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~犬猿の漫才コンビ~
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淀川河川敷。
大阪の夏の風物詩でもある淀川の花火大会では見物人で溢れるこの場所、普段は河川敷の散歩やジョギングを楽しむ人たちコースとなっていて、野球の練習場やBBQサイトなどの施設もあり付近住人の憩いの場所であった。
そんなBBQサイトに生物部の部員たちの姿があった。
「藤木先輩、ちょっと乗せすぎじゃないですか?」
足つきのBBQコンロの上の焼き網に並べられた大量の肉や野菜を見て、BBQ奉行をやっている藤木に香奈子が言う。
「これでも少ないと俺は思うぞ」
藤木が遅いお盆休みに入ったので、集まれる者たちでBBQをしないかという事になり、現役の生物部員だけではなく、藤木以外にも卒業生の岡部と洋司も参加していた。
「食べ盛り総勢12人だからな、ジャンジャン焼かないと食べるのに間に合わないからな」
そう言って藤木は食べごろに焼けた食材を紙皿に乗せていく。
「おーい、焼けたから順番に取りに来いよ」
ジュースが入ったコップを手に談笑していたメンバーに藤木は声をかけると、空いたスペースに新たな肉を並べ始めた。
「わぁい、お肉お肉♪」
香ばしい香りのする肉や野菜が乗った紙皿を手に、あおいが嬉しそうに肉を頬張る。
「BBQなんて久しぶりだなぁ」
そう言って焼きたての具材を岡部も食べ始めた。
BBQサイトには大きいのテントが張られていて、野外の河川敷ではあったが折り畳みのテーブルセットもあったので、テントの下で参加者たちは好きな場所に椅子を置いて食事を楽しむことが出来た。
「この季節だからテントはありがたいわ――河川敷だから風通しはいいけど炎天下でBBQってただ暑いだけだったし…」
テントの隅でお茶を飲みながら静香は横にいる洋司を見た。
「BBQはうちの庭でも良かったんだけど、それをするとあおいちゃんが落ち着かないだろうしね」
そう言って洋司は食事を楽しんでいるあおいを見ながら小さく笑う。
「確かに自分のバイト先で客として楽しめって言われても、さすがのあおいちゃんでも何も考えず楽しめないだろうから、会場をここにしたのは正解だったかもね」とそう言って静香も笑った。
今回のBBQのスポンサーは洋司だったので、場所の選択などは洋司に決定権があったのだが、自分の家でバイトをしているあおいの事を気遣って、会場を公共施設にしたらしい。
「私たちだけだったらこんな充実した機材と食材を用意出来ないから、一応、お礼を言っておくわ」
そう言うと静香が「ありがとう」と洋司に言うと「久しぶりにみんなの元気な顔が見れたから良かったよ」と洋司は笑顔を見せた。
「先輩たち食べないんですか?」
談笑している静香と洋司の傍に紙皿を手にした順子がやってきて尋ねる。
「私たちはみんなに行き渡ってからで構わないわよ」と静香が答えていると、藤木が「お前らも取りに来い!」と静香たちを呼んだ。
「お前らじゃないでしょ! ちゃんと名前を呼びなさいよ!」
藤木に静香は叫び返しながら皿を取りに行く。そんな静香と藤木のやり取りを見ていた洋司は「あのふたりは相変わらずだなぁ」と楽しそうに呟いた。
「ちょっとこれ炭になっちゃってるじゃない!」
藤木から渡された紙皿の上の食材を見た静香が不満の声を上げる。
「お前らがさっさと取りに来ないからだろ!」と言い返す藤木の言葉を側で聞いていた香奈子が「ダメだ言ってるのに、火力が強い方が早く焼けるって、馬鹿みたいに炭を増やしたのが原因だと思うんだけど」と指摘する。それを聞いた静香が「ばっかじゃないの!」と藤木に言った。
「あのな、関西人にバカは禁句だぞ!」
「何度でも言ってやる! バカバカバカ!」
おなじみの言い合いを始めた藤木と静香のやり取りに高橋や丸山、順子は驚いた様子であった。
「相変わらず仲が良いのは判ったからさ、お前らの夫婦喧嘩に一年がびっくりしてるぞ」と岡部が笑う。
「誰が夫婦喧嘩よ!」
「こんな奴と夫婦になった覚えはない!」
静香と藤木が岡部に抗議しているのを新一年生以外のメンバーは笑いながら見ていた。
