますが、奥さんにリカバリーはしておいた方がいいんじゃないですか?」
 岡部にそう言われ、武田は肩を竦める。
「結婚20周年なら磁器婚式ですね」
 スマホで結婚記念日の名前を調べた洋司が武田に検索結果を伝えた。
「へぇ、磁器婚式っていうのか」
 初めて知ったのか武田が感心する。
「20周年の奥様へのプレゼントにはティーセットなんかが人気みたいですよ」という洋司の言葉に「うちのカミさんティーセットなんかを使う柄じゃないしな」と武田は考え込む。
「プレゼントって送る人間のセンスが問われますからね…先生の奥さん、何が趣味なんですか?」
 静香に問われ武田は「さっきも言ったけど食べる事」と答える。
「記念日のプレゼントは形に残るモノにした方がいいと思います――食べたり飲んだり無くなっちゃうものは基本記念品の添え物です」
 華にそう言われ、武田は頭を抱える。
「そんな事を言ってもなぁ…俺のお小遣い、月三万だからそんなに高級なものは無理だからなぁ…」
「世間一般のサラリーマンの旦那さんのお小遣いの平均ぐらいですね」
「そんな訳だから、高価なプレゼントなんて無理」
「…まあ、そうでしょうね」
 そう言って華と静香は頷き「別に高価なものじゃなくてもいいですけど、プレゼントに鉛筆の芯は論外です」とはっきり言い切った。
「面白いと思ったんだけどなぁ…」
 まだブツブツ言っている武田に香奈子も「記念日のプレゼントにネタは全く必要ないです」と断言する。
「面白いからって変な事ばっかりしてると、そのうち奥さんに愛想つかされますよ~」
「それは困るなぁ…」
 あおいにそう答えると武田はグラスの水を一気に飲み干しため息を吐いた。
「付き合っていた頃、俺が蕎麦アレルギーだって言ったら、それを確認する為に料理にそば粉を混ぜる様な人だけど、あんな可愛い人、他にはいないだろうしね」
「蕎麦アレルギー持ちにそば粉混入って…チアノーゼで死んじゃいますやん」
 武田の呟きに古谷がツッコミを入れる。
「そうなんだ…彼女は命にかかわる様な問題になるとは知らなくて、俺がチアノーゼで死にかかった後、救急車を呼んでくれたり、その後、懸命に看病してくれたんだよな」
 武田の話を聞いていた部員たちは顔を見合わせ、口々に「そりゃあ死なれたら困るもんな」と呟きを漏らす。
「あの事件がきっかけでプロポーズを決めたんだ」
「…は?」
 見方によっては殺人未遂事件とも言えるトラブルから、いきなりプロポーズという話の飛躍にその場に居た者達の目が点になった。
「泣きながら謝って看護してくれる彼女がたまらなく愛おしくなってね、彼女に一生、俺のそばにいて欲しいって思ったんだ」
「私が言うのもなんですが、先生の思考回路もかなり変ですね…」
 優子はそう言うと、何とも言えないといった表情を浮かべ、音をたててコーラをすする。
「こういうのも恋は盲目って言うのかな?」
 と藤木も呆れ顔になって「俺にはわからん」と言うと、お好み焼きを頬張り始めた。
「なんか、真剣に聞いてアホくさ」
 静香もそう言うと、お好み焼きセットについていたサラダを食べ始める。
「お…おい、お前たち、プレゼントの相談に乗ってくれるんじゃないのか?」
 武田の話に興味を失ったのか、一斉に食事を再開して雑談を始めた部員たちに武田が声を上げた。
「結婚経験のない生徒に頼らないでください」
「…はい」
 華に冷たくそう言われた武田はがっくりと肩を落とす。
――ほんとこの生物部って教師も生徒もないよな…
 クラブ顧問であるはずの武田の雑な扱いを見ていた渉は、それが親近感からきているものなのは理解しているが、正直、戸惑いも覚える。
――まあ、武田先生自身の雰囲気のせいでもあるんだろうけど…
 生徒たちが馬鹿にする事なく、敬意を保ってもらったままフレンドリーに接する事が出来る教師というのは、ある意味貴重な存在かもしれない。
――わざとそう振舞っているのだとすれば、すごい人物なんだけど…
 そんな事をぼんやり考えていた渉の耳に武田の「熱っ!」という声が聞こえてきた。見ると熱々のお好み焼きを食べて口の中を火傷したようである。
――訂正。全然すごくない。
 渉は心の中でそう呟くと小さく笑った。
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