「ほんと相変わらずだなぁ…」
焼きそばを食べる手を置いて渉が笑いながら呟く。
「ほんまやな、しばらくおうてへんはずやのに息ぴったりや」
コンビを組んで漫才師にでもなれば売れるかもと言いながら古谷も笑っていた。
「あの二人、前にも言い合っていた気がするんですけど、いつもあんな感じなんですか?」
「そやで」
髙橋の問いかけに古谷は「あれがあの二人のレクレーションみたいなもんやな」と説明する。
「えらく激しいレクレーションですね…」
「あれだけ本音をぶつけ合えるのは仲が良い証拠やと思うで」
「はあ…」
古谷に仲が良い証拠と言われても、激しい怒鳴り合いにただ戸惑うばかりの高橋であった。
最初食べきれないのではと心配された20人前の食材は、その心配をよそに食いしん坊たちの胃袋に全て消える事となった。
「もう食えない…」
「食べた~」
生物部の中でも食いしん坊のトップを争う丸山とあおいが満足そうな表情でお腹をさすっている側で、藤木と岡部がバックの中から取り出したロープの束を分け始めた。
「…ロープなんてどうするんですか?」
怪訝そうに訊く優子に藤木が意味ありげにニヤリとする。
「何をするかはまだ内緒だ…とりあえず、これをみんなに一本ずつ渡してくれ」
「…?」
訳が分からぬまま、長さ1mほどのロープの束を藤木に言われるまま、優子は他のメンバーに一本ずつ配り始めた。
「配られたロープをこうやって首の後ろに回して、両肩からロープの端が前に来るようににかけてくれ!」
全員にロープが行きわたったのを確認して、藤木は動作の見本を見せながら指示を出した。
「では、今からロープワークの講習会を始める!」
「…は?」
いきなりの藤木の講習会宣言を聞いて、両肩からロープを下げた一同顔を見合わせる。
「ロープワークを覚えておくとアウトドアだけではなく日常でも非常に役に立つので、今から親愛なるお前たちにその知識を伝授する!」
藤木はそう言うと、一同の返事を待つことなく一方的にロープワークの説明を始めた。
「まずは本結びからだ!」
そう言って肩から下げた左右のロープの端を手に持って体の前で結んでみせる。
「この結び方はほどけにくいのが特徴である! では、これを見本にみんなも結んでみよう!」
一同、戸惑いながらもなんとなく藤木に言われるまま肩から掛けたロープを結び始める。
「…そうじゃない、左のロープはこちら側の上にクロスさせてだな…」
一人一人の結び方を藤木はチェックして、間違っていると修正してまわった。
「よし、本結びはみんな覚えたな! では次は自在結びだ!」
そう言って藤木は結び目で長さを変えられる自在結びや、何かを引っ掻けたい時に使うもやい結び、短いロープをしっかり結んで長くしたい時に使うフィシャーマン(テグス結び)など、目的別の結び方など、基本のロープワークを一つずつ紹介して、実際に結べるようにと指導して回った。
「ロープワークは世界で3000種類はあると言われているが、今教えた基本の6種類の結び方が出来ればなんとかなるので、忘れないように!」
藤木は一同を見回してそう言うと「では今から復習テストを始める!」と言ってポケットからホイッスルを取り出した。
「テスト⁈」
ロープワークの知識は役に立ちそうな知識だからと、なんとなく藤木の指導を黙って受けてきたメンバーも、テストと言われて戸惑いの声を上げる。
「テストをすれば、ちゃんと出来るようになっているか確認出来るからな! ――では、エイトノット始め!」
藤木はそう言うと、開始のホイッスルを吹き鳴らした。
「わわわ…」
有無も言わせない雰囲気に飲まれて、一同は慌てて自分の肩から掛けたロープを結び始める。
「…出来た!」
藤木が指定したエイトノットが完成したのか香奈子が手を上げた。
「見せてみろ…合格!」
香奈子のロープを確認した藤木がそう言うと、自然発生的に拍手が起きる。
「次は自在結び!」
そう言うと藤木は再びホイッスルを吹き鳴らし、それを聞いて一同は再びロープを結び始めた。
「…何この変な集団」
何度か復習テストを繰り返しているうちにふと我に返ったのか、静香がロープを結ぶのを止めて呟きを漏らす。
「結城どうした? もやい結びを忘れたのか?」
藤木が手を止めた静香に気が付いて声をかけた。
「覚えてるわよ! 周囲から見たら私達変な集団だと思わない訳⁈」
そんな静香の言葉に他のメンバーも我に返ったのかロープを結ぶ手を止める。
「何が変なんだ?」
藤木が不思議そうな顔で静香を見返した。
「あんたねぇ…BBQサイトで首からロープを下げて一心不乱に結び目を作ってる集団って、どう見ても変な集団じゃない。通報でもされたらどうする気よ?」という静香の言葉に優子が噴き出した。
「…確かに、知らない人が見たらおかしな集団よね」
BBQサイトに設置されたテントの下にいるとはいえ、テントはレンタルでその設置や撤収は業者に任せれているのでロープワークが必要な訳ではないし、10人近い人間が一斉に自分の首から下げたロープを結ぶ光景は客観的に見れば異様としか言いようがない。
「リバーサイドなんだから船の係留や釣りの為の講習会だと思うかもしれないんだから、変ではないだろう」
「ここにボートも釣り具もありませ~ん」
静香はそう言って舌をベーっと出すと、まんまと藤木のペースに嵌められたわ…とぼやいて肩からロープを外した。
「せっかく役に立つ知識を教えてやってるのに、やる気ないのかよ」
講習拒否といった様子の静香に藤木が不満そうな顔になる。
「何? その恩着せがましい言い方」
こっちから頼んだ訳でもないのに…と言いたげな目で静香は藤木を見る。
また二人の言い合いが始まるのかと周囲が思っていると、藤木が「余計なお世話で悪かったな」と言うと、静香から顔を逸らした。
「判ればいいのよ判れば」
珍しく言い合いを避けて自分から引いた藤木に静香がそんな言葉投げつける。それを聞いた瞬間、藤木は「俺の講習なんて、釈迦に説法みたいなもんだもんな」と皮肉めいた言葉を静香に返した。
「それどういう意味よ?」
「お前は縛りが得意の女王さ…」
最後まで言い終わるのを待たずに静香の平手が藤木の頬に飛ぶ。
「あ~」
派手な音を聞いた一同はやっちまったといった表情で天を仰いだ。
――藤木先輩…いい加減、学習しましょうよ…。
頬を抑えてうずくまる藤木を見ながら、渉は深いため息をつくしかなかった。
大阪の夏の風物詩でもある淀川の花火大会では見物人で溢れるこの場所、普段は河川敷の散歩やジョギングを楽しむ人たちコースとなっていて、野球の練習場やBBQサイトなどの施設もあり付近住人の憩いの場所であった。
そんなBBQサイトに生物部の部員たちの姿があった。
「藤木先輩、ちょっと乗せすぎじゃないですか?」
足つきのBBQコンロの上の焼き網に並べられた大量の肉や野菜を見て、BBQ奉行をやっている藤木に香奈子が言う。
「これでも少ないと俺は思うぞ」
藤木が遅いお盆休みに入ったので、集まれる者たちでBBQをしないかという事になり、現役の生物部員だけではなく、藤木以外にも卒業生の岡部と洋司も参加していた。
「食べ盛り総勢12人だからな、ジャンジャン焼かないと食べるのに間に合わないからな」
そう言って藤木は食べごろに焼けた食材を紙皿に乗せていく。
「おーい、焼けたから順番に取りに来いよ」
ジュースが入ったコップを手に談笑していたメンバーに藤木は声をかけると、空いたスペースに新たな肉を並べ始めた。
「わぁい、お肉お肉♪」
香ばしい香りのする肉や野菜が乗った紙皿を手に、あおいが嬉しそうに肉を頬張る。
「BBQなんて久しぶりだなぁ」
そう言って焼きたての具材を岡部も食べ始めた。
BBQサイトには大きいのテントが張られていて、野外の河川敷ではあったが折り畳みのテーブルセットもあったので、テントの下で参加者たちは好きな場所に椅子を置いて食事を楽しむことが出来た。
「この季節だからテントはありがたいわ――河川敷だから風通しはいいけど炎天下でBBQってただ暑いだけだったし…」
テントの隅でお茶を飲みながら静香は横にいる洋司を見た。
「BBQはうちの庭でも良かったんだけど、それをするとあおいちゃんが落ち着かないだろうしね」
そう言って洋司は食事を楽しんでいるあおいを見ながら小さく笑う。
「確かに自分のバイト先で客として楽しめって言われても、さすがのあおいちゃんでも何も考えず楽しめないだろうから、会場をここにしたのは正解だったかもね」とそう言って静香も笑った。
今回のBBQのスポンサーは洋司だったので、場所の選択などは洋司に決定権があったのだが、自分の家でバイトをしているあおいの事を気遣って、会場を公共施設にしたらしい。
「私たちだけだったらこんな充実した機材と食材を用意出来ないから、一応、お礼を言っておくわ」
そう言うと静香が「ありがとう」と洋司に言うと「久しぶりにみんなの元気な顔が見れたから良かったよ」と洋司は笑顔を見せた。
「先輩たち食べないんですか?」
談笑している静香と洋司の傍に紙皿を手にした順子がやってきて尋ねる。
「私たちはみんなに行き渡ってからで構わないわよ」と静香が答えていると、藤木が「お前らも取りに来い!」と静香たちを呼んだ。
「お前らじゃないでしょ! ちゃんと名前を呼びなさいよ!」
藤木に静香は叫び返しながら皿を取りに行く。そんな静香と藤木のやり取りを見ていた洋司は「あのふたりは相変わらずだなぁ」と楽しそうに呟いた。
「ちょっとこれ炭になっちゃってるじゃない!」
藤木から渡された紙皿の上の食材を見た静香が不満の声を上げる。
「お前らがさっさと取りに来ないからだろ!」と言い返す藤木の言葉を側で聞いていた香奈子が「ダメだ言ってるのに、火力が強い方が早く焼けるって、馬鹿みたいに炭を増やしたのが原因だと思うんだけど」と指摘する。それを聞いた静香が「ばっかじゃないの!」と藤木に言った。
「あのな、関西人にバカは禁句だぞ!」
「何度でも言ってやる! バカバカバカ!」
おなじみの言い合いを始めた藤木と静香のやり取りに高橋や丸山、順子は驚いた様子であった。
「相変わらず仲が良いのは判ったからさ、お前らの夫婦喧嘩に一年がびっくりしてるぞ」と岡部が笑う。
「誰が夫婦喧嘩よ!」
「こんな奴と夫婦になった覚えはない!」
静香と藤木が岡部に抗議しているのを新一年生以外のメンバーは笑いながら見ていた。
「ほんと相変わらずだなぁ…」
焼きそばを食べる手を置いて渉が笑いながら呟く。
「ほんまやな、しばらくおうてへんはずやのに息ぴったりや」
コンビを組んで漫才師にでもなれば売れるかもと言いながら古谷も笑っていた。
「あの二人、前にも言い合っていた気がするんですけど、いつもあんな感じなんですか?」
「そやで」
髙橋の問いかけに古谷は「あれがあの二人のレクレーションみたいなもんやな」と説明する。
「えらく激しいレクレーションですね…」
「あれだけ本音をぶつけ合えるのは仲が良い証拠やと思うで」
「はあ…」
古谷に仲が良い証拠と言われても、激しい怒鳴り合いにただ戸惑うばかりの高橋であった。
最初食べきれないのではと心配された20人前の食材は、その心配をよそに食いしん坊たちの胃袋に全て消える事となった。
「もう食えない…」
「食べた~」
生物部の中でも食いしん坊のトップを争う丸山とあおいが満足そうな表情でお腹をさすっている側で、藤木と岡部がバックの中から取り出したロープの束を分け始めた。
「…ロープなんてどうするんですか?」
怪訝そうに訊く優子に藤木が意味ありげにニヤリとする。
「何をするかはまだ内緒だ…とりあえず、これをみんなに一本ずつ渡してくれ」
「…?」
訳が分からぬまま、長さ1mほどのロープの束を藤木に言われるまま、優子は他のメンバーに一本ずつ配り始めた。
「配られたロープをこうやって首の後ろに回して、両肩からロープの端が前に来るようににかけてくれ!」
全員にロープが行きわたったのを確認して、藤木は動作の見本を見せながら指示を出した。
「では、今からロープワークの講習会を始める!」
「…は?」
いきなりの藤木の講習会宣言を聞いて、両肩からロープを下げた一同顔を見合わせる。
「ロープワークを覚えておくとアウトドアだけではなく日常でも非常に役に立つので、今から親愛なるお前たちにその知識を伝授する!」
藤木はそう言うと、一同の返事を待つことなく一方的にロープワークの説明を始めた。
「まずは本結びからだ!」
そう言って肩から下げた左右のロープの端を手に持って体の前で結んでみせる。
「この結び方はほどけにくいのが特徴である! では、これを見本にみんなも結んでみよう!」
一同、戸惑いながらもなんとなく藤木に言われるまま肩から掛けたロープを結び始める。
「…そうじゃない、左のロープはこちら側の上にクロスさせてだな…」
一人一人の結び方を藤木はチェックして、間違っていると修正してまわった。
「よし、本結びはみんな覚えたな! では次は自在結びだ!」
そう言って藤木は結び目で長さを変えられる自在結びや、何かを引っ掻けたい時に使うもやい結び、短いロープをしっかり結んで長くしたい時に使うフィシャーマン(テグス結び)など、目的別の結び方など、基本のロープワークを一つずつ紹介して、実際に結べるようにと指導して回った。
「ロープワークは世界で3000種類はあると言われているが、今教えた基本の6種類の結び方が出来ればなんとかなるので、忘れないように!」
藤木は一同を見回してそう言うと「では今から復習テストを始める!」と言ってポケットからホイッスルを取り出した。
「テスト⁈」
ロープワークの知識は役に立ちそうな知識だからと、なんとなく藤木の指導を黙って受けてきたメンバーも、テストと言われて戸惑いの声を上げる。
「テストをすれば、ちゃんと出来るようになっているか確認出来るからな! ――では、エイトノット始め!」
藤木はそう言うと、開始のホイッスルを吹き鳴らした。
「わわわ…」
有無も言わせない雰囲気に飲まれて、一同は慌てて自分の肩から掛けたロープを結び始める。
「…出来た!」
藤木が指定したエイトノットが完成したのか香奈子が手を上げた。
「見せてみろ…合格!」
香奈子のロープを確認した藤木がそう言うと、自然発生的に拍手が起きる。
「次は自在結び!」
そう言うと藤木は再びホイッスルを吹き鳴らし、それを聞いて一同は再びロープを結び始めた。
「…何この変な集団」
何度か復習テストを繰り返しているうちにふと我に返ったのか、静香がロープを結ぶのを止めて呟きを漏らす。
「結城どうした? もやい結びを忘れたのか?」
藤木が手を止めた静香に気が付いて声をかけた。
「覚えてるわよ! 周囲から見たら私達変な集団だと思わない訳⁈」
そんな静香の言葉に他のメンバーも我に返ったのかロープを結ぶ手を止める。
「何が変なんだ?」
藤木が不思議そうな顔で静香を見返した。
「あんたねぇ…BBQサイトで首からロープを下げて一心不乱に結び目を作ってる集団って、どう見ても変な集団じゃない。通報でもされたらどうする気よ?」という静香の言葉に優子が噴き出した。
「…確かに、知らない人が見たらおかしな集団よね」
BBQサイトに設置されたテントの下にいるとはいえ、テントはレンタルでその設置や撤収は業者に任せれているのでロープワークが必要な訳ではないし、10人近い人間が一斉に自分の首から下げたロープを結ぶ光景は客観的に見れば異様としか言いようがない。
「リバーサイドなんだから船の係留や釣りの為の講習会だと思うかもしれないんだから、変ではないだろう」
「ここにボートも釣り具もありませ~ん」
静香はそう言って舌をベーっと出すと、まんまと藤木のペースに嵌められたわ…とぼやいて肩からロープを外した。
「せっかく役に立つ知識を教えてやってるのに、やる気ないのかよ」
講習拒否といった様子の静香に藤木が不満そうな顔になる。
「何? その恩着せがましい言い方」
こっちから頼んだ訳でもないのに…と言いたげな目で静香は藤木を見る。
また二人の言い合いが始まるのかと周囲が思っていると、藤木が「余計なお世話で悪かったな」と言うと、静香から顔を逸らした。
「判ればいいのよ判れば」
珍しく言い合いを避けて自分から引いた藤木に静香がそんな言葉投げつける。それを聞いた瞬間、藤木は「俺の講習なんて、釈迦に説法みたいなもんだもんな」と皮肉めいた言葉を静香に返した。
「それどういう意味よ?」
「お前は縛りが得意の女王さ…」
最後まで言い終わるのを待たずに静香の平手が藤木の頬に飛ぶ。
「あ~」
派手な音を聞いた一同はやっちまったといった表情で天を仰いだ。
――藤木先輩…いい加減、学習しましょうよ…。
頬を抑えてうずくまる藤木を見ながら、渉は深いため息をつくしかなかった。
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